魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
『新聞』を発行するのだ――。
アインズの発した言葉が、アルベドの脳内に染み込むことなく通り過ぎていく。
(アインズ様のお言葉に理解が追いつかないことが多くなってきた……)
すべての記憶をどれだけ高速に照会しても、『しんぶん』とは何かがわからない。
(このところ、アインズ様に質問をしてばかり。宰相がこんなことでいいの? いいえ、いいわけがないわ。でも……)
逡巡したアルベドだったが、背筋を伸ばし、勢いよく腰を90度に曲げて口を開いた。
「アインズ様、申しわけありません! 『しんぶん』とはなんでしょうか。この無知な私に、どうかお教えください!」
慌ててアインズが両手をアルベドに差し伸べる。
「いやいや待て、アルベド。詫びる必要はない。知らなくて当然だ」
アルベドが顔を上げてくれたのを見てアインズが続ける。
「説明しよう」
――アインズが『新聞』の概要を説明する。
「――補足するとだな、ニュースだけでなく、4コマ漫画や人生相談など、親しみやすい記事も載せたいと考えている」
アルベドの表情が輝く。
「流石はアインズ様! 一見すると無害な娯楽を与えて思考を麻痺させ、その裏で我が国の都合の良い情報だけを刷り込む――精神的な奴隷化計画ですね?!」
(あ、やっぱそっちにいく? 絶対誤解すると思ったけど……)
「そうではない。情報統制をしてはならんのだ」
アインズの威厳のある声が響いた。
「統制……しない?」
「国民には『言論の自由』を与える」
「言論の……自由?」
「そうだ。魔導国や私に対する批判記事を書くことを許そう」
「アインズ様をご批判するなど! そのような記事を書く者は、即刻処分いたします!」
(うん、予想通りの反応)
「アルベドよ」アインズの声が一段低くなる。
「私や、我が国を称賛するだけの記事などいらん。太鼓持ちなど不要なのだ。お前は私のことを『おだてりゃ木に登る豚』だと思うのか?」
「アインズ様が豚などと、万死に値する侮辱です! アインズ様は至高のお方であり、最後までこの地に残ってくださった尊き――」
アインズが右手を軽く上げ、アルベドの言葉を制止する。
「良いか。国民が魔導国の政治をどう思っているか、批判であっても隠さず載せよ」
そして声高に言った。
「我が名、アインズ・ウール・ゴウンの名にかけて、国民全員に『言論の自由』を与える。反論は許さん」
「……かしこまりました」
頭を下げたアルベドの肩がかすかに震えていた。
(納得してないよなぁ、きっと……。後でデミウルゴスに変な相談をしなければいいんだけど……)
「次の話だ」
「はっ」
「官房長官を誰にするか、だが……」
アルベドの瞳が揺れたのを見たアインズが慌てて言葉をつなぐ。
「要するにだな、スポークスマンを誰にするか、ということだ」
「スポークスマンの役割とは……?」
「近々、エンを発行することになる」
アルベドの眼が金色に光る。
「銀行を設立しただけでは誰もエンとの交換に来ない――エンが発行されることを愚民どもに広く伝える役割ですね?」
(愚民って呼ぶのやめよーよ)
「まあ、そういうことだ。今後、スポークスマンは、魔導国としての決定事項、国民への通達事項など、国民に知らせるべきことを伝える役割を担うことになる」
「どのように国民に伝えるのでしょうか」
「記者会見を開き、記者たち――新聞の記事を書く者たち――に情報を与えてやるのだ」
「それでしたら、私が適任かと」
(いや怖い。絶対情報操作するだろ)
「アルベドは宰相だ。時にはお前が直接会見することもあるだろうが。別の者が良いだろうな」
アルベドは脳内のスライドプロジェクターに、ナザリック全員の顔を高速切り替えしながら思考した。その間、0.1秒。
「デミウルゴスが適任ではないでしょうか」
(そうなるよねー。でも世論誘導するに決まってんじゃん? <支配の呪言>使うじゃん?)
「デミウルゴスが毎日記者会見するのは無理なのではないか?」
「しかし、そうなると、他に適任者が見当たりませんが……」
「ふむ」
(あ……もしかして……あいつしかいないかも……。でも踏ん切りつかないなー)
アインズの沈黙が長くなる。
「アインズ様?」
意を決したアインズが静かに告げた。
「パンドラズ・アクターにしよう」
「パあぁぁンドラズ、アクタああぁーっ?!」
(気持ちわかるよ、痛いほど。想像しただけで気絶しそうだしな、俺が)
◇ ◇ ◇
「よおおうこそおいでくださいました、私の創造主たるアインズ様!」
カツーン! 踵を合わせる音を響かせ、シャキーンと音が出そうなほど指先をピンと伸ばし――。
「はい、そこまでー」
モモンやアインズに変身して役割をこなすとき以外は、本人の希望によりマジックアイテムに触れる時間を、この宝物殿で持つことができている彼――パンドラズ・アクターは、アインズに「そこまで」と言われ、ピタリと動きを静止した。
「さっそくだが、結論から伝えよう」
アインズは一拍置いて告げた。
「パンドラズ・アクターよ、お前に我が国のスポークスマンをやってもらいたい」
「おお! この私に! 偉大なる魔導国のスポークスマンを!」
「やってもらえるな」
「もおぉちろんでございます! 必ずや、アインズ様のご期待にこたえてみせましょう!」
「だからドイツ語風で喋るな」
「はう」
「動くな」
「ふえ」
「じっとしろ」
「はぁ」
動きをとめ沈黙したパンドラズ・アクターは、心なしか残念そうに見えた。卵型の頭部なので表情はわからないが……。
アインズがスポークスマンにパンドラズ・アクターを選んだのにはワケがある。
パンドラズ・アクターであれば、アインズが思うジャーナリズムの重要性を、元の世界の知識(メタ的な視点)を含めて理解することができる――そう考えたからだ。自らの黒歴史の結晶とはいえ、知能はナザリック最高峰なのだから。
「ところでアインズ様」
「なんだ」
「スポークスマンとは、なんでしょうか」
(わかってなかったんかい!)
しかし、パンドラズ・アクターがアインズの考えを理解するのに、時間はかからなかった。