凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~   作:三軒となり

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第19話 正式加入

 

 筋骨隆々の大男が宙を舞い、フルプレートの騎士が大の字に倒れ込む。

 

「うわっコイツ泡吹いてんぞ、タンカもってこい!!」

 

 開拓者ギルドのど真ん中で突如始まった謎の腕相撲大会は、大盛り上がりを見せていた。

 

 ポーさん VS ごろつき数十人。

 ってどんだけ……。

 

 そもそも、この人達はなんでそんなにエルミスのことが欲しいんだ?

 

 貢献度がどうとか言っていたけど、クランの順位に合わせて報酬が貰えるとかだろうか? クランは『会社』という話もあったし、開拓者というのは売り手市場の人手不足なのかもしれない。

 

「うわぁああ、巨斧のバンゼフもやられたぁあ!!」

「……ぇー……」

 

 ドカンと歓声が沸き立たせ盛り上がる観衆。と、それを見て軽く引いているエルミスをスルーして、俺は受付のフィオナさんに疑問をぶつけてみた。

 

「なんで皆さんクランの勧誘にこんな熱が入ってるんですか?」

「あーたしかに、あなた達からすると異常よね。簡単にいうと、連議会のメンバー入りをしたいのよ皆」

 

「連議会?」

「ひぃふぅみぃ……。まだ時間かかりそうだし、少し説明してあげよっか」

 

 ぐわぁと腕を押さえ足元へ転がる大男を、カウンターから心配そうに見下ろしたフィオナさんは、なんとも言えない感じに顔を(しか)めて話し始めた。

 

「連議会ってのはね ────」

 

 大陸に点在している主要各国の代表が集う場『共存種連議会』。そこでは世界政策……つまり共存種としての動向を決めるための会議が毎年開かれるらしい。

 そしてその代表というのが各国のトップと、それぞれの国で最も貢献値の高いクランのマスター達になるのだそうだ。

 

「連議会入りするとねー、開拓者達への恩恵が凄いのよ」

 

 名声に権力、それに優秀なクランには優秀な依頼が集まるということで、富すらもが確約されるこの連議会に名を連ねることが、全ての開拓者の夢なのだとか。

 

「それに……みんな取り返したいんだよね。自分たちの故郷を」

「え?」

 

 青い瞳が少しだけ伏せられる。

 

「この世界は『領地の取り合い』だって聞いたことない?」

「はい、それはポーさんに教えてもらいました。蝕魅(エクリプス)との『陣取り合戦』だと」

 

 フィオナさんは静かに頷いた。

 

「もともと蝕魅(エクリプス)領なんてものはないの。今そう呼ばれている場所はすべて誰かの住んでいた土地」

 

 あのポーさんの故郷も……。と続きを語ろうとしたフィオナさんは、はっと何かを思い出したかのようにそこで口を噤んだ。

 

「っと……まぁそんな感じで皆、夢を叶えるために貢献値を競っているわけ」

「なるほど、その貢献値というのは?」

 

蝕魅(エクリプス)の討伐数や、依頼の達成数、あとは開拓者ランキングの順位で決まる値のこと。まぁ端的にそのクランの強さだと思ってくれたらいいわ」

「強さ……」

 

 フィオナさんの視線が、絶賛腕相撲大会にドン引き中のエルミスへと向けられる。

 

「ちなみに蝕将(ジェネラル)蝕魅(エクリプス)の中でも上から三番目の強さ。それを倒せる開拓者なんてそうは居ない。エルミスさんのことは皆、喉から手が出るほどに欲しいでしょうね」

 

「へぇ。というか昨日の今日なのに、随分情報が出回るのが早いんですね」

「ふふふっ、開拓者ってのは情報の鮮度が命だからね」

 

 彼女がそう言い終わる頃には、置かれた樽の横で大小様々な開拓者達の骸の山が出来上がっていた。

 

 そんな敗者達の醜態を高らかに見下ろす虹色の少女が一人、悪魔的な笑みを浮かべながらこちらへと歩いてくる。

 

「くひひっ。有象無象が相手になりゃしねぇ、筋力だけならあーしは大したことねぇってのによぉ」

「いやいや。魔力による強化抜きでやらないと……」

 

 グリグリと肩を回すポーさんに、フィオナさんは呆れ顔を見せた。

 

「あ゛ぁ゛? 肉体強化は誰だってできるだろうが」

「はぁ……自分の魔力量分かってます? 世界ランク18位の開拓者に勝てる人がこの街にいる訳ないでしょう。ヴォルフォクサーさんくらいでは? ポーさんに腕相撲で勝てるのなんて」

 

「にししっ、かもな。つか18位じゃなくて8位だろぃ。どうせ順位の変わりゃしねぇ上から十人をカウントすんじゃねーよ」

 

 カウンター横にあった高椅子を引っ張ってくると、再度片肘をついて座った虹色ゴリラ少女。そしてその眼前にフィオナさんが二枚の書類を滑らせる。

 

「はいはい。それで今日は……こちらの二人の試験受付でいいんですか?」

「いや、嬢ちゃんは特例付与を使う。蝕将(ジェネラル)を倒したんだ、条件は満たしてるだろ?」

 

 一瞬の沈黙。

 

 眉を顰めるフィオナさんにポーさんがくひひと笑って返すと、つられて彼女の口元も崩れた。

 

「まぁそう言うと思って準備してましたけどね。はいFランクのプレート」

 

 カウンターの上にチャリっと音を立て置かれた鈍色の金属片。それは以前おっさんから見せてもらった開拓者プレートだった。

 

「流石フィオナ、わかってんじゃねーか。ほれ嬢ちゃん手ぇ出しな」

「えっ?! 手、わわっ」

 

 それからポーさんはエルミスの右腕を掴むと、タンッとカウンター上に手のひらを広げさせた。そしてその上へフィオナさんが一枚の羊皮紙と開拓者プレートを重ね合わせる。

 

「ふふっ。心配しなくても大丈夫、プレートと個人を紐付けるだけだから。すぐに終わるし、特に痛いとかもないわ」

「えっ、あの……へっ?!」

起動(ドライヴ)

 

 訳も分からないと混乱するエルミスを無視して、紙に手をかざしながら何か言葉を唱えたフィオナさん。すると羊皮紙が薄い輝きを放ち、浮かんだ光の線が何やら紋章のような記号を形作っていった。

 

「はい完了。これでこのプレートはあたなだけのもの。【基盤分析】はどうする?」

 

 エルミスとポーさんへ交互に目配せするフィオナさんに向かって、虹色のおかっぱ頭が斜めに傾く。

 

「ん? あれは魔力も魔術回路もねぇ転移者には使えなかったはずじゃ……」

「それが先日、ズィーさんが改良してくれたんですよ。転移者の【神律】と我々の【魔術回路】は似てるそうで。細かい説明もしてくれましたけど、あたしにはサッパリ」

 

 そう言って肩をすくめたフィオナさん。

 

「へぇ。なら一応やっておいてくれ。まぁ恐らく出力は測定不能だろうが」

 

 いよいよ何を言っているのか俺もついていけなくなってきたのだが、お構いなしにフィオナさんがもう一枚羊皮紙をエルミスの手の上に置き、再度魔術回路を起動した。

 

 またもや輝きを放った羊皮紙。

 だがその上を走る光の線は先ほどと違い、細やかな文字を刻んでいた。

 

**********

【身体分析】

 持久:G

 耐久:A

 筋力:G

 速度:特

 魔力:無

 総合評価:D+

 

【神律分析】

 系統:特殊

  型:指定

 出力:測定不能

**********

 

 ジジジ……っと紙が焼けるような音を鳴らし、浮かび上がった文字列。

 

 これはまさか……!!

 ステータス……!?

 異世界転生の醍醐味きたぁあああ!!

 

「ん? どしたテンセイ?」

「あ、いや……ついテンションが……」

 

「? なるほど、項目も魔術回路に合わせてあんのか。特殊系統の対象指定型で出力は測定不能……くひひっ。やっぱ天上に至るなぁコイツは」

「転移者の神律って、特殊系統が多いらしいですよ? それにしても測定不能とは……リンドールじゃポーさん以来じゃないですか?」

 

 出力をされた紙を見つめるポーさんとフィオナさん。

 

「にひひっ。いや、コイツのは恐らく十天に届く。あーしがアースガルドを開いてもあそこまでのことはできねぇ」

「そんなまさか……」

 

 ナニコレ……。

 完全においてけぼりなんですけど。

 

 俺の横で、心無しか「?」を描いているようにも見えるアホ毛を揺らすエルミスと顔を見合わせるも、互いに首を傾げることしかできない。

 

 というか、ちょっとこれは良くない流れじゃないか?

 

 ほら、なんかフィオナさんも書類片付け始めたし、ポーさんも既に帰ろうとしてない?

 

「うぅ……私まだ開拓者になるなんて言ってないのに……」

 

 プレートを貰ったエルミスも困った表情で嘆いているが、まぁこれは良い。

 

 辞める際に指を詰めろ、とか言われるような反社組織でもあるまいし。それに美容師の副業だって、やったところできっと咎められることはあるまい。

 

 問題はそこじゃなくて……俺だ。

 今の俺、たいぶ空気じゃね?

 

 転移したその日こそ、世界を救う勇者になってやるぜーなんて意気込みもしたが、若干その夢も怪しくなってきている。昨日ようやく分かった能力も炎だけ無効とかいう地味なやつだし……。

 

 いっそパン屋にでもなるか?

 炎無効なら釜戸の火も熱くないだろう。

 

 いやでも……エルミスは開拓者になっちゃったしなぁ……いいよなぁ。

 

 世界を股に掛け、数々の強敵と戦い、大冒険を繰り広げる。やっぱ主人公っていったらこうだよなぁ。まぁ、とりあえず相談してみるか……。

 

「あのー」

「どうしたテンセイ……ってそうだった。フィオナ、コイツは試験受付をしてくれ」

 

「あ、えっと……、俺もまだ何になるか決めてないんですが」

「くひひ。何言ってやがる、おめぇグロリアスに行って妹を探してぇんだろ? だったら就職先は開拓者一択だ」 

 

 てっきり「テメェは雑魚っぽいし事務方でもやっとけ」なんて言われるかと身構えていたのだが、予想外な反応が返ってきた。

 

「えっ?」

「へっ? テンセイさんって妹さんを探してるんですか?」

「なんだ、嬢ちゃん知らなかったのか?」

 

 ポーさんに向かって二つの疑問符が飛んでいき、その片方の行き先はすぐさま俺へと切り替わる。

 

 じっとこちらを見つめる金色の瞳……。

 そういえばエルミスに妹のことは話してなかったな。

 

「あ、えっと……実は転移した時に生き別れちゃってさ」

「そ、そうだったんですね……」

 

 俯いた彼女は顎に手を置き、少し考える素振りを見せてから(おもて)を上げた。

 

「なら、私も一緒に探させてください」

「………っと?」

 

 エルミスのその発言に、なんとも言えない気持ちが芽生えた。

 

 あぁ……そうか……。

 

 俺は無意識に彼女とはこれからもずっと一緒に旅をするものだと思っていた。たまたま森で出会い、一時的に町までの行動を共にしていたエルミス。

 冷静に考えてみれば大きな街に着いた今、一緒にいる意味も必要もない。ここから先何をしようと、どこへいこうと彼女の自由である。

 

 ではそんな自由を俺の妹探しという個人的な理由で奪ってしまっても良いのだろうか? なんて疑念が、なんとも中途半端な返事を生み出した。

 

「あ、りがたいけど……結構遠いらしいよ? 妹がいる国」

「……ご迷惑ですか? 私が一緒だと」

 

 スッと彼女の視線が斜めに落ちる。

 

「いやっ、そうじゃなくって。エルミスも何かやりたいこととか、あるんじゃないかなって。俺みたいなMOBと一緒に行動するのも嫌でしょ?」

「…………」

 

 沈黙した彼女の表情に薄っすらと不満が宿る。それからエルミスは、ボソリと聞き取れない声で何かを呟いた。

 

「本当に気のせいだと思ってるんですか……」

 

「ん? なんて?」

「ありますよそりゃ、やりたいこと」

 

「な、なら ────」

「テンセイさんと一緒にですけどね」

 

 口をへの字に曲げ睨みつけるように瞳をあげたエルミスが呟いた言葉は、またもや何を言っているのか聞き取れないほどの大きさで。

 

「なんて? ん? あれ? 皆さん?」

 

 ふと周りの静けさに違和感を覚え様子を伺うと、エルミスだけでなくポーさんとフィオナさんと、テーブルの開拓者一同が俺を鋭い視線で貫いていた。

 

「テンセイよぉ……オメェ……それはねぇわ。ドン引き」

「え?! 何がですか!?」

 

「とりあえず嬢ちゃんとのグロリアス行きは決定な」

「はい?!」

 

「オイお前らぁー、見てたろ。嬢ちゃんが誰のものなのか、手ェ出したら殺すぞぉー以後気をつけな」

 

 周囲の開拓者達に向かって訳のわからないことを叫んでるポーさんと、謎の盛り上がりをみせる酒場のゴロツキ達をよそ目に、俺はエルミスへと耳打ちする。

 

「本当にいいの?」

「もうっ……いいに決まって……。というかテンセイさん、約束忘れたんですか? 私を専属美容師にしてくれるんですよね?」

 

「専属? あれ、なんか飛躍してない?!」

「んーそうでしたっけ? ふふっ。何はともあれ、これからもよろしくお願いしますね。テンセイさん」

 

 旅は道連れ世は情け。

 

 あたりまえのことほど、面と向かって言葉にすると恥ずかしさがこみ上げてくるというものなのかもしれない。

 

「じゃ、じゃあ……こちらこそよろしく、エルミス」

 

 俺の妹探しの旅の仲間に、こうしてエルミス(美容師)が正式加入した。

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