凡人、異世界を開拓す。~こういうのって地味なスキルが実は最強でしたって展開で合ってますよね?~   作:三軒となり

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第07話 世界の名はルナヴァリス

 

 岩肌を撫でるように流れる水は透き通り、底に沈む砂利や苔むした石の輪郭までもがはっきりと見えていた。流れに触れた光は細かく砕け、きらきらとした魔法の粉のように水面を舞っている。

 

 白クマと、虹色髪の子供と、エルミスを背負った俺の四人は森の中……、池から続く清流を沿うように進んでいた。

 

「くひひっ、その嬢ちゃん熱暴走(オーバーヒート)してるなぁ」

 

 トコトコと歩きながら振り向いた動きに合わせ、レインボーおかっぱっ子の纏う深緑のローブが翻る。

 

 覗いた白いブラウスに、サスペンダーで吊り上げられた黒い短パンはどこか小学生のような幼さを感じさせた。

 

 そんな子供の口から発せられた熱暴走(オーバーヒート)という言葉は、俺の知る限り人に使うようなものではない……。

 

「オーバーヒート?」

「力の使いすぎだ。なんかしたのか?」

「力……。彼女、このハサミで森を切ったらこうなっちゃって」

 

「うへっ!? もしかしてあれ、その嬢ちゃんが!?」

「なに!?」

 

 虹色髪の下、くわっと見開らかれたライトブルーの瞳の横で、先頭を歩いていた白クマも驚きの表情を見せながら振り返った。

 

 頭部と胸部を守る漆黒の鎧を着た二足歩行する白クマだ。

 

 鎧は金色の装飾で縁取られており、その下にモフモフと茂る野性味に相反(あいはん)して、高貴な雰囲気を醸し出している。

 

「アークジェネラル級の仕業かと身構えたが……にわかには信じられん」

「くふふっ、確かに。もし本当ならウチらのSランクプレートはこいつ等に渡した方が良さそうだぜぃ、なぁヴォルフォクサー」

 

 互いに目配せをする二人。

 

「あの、えっと?」

「あぁすまない。君達は転移者だろう?」

 

 白クマがエルミスのハサミを指差し、虹色髪の子供がくふっと笑う。

 

「そんな武器みたことねぇもんなぁ。つかまだ来てんのかよぉ転移者、例の騒動からかれこれ三樹節(じゅせつ)くらい経ってんだろ」

 

「俺らの他にも転移者に会ったことがあるんですか?」 

「くひひっ。そりゃぁもう、うじゃうじゃ居るぜぇ? 街の職業斡旋所にゃ連日ごった返してるさ」

 

 もうお手上げ、といった様子で両手を上げるレインボーおかっぱっ子。

 

 どうやら話によると、転移者と呼ばれる存在がこの世界に現れ始めたのは三樹節(じゅせつ)……、だいたい地球で言うところの三ヶ月くらい前のことらしい。

 

 てっきり全員同時に転移したものだと思っていたため、予想外すぎて「へぇ」っと声を上げることしかできなかった。

 

 そんな俺を見て、白クマが眉を顰める。

 

「その様子だと何も知らない感じだな」

「まぁ……はい。俺達はついさっき転移してきたんです」

「なるほど丁度良い、まだ町まで距離がある。少しこの世界について教えておくとしようか」

 

 白クマと眼鏡っ子は同時に足を止めると、軽い沈黙を挟み手を差し出した。

 

「君、名前は? ワタシはヴォルフォクサー、ホワイトベアー種の槍術士だ」

 

 ホワイトベアー種? まんまである。

 まさか白クマと握手することになるとは。

 

 あ、プニプニの……肉球がやわらかぁい。

 

「俺は水無月 天成(テンセイ)。背中の彼女はエルミスです」

「テンセイ……、良い名だ。かの【勇者】も確かテンセイ者と名乗ったらしい」

 

「ありゃぁ、生まれ変わりの転生だろぃ」

 

 白クマ、ヴォルフォクサーさんにビシィっと突っ込みを入れた虹色髪の子供のチョップがそのままこちらへと向いた。

 

「あーしはポー。ポー=パトリガロット、見てのとおりフェアリー種の魔術師さ」

「フェアリー種?」

 

 パッとみ性別の分からないシルエットは置いておいて。フェアリー? 妖精か? なるほど、だから中性っぽい見た目ということ? 手のサイズも俺の半分ほどしかなく、本当に小学生みたいなサイズ感だが……大人なのだろうか?

 

「転移者は知らねーか。フェアリー種ってのは、あーしみたいな小柄な女性ばっかりの種族さ」

「あ、女性だったんですね」

 

「くひひっ。テンセイよぉ。てめぇ殺されて―か?」

「はっ!? いや、違っ」

 

 クルクルと振り回された杖。

 

 明らかに本来の用途とは異なる使い方がなされようとしているそれを、ヴォルフォクサーさんの手が遮る。

 

「やめとけ。ワタシもポーと出会った時、最初は男だと思ったものだぞ? スカートでも履いたらどうだ」

「ちっ。ありゃぁダメだ、スース―するのが慣れねぇ」

 

 互いに叩く軽口に、信頼関係が見て取れる二人は軽く笑みを溢すと、また川沿いを歩き始めた。

 

 ときおり水面を跳ねる小さな魚影に舌なめずりをしているあたり、ヴォルフォクサーさんの言ったホワイトベアー種というのは、俺の知っている白クマでよさそうだ。

 

 ん? あ、あれ?

 

「てか、色々と説明してもらえるんじゃ?」

 

 互いに名乗っただけかよ。と眉を寄せてみたが、二人は一切振り返らずにヒラヒラと片手を上げるだけだった。

 

「くふふっ。まぁ落ち着きなって」

「もう少しで丁度良い場所に出る、そこで話そう。こちらだ」

 

 そういってヴォルフォクサーさんはすっと川沿いから逸れた。

 

 また深い森か。と気分を落とした俺の予想に反し、その先の木々の密度は薄く、隙間の向こうからはこれまでとは違う質の光が滲みでている。どうやらここが森の終わりのようだった。

 

 ヴォルフォクサーさんが最後の茂みを押し分け一歩を踏み出し、後に続くポーさん、遅れて俺が枝をかき分けた瞬間。視界は一気に開けた。

 

「うぉお……すごっ」

 

 もし、これがオープンワールドのゲームだったら、きっとここでタイトルコールが入ったに違いない。

 

 森の縁。そこは高い断崖になっており、見下ろす先には息を飲む景色が広がっていた。

 

「ようこそ、ルナヴァリスへ」

「くひひっ、バカでけぇだろぉ?」

 

 水平線まで続く大海原、ただその上空は空ではなかった。

 

 澄んだ空色を侵食するかのように浮かぶ、途方もなくでかい大地。それはまるで世界が二層構造にできているかのように圧倒的なサイズで……。

 

 雲海を踏み台にしながら悠然と漂い、淵からは無数の滝が霧のように降り注いでいる。重力すらも嘲笑うかのようなその姿は、空に浮かぶ大陸としか言いようがなかった。

 

「あれはマクバロイ連邦、ワタシ達が所属するリーファス共和国の隣国だ」

「大陸まるごと一個浮かしてるからなぁ、とんでもねぇ量の浮遊石をもってんのさ、あいつら」

 

「は、はは……。すげぇ、すげぇすげぇすげぇ!! 異世界やべぇ」

 

 物理法則なんてクソくらえ。それが美しかったら、面白そうだったら、心をワクワクさせればそれでいいんだと世界が言っている気がした。

 

 これが異世界。オタクじゃなくとも心奪われてしまうだろう……。大冒険の予感がした。きっと俺の異世界人生は今、この瞬間から始まったに違いない。

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