凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~ 作:三軒となり
通りは人で溢れかえっており、皆血相を変えて同じ方向……
緊迫した空気が生み出す恐怖や不安、それと同時に俺は『焦り』を感じていた。
ナイトウルフの時もそうだ。俺は何もすることができず、ただ狼狽えながら誰かに着いていっているだけ。完全な他力本願で、戦う力もなければ知識もない。ハサミを持っているエルミスのほうがよっぽど生存能力は高いだろう。
なんで俺には武器と神律が無いんだ……。くそっ、このままじゃ呆気なく第二の人生も終わるぞ。
「テンセイさん? どうしました?」
頭を抱えていた俺を、心配そうにエルミスが覗き込んでくる。
「あ……、いや」
「な、なにが何やらで凄く怖いですけど……た、多分大丈夫ですよ!!」
そう言って、震える俺の手を力強く握りしめるエルミス。
「えっ?」
「こ、こんなこと言うのは変だと思うんですけど……私、今すごい生きてるって感じがするというか……ちょ、ちょっとだけ憧れてたというか……」
街灯のランタンを反射する金色の瞳がキラリと光り輝いている。
この子は何を言ってるんだ?
先程まで表情を強張らせていたはずのエルミスの顔には、いつの間にかうっすらと笑みが浮かんでいた。
もしや俺を元気付けようと? いや、無理やり笑っている様には見えない。だけど楽しんでいるとも違う……。
「えっと……」
それは死を悟ったかような儚さの滲む不思議な笑顔だった。
「す、すみません変なこと言って。さ、行きましょう」
「あ、あぁ……?」
宿に戻ると入り口前でおっさんと、女将のおばさんが話していた。その横では受付の爺さんが壁に寄りかかり顔に影を落としている。
「な、なにがあったんだい?」
「
「
「多分、石碑が壊れたんだ……」
「そんな……あれは賢者様の ────」
森にある結界と、石碑……。
二人のその発言に、心がざわめき立つ。
「────」
「────」
そこから先の会話は殆ど頭に入ってこなかった。
俺だ。
俺が池のほとりにある石碑を倒してしまった。
まさか……あれのせいで? うっ……。考えたくもない、この騒動は全部俺が巻き起こしたことなのか? それじゃ役に立たないどころか足を引っ張 ────
「バゴォオン」
不意に轟いた破砕音。
みると連なる軒の上で町の外壁……堅牢な石の壁が、ガラガラと崩れ去る様子が見えた。土煙が立ち込め、小さな破片が通りにまで飛んでくる。
《ギャア》
直後、ゾクりと肌を撫でた金切り声。
ゴブリンだ。
穴のあいた外壁からは、緑の子鬼達が雪崩れ込んできていた。
「まずい、女将さんと爺さんは俺の後ろに!! くそっ、武器がねぇ」
こちらに迫るゴブリンの影は5体。それを見たおっさんが、二人を守るように前へ踏み出す。
「
──────
全身を黄色く光らせた一呼吸の後、踏み込みながらの一発。飛びかかってきたゴブリンを殴り飛ばすおっさん。
素手とは思えない一撃によって子鬼の頭蓋は砕け、絶命したことが一眼でわかった。
《ギィィ》
仲間がやられ、二の足を踏んだ残りのゴブリン達が様子を伺うように周りを見渡す。
《ギヒッ!!》
マズイ……。
濁った赤い瞳と目が合った瞬間。その潰れた緑色の顔に、下卑た笑みが浮かんだ。
《ガァア》
ゴブリンの一匹がこちらに向けて走り出す。
だがその視線は微妙に俺からずれていて……。
「ひぃっ?!」
ゴブリンの狙いは俺ではなく、エルミスだった。
「くっ!!」
彼女を庇わないと。
そんな思いに反して咄嗟に足は動かない。
なんで……くそっ、こんなときに俺は……。
今まで散々妄想してきたヒーロー物語。ヒロインを助ける勇者になるんじゃなかったのかよ……。
曲げろ……現実の恐怖すらも、お得意の中二病で捻じ曲げろ。
「うぉおおおお!!」
俺は自分の足を思い切り叩いた。
痛みが震えを止め、衝撃が一歩を踏み出させる。
そこから先は無我夢中だった。
エルミスに飛びかかったゴブリンへ身体を投げ打つよう体当たりすると、起き上がりに蹴りを一発入れ込む。
するとどうだろう? 俺の膝上ほどしかない体格のゴブリンはいとも簡単に吹っ飛んだ。石畳の上で苦しそうに腹を抑えてのたうち回る緑色の小鬼。
倒すには至らない、だが確かに俺の攻撃が効いているのが分かった。
遅れて自信が湧いてくる。
いける……。ゴブリンなら、野良犬を相手にしているのと大差ない。
「エルミス、大丈夫?」
「は、はい!! すごいですねテンセイさん」
「安心してくれ、君は俺が絶対に守るから」
「えっ、あ……ありがとうございます」
足りない勇気は言葉で補え。
大丈夫だ、やれる。
カッコつけろ。アドレナリンを出せ。
必要なのは度胸だけだ。
《ギィイ》
ぎこちない動きで構えたファイティングポーズも、どうやらゴブリンには歴戦の武闘家にでも見えたらしい。ジリジリと小鬼達は後ずさり、距離が開いていく。
「やるじゃねーか兄ちゃん。魔術を使えない身にしちゃ上出来だ」
ニヤリと笑みを浮かべるおっさんの表情が、さらに安心感を掻き立てた。
「このまま倒しましょう。俺は右の一匹を!!」
「よしきたっ!!」
「ぉおおおおお ── うおっ!?」
おっさんに目配せし、残りのゴブリンへ突撃しようとした俺の目の前を、真っ赤な三日月がごぉっと通り過ぎた。
何が起きたのか分からなかったが、次の瞬間火だるまになっていたゴブリン達を見て理解する。先ほど門の上から見た炎の斬撃、リビオニールさんだ。
「急いで逃げてください、ジェネラルが来ます!!」
白銀の鎧を纏った金髪の青年が、路地裏からこちらに駆けてきていた。構えた剣のその刃は赤熱し、空気がしゅうぅううっと音を立て周囲が熱に揺らいでいる。
「無事だったか!! リビオ!!」
「はい、あいつはパワーこそあるがトロい。僕が引きつけている間に皆さんは避難を」
若々しい声を響かせたリビオニールという青年。その姿はあまりにも輝いていた。
煌めくウェーブがかった金髪、澄んだエメラルドの瞳はまるで絵本の中から飛び出してきた王子様そのもので……。白銀の鎧と、炎を宿す剣が放つ強者のオーラが一瞬で空気を塗り替えていく。
あぁ俺たちは助かったのだと、ほっと胸を撫で下ろさせるほどに彼の存在は心強かった。
──── ドォオン
「くっ、もう来たか!!」
だがそんな安堵は、響く轟音によってすぐさま打ち消される。
リビオニールさんが険しい表情で見つめる先、そこにあったはずの建物は木端微塵に瓦礫へと変わり果てていて ────
《チョロチョロと逃げやがって、鬱陶しい》
土煙の奥に蠢く緑色の巨体がのっそのっそとコチラへと迫っていた。
ゴブリンジェネラル……。先ほど見た強大な
「あんた!!」
「うぐぐ……」
そんな緊張の中、聞こえた叫び声。
目をやると女将さんの横で、受付の爺さんが額から血を流し倒れていた。瓦礫の破片が当たったのだろう……。とてもじゃないが動けそうには見えない。
まずい、まずいまずいまずい。
このままじゃ逃げられないぞ。
それに……。
「くそっ、次から次へと」
通りや路地裏からはぞろぞろとゴブリン達が湧き、おっさんや周りの開拓者達が対応に追われている。
一匹であればただの雑魚。開拓者ならばたとえ数十匹でも余裕だろう。だが、数千……あるいは数万にも届きそうなほどのこの量は……。
「やばい、ゴブリンテイマーも混じってる!!」
「デカいのから狙え、強化されるぞ!!」
よく見ると大型の個体や武装した個体まで混じりはじめている。
いつのまにか辺りを見渡すと、街角で、広場で、次々と供給される小鬼達の壁に町全体が囲われていた。