凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~ 作:三軒となり
それからしばらく森の中を歩いてみたものの、一面のクソ緑が変化する気配は全くと言っていいほど無かった。
ならば退屈だったかというとそうでもなくて……。
「わぁ……可愛いっ」
辺りをキョロキョロと眺め、薄水色の
そんな美少女が隣にいるというだけで、無限に続く森も悪くない気分というか、なんというか。
いやはや……男とは単純な生き物である。
「エルミス、ここ足元気をつけて」
「は、はい。ほっ!」
ポヨンと跳ねる二つのお山。
横たわる木の根に感謝の敬礼を捧げておこう。
それにしても彼女、顔は幼いのに発育が良すぎる……。
それこそアニメやゲームでしかこんな体型の子、ロリ巨乳なんてのは見たことがない。服装は日本の女子高生っぽいというか、マジでエロゲから飛び出してきたのかと突っ込みたくもなるというものだ。
「なぁエルミス。エルミスの見た目って、転移前もそんな感じだった?」
「へっ? あーそういえば……服……? とか全然違いますね、さっきハサミの反射で見た時にびっくりしたんです」
またその表情が一瞬曇った気がしたが、彼女は直ぐにそれを取り繕うような笑顔を見せた。
ん? 服がお気に召さなかった……のか?
似合ってるけどな。
「なるほど。俺も元の時と全然違うんだよね」
「テンセイさんはどんな感じだったんですか?」
上から下まで視線を一往復させたエルミスが興味深そうに聞いてくる。
「んー、冴えない……いや、まぁ普通かな普通の成人男性」
なぜか見栄を張ってしまった。
「そうなんですね。普通……、普通か……」
「どうかした?」
「い、いえっ。良いと思います普通!! テンセイさんとは緊張せず話せるっていうか……思ってた男の人とは違うというか」
「ん?」
「あ、いえっ。何でも……」
それはまるで今まで男性との交流が一切無かったかのような言い方だった。彼女は女子中や女子校にでも通っていたのだろうか?
うーん……。
とはいえ俺も異性との交流が無さすぎて人のことは言えない。妹以外とまともに話たことはないし、下手に踏み込んでキモいとか思われるのも嫌だしなぁ。詮索はほどほどにしておこう。
「…………」
「…………」
となると話題をどうしたものか。
エルミスも顔を伏せ、チラチラとこちらの様子を窺いながら時折唇を震わせている。きっと同じ心境に違いない。
とりあえず言えることとして、この子のキャラメイクガチャは大当たりのレジェンダリー……いや、もはやチート級の見た目である。メインヒロインを余裕ではれるだろう。
対して、俺はコモンのハズレだな……。
てか、ガチャで思い出したぞ。
神は言っていた。選択物に合わせてスキルガチャがあると。
一体、エルミスのハサミにはどんな能力が?
話題に困っていた俺は、そんなふとした疑問を彼女に投げかけてみた。
「そういえばそのハサミさ、使ってみた? スキルとか」
「スキル? ですか?」
「あぁ技みたいな、なんか不思議なことが起こったりしてない?」
「不思議な力……、いえ特に」
「そっか、なんかランクがどうこうって神様が言ってたんだけどなぁ」
「ランク……あっ!! これ、のことかな? 見てください」
ハサミを眺めていた彼女は何かを思い出したようにスカートのポケットから一枚の紙を取り出した。
手帳サイズのその紙には、つらつらと書かれた文字の他、どこかで見たようなウェーブがかった髪の……両目を閉じた女のイラストが載っている。
*****
やったね超大当たり!!
ランク :チート
顕現方法 :下の文を声に出して読んでね☆
①
② 〇〇を選択
③
注意事項:※
*****
「何これ?」
「えっと、目が覚めたらなんかポケットに……」
あの神……、遊びが過ぎやしないか?
まぁでも、能力の使い方を教えてくれるのはありがたいか。ゲーム内転生のように既存知識のある世界じゃないからな、魔法だかスキルだかの仕組みなんてサッパリだし。
それにしても
神の定める法律的な?
あれ? てかこれ、俺の分は?
結局、俺の『剣と魔法』は何になったんだ?
エルミスの紙を見て、俺もポケットを弄ってみたが当然のように何も出てきやしない。
「テンセイさん?」
「あ、いや。多分これがスキルの使い方だね、試しにやってみてよエルミス」
「は、はい。えっと ────
彼女がそう口に出した瞬間。馬鹿でかいハサミに朧げな青い光が灯り。直後、エルミスの足元から吹き上がった風が両サイドの
「ひゃっ!? 光った!?」
「おぉ、異世界味がすごい」
朧げだった光は徐々にハサミの輪郭に沿ってその眩しさを強め、いつのまにかその二枚の刃は神秘的で神々しい青いオーラを放っていた。
驚きたじろぎながら、不安そうな表情をこちらへ向けるエルミス。
「ど、どどどどど ────」
「大丈夫、落ち着いて」
この程度のファンタジーは異世界転生の序の口である。
心配ないと軽く頷いてみせると、彼女はゴクリと生唾を呑みながら首を縦に振り、再度紙へと目線を落とした。
「えっと、この『〇〇を選択』というのは何なのでしょうか?」
「多分ハサミで切るものを選ぶんじゃないかな?」
ハサミ……。それに切断……。
恐らくこの神律とやらは攻撃系のスキルなのだろう。
ん、ちょっと待て!?
よく見たらランクチート!?
名前も運命を断つ鋏ときたもんだ。
ひょっとしてヤバいのでは……!?
「なるほど。木とか切っちゃうと可愛そうですし……、とりあえず
「エルミス、ちょっ、ちょっと待っ ────」
「
そう、彼女が唱えた瞬間。
甲高い金属音が森の中に響いた。
ジャキンッ。とハサミを閉じたかのようなその音と共に、ぬるりとした悪寒を伴う風が頬を撫で木々を揺らす。
そして……。
目の前の世界が真っ二つにズレた。
「ふぇっ!?」
「うぉうぉうぉうぉうおおおお!??」
両手を広げてもまだ足りない太さの大木が、ゆっくりと傾いていく。枝と枝がぶつかり、互いに折れ、バキバキと音を鳴らしながらそれは俺達に迫った。
「危ないっ!!」
「ひゃあっ!!」
咄嗟に彼女へ覆い被さるようにして体を投げ打った俺。そして地面へ倒れ込む衝撃を身体で感じた刹那、ズゥンと鈍い音が足元で響いた。
間一髪で俺とエルミスは倒木の下敷きを回避したようだ。
土埃が巻き上がり、視界に
「けほっ。エルミス、大丈夫?」
むにゅっ。
「ん? むにゅ?」
手探りで彼女を探していた手のひらに伝わる『何か柔らかい』弾力が……。それは微かな熱をもっていて……、ん?
徐々にクリアになっていく視界。
するとどうだろう。エルミスに覆いかぶさるようにして四つん這いになった俺の手は、彼女の盛り上がった双丘を鷲掴みにしていた。
認知と同時に両手が跳ね上がる。
「ご、ごごめん!! ワザとじゃなくて!!」
……反応はない。
や、やらかしたか?
仰向けに地面へと寝そべるエルミスは瞳を伏せ、頬を紅潮させている。そしてそんな彼女に馬乗りになっている俺。
これはマズい……よな?
急いでなんとか……うぉっ!?
立ち上がろうとした足は苔むした土に滑り、俺は再度エルミスに覆い被さるように倒れ込んでしまった。
「っ……!?」
彼女の顔の横で肘をつき、なんとか体の接触は避けたが……。
ち、近い……。
互いの吐息が感じられるほどに顔の近づいた距離で、彼女の瞳が徐々にトロンと虚ろになっていくのが分かった。
荒くなる呼吸。大きく上下するエルミスの胸が、俺の胸元を摩るように刺激してくる。
「はぁ……、はぁ……、テンセイさん、私……」
な、何これ……。
なんてエロゲ?
じゃないっ!! 急いで体制を変えないと、セクハラで懲戒……でもなくてっ!! ほら、彼女の額にはびっしょりと汗が……。
ん? 汗?!
すっと身体を引き、様子を窺うとエルミスはぐったりと顔を横に倒した。
「おいっ!! エルミス!? 大丈夫か!? おいっ!!」
肩を揺さぶるも荒い呼吸が返ってくるのみで、反応が薄い。
急にどうした……まさか……。
ふと脳裏をよぎったのは、先ほどエルミスに見せてもらったあの紙だった。
最初見た時、少しだけあった違和感。彼女のポケットから急いで紙を取り出し、違和感のあった箇所へと目を凝らすと、説明の最後に物凄く小さい文字で注意書きが書かれていた。
*****
注意事項:※
強すぎるから反動が来まーす☆
しばらく体が動かなくなるよ☆
*****
詐欺師の契約書かよ!!
ってか
未知の世界の、未知の森だ、一瞬謎の病原体や毒虫系を疑ったが、どうやら違ったらしい。原因さえわかれば一安心……なのか?
しばらくってのがどれくらいか分からない以上、とりあえず彼女を安静にできる場所で休ませないとだよな……。
「テンセイさん……私、身体が変で……」
「良かった、意識はまだあったか。大丈夫、この紙に神律の反動だって書いてあるから、しばらくすれば良くなると思うよ」
「そうですか……てっきりもう……。やっぱりテンセイさんが居てくれて……よかっ……」
「何言って、おいっ!!」
すっと俺の手を握ってきた彼女の手にまで広がる大量の汗。まるで熱中症のような……。
「ちょっと待ってな。何か冷やせるものは……そうだ、さっきの池」
幸い彼女は軽く、俺一人でも難なく持ち上げることができた。
「よっと……ん?」
エルミスを背負いあげ身体を起こした時、視界の隅に違和感を覚える。
景色の一部が欠けていて……。そこにあった一面のクソ緑がべつの何かに……。
「まじかよ……」
そんな違和感の方へ身体を向けて、俺は絶句した。
彼女が先ほどハサミをかざしたその方向。聳え立つ木々はなぎ倒され、地平線の遥か先まで広がる青い空が見えていたのだ。
まるでその直線上だけ、何か人智を超えた力で世界が切り取られたかのような。彼方へと開けた視界に恐怖すらも覚える。
いったいこのハサミはどれほどの……。
「……すぅ、……すぅ」
そんな世界を切り取った当事者は俺の肩へ項垂れ、気持ち良さそうに寝息を立てていた。