凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~   作:三軒となり

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第16.5話 幕間のお話 + 第17話 工業都市リンドール

 

 - リーファス共和国、某所 -

 

 蝋燭の明かりがぼやりと照らす薄暗い部屋の中。アンティーク調のテーブルを挟み、二人の男女が向かい合って座っていた。お互いに深くフードを被っており、顔は見えない。

 

「それで、コイツがそうなのか?」

 

 感情のない乾いた声を響かせた男が、もう一人の女の足元へと視線を落とす。そこには首輪をし、鎖に繋がれた全裸の男が一人床に這いつくばっていた。

 

「ひぃっ……ど、どうか命だけは……たすけっ ──── がふっ」

 

 フードを被った女の厚底ブーツが、奴隷のような扱いを受ける全裸の男の頭を踏みつけると、彼は浅い呼吸を残して動かなくなった。

 

「探すのに苦労したわよ、六煉出力(セクスタプルアウト)レベルの神律を持っている転移者。何に使うの? 魔術封じの力なんて」

 

 それを見て、フードの男がわずかに頷く。

 

「ふむ……。ゴブリンジェネラルの件は、例のユグドラシルが出しゃばったせいで時間稼ぎにもならなかった。アイツらが出てきた以上、リーファスを潰すには例の封印を解くほかない」

 

「ふぅん。ま、あとは勝手にどうぞ。そういば聞いた? 転移者騒動で各国の統治は大混乱。衣食住が提供できない国は彼らを国外追放してるらしいわ。それに不満を持った……えーっと、なんだっけ……。代表を名乗る転移者のお偉いさんが声を上げて独立国家を作ろうとしてるとかなんとか」

 

「ほぅ。リーファスにいるとそんな雰囲気は感じなかったが」

「まぁグロリアスもそうね、追放してるのは弱小国家よ」

 

「ふっ、混沌としてくれほうが我々は大分動きやすくなる。転移者さまさまだな」

 

 軽い笑い声を上げたフードの男が席を立ち、女から鎖を受け取ると、その先に繋がれた一人の転移者を引き摺りながら部屋の出口へと歩みを進めた。

 

「もう行くの?」

「あぁ、早いほうがいいだろ。では、世界の均衡が保たれんことを」

 

「「我ら『アビサルカルト』の命に従い、魔素の還元を遂行す」」

 

 

 

 

 

◆◇ 

 

 

 

 

 

 

 チュンチュンと小鳥の鳴き声が聞こえる窓の外から差し込んだ朝日によって、少しずつ温かみを帯びていくベッドの端で俺はゆっくりと身体を起こした。

 

「はぁ……」

 

 バキバキなった目を力ずくで閉じ、痛みを伴う強さで目頭を押さえる。

 

 くぅううう。

 

 一睡もできなかった……。

 いや、無理だよな? どう考えても。

 

 寝返りをうてば体が密着してしまうほどの距離で、たわわの大きな美少女が寝ているのである。むしろ何も間違いが起きなかったことを褒めてほしいぐらいだ。

 

 いまも視線の先にはその美少女……エルミスが背を向けるようにして眠っている。目を閉じれば、先ほどまで仄かに感じていた彼女の温もりが ────

 

「昨夜はお楽しみでしたねぇえええ!!」

 

 ?!?!?!?

 

 はたして何が起こったのか。

 

 突然部屋にバゴォンっと爆音が轟き、木製のドアが吹き飛んだかと思うと……その衝撃でキーンと不快な耳鳴りが脳内へと響いた。

 

「うぉっ!?」

「ひぇっ!? な、ななな何事ですか!?」

 

「くひひっ、お迎えにきたぜぇ」

 

 視覚と聴覚がバグる中、伏せた視線の先には文字どおり木っ端微塵になったドアの塵芥(ちりあくた)がパラパラと床に降り積もっている。

 徐々に戻ってきた視界を扉のあったであろう位置へとやると、カラフルなおかっぱ頭をした妖精の女の子 ──── ポー=パトリガロット。

 

 町ごと氷漬けにしてゴブリンを一掃したSランクの開拓者が、仁王立ちでニヤリと口角を吊り上げていた。

 

「ポーさん!?」

「んだよぉ。乳繰り合ってると思って突撃したのに、つまんねーなぁ」

 

 はぁ、と謎のため息を漏らしながらづかづか部屋に入ってきたポーさん。

 置いてあった椅子をガンっと蹴って向きをひっくり返すと、そのまま背もたれを抱きかかえるようにして彼女は腰を下ろした。

 

「ヤってねぇなら、ちゃっちゃと仕度しろぉ。すぐにリンドールへ向けて出るぜぇ」

「ん?ん?ん?」

 

「くひひっ。やることがいっぱいあるからな、昼前までには着きてぇ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。まだ俺達は起きたばかりで」

 

 困惑の表情を浮かべてみるが、こちらの都合なんて知ったことかと、ピッと窓の外を指さしてポーさんは続ける。

 

「三軒となりの角を曲がった通りにある宿に、足が止めてある。顔洗ったらすぐに出てこい。てか、エルミスの嬢ちゃんは初めましてか。あーしはポー、よろしくなー」

「よ、よろしくお願いします」

 

 そう言ってレインボーな子供は、颯爽と窓から飛び降りていった。

 

 は、破天荒すぎる……。

 

 ほぼ徹夜明けの脳みそをフル回転させ、ようやく理解は追いついたものの……しばらく開いた口はふさがらなかった。

 

「えっと……」

「顔、洗いに行こっか」

 

 互いにキョトン顔を披露する俺とエルミス。よく見たら彼女の目もまた、バキバキにキマッており……、もしかすると俺と同じように一睡もしてないのかもしれない。なんてことを考えながら俺は、支度を整えた。

 

────

───

──

 

「あんたたち、またいつでもおいで。ウチのにはキツく言っとくからさ」

「はい、ありがとうございました」

「シチュー、美味しかったです」

 

 それから女将さんと爺さんに挨拶して宿を後にした俺達。

 

 どうやら爺さんの傷は見た目よりも浅かったようで、最後の最後まで井戸の水代だとかいって金をふんだくろうと洗顔中に難癖つけてきた商魂の逞しさには、もはや感銘すら覚えるほどだった。まぁ女将さんにドつかれて、俺達の全財産は守られたわけだが。

 

 ちなみに一緒にゴブリンと戦ったおっさんは、まだ爆睡しているらしい。あの後ずっと町の修復に駆り出されたとかで一日は起きないんじゃないかと女将さんが笑い飛ばしていた。

 

「うわぁー、いい匂い」

「おぉ」

 

 外に出ると、焼きたてのパンだろうか? 芳ばしい香りが鼻を包む。開き始めた露店に、行き交う人々の声が清々しい街の朝に活気を与えていた。

 

「──── ポーさんが言ってたのはここですかね?」

 

 三軒となりにある通りというのは思ったよりも近く、そしてそれはこの町一番の大通りだった。

 

 ガヤガヤと人の行き交う石畳を歩いていると、目的の場所はすぐに分かった。何よりも分かりやすい目印が揺れていたから。

 

「うぇーい、こっちこっちー」

 

 手を振るレインボーカラーの目印に導かれるがまま、大きな建物の裏手に案内されると、そこには馬屋に似た作りの小屋がポツンと一つ置かれていた。

 

「クルルッ」

「ぬっ!?」

「わぁ!!」

 

 木の囲いの中、藁を敷き詰めた床の上に伏せていたソイツをみて、身体がギョッと(すく)む。

 

「くひひっ。こいつぁー、スレナリザードつってな、足がクソはえぇーんだ」

 

 灰褐色をした鱗のような体表……。

 

 そこに居たのは二体のバカでかいトカゲだった。物音に気づいたのか、閉じていた目がすっと開かれ、爬虫類特有の縦にスリットの入った瞳が俺達を捉える。

 

 クルル? っと首を傾げるその動きに敵意や警戒はなく、むしろ友好的な雰囲気すら醸し出されており……。

 

「あっ、ちょっ、やめっ」

 

 クンクンとエルミスの体を嗅ぐトカゲの鼻先が、彼女のあらぬ所を(まさぐ)り始めた。

 

 直感で分かる。コイツ、オスだな。

 

 止めたほうが良いだろうか?

 まぁ、じゃれあってるだけっぽいし、いいか。

 

「くひひっ。スレナリザードは人懐っこい上、ある程度の言葉は理解する。まぁこんななりして草食だから心配すんな」

 

 こねくり回されているエルミスを横目に、慣れた手つきで壁に掛けられていた(くつわ)手綱(たずな)(くら)をスレナリザードへと装着していくポーさん。自分の体の数倍はあろうかというのに、見事なものである。

 

 あれ?

 

 ふと、そんな彼女の隣にいつもいた巨体がない事に気づいた。

 

 もふもふの……白クマが。

 

「そういえばヴォルフォクサーさんは……?」

「あぁ、アイツは森の見張りに戻ったよ。結界がぶち壊れてやがるからなぁ」

 

 うっ……。

 

 彼女の口から漏れた『結界』という言葉に、胸が締め付けれた。あれを俺が倒していなければ昨日の惨劇は起こっていなかったはずで……失われてなくても済んだ命達があったかと思うと、どうにも気が滅入ってしまう。

 

「にししっ、テンセイてめぇ何か勘違いしてやがるな」

「えっ」

 

「その顔。森の結界が壊れたのは自分達のせいだと思ってねーか?」

「え……っと……」

「はっ、やっぱりそんなところだろうと思ったぜ。誰か人の手が触れた痕跡があったからな」

 

 一匹目の準備が終わり、ぽすぽすと杖で肩を叩きながらこちらを睨みつけるポーさん。

 

「この世界に来たばかりの転移者に、結界がどうこうできるわけねぇだろ。ありゃ賢者のじじい達が練りに練った技術。ただ動力源の地脈が枯渇しただけさ」

「賢者……?」

 

 そう首を捻った俺の前に、ポーさんの中指が立てられる。

 

 急な煽りに何事かと困惑したが、すぐさま人差し指も立ち上がり、彼女の眼前には裏ピースが出来上がった。

 

「あーしよりも強ぇ魔術師はこの世界に二人いる。内の一人がその賢者、王蝕(オリジン)の侵攻すら阻む、鉄壁の結界システムを生み出した正真正銘の化け物だ」

「へぇ」

「結界は地脈、つまり惑星の力を借りて動いてるんだが、あの辺りはちょうどその源泉が枯渇したってわけ。開拓者は次の地脈探しに大忙しさ」

 

 言ってる意味を完璧に理解はできなかったが……。どうやら、俺のせいではなかったらしい。ポーさんの言葉のおかげで、俺は心の底にあった(おもり)が外れたような気がした。

 

「そうだったんですね……」

「くふふっ。一般MOBなんかにどうこうできるわけねぇだろ……って辛気臭せぇ話はやめだ。ほれ、これでも見て気分でも上げやがれ」

 

 二匹目の準備に取り掛かる前に、ポーさんは懐から巾着袋を取り出すと俺の胸元に放り投げた。

 

 チャリンと響く金属音に、昨日(さくじつ)ヴォルフォクサーさんからもらったお金の入った袋が思い起こされる。

 中身を開けてみると、そこには見たことのない光を放つ金色の硬貨が十数枚ほど入っていた。

 

「厳密に言やぁそいつは嬢ちゃんのだが、まぁお前ら(つが)いだろ?」

「へっ? 私で……ひゃっ……こらっ、そこはダメっ……あっ」

 

 エロトカゲの暴走が留まるところを知らなくなってきている……。が、今はお金の話をしているから止められない。仕方のない事だ。

 

 黒か……。

 雰囲気に反してなかなか派手な ────

 

「ん? エルミスですか?」

「あぁ。お前らゴブリンジェネラルの素材を回収しなかっただろ。ありえねぇからな? 開拓者が蝕魅(エクリプス)の素材を取らないなんて」

 

 そういってニィと口を開くと、八重歯あたりをコツコツと指で叩いたポーさん。

 

「あいつの牙は良い武器の素材になる。高く売れんだよ」

「へぇ……そうなんですね。どっかの狩ゲーみたいだな」

 

「狩ゲー? まぁどうせ勝手も分からねぇだろうし、あーしが代わりに素材屋で換金してきてやったってわけ。手数料は抜いてっけど文句いうなよ?」

 

「あ、いやむしろありがとうございます」

「くひひっ。いいってことよ、借りなら開拓者ギルド……ってまぁこれはリンドールで話した方がいいか。よしっ、準備できたしそろそろいくぞ」

 

 ポーさんが二体目に装着した鞍をバシィっと叩くと、エルミスを舐め回していたスレナリザードは全てを理解したようにスッと体を俺たちの前へと伏せた。

 

 そしてクイッとその背中を顎で指し示すポーさん。

 

 乗れ……ということだろうか?

 恐る恐るスレナリザードの体表に触れてみる。

 

「クルルッ」

 

 ツルツルした鱗は冷んやりとしており、思ったよりも無機質な触り心地だ。そんなトカゲの腹元にある鞍から伸びた紐へと足をかけ、俺はスレナリザードへと跨った。

 

 おぉ、思ったより乗り心地やよし。

 巨大な背中にはまだあと一人は座れるスペースが……ってうぉっ!!

 

「グァッ」

「ひぇっ!! あわわわわわわ」

「おぉう」

 

 その長い首がにゅっと伸びたかと思うと、スレナリザードはエルミスの首元を口で咥え、ひょいっと俺の前へと彼女を放り投げるようにして座らせた。

 

「うーし、じゃあ出発すんぞー」

 

「うぅ……ベタベタ……。て、テンセイさんっあんまり近寄らない方が……多分匂いが……」

「いや大丈夫……って生臭っ!!」

 

 俺と、ベタベタのエルミスを乗せたトカゲが立ち上がり、ポーさんを乗せた一匹の後ろへと続く。

 

「おっと!」

「す、凄い」

 

 のっしのっし、と歩くその足に合わせ、俺たちの体は大きく揺れた。

 

 よく世界旅行の番組とかでラクダや像にのった観光客なんかを見たことがあるが、こんな気分だったのかもしれないなぁ……。案外楽し ──── いっ?!

 

 ゆっくり動いていたスレナリザードの足が、大通りに入った途端跳ねるような動きへと変わった。

 

「おわわ!? 速っ ────」

「くひひっ。首に気をつけろ、もってかれんぞ」

 

 ポーさんがニヤリと笑った次の瞬間。

 視界に線が走り、景色が後ろへ吹っ飛んだ。

 

 ぐんっと慣性に引っ張られ、警告どおり首が後ろへもっていかれる。飛行機の加速なんて目じゃない。信じられない力で後方に身体は押さえつけられていた。

 

「あばばばばばばば」

「ひぇええええええ」

 

 町から出て、舗装されていない道に入っると、たちまちスレナリザードはさらに加速した。もはや空でも飛んでいるのかと思うほどに、一度跳ねた身体は地面に着かず、後方には土煙が吹きあがっている。 

 

────

───

──

 

 それから俺たちは川を越え、森を抜け、一面の草原を駆けた。

 

「うわぁ」

「おぉーでっけー」

「にしし、あれがリンドール。リーファス共和国で二番目にでけぇ街だ」

 

 小高い丘の上から、見渡す限りに広がる街が見えた。

 

 中央を川が貫く円形の街並み。高く聳える鐘楼に、奥には大きな城のようなものまで……そして一面をところ狭しと薄橙色の屋根がひしめき合っている大都市だ。

 

「止まれー!!」

 

 巨人ですら屈まずに通れそうなほどバカでかい外壁門は、行商の荷馬車や行き交う人々でごった返しており、ポーさんはその横にあった勝手口のような場所へスレナリザードを止めた。

 

 横で大きく手を振った衛兵が、ポーさんの顔をみるやいなやピシッとした敬礼を見せ背筋を伸ばす。

 

「お前た ──── ってポーさん?! し、失礼しました!! お通りください」

「うぃーご苦労さんー。後ろのもあーしのツレだからスルーよろ」

 

「も、もちろんです。Sランクの方の同行であれば、たとえ罪人でも通す規則ですので」

 

 衛兵はチラリとこちらに注意を払ったが、特段何もすることなく勝手口のような扉を開いてくれた。

 

「さてさて。色々面白れぇもんがいっぱいあるが、よそ見して落っこちんなよー?」

「おぉー……すげぇ」

 

 扉をくぐると、ウィンタムの町で見たものとは違った異世界がそこにはあった。

 

 とにかく視界に入る人の数が多いのなんの。見上げる程に大きな建物がひしめき合う石畳の大通りは人波で埋め尽くされ、歩けば誰かと肩がぶつかりそうなほどだった。

 

 スレナリザードがその人波を掻き分けるように進んでいく。

 

 剣や刀を携える鎧姿の……開拓者っぽい人達も確かにいるのだが、それ以上にずっと多いのは手提げ袋にパンや食材を差している女性や、天秤棒を担いだ行商人、タンクトップのような軽装をした職人風貌のオッサン。といった非武装の住民達で、ウィンタムと違い、ここが平和な街なのだとすぐに察することができた。

 

 そして何よりも俺が驚いたこと……。

 

「さ、サラリーマン……?!」

 

 目の前にはスーツ姿のおっさんがビジネスバックを片手に歩いていたのだ。よく見るとその人だけじゃない、みたことのあるような服を着た人間と物で街が溢れ返っていた。

 

 えっ、普通に車が走ってるんだけど……。

 何あれ?! 信号機を持ってる奴がいる?!

 うぉあ?! 絶対あの人ノートPC持ってきただろデカっ。

 あの子は……ピコハン!?

 

 モンキーレンチに、ボルトクリッパー、バールのようなものに竹刀……。 

 

 ちょちょちょ?!

 ぶぁはっはっは。

 え?! いや……え?!

 

 マジでバッグクロージャー持ってきてる奴いるじゃん!!

 

 異世界で訪れた二番目の街。リンドールと呼ばれたその巨大都市は、地球からの転移者でごった返した異世界らしからぬ街だった。

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