凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~ 作:三軒となり
「はい、これで魔術回路の埋め込みも終わり」
作業台に寝そべる俺の横に立ち、パンッと手を叩いて施術が終了したことを告げる銀髪目隠れ少女。
「…………」
彼女の一撫でによって、先ほどまでぱっくりと切り開かれていたはずの俺の胸部は傷一つなく元通りになっていた。
「くひひっ。草の魔素の扱いに長けたズィーは、高出力な治療魔術が使える。生きてさえいりゃどんな瀕死状態でも元どうりってな。相変わらず完璧じゃねぇか」
「いてっ、いてて」
不安顔で見つめていたその胸部を、ポーさんは杖でツンツンと
「治癒魔術は、すぐ
「たしかに、他人の身体に繋ぐのは魔力効率ゲロ悪だからなぁ。つか邪魔だ、早く降りろ」
「ぐへっ!!」
「だ、大丈夫ですか!? テンセイさん」
作業台からずり落とされ床に伏せた俺の元へとやってきたエルミスは、膝を抱えるように座り込んだ。
「し……死ななかったのが奇跡かもしれない」
「たしかに……凄かったですもんねアレ」
さて、この惨劇を振り返ってみるとしよう。
まず魔術回路の埋め込みとやらは正直拍子抜けだった。強いていうなら予防接種の注射のようにチクッと肩に痛みが走った程度。たったそれだけの施術で俺の表皮は魔素吸入用のフィルターと化し、魔力伝送用の導線が身体中に張り巡らされたらしい。
むしろその後に調整とか言ってズィーさんが全身をペタペタと触り、よく分からない言葉で魔術回路を起動していた時間がやたらと長くて辛かった。
あの温厚なエルミスですら「ちょっと触りすぎじゃないですか」なんて眉間にシワを寄せて文句を垂れるほどである。見ている方は相当退屈だったのだろう。
まぁそれは良い。別に痛くはなかったし……。
問題はその前、俺を核融合炉化した謎のコアの埋め込みだ。
いまだ胸の奥に違和感がある。大きさが
「くひひっ。それで、既に魔力の生成は始まってるのか? あれ」
「まだ生体認証中。だけどそろそろ起動すると思う」
作業台を片付けながらポーさんと会話をしている女の子……銀色の前髪で目を隠したズィーさんのイメージは、この短い時間で180度変わっていた。
綺麗な人形、もしくは文学少女のような寡黙な女の子かと思っていたらあらどうでしょう?
車やバイクに乗って性格の変わるキャラは見たことあれ、人の体を切ってヨダレを垂らす女の子なんてかつていただろうか? 俺の記憶にはないね。いたとしてもきっとシリアルキラーかサイコパスだろう。
「……?」
全ての顔のパーツをグシャっと中央に寄せながら睨みつけていた俺の視線に気づいたのか、首を傾げるズィーさんはすでに人形少女に戻っていた。
ぐぅ……。可愛いは正義……全てを赦しましょう。
「まだ、痛みますか?」
眉間に寄せていたシワを別の意味と勘違いしたのか、横から心配そうな顔を覗かせるエルミス。彼女が俺の胸元を撫でるように腕を差し出したと同時、柔らかな感触が肩を包み込んだ。
あぁ……良いぃ。
矛先を見失っていた怨恨も、じんじんと響いていた胸の痛みも、全てが癒されていく。やはり可愛いは正義、そして大きなたわわというのはもはや薬といっても過言ではあるまい。
「エルミスの可愛さはそのうち万病に効く気がする」
「ふぇっ?! きゅ、急に何を言ってるんですか?!」
「あ……いや……つい。そ、そうだね、もう痛みは大分引いてきたか ──── うぉおあああ!?!?」
「はひっ?!!?」
突然。エルミスが手を置いていた俺の心臓付近で爆発が起こった。
いや……実際には何も起きてはいないのだが、確かに俺はそう感じた。今もなお、何か目には見えない流体エネルギ―のようなものが溢れ出す感覚がある。
「起動した」
「くひひっ。また一人生まれたな、化け物が」
身体から何かが大量に放出されていくような感覚は、初めは得も知れない不安を伴ったが、次第にそれが全身を包み込むように定着してくにつれ、俺の気持ちは落ち着きを取り戻した。
それに……。こちらを見つめる二人の表情と、先ほどまでの話からも察することができる。
これが……魔力……。
視認できているわけではない。だが確かに俺には全身を包む流体の膜のようなものが認識できていた。いったい何の感覚器で捉えているのだろうか。
「エルミス、これ……見える?」
「えっ? これ? テンセイさんの手ですか?」
「あ、いや……だよね」
「?」
そしてその流体は俺の意識に合わせて形を動かすことができた。右手を覆うようなイメージを描くと、全身の揺らぎがそこへと集まってくる。
あ、ダメだ。気を抜くとすぐ戻るな。
「くひひっ。魔力は他人にゃ見えねぇよ。ほいじゃーまぁ、やっか」
「手伝う」
両腕を腰に据えたポーさんと、後ろ手を組んだマッドサイエンティスト……、じゃなくてズィーさんが俺の元へと寄ってくる。
「えっと……やるっていうのは?」
「あぁん? んなもん魔術の練習に決まってんだろ」
「チューニングも兼ねてる」
クルクルと振り回される杖の横で、ビッと立てられる親指。
「魔術の練習ですか?」
「てめーは二週間後の開拓者試験に合格しねぇといけねぇんだろうがよ」
「あ……そうだった」
そんなポーさんの発言で、魔力を獲得してフワフワしていた俺の頭は現実に引き戻された。
「いや、試験って二週間後なんですか?!」
「あぁ、だからみっちり修行はできるな。二週間ズィーとあーしが教えりゃ形にはなるだろ」
自信ありげにポーさんが笑う。
なるほど、Sランクの開拓者とその妹に鍛えてもらえるのならばこんなに心強いこともあるまい。それも二週間みっちり……。ん? みっちり?
「そういえば俺達、泊まる場所を特に考えてなかったんですけど、オススメの宿とかってあります?」
「んん? あぁそれなら今、リンドールの郊外に突貫で家を建てまくっててな。転移者用の住民区だとかなんだとか。そこでいいんじゃね? 無料っつってたぜ確か」
「え、そうなんですか?」
「転移者がうじゃうじゃ来やがったから一時期大パニックだったんだぜ? 住む場所に、飯、どうすんだってなぁ。まぁリーファスは土地と自然が豊かで良かったな」
「なるほど」
「あー、ちなみにテメェの妹が居るグロリアスも国力がバカ高けぇから心配すんな、転移者用の街を何個か新しく作ったとか言ってたしな」
「それは良かった」
んじゃまぁ先に手続きをーっとポーさんが家を出て行こうとした時、ズィーさんが彼女のローブをちょいと引っ張った。
「それならしばらくここに泊まると良い。部屋は空いてる」
そして天井を指さすズィーさん。
「くひひっ。そいつぁナイスアイディアだなズィー。よぉーしいい機会だ、あーしも泊まり込みで嬢ちゃんに開拓者のなんたるかを叩き込んでやんよ」
「へっ!? 私もですか??」
とんとん拍子に泊まる場所が決まり、巻き込まれ事故のように修行することになったエルミス。それからポーさんは「嬢ちゃんとテンセイ、2:2で別れてやんぞー」っと意気込みながら扉を蹴り飛ばしながら颯爽と家を出て行った。
その後をスタスタとズィーさんが追って出ていき……残された俺とエルミスは顔を見合わせ、苦笑いをしながら彼女達の後を追った。
「しゅ、修行って何をするんでしょうか……」
「さぁ……素振りとか?」
激動の異世界生活、この日俺は魔力と呼ばれる不思議エネルギーを手に入れたのだった。