凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~   作:三軒となり

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第25話 修行、修行、修行

 

 すっかり日の落ちた草原の中にポツンと佇む家が一つ。

 窓に反射するランプの暖かな光は、大きな作業台の上に並ぶ豪勢な食事と……爆笑する虹色の子供を映していた。

 

「ぶぅわっはっはっは、花ってお前。冗談やめっ、くひっ、ひぃ。腹痛ぇ」

 

 台をバンバンと叩きながら木製のジョッキを口元へ運ぶポーさん。

 

 アルコールが入っているのだろう。葡萄酒のような飲み物によってえらくテンションの上がったポーさんに、一煉出力(シングルアウト)の火球一つ出せなかった俺はひたすらバカにされていた。

 

 おかげでせっかくズィーが作ってくれた料理。ドドンと目の前に二つ並んでいる謎の生物の丸焼き、狩ゲーでしか見ないような肉が、汁をあふれ出させ大変美味そうなのに……。雑魚は喰う資格はねぇと笑うポーさんによってまだ一口もできていない。

 

「くひひっ。この世界は強い奴が正義だかんなぁ、弱者は食うべからず」

「テンセイは野菜のがお似合い。ヒマワリ出すし、ぷっ、くくっ……」

「ズィーまで……」

 

「よ、呼び捨て……」

 

 作業台に突っ伏せながら体を震わせる姉妹と、その妹をジーっと見つめているエルミス。そういえば彼女、俺が魔術の特訓をしている間エルミスは何やら筋トレのようなものをポーさんにさせられていたが、大丈夫だったのだろうか?

 

「てかエルミスはどうだった?」

「へっ?」

 

「なんか筋トレみたいなことしてたけど」

「は、はいっ!! 腕立て伏せが一回できました!!」

 

 アホ毛を揺らしながらムフーと誇らしげに金色の瞳を細める彼女。腕立て一回でそこまでのドヤ顔ができるとは、可愛いが過ぎる。

 

「くひひっ。嬢ちゃんはしばらく筋トレだな、基礎体力をつけた後に蝕魅(エクリプス)との戦い方をおしえてやるよ。魔術スクロールの使い方とかな」

「魔術スクロール?」

 

 首を傾げたエルミス。揺らめいていたアホ毛も心無しか「?」の形に見える。このアホ毛、実は本人が操作しているのではないだろうか?

 

 そんな彼女に向けてポーさんはローブの中からクルクルと巻かれた羊皮紙を取り出すと、それを広げて見せた。

 

「微量の魔素と魔力を練り込んだ紙に、簡易的な魔術回路を埋め込んでおくことで、使い切りの魔術が放てる巻物だ。一煉出力(シングルアウト)しかできねぇが……ぶふっ、ヒマワリを咲かせるよりは役に立つぜ。くふっ……」

 

「え、そんなのあるなら俺は融合炉を埋め込む必要なかったんじゃ……」

 

「何言ってやがる。こいつぁ簡易的な魔術しか出せねぇ。日常使いが主で戦闘じゃその場凌ぎにしかならねぇよ」

「なるほど」

 

「くひひっ。とはいえ中級蝕魅(エクリプス)から逃げる隙くらいは作れる。開拓者になったんだ、蝕魅(エクリプス)とは今後戦うことになるだろうから嬢ちゃんも慣らしておかねぇとな」

「ひぇぇ……」

 

 私、まだ開拓者やるなんて言ってないんですけどぉ。と小さな声でぼやくエルミスを横目に、ズィーが色々な魔術回路を応用した道具を見せてくれた。水道やランプしかり、魔術回路をこういった『物』に埋め込むのも魔術回路設計士の仕事らしい。

 

 ちなみに俺が今日練習していた火球を出すスクロールは、銅貨一枚程度で買えるとのこと……。今朝方チラっと見た露店の小麦パンがそれくらいの値段だった気がするし、ようはその辺の子供でも扱える魔術ということだ、なんとも悲しみが深い。

 

「テンセイも練習すればすぐスクロールより強力な魔術が出せるようになる」 

「ばっはっは。そうそう、明日からしっかりやりゃ火球くらいすぐだ。ズィーの魔術技量はあーし並みに高い。しっかり教えてもらえよテンセイ」

 

 明日から……か。

 

 その言葉に覗き見た窓の外は既に暗く、ズィーが言ってくれたとおり今日はここに泊まることになるだろう。だが……。

 

「ズィー。本当に試験まで、ここに居させてもらっていいの?」

 

 開拓者になる試験は二週間後。その全ての期間をお世話になるというのは少し申し訳ない気がしていた。ポーさんにゴブリンジェネラルの素材を換金してきてもらっているため、もちろん金は払うつもりだが……まぁこれはエルミスのだけど。

 

「うん……。久々に賑やかで楽しいから全然問題ない」

「くひひっ。食材はあーしが適当に調達してきてやる」

「私も家事とかお手伝いしますっ!!」

 

 

 それから俺の、魔術修行が本格的に始まったのだった。

 

 

────

───

──

 

 

 魔術修行 六日目。

 

「ふあぁあ」

 

 地下空間のはずなのに何故だか清々しく差している朝日を受け、背伸びをしながらあくびを一つ。冷たい井戸水で顔を引き締め、果てしなく続く草原に吹く風を全身で感じる。

 

 気持ちぃーーー。

 

 ここ一週間で、すっかり体も異世界の空気に馴染んできて元気を滾らせている。なぜならば夜、ぐっすり眠ることができるから!! 

 

 シングルベッドの一件があったため、初日の食事後に風呂や寝室がどうなることかとヒヤヒヤしたのだが想像するようなエロゲ展開にはならなかった。

 

 ズィーの家の二階にはちゃんと客室が三つあって各々が各々のベッドで寝ることができたし、時代錯誤なヒノキ風呂のようなものまで備え付けられていた。

 そのあたりは魔術とかいう不思議技術の賜物というか、ご都合主義というか、快適な異世界生活万歳とだけ言っておこう。

 

 いや、まぁ?

 

 もしかしたら皆で寝るのかなぁとか、エルミスのお風呂シーン……つまりラッキースケベが発動することを期待をした自分がいなかったかというと若干の怪しさは残るが……。

 

「テンセイ、何ニヤニヤしてるの?」

「うぉっ、ズィー!?」

 

 いつもの妄想グセで如何わしいピンク色に脳内が染まっていた俺は、真横にいたズィーに気がつかなかった。

 

「そんなに驚かなくても……。融合炉の状態を見るからちょっと胸を見せて」

「あ、あぁ」

 

 平静を装いシャツを捲り上げると、くすぐったい感触が胸元をなぞる。

 

 はたから見たら抱き合ってるようにも見えなくもない距離間で、ズィーは何やらブツブツと詠唱のようなものを呟きながら触診を始めた。

 

 彼女はこの姿のまま寝ているのだろうか? 白衣を脱いでいるズィーの黒いタイトなシャツが、女性らしいシルエットを生々しく形取っていて妙に色っぽい。エルミスほどではないが、くっきりと浮き出たそのラインが俺の脈拍を加速させていく。

 

(近いな……)

 

 ここ数日で彼女との距離感もだいぶ縮まった気がする。

 

「うん異常なし。いい感じに稼働してる」

「うっし、じゃあ早速朝練やりますか!」

 

「復習からやる?」

「そうだなぁ。今日はそもそも、なんで俺が花を咲かせてしまうかしっかり教えてほしいんだけど」

 

「花……っ、そうだね。そろそろ魔力の扱いと魔素にも慣れてきたと思うし次のステップかな」

 

 一瞬口元をニヤつかせるも、すぐにキュッと唇を絞りコクリと頷いたズィー。

 

 彼女が起動(ドライヴ)と小さく呟くと、目の前にホログラムのようなウィンドウが現れた。

 

 その画面上には人の模型のような図と七色の粒が表示されており、ズィーの指先に合わせて赤い粒がスーッと移動していく。

 

「火の魔術を使いたい場合は ────」

「大気中から火の魔素を多く取り込む必要がある、だよな?」

「うん」

 

 一煉出力の魔術は七つの属性に分類でき、それぞれの属性に合わせて適切な魔素を取り込んで使う必要がある。

 火の魔術であれば少なくとも火の魔素が、繋いだ箇所にある魔素の過半数量を超えていなければ火属性としての効果は発現しないのだそうだ。

 

「テンセイの場合は色んな魔素が混ざっちゃって、一番多かった草属性をベースとした効果が発現した感じ」

「なるほど。頭の中では火球をイメージしてたのに、魔素の割合の方が重要なんだな」

「もちろん。魔素の量を調整することが魔術の基礎であり、全てと言っても過言ではない」

 

 魔素の量……ねぇ。

 

 そうは言われても、大気中にわんさか浮かんでいる粒達は勝手に身体に引っ付いてくる。それを調整するなんて、できるのか?

 

「でもあんな無数に漂ってる粒から同じ種類の物だけ取り込むなんて無理じゃね?」

「だから今日は基本技術の一つ、フィルタリングを教える」

「フィルタリング?」

 

 うん。と頷いたズィーが、ホログラムを指先で拡大する。

 

 するとどうだろう。今まで丸い粒にしか見えていなかった魔素が、拡大することで様々な形状をしていることが理解できた。

 

 火は歪な五角形、水は水滴状で、草は蔦の絡まった球、土はゴツゴツした台形になっていて、風は竜巻……光は星。闇にいたってはとげとげしたウィルスみたいだ。

 

 そんな魔素の粒子に、ホログラムの中で網のようなものが覆い被さった。

 

「こんな感じで魔力をコントロールして特定の形状だけを通すようにフィルターを作るの。みてて」

 

 回路を接続するように言われ、魔素が見える状態にした俺の前にスッと腕を突き出すズィー。その細く白い腕の周りには既に七色の粒がついていた。

 

組み込み(エンベッド)

 

 そう彼女が呟いた瞬間、赤い粒が多めに腕の中へ吸い込まれていく。

 

「おぉすげぇ」

 

「火の魔素は五角形をしているから、魔力の網目を五角形にする感じ。高い煉度の魔術はこの網を何層も色々な形に変えてやるんだけど、一煉出力(シングルアウト)

ならフィルターは一層でいいかな」

「ほぅほぅ」

 

「ここ数日、魔力コントロールだけを練習していたのはそれが理由」

「そういうことか」

 

「じゃ、やってみて。網目を意識ね」

 

 フワフワと浮かぶ魔素を掬うためための網か……まるで漁だな。

 

 目を瞑り五角形の光の線をイメージする。

 

 そしてそれを胸から溢れ出す『魔力』を使って写像のように形どらせると、俺はその網を腕の先へと張り巡らせた。

 

 ここ数日はこの不思議オーラ、『魔力』の扱いについてズィーから指導を受けていた俺。『魔力』とは念じることで形状を弄れる流体のようなもので、頭の中で粘土を捏ねるような感覚で操ることができた。

 

 練習の成果もあってか、五角形の網作りは思ったよりも上手くできた気がする。

 

組み込み(エンベッド)

 

 唱えた詠唱に心無しか赤い粒が多く吸い込まれたのではないだろうか?

 

「いい感じ」

 

 少しだけ口元を緩ませたズィーの頷きに生まれた自信。そんな自信に背中を押された俺は、残りの詠唱を続けた。

 

繋ぐは指先(トランス)

 

 次は『魔力』を血流のように変え、組み込んだ魔素を指先へ押し込むように念じる。

 

一煉出力:火球(シングルアウト)

 

 最後に魔素を脳内で描いたイメージへと変換させて……。ここはいまいちピンとこないステップなのだが、ぎゅぅっと魔力で魔素を圧縮するような感覚で脳内のイメージをそこに練り込むと効果が発現するというのは教えてもらった。

 

 そして今回思い浮かべるのは火球。ファイアーボールだ。

 

「 ──── 起動(ドライヴ)!!」

 

 瞬間。昨日までは聞こえなかったチリチリとした音が聞こえた。みると焚火(たきび)の火種よりもなお小さい赤橙色の丸い粒が、人差し指の先でふるふると震えていた。

 

「おめでとう」

「で、できた!? うぉおおお、やった!!」

 

 溢れ出す歓喜の気持ちが自然とガッツポーズを生み、横にいたズィーもクイっと親指を立ててくれる。

 

「あとはこれを十回中、十回できるようになるまで練習」

「えっと。こんなに小さくてもいいの?」

 

「うん。テンセイは熱の心配がないから増幅器次第でどうとでも……ってまぁこれはまた後で教えてあげる。まずは安定して出せるようになるのが大事」

 

「うっす、師匠!!」

 

 初めての魔術の成功にテンションの上がった俺は、それから一心不乱に腕を振り続けた。

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