凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~   作:三軒となり

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第21話 魔術回路

 

 街の通りを不思議な隊列が行く。

 

 虹色の髪をした子供に引きずられる大人の男と、そんな男に引きずられる、(ほど)けたおさげの可愛らしい少女が織り成す異色の3人パーティだ。

 すれ違う人々に好奇な視線を向けられながら大通りを進み、細く薄暗い路地へと入ったかと思えば、また大通りに出る。

 

「わぁ!! 見てくださいテンセイさん、煙が凄いいっぱい」

 

 区画を一つ横にズレれただけで、街の雰囲気はガラリと変わった。

 煤と鉄の匂いが鼻をつき、聞こえてくるのはさきほどまであった商人の呼び込みや住民達の話し声ではなく甲高い金属音で。通りの両脇には煙突の突き出したレンガ作りの工房のような建物がずらりと並んでいる。

 

「くひひっ。ここはリンドールの工業区。この街の中枢だ」

「へぇ。ここって工業都市なんですね」

 

「この辺りは質の良い魔鉱石が採れるからなぁ、リンドール産の武具は人気なんだぜぇ? ヴォルフォクサーの槍もあの店で仕立てたやつだ」

 

 ポーさんが指さした先には、荘厳な面構えを見せる一際(ひときわ)でかいレンガ作りの建物があった。(のき)に吊るされた看板には金床(かなとこ)のマークが描かれており、それが鍛冶屋であることが見てとれる。

 

「ハサミとかも売っていたりするのでしょうか?」

 

 剣や鎧、小型のナイフ等を軒前に展示している店を横目に見ながらボソリと呟くエルミス。

 

「ん? ハサミ? なんだ嬢ちゃん、二本目の武器でも欲しいのか?」

「あ、いえ。髪を切るようなんですけど……」

 

 一瞬上目遣いにエルミスが見つめてきたような気がしたが、目を合わせようとするとすぐに顔を逸らされてしまった。

 

「散髪用か。となると小物だな、ズィーの工房にもあるかもしれねぇが……」

「その、別に急ぎじゃないので大丈夫です!」

 

「そうか? まぁあとで色々連れて行ってやんよ、どうせテンセイが回路を埋め込んでる間は暇になるからな」

「ん?」

 

 回路を埋め込む?

 

「にししっ。テンセイもなんか欲しいもんあるか? つか、なんでお前武器もってねーの? 転移者って全員なんか持ってきてんだろ?」

 

 デカい鍛冶屋の横、薄暗い通りに入ったポーさんが腕を後頭部で組み、くるりと回転して後ろ歩きになりながら不思議そうに目を丸くする。

 

「確かに。そういえばテンセイさんって何を選択したんですか?」

 

 エルミスも似たような顔で見上げてきた。

 

 今更ながらの質問。だがその答えについては、俺が一番知りたいくらいである。

 

「いや、実は俺も何を選択したのかよく分かってないというか……」

「へっ?」

「はぁ? それじゃおめぇ神律(しんりつ)の名前は? 転移者は武器と一緒に付与されるんだろ?」

 

「もちろん不明です」

「まじかい。正体不明で火の完全耐性とは……くひひっ」

 

 あっけらかんと口を()けたかと思うと、ポーさんはすぐさまニヤリと笑った。

 

「なら丁度よかったな」

「えっ?」

 

「今から会う魔術回路の設計士はな、触れた相手の力が何なのか分かる固有魔術(ユニーク)を持っている」

「ユニーク? ……ってか『魔改造』とか、『魔術回路の埋め込み』とかってなんなんですか? さっきから不穏なんですけどワードが」

 

「あー……そうだな、ちっと基礎から教えてやっか ────」

 

 そういってポーさんは魔術回路について説明を始めた。

 

 魔術回路 ──── 大気中に存在する不思議エネルギー、火・水・土・草・風・光・闇の七種類ある『魔素』を材料に、様々な効果を発現させることができる装置のようなものであると、目の前のレインボーな妖精は言う。

 

 魔素を取り込む『組み込み(エンベッド)』。

 魔素を運ぶ『繋ぎ(トランス)』。

 魔素を事象に変える『出力(アウト)』。

 

 この三ステップが魔術回路の基本動作になるらしい。

 

 また、魔素に力を与える血液のようなものが『魔力』と呼ばれるこれまた人体に存在する不思議エネルギーで、転移者はこれが著しく低いため魔術回路が使えないのだそうだ。

 

 そしてこの魔術回路、共存種の人たちは生まれながらにして体に持っているのだが後付けでも汎用的な機構を埋め込む事ができるらしい。

 

「外皮に魔素取り込み用のフィルターを取り付けて、細胞間に魔力の伝導線を入れこむんだ」

「ふむふむ」

「………」

 

 エルミスは真剣な顔で頷いているが、はたしてどこまで分かっているのだろう……。結構ファンタジーかつサイエンスなことを言ってる気がするんだが。俺でもギリわけわからんよ?

 

 大気中の魔素を皮膚から取り込めるようにして? それを運ぶ魔力の導線を体に張り巡らせる? うーん……怖くね?!

 

「くひひっ。組み込み(エンベッド)繋ぐは指先(トランス)一煉出力:火弾(シングルアウト)

「ちょっ?!」

 

 一瞬よそ見をした俺の目の前には、ポーさんが指をピストルのようにして構えていた。

 

起動(ドライヴ) ── BAN」

 

 銃弾のように撃ち出された小さな火の球が、目の前でパシュンと消える。

 

「な、何してるんですか?!」

「にししっ。実演だよ実演、百聞は一見にしかずだろぃ? 回路を埋め込んじまえば、これくらいオメェもすぐできるようになるぜ」

 

「えっ、いや。転移者は魔力がないから魔術は使えないって今……」

「くひひっ。そうだな、魔力がなけりゃ使えねーな」

 

 ん? 何この会話。

 なぞなぞ? クイズ?

 全然意味が分からないんだけど。

 

 指先から立ち昇る煙をふぅ〜っと吹き消すと、そのピストルでポーさんは自分の心臓あたりをトントンと叩いた。

 

「無いなら生み出せばいいだろう、テメェにはそれが可能だ」

「?」

「にししっ、まぁ詳しいことは設計士から聞け。あーしは()()()であって回路の専門家じゃねぇ」

 

 ポーさんがそう言って腰に差しているゼンマイのような杖に手を添える。

 すると横でエルミスがアホ毛を「?」にしながらポーさんに質問を飛ばした。

 

「あれ? 皆さん魔術を使えるならこの世界の人たちは皆、魔術師になっちゃうんじゃ……」

「たしかに、その理屈だと全員魔術師になるな」

 

 エルミスと共に疑問の視線を向けると、ポーさんは不敵な笑みを浮かべた。

 

「くふっ。魔術には大きく七段階の出力が存在する、一煉から始まり七煉まで存在する出力がな」

「いちれんと、ななれん?」

 

(れん) - 熱して混ぜ合わせるって意味だ。魔素はな、互いに焼結させることでその効果を無限といって良いほどに広げることができるのさ。魔素をそのまま使うことを一煉出力(シングルアウト)と呼び、例えば火と風の魔素を組み合わせて炎にすれば二煉出力(ダブルアウト)と呼ぶ」

 

 すっと中指と人差し指を立て、くるくると回すポーさん。

 

 この人……指を使って何か数えるとき、中指から立てるの怖すぎるんだけど。

 

 そしてその小さな指は、彼女のセリフに合わせて一本ずつ立てられていった。

 

「一般人が放てる魔術が一煉。数年の修行を経た熟練者が辿り着く二煉。人がその一生をかけて使えるかどうかの三煉」

 

 ポーさんの指が一度三本立った所で止まると、くるりと手の平が返されその続きが立ち上がった。

 

「万人に一人の天才が四煉の世界を覗くことができ、人智を超えた存在……()()()のみが五煉に至る」

 

 全ての指の立った手の平をグーパーと握り哂うポーさん。

 

「ってこったな」

「六煉と七煉は……」

「くふふっ、六煉は天上。この世界に扱える奴は二人しかいねぇ……。七煉に関しては神域、神のみが使えるんだろうさ。例外はあるがな」

 

「例外?」

「さっき、固有魔術(ユニーク)つったろ? 固有魔術(ユニーク)はてめぇら転移者の神律みたいなもんだ。生まれた瞬間から効果の決まってる魔術を皆一つだけ持っている。指紋みてぇに一つとして同じ効果は存在しねぇとっておきをな。神様から与えらし神域の力……この固有魔術だけは必ず七煉出力(セプタプルアウト)になってるんだ」

「へぇ、面白いですね」

 

 一発逆転を秘めた必殺技みたいなものだとポーさんは述べた。

 

 確かに、エルミスのアトロポスも必殺技だもんな。

 

 転移者だけだと思っていたが……共存種の人もあんなとんでも能力を使えるとなると、案外あのハサミもチートではないのかもしれない。

 

「くひひっ。そんでもってこれは基礎中の基礎、魔術は奥が深けぇぞ」

 

 ポーさんがそう締めくくった時、ちょうど俺達は暗がりの路地を抜け、ふっと視界の開ける広場へと出た。

 

 よく見るとそこは、さきほどの大きな鍛冶屋の裏手側で、布を被った木箱や、出荷前の商品だろうか? 剥き出しの甲冑なんかが所狭しと並べられている。

 

「丁度着いたな」

 

「ここが目的地?」

「何もない……ですね」

 

「くひひっ。ここはあーしらのクラン〝ユグドラシル〟が昔使っていた街の地下訓練場の入り口でな、一般人は普通入れねぇんだが……」

 

 顔を見合わせるエルミスと俺を放置し、スタスタと壁の方へと歩いて行ったポーさんが何の変哲もない石畳をガンっと踏みしめると、その一つがクルリンっと回転してレバーのように床から突き出した。

 

 そしてそれをおもむろに引くポーさん。

 

 すると石畳の継ぎ目が微かに白く発光し、ゴゴっと腹の底に響くような重たい音を鳴らしながら動き出した。ゆっくりと沈み始めたそれは更に左右へと割れ、瞬く間に地下へと続く階段となった。

 

「わわわ、すごい」

「ダンジョンのギミックかよ……。その、回路設計士っていうのはこんなとこに居るんですか?」

 

「くひひっ。アイツは実験が好きでな、よくここに籠ってるんだ」

「わざわざ地下に……?」

 

「そりゃそうさ、地上なんかでやっちまったらこの街が吹っ飛んじまうだろう」

「「え……」」

 

 ポーさんが階段を降りていく。

 

 今彼女が何か不穏な発言をしたように思えたが、きっと気のせいだろうと俺たちは地下へと続く階段に足を踏み出した。

 

 この後起こる、恐怖の人体実験など知る由もなく……。

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