『刹那! トランザムは使うなよ!』『了解! トランザム!!』   作:とんこつラーメン

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それでも頑張れトランザム!

 剣道とジム通いの二足の草鞋生活を始めて一年弱。

 私は中学二年生となり、徐々に高校受験と言う単語がちらつき始める頃。

 今日も今日とて自主トレの真っ最中なわけなのです。

 しかも、それは私だけじゃないわけで。

 

「おい刹那! 次はテメェの番だぞ! とっとと行ってこいや!」

「もうか。なんだか、あっと言う間に感じたな」

 

 そう…あの爆豪くんと一緒に通っているのです。

 去年の一件以来、気が付けば私と彼は行動を共にすることが多くなり、今や二人揃ってジムの常連みたいな立場になっていた。

 そんな彼は、私がやっていた特別練習場に興味が湧いたみたいで、あれから同じように特別練習場を使っての個性練習をするようになっていた。

 

「ん…ん…ん…ん…ぷはぁ~! 頭空っぽにして個性を使うとスゲェースッキリするぜ…」

「その気持ちは分かる。個性が鍛えられ、同時にストレス発散にもなる。一石二鳥とは、まさにこの事だな」

 

 持参したスポドリを一気飲みしながら、ちょっと怖い笑みを浮かべて汗を拭う爆豪くん。

 なんつーか…彼も変わったよなぁ…。

 昔は喧嘩っ早い暴れん坊って印象だったが、最近は暴言を吐きながらも意外と思慮深いって印象になりつつある。

 

「そういや、おめぇ…インターバルの時間はどれぐらいになったんだ?」

「去年一年で一気に10分にまで縮んだ」

「マジかよ…!」

「だが、ここからが一番の正念場だろう。目標時間に達するには、更に9分の短縮が必要になるのだからな」

 

 あと少しって所が一番大変ってのは往々にしてよくあることだ。

 マラソン大会の終盤然り、データインストールのパーセンテージ然り。

 後もうちょっと…って場所で行き詰まるのはあるあるだろう。

 

「そうでなくちゃあな…面白くねぇ…!」

 

 相変わらずやる気満々星人ですな。

 この向上心は本当に見習うべきものがある。

 私も負けてられないなー。

 

「お? 今日もまた、あの子が来てるぞ」

「本当に頑張るよなー」

「「ん?」」

 

 なんか一部の人達が騒いでおりますな。

 誰が来てるっていうんだろう?

 

「俺は…負けない…! 絶対に…立派な…ヒーローに…なるんだ!」

 

 視線の先にいたのは一人の少年で、必死の形相でルームランナーの上を走っている。

 全身汗だくで、一体どれぐらいの時間を走っていたのやら。

 

「あの子…無個性なんだろ? なのに凄いよなぁ…」

「あぁ…あのストイックさはプロの俺達も見習うべきものがあるな」

「しかも、あの子…幼い頃からずっとヒーローを夢見て体を鍛え続けてるんだって? マジで感心するよ…」

「だな…。俺がガキの頃なんて、なーんにも考えずにダチと遊びまわってたぜ」

 

 無個性…緑谷君と同じ……あ。

 

「…………」

 

 あの爆豪くんが大人しい…。

 てっきり、また『無個性のくせによ!』的なことを言うかと思ってたけど…。

 

「流石に第一線で活躍するのは無理だけど…サポート目的のサイドキックとしてなら十分にアリだよな」

「俺もそう思うぜ。あの頑張りは十分に評価に値する」

「意外な所で意外な原石と巡り合う。だからジム通いはやめられないんだよな」

「「「うんうん」」」

「うほ…♡ 可愛い少年…♡ 今のうちに唾つけておくか♡」

「「「それはやめろ犯罪者」」」

 

 凄くいい話だったのに、最後に登場したモーホーさんのせいで全部台無しになったな…。

 しかも、あのモーホーさんってケツ顎で無精髭びっしりな上に筋骨隆々だからインパクト絶大だ。

 あの姿で迫られたら、流石のオールマイトも逃げ出しそうだ。

 

「…何も言わないんだな」

「あぁ? 俺が無個性の奴全員に突っかかってるみたいな言い方すんじゃねぇ」

「違うのか?」

「当たり前だろーが。少なくとも俺は…本気で…必死に夢に向かって頑張ってる奴を馬鹿にする気はねぇ。俺も…そうだからな…」

「…そうか」

 

 成る程な…そういうことだったのか。

 どうして彼が緑谷君限定で、あんなにも突っかかってるのか気になっていたけど…その理由が分かったような気がした。

 確かに、言われてみれば緑谷君は『そう』だったな。

 それっぽいことをしている姿を一度も見たことが無い。

 単に私たちが知らないだけと言う可能性もあるけど、そもそも彼はそんなにも隠し事が上手じゃない。

 だから、その気になれば何かしている光景を目撃することだってある筈だ。

 けど、実際には…。

 

(夢ばかりを語って、やっていることと言えば気になるヒーローの情報をノートにメモしていることだけ。正直、私も彼の行動に疑問を感じていたけど…なんか納得できたわ)

 

 要は『自らの意志で茨の道を進むと決めた者』と『最初の段階で挫折して進むこと自体を諦めてしまった者』の差ってことか。

 この二つの差は、言葉にするよりも遥かに大きい。

 今、ほんの少しだけ爆豪君が緑谷君にイラつく気持ちが分かった気がする。

 

「つーか、お前は行かなくていいんかよ。もう時間だろうが」

「おっと、そうだった。では、私も行ってくる」

「おう」

 

 地味に忘れかけていた特別練習場の使用時間を思い出し、私は急いで向かうことに。

 因みに、今日は1分30秒ぐらい縮んで、8分30秒ぐらいになった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「おいデク! テメェ…今日も何ウジウジとノート書いてやがんだ! あぁ!?」

「ひっ!? か…かっちゃん!?」

 

 また始まったよ…いつもの光景。

 もうこのクラスの風物詩になりつつあるな…この爆豪君が緑谷君に絡む姿は。

 少し前までは呆れていたが、今はまた別の視点で見れるようになっていた。

 

「べ…別にいいだろ!? しゅ…趣味なんだから!」

「趣味ねぇ…?」

「そ…それに…かっちゃんには何も迷惑とか掛けてないんだし…その…」

「その? なんだ? 言ってみろや」

「ほ…ほっといてくれれば…それで…」

「…………」

 

 お? 急に黙った?

 

「ふん!」

「おわっ!? か…かっちゃん!? いきなり何をっ!?」

 

 お? 爆豪君が緑谷君の二の腕を掴んで立ち上がらせた?

 それを軽々とやってのける辺り、彼も相当に鍛えこまれてますにゃ~。

 

「え…えっと…かっちゃん…?」

「…………ちっ! やっぱり(・・・・)かよ…」

「や…やっぱり? 何が?」

 

 爆豪君が軽くこっちに目配せをした。

 私も彼の一言で理解出来てしまった。

 やっぱり、そうなのだと。

 

「おいデク…」

「な…何…?」

「テメェが一体何を夢見て、何を語ろうが、んなもんはクソ程どうでもいいがよ…」

「か…っちゃん…?」

「俺はテメェみたいな『口だけ野郎』が死ぬほどムカつくんだよ!!! もう二度と! 俺の目の前で『ヒーローになりたい』とか抜かすんじゃねぇっ!! その時は俺が直々にぶっ殺す!!! 覚えとけ!!! クソが!!!」

「か…かっちゃ…うわっ!?」

 

 怒り爆発した爆豪君は、緑谷君を椅子に突き飛ばした後、そのまま不貞腐れたかのようにポケットに手を突っ込んだまま教室から出て行ってしまった。

 

「かっちゃん…」

 

 今までとは違う。

 まるで今の彼の心情を吐露したかのような言葉に、私も緑谷君も、他のクラスメイトも呆然となってしまっていた。

 

「な…なぁ…藤原? あいつ…何があったんだ?」

「あんな爆豪…初めて見たぜ…」

 

 いつもの彼の取り巻き二人が、私にこっそりと話しかけてくる。

 流石の彼らも今のは驚いたようだ。

 

「恐らく…この間のジムでの出来事が原因だろうな…」

「ジムって…二人で通ってる、あの…?」

「そうだ」

「一体何があったってんだ…?」

 

 それを話すのはいいが、それは彼らに対してじゃないだろう。

 聞かせるべき相手は一人しかいない。

 

「緑谷出久」

「刹那ちゃん…かっちゃんが…」

「あぁ…見ていたからな」

 

 と言うか、この狭い教室内であんだけ騒いでたら嫌でも気づくわ。

 

「どうして、勝己があんなことを言ったか分かるか?」

「わ…分からないよ…僕には…」

「…だろうな」

「刹那ちゃんには…分かるの…?」

「分かる。多分な」

「多分…?」

 

 これはきっと、あの場に一緒にいた私にしか分からない事だろう。

 だからこそ話さなければいけない。

 爆豪君…いや、勝己君の為にも。

 そして、緑谷君自身の為にも。

 

「この間、私と勝己とが一緒にジムに行った時だった。そこで、一人の少年が必死の形相で自分の体を鍛え上げていた」

「それが一体…」

「彼は…無個性だったらしい」

「…………え?」

 

 私が言い放った『無個性』と言う言葉を聞き、緑谷君の表情が一瞬で固まった。

 

「彼は何度も自分に言い聞かせるように言っていた。『負けない』と。『立派なヒーローになってみせる』と」

「それで…かっちゃんは…」

「『本気で、必死に夢に向かって頑張っている奴を馬鹿にする気はない』…そう言っていた」

「本気で…必死に…」

 

 これで少しは勝己君の本当の気持ちに気が付いてくれるかな?

 私としては、二人が少しでも仲直りしてくれるとマジで嬉しいんだけど。

 

「今、話した少年の頑張りを見て、ジムに来ていたプロヒーロー達も彼の事を高く評価していた。『第一線は流石に無理かもしれないが、サイドキックとしてなら十分に評価するに値する』と」

「…………」

 

 緑谷君が黙り込んで俯いてしまった。

 ストレートに言い過ぎたかな…。

 でも、今の彼にはこれぐらいの荒療治も必要だと判断します!

 

「私からも、お前に一つだけ質問をしたい」

「何…?」

「緑谷出久。お前は今…『頑張って』いるのか?」

「ぼ…僕…は…!」

 

 あ…緑谷君が鞄を握り締めてから、どこかに行ってしまった…。

 やっぱり少しキツかったか…?

 

「なぁ…今の話…」

「事実だ。私と勝己の二人で、その様子を見ていた」

「そっか…」

「例え無個性であったとしても、死に物狂いで努力し続ければ、ちゃんとプロは見ていてくれる。評価してくれる。だが、今の緑谷出久は…」

「俺らが知ってる範囲じゃ…」

「マジで何もやってねぇよな…」

「だな…。ヒーローオタクな話をするだけで…」

「やはりか…」

 

 緑谷君…大変かもしれないけど、もし本気の本気で君がヒーローになりたいのなら、いつか必ずぶつかる問題だ。

 私たちがまだ小学生の頃は笑って済ませられたかもしれないが、今の私たちはもう中学生。

 自分の意志で初めて、自分の進むべき道を決められる年齢になりつつある。

 夢を夢のままで終わらせるか、それとも自分の将来へと昇華させるか。

 今の君はその狭間に立たされているんだって自覚した方がいい。

 文字通り、これは君のこれからの人生を大きく左右することだと思うから。

 個人的な願いとしては…君にはこのまま折れないでほしい。

 幼い頃と同じように、勝己君と同じ夢を、同じ方向を向いてくれ。

 二人の目指す場所は…今でも一緒だと思うから。

 

 その後、勝己君と緑谷君は殆ど会話することがなくなり、そのまま二年生を終え…私たちは遂に中学三年生となった。

 中学校生活最後となる、この年の春…私たちは『運命』と出会うこととなる。

 文字通り、これからの私たち三人の人生を大きく左右する程の『運命』に…。 

 

 

 

 




次回、遂に原作突入…かも?


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