『刹那! トランザムは使うなよ!』『了解! トランザム!!』 作:とんこつラーメン
「あ~…クソが! どうして俺が買い出しなんて…!」
今日はジムが休みってことで家に直帰しようと思ってたら、帰る途中でいきなりババアから連絡が来て、買い忘れたものがあったからと買い出しを命じられちまった。
しかも、何故か俺の自腹で。
後でちゃんと金は出すって言ってたが…それでも腹立つもんは腹立つんだよ!
「はぁ~…イラついてもしゃーねぇか…」
そういや…刹那の奴と本格的に話すようになったのも、こんな風にババアから買い出しを頼まれた時だったな…。
今思えば、あいつとは幼稚園からの付き合いになるわけか…。
デクの奴もそうだが、随分と長い腐れ縁になっちまったな。
「刹那の奴…ちゃんと雄英を受験すんだろうな…」
あの時は『そこそこのヒーローになれる』なんて言ったが、あいつなら確実に上位に入るレベルのヒーローになれると思う。
クソムカつくが…あいつはマジで強い。
しかも、頭だっていい。
未だにテストで勝てた試しがねぇからな。
実力だけじゃなく、勉強でもいつか勝ってやる。
「にしても、デクの野郎…!」
あの野郎…一体いつまでヘタレてる気だよクソが…!
幾ら無個性だからって、テメェがその気になりゃどうとでも…。
「あぁ~…クソ! クソ! クソがァァッ!! イライラするぅぅ…!」
こんなにイライラしたのは、前に『根掘り葉掘りの『葉掘り』ってどういう意味だ』って考えた時以来だ!
あの時はすぐに辞書で調べて事なきを得たけどよ…。
「ったく…とっとと買うもん買って、帰るとするか…」
こんな時は思い切り寝るに限る。
そうと決まればさっさと…。
「見つ…けた…!」
「は?」
今…どこからか声が…後ろか?
「良い『個性』の…隠れ蓑…!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「雄英高校…か」
教室で勝己君から言われたことを思い出しながら帰路に着く。
本音を言うと、考えたことが無いわけじゃない。
日本で最も有名なヒーロー養成学校。
私が『ガンダム』になるためには、間違いなく最短かつ最良の場所と言える。
個性の特訓だって、医者と相談しながらの独学だしな。
今よりももっと更に先に進むには、確実に専門家の助言が必須となるだろう。
「母さんにも話してみるか…」
マリナママは、未だに私が進路を決めかねているのを見て心配しているみたいだったしな。
そういう意味でも、まずは家族に相談するのが一番だろう。
けど、その前に…。
「まずは本屋とかで雄英高校に関する本とかが無いか調べてみよう」
今後の指針、そして受験の時にも役に立つと信じて、本ぐらいは買ってみてもいいかもしれない。
よくよく考えたら、私はまだ雄英高校と言う場所の事は殆ど何も知らない。
緑谷君に聞けば嬉々として話してくれそうだけど、今はちょっと話しかけづらいし、それにー…。
(彼ってば、それ系の話を一度でも始めると暴走特急よろしく止まらなくなるんだよなぁ…)
ま、取り敢えず今は本屋に向かおう。
確か、商店街の端の方にあった筈…ん?
「…なんだ?」
向こうの…遠くの方で炎のようなものが上がった…?
あっちは…私が今、行こうとしていた商店街の方角…!
(なんだろう…猛烈に嫌な予感がする…)
この胸騒ぎ…不愉快だな…!
どちらにしても、あそこには最初から行くつもりだった。
ならば、やることは一つ!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「や…やっと見慣れた光景に戻って来た…」
幾ら住んでる街だからって、変に冒険するのはよくないよなぁ~…。
後で絶対にスマホに地図アプリをダウンロードしておこう…。
流石にもう迷子は御免だよ…ん?
「な…なんだ…?」
商店街の所に…人だかりが出来てる?
何かあったのかな…?
今朝だって巨大なヴィランの大捕り物があったばかりなのに…。
この街ッて何気に治安悪いよなぁ…。
「す…すげー! 何アイツって、ひょっとして大物ヴィランなんじゃね!?」
「頑張れヒーロ~!!」
ヴィ…ヴィラン!? またっ!?
ついさっきヘドロみたいなヴィランに会ったばかりなのにッ!?
「おおぉオオオオオオオオオ!!! こぉんのぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
…ちょっと待って。
今の獣のような怒号は…ま…まさか…!?
「ちょ…すいません!! ちょっとどいてください!!」
「うわっ!? な…なんだよっ!?」
反射的に僕は走り出し、人込みをかき分けて最前列に出た。
そこで見たのは…。
「なんだよ…これ…」
ついさっき…オールマイトによって吹き飛ばされた筈の…僕を拘束していたヘドロヴィランが、かっちゃんの体に纏わりつき、周囲が燃えている光景だった…。
(やっぱり…あの時見たのは気のせいじゃなかったのか! オールマイトのジャンプ力の勢いに負けて、ヴィランが入ったペットボトルが落ちてしまっていたんだ!)
そりゃ、あんな凄い勢いのジャンプをしたら、ポケットに入れた程度のペットボトルなんて簡単に落ちるよな…じゃなくて!!
「ヒ…ヒーロー! ヒーローは…!?」
こんなことになってるんだから、確実に複数人のヒーローが駆けつけているはず!
「私、二車線以上じゃなきゃムゥ~リィ~!」
「爆炎系は我の最も苦手とするところ…! 今回は他に譲るとしよう!」
「そいつはドーモ! でも、こっちも消火活動で手一杯だよ! 状況はどうなってるの!? つーか、消防車はまだっ!?」
「あいつの体がベトベトで上手く掴めねぇし、良い個性の
な…なんだよ…これ…。
「だ…駄目だ! これを解決できる奴が今この場にはいない!!」
「誰か有利な
これだけヒーローがいるのに…。
「それまで少しでも被害を抑えよう!! なに、すぐに誰か来るさ!」」
「あの子には申し訳ないが、もう少しだけ耐え抜いて貰おう!」
これじゃあ…まるで…。
「くそ!! せめて、あいつを一撃で吹き飛ばせるようなパワーさえあれば…!」
無個性と…なんら変わりが無いじゃないか…!
(ど…どうする!? このままじゃ、かっちゃんの命が危ない!)
僕には圧倒的なパワーなんてない…けど、考えることなら出来る!!
考えろ…考えるんだ出久…!
相手はヘドロ…液状で掴むことは出来ない…!
かっちゃんが抗おうと爆破の個性を使っているせいで、近づくことすらままならない!
更には周囲に炎があるというおまけつき!
パワーも必要かもだけど、それと同じぐらいに必要なのは…!
「トランザム発動!!!」
こ…この声は…まさか!?
「せ…刹那ちゃん!?」
個性を発動した状態で、人込みの最後尾から最前列まで一気に飛び越えようとしている刹那ちゃんが空中にいた!
その腕の中には、さっき見かけた消火しているヒーロー!?
「刹那ちゃん!!」
「緑谷出久!? どうしてここに!?」
「話は後だよ! それよりも今は!!」
「分かっている! 勝己の救出が最優先だ!!」
流石は刹那ちゃん!
あそこに囚われているのが、かっちゃんだって一瞬で見抜いたんだ!
「おい君!? いきなり俺を持ち上げるなんて、一体何を考えてるんだ!? 消火活動の邪魔をする気かっ!?」
「アンタを運んでいるのにはちゃんと理由がある!!」
「なんだってっ!?」
そうだ…そうだよ!!
ヘドロは確かに液体だけど、純粋な液体とは言い難い!!
だとするならば!!
「「その水で、あのヘドロ野郎を洗い流してくれ!!」」
「は…はぁっ!?」
刹那ちゃんも僕と同じ考えに至っていたのかっ!?
やっぱり刹那ちゃんは凄いや!!
「な…何を言ってるんだ君たちは!?」
「いいからやれ!! 私の友を見殺しにする気かっ!?」
「あぁ~…もう!! どうなっても知らないからな!!」
ヒーローの手から大量の水が勢いよく噴射され、それと同時に刹那ちゃん達が着地した。
水の勢いは凄まじく、僅かではあるが、でも確実にかっちゃんからヘドロヴィランがはがれようとしていた。
「野…郎ぉぉ…! 俺の唯一の弱点である水を…よくもぉぉぉ!!」
予想通り…水が弱点だったんだ!
だから、その水を他に使わせるためにワザと周囲を火の海にしたのか!
「かっちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」
かっちゃんの姿がはがれかけたところに、僕は咄嗟に走り出して、その手を掴んだ!
どうして、そんなことをしたのかは分からないけど、猛烈にしなくてはいけないような気がしたんだ!
「ば…バカやろーー!! 止まれ!! 止まれ!!!」
後ろからヒーローが言葉で止めてくるけど、もうここまで来たら止められない!!
僕は…僕が思うように動く!!
「デ…ク…! テメェ…なんで…! なんで来た!!」
「なんでって…そんなの決まってるじゃないか!!」
そうさ…そんなの最初から決まってる。
だって…だって…!
「友達助けるのに理由なんかいるかよ!!!!!」
もう離さない!!
この手は絶対に離したりするもんか!!
「お前は…あの時のガキ!! よくも邪魔しやがってぇぇぇぇぇっ!!」
激高したヘドロヴィランがこっちに来る!!
けど…僕はもう逃げない!!
絶対にかっちゃんを…僕の大切な友達を助ける!!!
「よく言った」
「え?」
後ろから誰かの腕が伸びて…かっちゃんを掴んだ…?
この声は…!
「刹那ちゃん!?」
「刹那ッ!?」
まだ個性が発動中の刹那ちゃんが、優しく微笑みながらこっちを向いていた。
「その言葉をずっと待っていたよ。ようやく男の顔になったな…
せ…刹那ちゃんが…僕の事をフルネームじゃなくて名前で呼んでくれた…?
「お前はさっき、出久に対して『あの時のガキ』と言った。それはつまり、勝己を襲う前に出久の事も襲ったと言うことになる」
「だからどうしたってんだよ!! このメスガキ風情がぁぁぁぁ!!」
「私の大切な友達を二人も傷つけた。貴様は…」
こ…これは…間違いない…刹那ちゃんが…刹那ちゃんが…!
「万死に値する!!!!!」
本気で…キレた…!
「トランザム…!」
刹那ちゃんの右拳から、骨が軋む音が聞こえる…!
それ程までに力を込めてるってことか…!
「ライザァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
なんか必殺技っぽく言ってるけど、只のアッパーカットォォォォッ!?
で…でも…物凄い威力だ!!!
拳の風圧だけでヘドロヴィランが木端微塵に吹き飛んだ!!!
さっきのオールマイトの時と同じように!!!
やっぱり、今の刹那ちゃんのパワーはオールマイトに匹敵しているんだ!!!
「あ…れ…?」
「こい…つ…は…!?」
頬に感じる冷たい感触…これは…。
「あ…雨…?」
誰かがポツリと呟いた。
この冷たい感触の正体を。
「ま…まさか…今のパンチの風圧で…」
「上昇気流が発生したってのかっ!?」
「おいおいおいおいおいおいおいおいっ!?」
信じられない…けど…これは紛れもない事実…。
刹那ちゃんが…たった一人の女の子が…これを起こした…!
「み…右腕一本だけで天候を変えちまったぁぁぁぁっ!?」
「す…すっげぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!! なんなんだよ、あの女子中学生は!!!」
僕たちの幼馴染の女の子は…僕が知らない間にとんでもない領域に達していたようです…。
こ…これは流石に引いた…。