『刹那! トランザムは使うなよ!』『了解! トランザム!!』   作:とんこつラーメン

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まずは一歩だトランザム!

 中学校生活も残り一年。

 始業式を終えた私は、珍しく自宅へと直帰しようとしていた。

 と言うのも、今日は偶然にもジムの休業日と道場が休みの日が重なっていた。

 つまり、今日一日は何の予定がないということになる。

 ま、休むのも立派な修行のうちって師範代も言ってたし、偶にはこんな日があっても悪くはないか。

 

「刹那」

「勝己?」

 

 帰宅の準備を終えて、鞄を手に取った瞬間に勝己君から声を掛けてきた。

 いつもは私からなのに、これまた珍しい。

 

「テメェに少し聞きたいことがある」

「私に聞きたいこと? それは別にいいが…教室で話してもいいのか?」

「構わねぇよ。別に聞かれて困るような話じゃねぇしな」

「…そうか」

 

 本人がそう言うのなら、こっちとしては全然いいんだけど…。

 

(あ…)

 

 少し目を離した隙に、緑谷君が無言で教室から出て行った。

 あの一件以降、彼とは殆ど会話が出来ていない。

 やっぱり、ストレートに言い過ぎたか…。

 彼の心は思っている以上にデリケート…だと思うし。

 

「どぉした?」

「いや…なんでもない」

 

 勝己君も、緑谷君に見向きもしない。

 今の彼の前で緑谷君の話題は禁句だろう。

 会話の内容には気を付けなくては。

 

「テメェはよ…進路はどうする気だ?」

「いや…普通に高校受験をする気だが…」

「そうじゃねぇよ。どこの高校を受験する気だって聞いてんだよ」

「どこの高校…か」

 

 そう言われてもな…実はまだ決めかねてるんだよな…。

 どこの高校に行っても、高い確率でヒーロー絡みの勉強はする羽目になりそうなんだよな…。

 なんせ、この世界の高校はヒーロー科が多すぎる。

 それだけ皆がヒーローになりたいと思っている証拠なんだろうが…。

 

(ヒーローねぇ…)

 

 私が知っている『ヒーロー』と、この世界の『ヒーロー』の定義は大きく違う。

 だって、この世界のヒーローって職業なんだもん。

 だからだろうか…どうもヒーローと言うのに憧れない。

 だって、私が目指しているのはガンダムマイスターなんだもの。

 勿論、そんな職業なんてどこにもあるわけないんだけど。

 

「まだ分からない」

「そうか…」

「そういう勝己は、どこに行くのか決めているのか?」

「当たりめぇだ」

「どこだ?」

「俺は最初から、雄英一択なんだよ」

「雄英…あの雄英高校か」

 

 雄英高校…確か、現在も大活躍している数多くのプロヒーローを輩出している、日本で最も有名なヒーロー科があると言われている学校。

 ヒーロー科自体は別に他の高校にも存在はしている。

 その大半がプロに必須となる資格取得を目的とした養成校となるが、雄英の場合は少し事情が違う。

 なんせ、雄英には現在進行形で活躍中のプロヒーローが講師として在籍しているからだ。

 プロから直に教われる機会なんて滅多にあるもんじゃない。

 ヒーローになるのを夢見る者たちからすれば、何が何でも絶対に入学したい高校…なのだが…その倍率が完全に狂っている。

 全国同科中で最も人気で、最も難しいと言われ、その倍率はなんと例年300を超えるのだとか。

 幾ら何でも厳しすぎるわ。

 いや…運動だけじゃなくて、勉強もちゃんと自信はあるけどね?

 

「雄英高校ヒーロー科…か」

「あぁ。その為に今まで鍛えてきたんだしな」

 

 そうだよな…勝己君の夢はナンバー1ヒーローになること。

 その第一歩として、まずは日本一有名な雄英高校のヒーロー科に入る…それがスタートなんだろう。

 

「おめぇも一緒に来いや」

「どこに?」

「雄英のヒーロー科にだよ」

「私が…ヒーロー科に…?」

「そうだ。ま、俺程ではないにしろ、テメェもそこそこのヒーローにはなれんだろ」

「ヒーロー…私が…」

 

 ガンダムを目指す私がヒーローに…ねぇ…。

 想像はしにくいが…でも…。

 

(何故だろう…悪い気はしない…)

 

 ガンダム…それは『戦うための力』。

 ガンダム…それは『人々を正しき道へと示す光明』。

 ガンダム…それは『体制に対する反逆の証』。

 そして…ガンダム…それは…。

 

(私に大切なことを沢山教えてくれた…私にとってのヒーロー…)

 

 あぁ…そうか…もう私の中で答えは決まっていたのか…。

 けど、受験戦争経験者の身故に、もうちょっとだけ慎重になるのですよ中村さん。

 

「…少し真剣に考えてみる」

「そうか。じゃあ、帰ったら試しに雄英のサイトでも覗いてみろや」

「そんなものがあるのか?」

「たりめぇだ。あそこは、あのオールマイトが卒業した学校だぞ。サイトの一つや二つぐらい普通にあるわ」

 

 一つじゃないのか。

 そりゃ凄い。

 けどまぁ…実際に見てみるのもいいかもな。

 勝己君や緑谷君が憧れた学校とやらの概要を是非とも見せて貰おうじゃないか。

 少なくとも、進路に関する良い基準ぐらいにはなるだろうし。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 今日も僕は学校から逃げるように帰って来た。

 そう…分かっている。

 僕は色んなものから逃げているのだ。

 夢から。現実から。友達から。そして…自分自身から。

 本当は僕だって頭じゃ理解している。

 無個性を言い訳にして何もしないのは間違っているって。

 世の中には、無個性でも一生懸命に頑張っている人は沢山いる。

 例えヒーローじゃなくても、自分に出来る自分なりの方法で社会に貢献している。

 僕だって、そうすればいいだけの話だ。

 何も難しいことじゃない。

 幼い頃からの夢を諦め、現実を直視すればいいだけの話。

 話…だけど…でも…!

 

(そう簡単に諦められたら…こんなに苦しんでなんかいない…!)

 

 胸が苦しい…息が出来ない…!

 それ以上に…僕は物凄く怒っている…!

 好き放題に言ったかっちゃんにじゃない。

 こっちの気も知らずに『頑張っているのか』と言った刹那ちゃんにでもない。

 

 その二人に対して何も言えなかった、自分自身に腹が立って仕方がない…!

 

 僕は知っている。

 確かにかっちゃんの口調は粗暴で喧嘩っ早く見えるけど、でもかっちゃんは何の理由もなしに乱暴をするような奴じゃない。

 そこには何か明確な理由が必ず存在している。

 その理由に…僕は大体の想像がついていた。

 

 かっちゃんは怒っている。

 それは『無個性の緑谷出久』にではなく、『何もしていない緑谷出久』に怒っている。

 

 二年生のあの時以降、僕はよく昔の…幼い頃の夢を見るようになった。

 夢の中では、僕とかっちゃんが仲良く一緒に遊んでいた。

 あれはまだ、お互いに個性が発現していない頃。

 まだ刹那ちゃんと出会っていなかった頃。

 自分の未来なんて、運命なんて何も知らない呑気な子供たちは、根拠もない約束をしていた。

 

『大きくなったら一緒にヒーローになろう』

 

 小さな男の子ならば誰もが一度は口にするであろう約束。

 こうして夢で見るまで、すっかり忘れていた思い出。

 もしかしたら、かっちゃんはまだあの頃の約束を覚えていたんじゃないか?

 だけど…僕は先に夢を諦めた。

 この僕が全てを諦める切っ掛けとなった、医者から言われたあの一言。

 

『諦めた方が良いね』

 

 同年代の子供達に言われるならまだいい。

 親に言われても、近所の大人に言われても、まだ我慢できる自信はある。

 けど…あの人は人体の…個性の専門家。

 誰よりも個性の事を知っている人物。

 そんな人から言われた『諦めろ』と言う言葉は、これ以上無い程に僕の心をズタズタに引き裂いた。

 

 僕は誰にも何も言わず、人知れず夢を捨てた…つもりだった。

 諦めたくない…諦められない…!

 けど、心が折れた僕に…立ち止まってしまった僕に何が出来るって言うんだ…!

 無個性でも頑張ってる人はいるっていうけど…僕はそんなに強くはない…。

 僕は…僕なんかには…もう…。

 

「お前も頑張るねぇ~」

 

 え? 今の声は…?

 不意に聞こえてきた言葉が気になり周囲を見渡すと、そこは町の一角にある、よくある空き地。

 立ち入り禁止の看板も出てないから、基本的に誰でも出入りが出来る。

 そこに二人の少年が立って話をしていた。

 片方はトレーニングウェアを着て、汗だくで首からタオルを下げていた。

 もう一人は制服姿で、そんな彼に飲み物の差し入れをしていた。

 

「ほれ、スポドリ」

「お。サンキュー」

「ほんと…お前ほど『努力』って言葉が似合う奴もいねぇよ」

「そうかな?」

「そうだよ。周りから『無個性だー』って馬鹿にされても、ヒーローになる夢を諦めずに頑張って体を鍛え続けてるんだからよ」

「そりゃ…俺の夢だしな。そう簡単に諦められねぇよ」

「それもそっか。そもそも、そんな簡単に諦められるんなら、最初から夢なんて見ねぇよな」

 

 今の会話…もしかして、彼が前に刹那ちゃんが言ってた…!?

 ど…どうして、こんな場所に!?

 いや…違うか。

 僕が知らず知らずのうちに、彼らのいる場所に迷い込んでしまったのか!

 

「つーか、俺は別に万人受けするようなヒーローでも、最強の実力を持つヒーローにもなるつもりはねぇぞ?」

「じゃあ、お前がなりたいヒーロー像ってのは、なんなんだよ?」

「そりゃ決まってるだろ」

 

 ゴクリ…!

 ふ…不謹慎だと分かってるけど、僕もそれが聞きたい…!

 だから、近くの物陰に隠れて、そっと聞き耳を立ててます。

 

「困ってる人に迷わず手を差し伸べられる…そんなヒーローだよ」

 

 困っている人に…手を…。

 

「別に人気者じゃなくていい。強くなくてもいい。どんな些細なことでも構わないから、困ってる人に手を差し伸べて助けられるヒーローに、俺はなりたい」

「困ってる人に手を…か」

「変か?」

「ぜーんぜん。つーか、普通にカッコいいと思うよ。俺は」

「そ…そうか?」

「おう。世の中見てるとさ、確かに街中でヴィランを派手にぶっ飛ばしてたり、テレビとかに出てるヒーローが持て囃されてるけどさ、実際に皆が必要としてるのって、そんなヒーローなんじゃねぇかな?」

 

 …僕は…一体何を目指していた?

 カッコよくヴィランを倒すヒーロー?

 女の子にモテモテなヒーロー?

 いや…違う。

 僕が憧れたのは…僕がなりたいと思ったのは…。

 

『もう大丈夫!! 何故って? 私が来た!!』

 

 誰かを…助けられるヒーローだ。

 僕はナンバー1ヒーロー『オールマイト』に憧れた。

 けど、それは決して彼が最強のヒーローだからでも、最強の実力を持っているからでもない。

 僕は…あの人が常に笑顔で人々を助け続け、皆の希望であり続ける姿に憧れた。

 

「なんか…悪いな。俺なんかと一緒だと、色々と言われるだろ?」

「んなこと別に気にしてねぇよ。友達だろうがよ」

「…そうだな」

「もし、お前がヒーローへの道を諦めそうになったら、その時は思い切りケツ引っ叩いてやるよ。何も、傷を舐め合うだけが友達じゃねぇからな」

「もしも、そんな時が来たらよろしく頼むわ。でも、流石にケツは勘弁。顔面パンチでお願いするわ」

「おう。一発気持ちいいのをプレゼントしてやんよ」

「そんなプレゼントは嫌だなぁ…」

「「ハハハハハ…」」

 

 傷を舐め合うだけが友達じゃない…。

 そうだよ…当り前じゃないか…!

 同情や共感…それもいいかもしれない。

 けど、時には厳しい方法だと分かっていても、相手の為にしなきゃいけないことがある…!

 かっちゃんはかっちゃんなりのやり方で…立ち止まってしまった僕を歩かせてくれようとしてくれた…!

 ちょっとやりすぎだと思ったことも多々あったけど…僕みたいな意気地なしには寧ろ、それぐらいが丁度いいのかもしれない。

 

 刹那ちゃんは、立ち止まってしまった僕に付き添ってくれて、そして心を鬼にして言ってくれたんだ。

 『頑張れ』って…『お前にもきっと出来る』って…!

 あの『頑張っているのか』には、きっとそんな気持ちが込められていたんだ!

 他の無個性の人が出来るからって、僕が出来ないとは限らない?

 いや…違う! そうじゃない!!

 他の無個性の人に出来ることが、僕に出来ない道理はない!!

 あぁ…クソ…! 今…やっと分かった…!

 

無個性(ボク)を一番馬鹿にしていたのは…他でもない…緑谷出久(ボク)自身だったんだ…!)

 

 情けない…情けない…情けない…!

 僕は自分が心の底から情けない…!

 かっちゃんが怒るのだって当然だ!

 全てを諦めた癖に、それでもウジウジとしながら中途半端なことをしている!

 もしも僕がかっちゃんの立場なら、きっと同じように怒っていたに違いない。

 それ程までに、今までの自分自身に嫌気がさした!

 

(謝ろう…まずは二人に本気で謝ろう! 何を言われても、例え殴られても絶対に謝ろう! そして、今度こそ始めよう!! もう遅いかもしれない。手遅れかもしれない。でも…それでも!!)

 

 もう何もしないで立ち止まっているのだけは…絶対に嫌だ!!

 かっちゃんと…刹那ちゃんと…一緒に並んで歩いていけるように!!

 僕はもう…二度と諦めることだけはしたくない!!

 

(…戻ろう)

 

 流石にもう学校にはいないかな…?

 なら明日…いや、二人の家の場所は知ってるから、今からでも!!

 それが無理ならせめて電話でもいいから!!

 

(そう言えば…ここってどこだ?)

 

 冷静さを取り戻して改めて考えると…ここって町外れ付近なのでは?

 近くにあるのは…高さ制限2mの小さなトンネル…。

 ぼ…僕はちゃんと家に帰れるのだろうか…?

 どうしよう…二人と話をする以前の問題になってしまった…!

 こんなことなら、ちゃんとスマホに地図アプリを入れておけばよかった…!

 

「と…取り敢えず、近くの交番か、もしくは町内地図的な物を探して…」

「見つ…けた…」

「え?」

 

 何…今の声…どこから…?

 

「Mサイズの…隠れミノ…!」

「う…後ろッ!?」

 

 次の瞬間、僕の体は何かドロドロしたものに包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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