凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~   作:三軒となり

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第28話 開拓者登用試験

 

 その日、リンドールの街は騒がしさで溢れていた。

 

 大通りに面した広場。その三方を背の高い建物に囲われた石畳の上には、歩く隙間もないほどの人だかりができており。すれ違う人々の顔は、皆どこかソワソワと落ち着かない様子をみせている。

 

 建ち並ぶ露店の店主は今が稼ぎ時と声を張り上げ、道ゆく行商人も広場の前で足を止めては客を捕まえて商品を売り込んでいた。

 

「すごい人ですね」

「試験の日はいつもこんな感じ」

「じゃあ俺は受付してくるから、エルミスとズィーはここで待っててよ」

 

 開拓者ギルドへ続く大階段の下で二人と別れ、受付カウンターへと向かう俺。

 

 石階段を上りながら見つめる右手には、ズィーに貰った漆黒のガントレットが艶の無いぼやけた光を反射しており、周りの喧騒など気にするなと無機質な自信を芽生えさせてくれていた。

 

「大丈夫、やれる」

 

 あれから俺は最後の追い込み修行を経て、なんとか五割程の確率で一煉出力(シングルアウト)の火球が出せるようになった。

 

 二回に一回出るのであれば、あとはコイツで増幅させれば合格できる。そう背中を押してくれたズィー。

 彼女に聞いた話によると、登用試験の内容は試験官の前で神律……もしくは魔術を披露するだけらしい。そしてそれが中級の蝕魅(エクリプス)を倒せるものだと判断されれば合格になる。というかなりシンプルなものだった。

 

 もっとこう組手や模擬戦闘のように総合的な力を測られるものとばかり思っていたのだが……。

 

 そういった経験値は実戦でのみ鍛えられるもの、開拓者になってから下級蝕魅(エクリプス)との戦いを通じて成長すれば良い。という考え方らしい。

 それより何より害獣駆除や素材集めといった雑務に近い依頼が多すぎて、猫の手も借りたいというのが開拓者の実情らしかった。

 

 ちなみに技のお披露目チャンスは基本的に二回。その二回中一回でも火球を成功させることができれば、魔力が無尽蔵な俺は増幅で何倍にも出力を跳ね上げられるため間違いなく合格に至るというわけだ。

 

 50%のチャンスが二回、つまり合格率は75%。

 

「うん。いけるな。あとはまぁ……ライバルチェックでもしておきますか」

 

 皮算用によって変な自信が湧いてきた俺は、すれ違う受験者達をチラチラと吟味するように歩みを進めた。あわよくば転移者の人と仲良くなれたりして ──── って。ん?

 

 ん? んん? んんん?

 

 するとどうだろう……。

 

 視界に入って来たのは、ちゃぶ台を抱えた昭和臭を感じるオヤジに……。1/1スケールの特大美少女フュギュアを担いだマッチョ……。地面にしゃがんでいる眼鏡の痩せこけた男は膝の上でトレーディングカードのようなものを広げていて……。

 

 なんか色物が多いな……。なんでそれ持ってきたのこの人達。

 

「おぉ、あの子はまともっぽい」

 

 見上げた先、ギルドの入り口では学生服を着た坊主頭の少年が竹刀で素振りをしていた。まさに現代からやってきた剣士、剣術系の神律が付与されていたらかなり強そうである。

 

 それからギルドの両扉を(くぐ)ると、受付カウンター前のエントランスにも様々な転移者達がごったがえしていた。

 

 ギター、信号機、ガンプラ、コントローラー、サバイバルナイフ、リコーダー、あれは……パチンコ台か? スタンガンに、手錠だよな……? 消火器と、六法全書?! っておいおい、なんでこんなとこにア〇ファードが止まってんのよ……、まぁ車を持ってくるのは良い発想だけどさ。

 

 刀や包丁、斧といった真っ当な武器を持った連中ももちろんいる。だがそれ以上に目につくのは、あまりにも異質なものを持ってきている転移者達だった。

 

「おっ、完全耐性のお兄さんじゃん」

「どうも」

 

 ゆるりと進んでいた行列の先頭までたどり着くと、受付嬢のフィオナさんが軽く手を上げてウィンクしてくれた。先日とは異なり、彼女の横には同じディアンドル調の制服を着たギルドの女の人が5人体制で書類をテキパキと捌いている。

 

「えーっと。はい、お兄さんは175番ね」

 

 フィオナさんから紙を受け取ると、そこには三桁の数字が書かれていた。

 

「へぇ。受験者ってこんなにいるんですね」

「開拓者は転移者にも人気の職なのよ。アニメやゲーム? とかの影響って誰かが言ってたけど」

 

 まぁほとんど使い物にならないらしいんだけどねー、っと揶揄うような笑みを見せるフィオナさん。

 

 少し話を聞いてみると、その殆どが蝕魅(エクリプス)と対峙した後、余りの恐怖ですぐに開拓者を辞めてしまうらしい。どうやらズィーの言っていた『開拓者になってからそのあたりは鍛えれば良い』というのは地球人には通用しない話のようだ。

 

 まぁ仕方ないよなぁ。

 

「基本。皆、平和ボケしてますからね」

「だから最近は転移者の試験基準をちょっと厳しくしてる試験官もいるみたい。人となりを見てるっていうか、覚悟みたいなものをね」

 

「それは……俺の時にはあまり当たりたくないですね」

「あはは。そう? あなたは結構良い顔してるから大丈夫だと思うけど」

 

 再度飛んできた社交辞令のウィンクは、形式的な軽いお辞儀で迎えておく。

 

「でもまぁ。開拓者への依頼って別に蝕魅(エクリプス)討伐や結界展開だけじゃなくて、アイテムの採集とかもあるからさ。あたしはいいと思うんだけどなぁ、常に人手は足りないし」

「やっぱりそうなんですね」

 

「うん。ほら、転移者がいっぱい来ちゃったから田畑や牧場なんかも急ピッチで増やしてるし、問題も山積みなのよ」

「あー……。なんかすみません。侵略者みたいで……」

 

 俺が言ったところでどうこうなる話でもないのだが、居た堪れない気持ちでつい謝ってしまった。

 

「あははっ気にしないでいいわよ。確かに疎んでる人たちもいるらしいけどさぁ、開拓者の数が増えるならギルドとしてはありがたいのよ。それに、危険な依頼で死んだら死んだで数が減るからどう転んでも嬉しいし、転移者には開拓者になることを殆どの国が勧めてるわ」

 

 えっ……。この人、いまさらっと恐ろしいことを言わなかった?

 

 面食らった俺に、フィオナさんは薄っすらと笑みを浮かべる。

 

「なーんちゃって。深度が1とか2の内地の依頼は全然安全よ? 牧場の柵に引っかかったマルメットボアを取ってくれとか、ポーション用の薬草を集めてくれとかね」

 

 ふぅ。それはよかった。

 

 いきなり蝕魅(エクリプス)との戦闘は辛いと思っていたし、しばらくは薬草集めで金稼ぎするとしよう。魔術が使えるようになってから、それを試してみたい欲もでてきていたが、やはりあのナイトウルフやゴブリンジェネラルなんかを相手できる気はしない。

 

「なるほど、俺は身の丈にあった開拓者生活を送ります」

「ふふっ。じゃあ、頑張ってねお兄さん。この番号だとまだ呼ばれないだろうけど、準備運動は忘れずに」

「はい、ありがとうございます」

 

────

───

──

 

「うぉおおおおおお!!!」

 

 エルミス達の元へ戻ろうと入り口の階段を降りている時に、試験が丁度始まったのだろう。広場の方から、ドッと歓声が沸き上がった。

 

「それまで!! 素晴らしい威力だ、合格」

「すげぇなコイツ、いい神律持ってんぜ」

「後でクランにスカウトするからチェックしとけ」

 

 少し高い位置にあるギルドの入り口からは会場を見下ろせたため、歓声の理由はすぐに理解できた。

 

 広場には白線のような魔術の光で区切られた四角い闘技スペースが幾つも並んでおり、スペースの中央には大きな真っ黒い立方体が置かれていて、それに向かって受験者らしき人達が様々な神律(しんりつ)を放っている。

 

 そのうちの一人、若い男が宙に浮くナイフを飛ばして箱に突き刺さすと、立方体は紫色に変わりそれを見た試験が「合格!」と声をあげていた。

 

 どうやらあの立方体が何か判定装置のようになっているようだ。

 

「うーん、この期は結構当たりかもな」

「かれこれ二十回目くらいか? 転移者の試験は」

 

 どの試験スペースの周りにも人垣ができている。

 

 受験者へ声援を送る仲間グループや、野次を飛ばす武装した開拓者らしき集団。採点結果のようなものを書き留めているピシッとした格好の試験官に、手提げ袋片手に興味本位で覗きに来たのであろう街の人々まで。開拓者登用試験は、まるで祭りのような喧騒を生んでいた。

 

「次、59番!」

 

 フィオナさんに聞いた通り、順番になると番号で呼び出される仕組みらしい。

 

 俺は175番だからまだまだだいぶ先だ。せっかくだしここから他の人たちの試験でも眺めておくとしよう。

 

 あ、エルミス達が居た。

 

 階段下で手を降る彼女達に気づくと、二人とも上へと登ってきて試験会場を眺めるように階段の縁へと腰を下ろした。

 

「へぇここからだと会場全体が見えますね」

「穴場」

 

 右手にエルミス、左手にズィー、まさに両手に花状態で正直ちょっと緊張するというか……いかんいかん試験に集中しろ俺。

 

「次、62番!」

「ようやくワシの出番か」

 

 目の前のスペースでは先ほど見たちゃぶ台を持った転移者が立っていた。昭和の頑固おやじを彷彿とさせるバーコードな頭と、茶色の腹巻きがなんともまたいい味を出してるおじさんだ。

 

「試験官さんや、ワシに何か魔術を撃ってもらえんか?」

「ん?」

「ワシの神律はカウンター型でな、何か攻撃が飛んでこないと使えんのだわ」

「ふむ、では火球を放つから好きに使いなさい」

 

 頷く試験官の前でおやじは担いでいたちゃぶ台を置き、腰を屈める。

 

「神律の適用 - 理不尽の転覆(ジャストパリィ)

 

 そしておやじの詠唱と共に、ちゃぶ台は神々しい光を放った。

 

「さぁ来なされ」

起動(ドライブ)

 

 試験官の掌の先にある赤い点がちりちりと空気を焦がし、バスケットボール程度のサイズになるとその手がおやじに向かって振り下ろされる。

 

 放たれた火球は一直線におやじに向かい、その顔に直撃するかという寸前。彼はちゃぶ台の脚をがっしりと握りしめ ────

 

顕現(アドヴェント)!! どっこい……せぇええや!!」

 

 気合いの入った掛け声と主に、ぶわっとちゃぶ台をひっくり返した。

 

 火球が台にめり込むように歪み、勢いそのままにぐぅっと潰れたかとおもった次の瞬間、その玉は方向を変えて跳ね返った。

 

 もの凄い勢いで直撃した火の球の爆発を受け、立方体が紫に輝く。

 

「もっと強い魔術でもかまわんかったが、まぁこんなもんじゃわ」

「ご、合格だ……」 

 

「すごい」

「今のはパーフェクトパリィ……」

 

 わぁと歓声をあげるエルミスと、何やら今の神律を知っているかのような反応を見せるズィー。

 

「知ってるのズィー?」

「うん。Sランクの開拓者で同じような固有魔術を持ってる人がいる、タイミングさえ合わせればいかなる攻撃もノーダメージで弾き返す……ある意味最強の防御術」

 

「何それチートじゃん」

「ふふっ。本当転移者の人達って面白い」

 

 そこから先も数々の色物達が登場していく試験は見ていて全く飽きなかった。

 

残価設定ローン(ハイリスクローリターン)とかいう意味不明の神律で箱に突っ込んだア◯ファードや、カードのキャラクター達を具現化して攻撃させたカードゲーマー、竹刀を持った学生が箱を真っ二つに叩き切った際には今日一の歓声が湧き上がった。

 

 そしてついに ────

 

「次、175番!」

 

 俺の番が回ってきた。

 

「頑張ってくださいテンセイさん!」

「大丈夫、テンセイならできる」

 

 勝利の女神達の加護を背中に受け、白線を跨ぐ。

 

「準備ができたら、神律で箱を攻撃しなさい」 

「魔術でもいいんですよね?」

 

「ん? もちろん構わないが……君、転移者で魔術が使えるのか?」

「はい」

 

 不思議そうに見つめる試験官。

 もちろん自信を持って首を縦に振る。

 

 見せてやるぜ、この二週間の成果をな。

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