凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~ 作:三軒となり
……え?
「なんじゃこりゃー!!」
「わぁー凄いっ!!」
いったいどれほどまで深く穴を掘ったのだろう。長い長い階段を降りた場所にあった鉄扉の先で見た景色を前に、俺とエルミスは叫ばずにはいられなかった。
頭上にはなぜか果ての知れない空があり、青い天球にたなびく雲が悠々と流れている
そして足元の一面には青々とした草原が広がっていて、どこから来たのか吹き抜ける風の流れがさざ波のようにその表面を撫でていた。
「ちょっと……意味が分からないんですけど。俺達って今、地下に下りてきましたよね?」
「くひひっ。気づかなかったか? ゲートを潜ったろ」
「ゲート?」
「階段の途中にあった銀色の門だよ。えーっとなんつったかなぁ……11次元がどうとかって……。まぁその辺は中にいる
あくびをしながら進むポーさんの先へ広がる草原には、ぽつんと一軒の家が建っていた。
木と石を組み合わせた質実な作りの二階建ての家。屋根上から斜めに伸びた煙突はもくもくと白い煙を吐き出しており、中に人の居る気配が伺える。
「ちょりーっす!!」
「お、おじゃましまーす」
「おぉ……工房?」
宿屋とギルドよろしく入り口の扉を蹴り飛ばしながら家へと入っていくポーさんの後ろへ続くと、そこは1Fワンフロアを丸ごとぶち抜いた部屋になっており、どこか工房や作業場を思わせる作りだった。
壁一面には何に使うのか分からない工具のようなものが吊るされ、中央に置かれたバカでかい木製の作業台の上には細かな金属線や、光る鉱石、不思議な紋章の刻まれた石板に……挙げればきりのないほど異世界アイテムがひしめきあっている。
「……お姉ちゃん?」
工房の中に響いた透きとおった声。
見ると作業場の一角には一人の女性が座っていた。
肩口からさらりと落ちる白銀の髪。パツっと切りそろえられた前髪は両目を隠し、表情の見えない彼女の顔はあまりも無機質というか……整いすぎていて精巧に作られた人形のようにも思えた。
「くひひっ。相変わらず覇気がねぇなぁ、ズィー」
「……調整?」
「いや今日は別件だ。回路の埋め込みを頼めるか?」
「……うん。珍しいね、先天疾患?」
ゆっくりと立ち上がった人形のような女の子。一枚羽織っている服はどこか白衣を思わせる意匠で、中には首元まである黒いニットベストのようなものを着ている。
「………………」
「えっと……?」
深く降ろされた白銀の前髪でその視線は分からないが、雪のように白い肌をした顔は俺の方をじっと見つめている気がした。
「こいつはズィー。あーしの妹だ」
沈黙のなかポーさんが彼女の横まで歩いていき、グイっと背伸びをしながら肩を叩く。二人が横に並ぶとその身長差は顕著に見てとれた。
あれ? 妹なら彼女もフェアリー種だよな?
小柄な女性しかいないって話じゃ……。
目の前のズィーと呼ばれた女の子は確かに大きくはないが、それでもポーさんの倍、エルミスほどの身長があった。
が……たぶんこれは触れない方が良い話題なのだろう。横へ並ぶポーさんは、わずかに踵を上げその身長差を埋めようと見栄を張っているように見える。
「っと、俺はテンセイっていいます」
「え、エルミスです」
「……よろしく」
ペコリとお辞儀をしてくれるズィーさん。
「くひひっ。ズィーは人見知りでな、それに口下手なんだ」
「……どっちが埋め込むの?」
それからズィーさんは作業台をずささーっと手で掃くように片付けると、トントンとその上を指先で叩いた。
乗れ。もしくは寝ろ。ということだろうか? 相も変わらず表情の分からない目の隠れた顔が、俺とエルミスを交互に窺い見ている気がする。
「ん? あなた達もしかして転移者? どういうこと? お姉ちゃん」
「あー……それがな……ごにょごにょ」
「────!!」
ん?
ポーさんが何か耳打ちをした瞬間 、大きく息を吸い込み何かを思い切り叫ぼうとしてピタッと停止するズィーさん。そして彼女は早歩きで俺の横まで来ると、グィッと腕を掴んだ。
「はいっ?!」
「テンセイさんっ!?」
あら不思議……。
この華奢な身体のどこにそんな力があるのか、俺の体は彼女に背負い投げられるようにして作業台へと叩きつけられたのである。
「ぐぇっ」
衝撃に軋む身体。その痛みに気を取られていると、パチンパチンと下の方から音が鳴り、手首と足首になにやら拘束されているような気配を感じた。
「ちょ?! え、何してるんですかこれ!?」
「あわわわわわ」
キョドるエルミスの横で革ベルトを使い、俺の全身を縛りあげていくズィーさん。どこか呼吸は荒く、顔もうっすらと紅潮しているようにみえる。一体何が……。
「
驚き戸惑う俺の眼前を覆うように手を翳したズィーさんが、白衣の裾を翻しながらそう唱えた。
ユニークって、さっきポーさんが言ってたとっておきの ────
「
そしてその一言と同時に光輝いたズィーさんの身体を、幾重にも重なり合う円環が包んだ。
歯車のような円環の表面では、規則性をもった細かい光の線と無数の記号が点滅している。どこか機械じみた光の輪、それは次の瞬間にはズィーさんではなく俺の身体を覆っていた。
「ちょちょちょ ────」
「じっとしてて」
「えっ、いや?! だっ ────」
「動くなっつってんだろうが」
バコーンっとポーさんに杖で殴られ、一瞬意識が吹っ飛ぶ。
「はっ?!」
気がつくとズィーさんの身体の周りにはホログラムのウィンドウのようなものが浮いており、そこには波形めいた線が次々と走っていた。
「基盤構成……不明。周波数スペクトル……正常域を逸脱。未確認の魔素を検出……」
中心に立つ彼女は冷静にそれらを分析するように、意識を半透明なウィンドウの中へと沈めていた。
──── ビーッ
次の瞬間、そのウィンドウの一つに赤い光が灯った。一枚、二枚、三枚……その光は連鎖するように彼女を覆いつくしていく。
「……え」
目元は隠れていても、微かな震えから少女の動揺が見えた。そしてズィーさんは一歩俺に歩み寄ると、身体を包んでいた円環をすっと胸の中央へ重ね合わせる。
「基盤温度……せ、1,000!? いや……2,000……3,000……嘘……1万……ま、まだ上がってる!?」
食い入るようにウィンドウを見つめる彼女からは、先ほどまであった無機質な雰囲気が消えていた。熱を帯びた言葉が、次から次へと流暢に零れて出している。
「上限値測定不能……すごい……すごいすごいすごい……なにこれ」
「くひひっ。まじで火の完全耐性っぽいな」
「ううん。そんな次元じゃないよ。こんなの……初めて見た」
もはやウィンドウはエラーメッセージの赤く燃える光で埋め尽くされており、その中心で白銀の少女は衝動を抑えるようにプルプルと震えていた。
「お姉ちゃんっ、この人私の好きにしていいの?」
「ふぇっ!?」
予想だにしていなかったセリフが飛び出し、エルミスがギョッとズィーさんへ顔を向ける。
「くひひっ、煮るなり焼くなりご自由にどうぞ」
「えっ!?」
そして同じように俺もポーさんへ顔を跳ね上げた。
────
───
──
えー……っと。緊急で会議を始めます。議題は……出会って二日の子供が何故か俺の生殺与奪の権を持っていた件について。
「あのー」
「────」
「あのー、ちょっと」
「────」
「おーい!!」
「────」
「…………」
現在。作業台に縛り付けられた俺を放置して、エルミスと、ポーさんと、ズィーさんの三人が俺に聞こえないよう何やら雑談をしている。
エルミスの表情に喜怒哀楽の全てが浮かび上がっており、不穏でしかないというかなんというか……。薄っすら聞こえてきた「それってテンセイさんは大丈夫なのでしょうか?」なんて彼女の問いに対する二人の反応が『首を傾げる』なのが
わたくし、大変不安でございます。
「そ、そういうことなら」
「くひひっ。決まりだな」
「じゃ、始める……」
結論が出たのだろう。二人の見守る中、ズィーさんが何やら小さな宝箱のようなものを持ってこちらへと近づいてきた。
「保護者の許可が出たから、今から融合炉の埋め込みを行う」
「えっ? なに? なんだって?! 融合炉!?」
俺のリアクションには一切目もくれず、淡々と箱から何かを取り出すズィーさん。
その小さな箱が開くと、静まり返った工房にウィンウィンと謎のモーター音のようなものが響き渡った。見ると彼女の手の上には不思議な赤い輝きを宿す立方体が、ふわふわと浮いていた。
単なる箱ではない。八つの頂点を繋ぐ骨組みは見たこともない黒銀色の金属で作られており、一本一本が均一ではなく僅かに節を持った多層構造をとっている。表面には細かい溝が幾重にも刻まれ、その溝の内側を脈動する青白い光は中央へ浮かぶ黒い球体へエネルギーを送っているようにも見えた。
「これを埋め込めば体内の高熱によって魔力が生成され、あなたは魔術回路が使えるようになる」
「そ、それはいったい……」
「魔素融合炉」
「魔素融合炉?」
「別名、無限の魔力製造機」
「はい?」
全くピンと来ない名称に首を傾げてみると、ズィーさんは腰に手を当て上体を反りながらフッフーンと鼻息を鳴らした。
「わたしが十年かけて発明した、高温状態の魔素と生命エネルギーを使って魔力を生成する装置。
その横でポーさんもドヤッと俺を見下ろす。
「姉バカかもしれねぇが、ズィーの技術力は世界レベルだからな」
「普通の温度じゃ起動できないし、生物は発生する熱で即死するから使いようがなかったんだけど……あなたなら耐えられる
「くひひっ。よかったなぁテンセイ、最強になれる
「かも? 今、かもって……かもはマズくないですか!?」
必死の形相で二人へ訴えかける俺。
「あーまぁ無限の魔力が生成できても、使いこなせるかは別だからなぁ。絶対に最強になれるとは言えねぇ」
「そっちじゃなくて!! ズィーさんの方!!」
「…………」
勿論、望んだ回答は返ってこない。
こ、これを身体の中に入れる……?
うん……俺、死ぬかも……。
「じゃ、オペを始める。メスは……これでいっか ──── 」
ガクガクと首を振りながら最後の抵抗を見せた俺の身体に、深々と得体の知れない棒が突き刺さった。
「ちょ、え!? どっから入れ……そんなの入らな ──── アッーーーー!!」
抵抗空しく体内に入り込んでくる異物。想像を絶する痛みが走り、作業台の上でエビのように跳ねた俺は、自分でも驚く程に野太い声を上げていた。