凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~ 作:三軒となり
開拓者ギルドの中を風が吹き抜ける。
両開きの扉はどこへ消えたか、風通しの良くなった建物内には大通りを走る荷馬車の音が響いている。
様子を見るために扉を潜り、所々が砕けた石階段の上から街を見下ろすと木材を肩に担いだ男達が忙しなく働いていた。
「おーいっ!! こっち、ちょっと手伝ってくれー!!」
「こっちも手一杯だよ、バンゼフの家なんか全壊してんだぞ」
一連の騒動を経て、リンドールの街はその日常を必死に取り戻そうとしていた。
後で聞いた話。どうやら俺はあの後一週間近く目を覚まさなかったらしく、起きた時には街の復興がかなり進んでいて驚いた。
「
「ばか言うな。いまや上位の開拓者はいねぇんだ、木材でなんとかしろ!!」
あの日、一瞬で十数万の命は消え去った。
だがいま悲しみに顔を伏せる者は一人もいない。尊き戦友を失った開拓者も……、最愛の家族を無残に殺された住民も……、皆口を揃えてこう言うのである。
あの人は魔素として世界へ還ったのだと。
天に登ったその魂はまた世界を巡るのだと。
だから残された者は、その行く末を見守るため下を向いてはいけないのだと。
震えた声で、だが決してその瞳から希望を失わさずに。
「強いなぁ……。本当……異世界すげぇや……」
しんみりと息を吐いた俺の視界の端で、黄色い波が揺れていた。
元は街の広場だった場所、開拓者の登用試験中に焼け野原になった大地には花畑ができていた。何千回とみたヒマワリの花畑だ。
エルミスとズィーの提案で修行を行った地下空間に咲いたヒマワリを、避難していた街のみんなで持ってきたのである。
勿論。全然足りなかったため目覚めた俺は連日腕を振り続けた。絶賛今も筋肉痛だ。まぁ勝手の分からない以上、俺にはこれくらいしかできなかったというね……。
「おっ、いたいた!!」
花畑を眺めていると、ギルドの中から陽気な声が聞こえてきた。オレンジ色の髪を揺らしながら駆け寄ってくるディアンドル服の女性、受付嬢のフィオナさんだ。
「はいっFランクの開拓者プレート。個人認証も済んでるわ」
強引に俺の腕を掴み、その上へ鈍色の金属片を置くフィオナさん。
ギルド長であるバートレットさんの計らいで、エルミスと同じ特例付与によって俺は開拓者にしてもらえたらしい。
「これ……本当にいいんですか? 俺は試験に合格してないのに」
「何言ってるのよ、街を救った英雄でしょ? 本当なら七階級特進でSランクでも良と思うけど」
「いやいやいや……流石にあの人達と一緒は……」
首を振った俺の頭の中にあったのは、虹色のおかっぱ頭をした悪魔的な笑いが特徴の少女と……二足歩行する白クマ……。
ポーさんに、ヴォルフォクサーさん。
本当に化け物みたいな人達だった。
ズィーから聞いた話、明らかな致命傷を負っていたにも関わらず一日二日で身体を治した二人は、リーファス共和国の首都へと向かっていったらしい。この騒動について開拓者ギルドの本部へ報告しなければならないそうな。
つまりSランクなんかになんてなってしまったら、死にかけた翌日にも働かされるのである。色々と特典はあるそうだが、正直勘弁願いたい。
「それで君はこれからグロリアスに向かうの?」
神妙な面持ちになっていた俺をみてふふっと笑い、身体を屈ませたフィオナさんが興味深そうに聞いてきた。
「はいっ! 妹を探そうと思います」
そう。色々あったがこの世界に来た時から俺の目的は変わっていない。
生き別れた妹を探すこと。そのために彼女のいる王国とやらを目指さなければならない。ここ、リンドールの街が属するリーファス共和国から、凡そ二つの国を超えた先にあるグロリアス王国とやらへ。
「妹想いの優しいお兄さんだ」
「いやそんな……」
フィオナさんは優しく微笑むと、おもむろに人差し指をピンっと立てた。
「そんなテンセイ君にお姉さんからの耳より情報ぉー!」
「?」
「さっきギルドの総会で今回の転移者の状況整理が終わったって情報共有があったんだけど、ほれ」
すっと差し出された紙には、グロリアス王国で開拓者になった転移者の一覧が乗っていた。
びっしりと書かれた名簿へ目を滑らせていくと、見慣れた名前が目に止まる。
────
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ミナヅキ テンイ
────
────
「えっ、もしかして妹も開拓者に!?」
「ふふっ。グロリアスの開拓者ギルドにいけば間違いなく会えるわね」
妹の名前を見た途端、湧き上がってくる活力。
「ありがとうございます!! フィオナさん!!」
よかった。あいつ、開拓者になってるなんて……。これは早いとこグロリアスに向かわないと。とはいえ、ここから一ヶ月くらいかかるらしいし長い旅になりそうだ。
いや丁度良いか? 妹より開拓者ランクが低かったら兄としてカッコつかないからな。Dランクくらいにはなってから会った方が良い気もしなくはない。
「グロリアスはちょっと遠いけど……、賑やかそうでいいわね」
フィオナさんの視線の先、石階段の下には
目が合うと小さく手を振ってくれるバカデカいハサミを背負った女の子と、無言でこちらを見上げる赤い瞳を持つ人形のような白銀の女の子。
そして……。
「たしかに……じゃあ俺は行きますね。プレート、ありがとうございます」
「うん。開拓者生活楽しんで!! あ、そうそう。門を
「?」
何か意味深な発言を前に眉を顰めるも、上手くはぐらかされてしまった。そんなフィオナさんへ手を振り、階段を降りると一台の馬車が目の前に止まっていた。
「次の町までは、僕が護衛させて頂きます」
手綱を握っていたのは白銀の鎧を身に纏った金髪の王子、リビオニールさんだ。
「ありがとうございます。ポーさんはああ言ってましたけど、護衛費用はちゃんと請求してくださいね」
どうやら次の街までの間には深度が3の危険区域があるらしく、行商や一般人が渡航する際はBランク以上の開拓者の同行が推奨されているらしい。
本来リビオニールさんも重要参考人として本部に呼ばれていたそうなのだが、ポーさんが妹になんかあったら◯すぞと王子様の背中を蹴り飛ばしてこの役に抜擢されてしまったという、なんとも不憫な役回りである。
「ははは、街を救った英雄からお金をもらう訳には行きませんよ。さぁ乗ってください」
荷台へ上がると、既に
「あ、テンセイさん。こちらへどうぞ」
向かって右手側で揺れる薄水色の解けたおさげ髪。俺がこの異世界で初めて出会った女の子、エルミス=メルキュリアがトントンと自分の隣を叩いていて……。
「テンセイ、こっち」
向かって左手側。白銀の髪色が眩しい人形のような女の子、ズィー=パトリガロットがスッと前髪から覗く赤い瞳で自らの隣を指し示している。
「えっと……」
さて……どこに座るのが正解か……。
向けられる二つの無垢な視線を一手に受けて俺は考えを巡らせた。
まぁ? 荷台を覗き込んだ時にその答えは決まっていたのだが。
「「あっ……」」
俺はそのあるべき場所へと腰を下ろした。
このルナヴァリスの世界で、誰よりも俺と共に過ごした彼女の横へ。
「テンセイ……」
ズィーからの鋭い視線が痛い……。
いや、だってさぁ……。
彼女は俺のパートナーだし……。
「テンセイさん……」
エルミスからの視線も痛い……。
「ふむ……」
そう。俺が座ったのは燃え盛るような漆黒の長髪を揺らめかせる女性。果ての銀河に輝く存在……クエーサーと呼ばれる女神の隣だ。
目を覚ました時、何故だか俺と一緒にベッドで寝ていた彼女。聞くところによると、どうやら日中だけはその姿を顕現させることができるらしく、クエーサーはあれから俺達と行動を共にしていたのである。
「て、手強い……」
「最強のライバル登場……」
ぼそぼそと何かを呟きながら、クエーサーに対して不審者でもみるかのような視線を向けるエルミスとズィー。
まぁ無理もない。
目覚めた時、彼女は人間が生まれたままの姿で俺の横に寝ていた。つまり全裸である。全宇宙の神だけあって、その身体もまさにビックバン級で……、いやぁ……あの時の診療所は大変なことになった……。
お見舞いに来たエルミスがパニックを起こし、目をグルグル回しながら神律を適用した瞬間には冷や汗が出たね。
今でこそ全身黒づくめな中二コートを身に着けているが、二人にしてみればまだ全裸で建物の中を歩く変質者にしか見えていないのかもしれない。
──── ガタンッ!!
「うぉっ?!」
「ひゃっ?!」
突如石でも踏んだか、馬車が大きく揺れた。思わず荷台の縁を掴むと、リビオニールさんが微笑みながら肩越しにこちらを覗き見る。
「人気者ですねぇ、テンセイさんは」
「あ、いや……」
最初それは俺とこの三人の関係を
「……ん?」
するとリンドールの外壁門の前に人だかりが出来ているのが見えた。
一人や二人ではない、道の両脇にずらりと。
木材を担ぐ大男に、小さな子供を抱き上げる母親、包帯を巻いた獣人もいれば、通り沿いの店先からはひげ面の爺さんが身を乗り出している。
そしてその誰もが俺達の乗る馬車を見つめていた。
「えっと……なにこ ────」
「英雄達のお通りだああああああああ!!!!」
どこかの屋根上から野太い声が響き ────
大通りが爆発した。
「うぉおおおおおおおおお」
「ありがとぉおおおおおお」
「行ってこい!! 英雄!!」
「グロリアスまで気を付けてなー!!」
「テンセイ!! 妹見つけて来いよー!!」
「エルミスちゃーん!! 俺のクランに入ってくれー!!」
歓声に……止まない拍手……。
大波のような激励の言葉が街中から湧き上がる。
「な、ななな……」
「えー……っと」
あまりの熱量に尻込みしそうになる俺とエルミスの背中を、クエーサーとズィーが面白がるように押して来た。
「余の主となる者、手を振り返すくらいの器量は持て」
「エルミスさんも、胸を張って」
「「いやぁ……ははは……」」
返す言葉に詰まった俺とエルミスの前に一際ガタイの良い男が立っていた。白髭を蓄えたおじさん……開拓者ギルドの長であるバートレットさんだ。
「開拓者ギルド、リンドール支部一同!!」
その掛け声に合わせ、通りにずらりと並んだディアンドル姿の職員達がザッと姿勢を正す。
「この街を救った英雄、テンセイ殿とエルミス殿に心よりの感謝と!!」
「「「世界樹の加護があらんことを」」」
バッと一斉に下がる全員の頭。
「この花畑は貴殿の活躍を称えるその象徴として、我らリンドール支部一同責任をもって管理させて頂く!! いつでもまた、この街に帰ってきてくれ!! 向日葵の英雄よ!!」
その言葉を終いに、全ての住民が口を閉じ静かにこちらを覗き見た。
何か言わなければ……。
そう思ったものの、気の利いた言葉なんて浮かびやしない。
だから俺はただ立ち上がり、揺れる馬車の上で少しだけふらついて ────
深く頭を下げた。
「ありがとうございました!!!!
行ってきまーす!!!!」
「「「行ってらっしゃーい!!!!」」」
「門を開けろー!! 英雄達の旅立ちだあー!!」
天に響く叫び声と共に門が開く。
そしてその上からは、ヒラヒラと向日葵の花びらが降り注いだ。
それはもう、頭に積もるほどの量で……。
「頭上注意ってこれか……」
「ふふっ、似合ってますよテンセイさん」
「うん。英雄っぽい、テンセイ」
「向日葵か……余に相応しい花だ」
一面に広がるヒマワリ畑を、五人を乗せた賑やかな馬車が走る。
世界の端から、世界の中心へ向けて 。
ながいながーい旅が今、始まった。
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第一章 最強を宿す 完
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ここまで読んで頂いた皆様。
本当にありがとうございました。
これにて第一章完結になります。
追放ざまぁや曇らせもなく、冒頭から主人公が無双しないため正直一般受けはしないだろうなぁと思い書いていたのですが、ここまで感想や評価を頂けるとは思っておりませんでした。
本当に嬉しくて、やはりweb小説とは良いものだなぁと実感できました。感謝感激です。
とりあえずはキリの良いこのタイミングで一旦執筆はお休しようかと思っております。
※コンテストに出す用の新作に注力したいというのが理由です。
最後に改めて、ここまで本作を読んでくれた皆様に最大の感謝を。