凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~ 作:三軒となり
「可能です」
驚きや動揺、そんなリアクションを多少期待したのだが、それに反したすまし顔が返ってきた。
「な、なら ────」
「ですが現状その宣言は無効になります」
「……所有権の問題か」
コクリと頷く神。
「私は地球の神、ある種地球そのものです。人類にその所有権があると認めてもよいですが、そうした場合の所有者は一人ではありません……。この地球にはまだ三億人の人間が存在していますからね。よって、ルール上私を選択することはできても宣言は無効になります」
「チート対策はバッチリってわけだ」
「ふふっ。残念でしたね」
「神と一緒に異世界を旅する……、なんて憧れだったんだけどな」
「あらあら。ちなみに太陽系の女神達は皆美人ですよ?」
「選択できないのにそれ言う必要ある?」
彼女の手にあるホログラムは数人の女性を映していた。中でもひときわ目を引く存在が一人。漆黒と灼炎……、まるで太陽の黒点を思わせるような揺らめく長髪と、切れ長な瞳の中に燃え盛るようなオレンジを宿した女性だ。
あまりの神々しさに一目で彼女が目の前の女と同類、太陽の神であると理解できた。
「特にこの方は宇宙でも随一の力をお持ちです。まぁだからこそ今回、別の天体を管理することになった訳ですが。どうです? 彼女の選択を検討してみては」
「いやいや……どうやって太陽に触れるんだよ」
「爆発した瞬間に宣言してみるとか?」
「……本気で言ってる?」
「ふふっ。もちろんゴッドジョークです。人の身では触れる前に蒸発するに決まっているでしょう」
誰が笑えるのかその冗談。口に出した瞬間、スッと無表情に戻ったあたり本人も大して面白くなかったのだろう。
「さて。残り時間が少なくなっていますが、まだ転移しなくても大丈夫ですか?」
「…………」
どうする……。
何を持っていくべきなんだ。
既にTVは砂嵐になっており、大多数の人類は転移したと言っているようにも思えた。窓の外を眺めても燦燦《さんさん》と輝く太陽が見えるのみで、道を走る車も、歩いている人間も何一つ動くものは視界に入ってこない。
まるで俺一人だけこの世界に取り残されたような……。
一人だけ……。
そうだ!! あの手があった!!
いやでも……、リスクが高すぎるか?
まだ確証がない。
もし失敗したら……。
「念のためもう一度確認するが、妹は無事なんだな?」
「はい。グロリアスという国に居らっしゃいますので覚えておくと良いかと」
グロリアス……。
その単語を念入りに頭へと刻み込む。
「残り時間は?」
「あと10分と23秒です」
「よし、もう少しだけ詳細を詰めさせてくれ」
────
───
──
神が提示した時間のほぼ全てを、俺はとある確証を得るために使った。
たとえ妄想でも流石にこれは無理があるかと考えるのを止めたシナリオが、たった一つだけあったのだ。
まじで針の穴に糸を通すような選択……。
だがいける。神の言い分ならこれは通る
「さて、持っていくものは決まりましたか?」
「あぁ、俺はアンタを持っていく」
「おや? 先ほども言いましたよね、私は地球の皆様の所有物であると」
「だから俺にもその権利はあるだろ?」
「もちろんありますが、結局一人に絞れないから無効 ──── 」
神の表情が少しだけ歪んだ。
「まさか……」
「そうだ。俺は地球最後の一人になるまで転移しない」
「太陽が爆発したらその瞬間死ぬんですよ?」
「だからチキンレースだな。少々腹を括るのに時間がかかった」
「いや、しかし……」
「残り時間は?」
「三分です。本気ですか?」
「あぁ」
「止めはしませんが……。なるほど、覚悟はお決まりのようですね」
「色々教えてくれて助かったよ」
「いえいえ、他に何かございますか?」
そう。時間はかかったが覚悟は決めた。
あとは最後の一手……。
「アンタは太陽が爆発しても無事なんだよな?」
「それはもちろん、神ですからその程度では死にません」
「そうか……なら」
ポケットからスマホを取り出し女神へ手渡す。
「これは?」
彼女は依然として目を閉じたまま、不思議そうに首を傾げ、指先の上でフワフワとスマホを浮かべた。
「もし俺がチキンレースに失敗したら、妹へ渡してくれないか?」
「ん?」
「メッセージが入ってる。それくらいの願いは聞いてくれてもいいだろ? 八十億分の一を引いたんだし」
頼む……。
「ふむ……。先ほど入力していたのは妹さんへのメッセージですか。まぁいいでしょう情けです。さて、残り一分を切りましたね」
よし……。
準備は整った。
深呼吸をゆっくり一つ。
そして女神の元へ一歩近づき、その肩に手を伸ばす。
「触れても?」
「構いません。紳士なのですね」
「今時、セクハラだとかうるさいもんでな」
「心配せずとも神に人権はありませんよ?」
「ふっ」
彼女の肩に手を置くと、人肌の生暖かく柔らかい感触が伝わってきた。
「こうしてみると殆ど人と変わらないんだな神ってのも」
「神とは生物の信仰心が作りだしたものですからね」
「なるほどな。じゃあいくぞ? 右手で触れているものを選択し、転移する」
「無効です、まだ別の人類が地球上に存在しています」
一分前なのにまだ残ってるやつがいるのか。
とはいえまだ想定内、勝負はここじゃない。
「右手で触れているものを選択し、転移する」
「無効です」
「右手で触れているものを選択し、転移する」
「無効です」
「右手で触れているものを選択し、転移する」
「無効です」
「まだダメか」
残り三十秒弱。
一旦落ち着こう。
「そういえばさっき情けって……、まるで俺が絶対失敗するかのような言い方だったな」
「はい。隠していたわけではありませんが転移を拒んで死ぬつもりの者や、そもそも話を理解していない者達が7l,405,312名います。私の所有権があなたに帰属することは絶対にありません」
「えっ? なんでそれをはや ────」
「あと二十秒ですね。ふふっ。私は別にあなた個人を助けたいわけではありませんので。それに、あなたと同じことを考えている人は世界に500人ほどいますよ? いまも私の分身に触れて宣言を繰り返しています」
今まで通り微笑んだ神。
だが今回はそれが邪悪なものに見えた。
セーフティネットの消滅。
目の前に迫った『死』のプレッシャーに耐えられなかった視界はぐにゃりと歪み、冷や汗がどっと噴き出る。
くそっ……。ここで自信満々に笑ってこそ、俺の思い描く主人公たりえるのに……。
怖い。怖い怖い。怖い怖い怖い。
だけど……、いける。
裏取りはできているんだ。
笑えよ俺。
お得意の他者投影で演じきれ。
最強無敵の主人公を。
「8、7 ────」
「そうだ、ついでにそのスマホで写真でも撮ってくれ」
「この期に及んで何を ────」
「カウントスリーで逝こう」
3、2、1
「ちょっと ──── 」
「じゃっ、あとはよろしく」
ピカッ(パシャッ)
目の前を覆いつくした白い光がカメラのフラッシュなのか、太陽の爆発なのか、それを頭で認識する暇もなく俺の意識はホワイトアウトした。
* * *
星の瞬《まばた》き。
銀河系の遥か彼方の住人がそう表現した宇宙