凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~ 作:三軒となり
このハサミならば、神ですらも殺せる。
大陸一と称されるほどに荘厳な城の一室。
その中央に据えられた円卓で俺 ────
「ちょっ?!」
途端、対座していた数人の鋭い視線が、俺の身体を殺しにかかる。
比喩ではない。
音もなく飛んできたこの光る矢は、咄嗟に指先で受け止めていなければ、俺の脳天を貫いていただろうし。次の瞬間には座っていた椅子が、灰となり消え去った。
「とめた?」
「わぁお、噂は本当なんだ」
俺の正面、両目を布帯で覆ったダークエルフの男がほぅと声をこぼし。隣では馬鹿でかい帽子を被った魔術師のお姉さんが目と口を丸くしている。
こえぇ…………。
なにここ、帰っていいかな?
俺は妹を探したいだけなんですど……なんて言える雰囲気じゃないというか、なんというか……。
「…………」
次に何か言葉を発したら、喉元に突きつけられた巨大な両刃剣によって、俺の首は胴体と永遠の別れを告げる気がする。
「部外者が口を出すな」
「まぁまぁ」
剣を
「ゴホンっ。……いいかな? 王国の危機なんだ、皆で仲良く力を合わせようじゃないか。僕らが半分も集まることなんて滅多にないことだよ?」
そして金色の鎧を身に纏った男……。
皆に【勇者】と呼ばれた若者が口を開いた。
「それに、彼は僕達でも成し得なかった偉業をやってのけている。ねぇ? テンセイ君」
「ちっ……」
勇者の言葉に、舌打ちをして剣をさげるライオン。
「はぁ……」
いやはや……。
いったいどうしてこうなったのか。
十席ある円卓には空席が五つ……。
ここに座れるのは皆、一国の最高戦力と謳われる化物達だ。
そんな世界最強が並ぶ会議に俺は ────
◇◆
「うーん、やっぱりこれしかないよなぁ」
せまっ苦しい六畳間の一室で、つらつらと文字の綴られたノートを前に頭を抱える男が一人。
俺、
ヒロインをピンチから助けるヒーローに。
麗しきお姫様から言い寄られるモテ男に。
そして、世界を魔王から救う勇者に。
妄想の中であれば何者にだってなれるのだから、こんなに楽しいことはあるまい。
とはいえ俺ももう三十歳手前の一般成人男性、ちゃんと良識はあるつもりだ。
現実と妄想の区別はついているし、この痛い中二病についても一応はキチンとした趣味にまで昇華させている。
今まさに目の前にあるノートがそれ。
書きかけのファンタジー小説さ。
誰に見せるでもなく、プロになりたいわけでもない。ただただ練りに練り続けた妄想シチュエーション達を記したネタ帳と、小説を書くために集めたあらゆるジャンルの参考書が今や本棚にビッシリと……。
百をゆうに超えるだろうそのうちの一冊、ネタ探しのために引っ張り出してきた初作品に目を落とす。
「あーこんなネタもあったなぁ……」
「…………」
思えばこの妄想趣味も、最初は現実逃避のために行っていた。
大学生の時に両親を事故で無くし、当時中学生だった妹を養うためにほぼ全ての時間をバイトに費やしていた俺。
誰か身寄りはいなかったのかと問われれば、いたのだが……。思い出すと反吐が出るからこの話はやめたい。
まぁ簡単に言っておくと、中学生の妹に欲情するようなクズ叔父に一発
とはいえ大学生がバイトで稼ぐ収入など正直微々たるもの。ギリギリの生活の中、俺の活力になっていたのが当時流行っていた異世界転生モノのライトノベルだった。
似たような境遇の勇者が崖っぷちから大逆転する物語……。そんな主人公を自分に投影することで、きっと未来に訪れるであろうハッピーエンドを妄想し、俺は今日まで走り続けられたのだ。
そんな手塩にかけて育てた妹も今年で高校を卒業、晴れて大学生になった。もはや兄の世話など不要なはず。身を粉にして稼ぐ必要もなくなった俺に残ったのは暇と、この妄想趣味だけである。
これを機に昔諦めた夢……。一本の小説を書き上げてコンテストに出す、なんてことに没頭してみるのも良いかもしれない。
丁度一つ冒頭だけ書いたネタがある。
異世界転生モノの大冒険ファンタジーだ。
書き出しはこう ────
*****
朝起きて目を開けた時。
部屋の中に立っている謎の女が、あなたに向かって問いかける。
異世界に何か一つだけ、身の回りのモノを持っていけるとしたら、何にしますか? と。
*****
けっこう掴みは良いと思うんだけど、どうだろう? ただこれ……。
「あのー?」
「すまない。つい物思いに
「それで、決まりましたか? 持っていくもの」
今、目の前で起こってる状況と全く一緒なんだよね……。