魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase2-7 新聞の発行

『新聞』を発行するのだ――。

 

アインズの発した言葉が、アルベドの脳内に染み込むことなく通り過ぎていく。

(アインズ様のお言葉に理解が追いつかないことが多くなってきた……)

すべての記憶をどれだけ高速に照会しても、『しんぶん』とは何かがわからない。

(このところ、アインズ様に質問をしてばかり。宰相がこんなことでいいの? いいえ、いいわけがないわ。でも……)

逡巡したアルベドだったが、背筋を伸ばし、勢いよく腰を90度に曲げて口を開いた。

「アインズ様、申しわけありません! 『しんぶん』とはなんでしょうか。この無知な私に、どうかお教えください!」

慌ててアインズが両手をアルベドに差し伸べる。

「いやいや待て、アルベド。詫びる必要はない。知らなくて当然だ」

アルベドが顔を上げてくれたのを見てアインズが続ける。

「説明しよう」

 

――アインズが『新聞』の概要を説明する。

 

「――補足するとだな、ニュースだけでなく、4コマ漫画や人生相談など、親しみやすい記事も載せたいと考えている」

アルベドの表情が輝く。

「流石はアインズ様! 一見すると無害な娯楽を与えて思考を麻痺させ、その裏で我が国の都合の良い情報だけを刷り込む――精神的な奴隷化計画ですね?!」

(あ、やっぱそっちにいく? 絶対誤解すると思ったけど……)

 

「そうではない。情報統制をしてはならんのだ」

アインズの威厳のある声が響いた。

「統制……しない?」

「国民には『言論の自由』を与える」

「言論の……自由?」

「そうだ。魔導国や私に対する批判記事を書くことを許そう」

「アインズ様をご批判するなど! そのような記事を書く者は、即刻処分いたします!」

(うん、予想通りの反応)

「アルベドよ」アインズの声が一段低くなる。

「私や、我が国を称賛するだけの記事などいらん。太鼓持ちなど不要なのだ。お前は私のことを『おだてりゃ木に登る豚』だと思うのか?」

「アインズ様が豚などと、万死に値する侮辱です! アインズ様は至高のお方であり、最後までこの地に残ってくださった尊き――」

アインズが右手を軽く上げ、アルベドの言葉を制止する。

「良いか。国民が魔導国の政治をどう思っているか、批判であっても隠さず載せよ」

そして声高に言った。

「我が名、アインズ・ウール・ゴウンの名にかけて、国民全員に『言論の自由』を与える。反論は許さん」

「……かしこまりました」

頭を下げたアルベドの肩がかすかに震えていた。

(納得してないよなぁ、きっと……。後でデミウルゴスに変な相談をしなければいいんだけど……)

 

「次の話だ」

「はっ」

「官房長官を誰にするか、だが……」

アルベドの瞳が揺れたのを見たアインズが慌てて言葉をつなぐ。

「要するにだな、スポークスマンを誰にするか、ということだ」

「スポークスマンの役割とは……?」

「近々、エンを発行することになる」

アルベドの眼が金色に光る。

「銀行を設立しただけでは誰もエンとの交換に来ない――エンが発行されることを愚民どもに広く伝える役割ですね?」

(愚民って呼ぶのやめよーよ)

「まあ、そういうことだ。今後、スポークスマンは、魔導国としての決定事項、国民への通達事項など、国民に知らせるべきことを伝える役割を担うことになる」

「どのように国民に伝えるのでしょうか」

「記者会見を開き、記者たち――新聞の記事を書く者たち――に情報を与えてやるのだ」

「それでしたら、私が適任かと」

(いや怖い。絶対情報操作するだろ)

「アルベドは宰相だ。時にはお前が直接会見することもあるだろうが。別の者が良いだろうな」

アルベドは脳内のスライドプロジェクターに、ナザリック全員の顔を高速切り替えしながら思考した。その間、0.1秒。

「デミウルゴスが適任ではないでしょうか」

(そうなるよねー。でも世論誘導するに決まってんじゃん? <支配の呪言>使うじゃん?)

「デミウルゴスが毎日記者会見するのは無理なのではないか?」

「しかし、そうなると、他に適任者が見当たりませんが……」

「ふむ」

(あ……もしかして……あいつしかいないかも……。でも踏ん切りつかないなー)

アインズの沈黙が長くなる。

「アインズ様?」

意を決したアインズが静かに告げた。

「パンドラズ・アクターにしよう」

「パあぁぁンドラズ、アクタああぁーっ?!」

(気持ちわかるよ、痛いほど。想像しただけで気絶しそうだしな、俺が)

 

◇ ◇ ◇

 

「よおおうこそおいでくださいました、私の創造主たるアインズ様!」

カツーン! 踵を合わせる音を響かせ、シャキーンと音が出そうなほど指先をピンと伸ばし――。

「はい、そこまでー」

モモンやアインズに変身して役割をこなすとき以外は、本人の希望によりマジックアイテムに触れる時間を、この宝物殿で持つことができている彼――パンドラズ・アクターは、アインズに「そこまで」と言われ、ピタリと動きを静止した。

 

「さっそくだが、結論から伝えよう」

アインズは一拍置いて告げた。

「パンドラズ・アクターよ、お前に我が国のスポークスマンをやってもらいたい」

「おお! この私に! 偉大なる魔導国のスポークスマンを!」

「やってもらえるな」

「もおぉちろんでございます! 必ずや、アインズ様のご期待にこたえてみせましょう!」

「だからドイツ語風で喋るな」

「はう」

「動くな」

「ふえ」

「じっとしろ」

「はぁ」

動きをとめ沈黙したパンドラズ・アクターは、心なしか残念そうに見えた。卵型の頭部なので表情はわからないが……。

 

アインズがスポークスマンにパンドラズ・アクターを選んだのにはワケがある。

パンドラズ・アクターであれば、アインズが思うジャーナリズムの重要性を、元の世界の知識(メタ的な視点)を含めて理解することができる――そう考えたからだ。自らの黒歴史の結晶とはいえ、知能はナザリック最高峰なのだから。

 

「ところでアインズ様」

「なんだ」

「スポークスマンとは、なんでしょうか」

(わかってなかったんかい!)

 

しかし、パンドラズ・アクターがアインズの考えを理解するのに、時間はかからなかった。

 

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