魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase2-9 エン発行

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いよいよ明日! 新通貨「エン」発行

お財布の準備はよろしいですか?

~ 銀行両替で「魔導国ロゴ入り特製財布」を無料プレゼント ~

 

繰り返し報じてきた魔導国の新通貨「エン」が、いよいよ明日、流通の時を迎える。

お手持ちの金貨・銀貨・銅貨と「エン」との交換は、国内すべての銀行窓口で受け付ける。

 

昨日の定例記者会見では、魔導国スポークスマン、パンドラズ・アクター閣下が、エンの交換に訪れた国民に、魔導国のロゴが美しく刻印された「特製財布」を無料でプレゼントすると発表した。

 

「財布」とは、紙でできた新通貨(紙幣)や硬貨をスマートに収納し、ポケットなどに入れて簡単に持ち運ぶことができる画期的な「携帯用ケース」だ。パンドラズ・アクター閣下は「これさえあれば、重い革袋を持ち歩く必要はありません! 素晴らしい新時代の幕開けです!」と、切れのある華麗なポーズと共にその利便性をアピールした。

 

この特製財布は、明日からの両替時に銀行窓口で受け取ることができるが、数には限りがあるとのこと。手に入れたい方は、明日の朝一番に最寄りの銀行へ足を運ぶのが良さそうだ。

 

(2面:これだけは知っておきたい「エン」の基礎知識と両替レート)

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【挿絵表示】

 

 

◇ ◇ ◇

 

「いよいよ明日だね、エンが発行されるの」

朝食のテーブルに広げられた新聞から顔を上げ、エンリが明るい声を出した。

アインズの計らいにより、カルネ村には毎朝、ゴブリン・ライダーの手によって百部もの新聞が無料で届けられている。文字の読めない村人には、エンリやンフィーレアが読み聞かせるのが最近の習慣になっていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「でもさ……本当にいいのかな。僕、なんだか怖いよ」

朝食後のお茶をすすりながら、ンフィーレアは青い顔で呟いた。

彼の脳裏にあるのは、昨日の夕方にカルネ村を訪れたルプスレギナの、あの不吉な笑顔だ。

 

『アインズ様がねー、ンフィーレアちゃんに「ぼーなす」を出すらしいっすよー!』

 

『ぼーなす』。

聞いたこともない奇妙な響きの言葉だったが、どうやら「特別な褒賞」という意味らしい。

『そんな、とんでもない! 僕は大好きな研究をやらせていただいているだけで、これ以上のお恵みなど!』と必死に辞退したのだが、ルプスレギナは『んっふっふー、楽しみに待っておくっすー』とだけ言い残し、転移魔法で消え去ってしまったのだ。

 

「もらっておけば良いではないか。あのお方からの贈り物を断るなど、それこそ不敬で首が飛びかねんぞ」

「そうだよ! ゴウン様からの贈り物なんだから、ありがたくもらっておこうよ!」

同じテーブルで朝食を摂っていたリィジーとネムが口々に言う。

リィジーは老獪な薬師らしく「タダで大金をくれるはずがない。何か恐ろしい実験をやらされるのでは……」という疑念を瞳の奥に隠していたが、幼いネムは純粋に喜んでいる。

 

「でも、その『ぼーなす』って、いくらくらいなんだろう……」

「そうさな。液状魔力などという、世界の常識を覆す大発明をしたのじゃ。……十万エンは下るまい。金貨一枚分といったところか」

「そ、そんなに?!」

 

カルネ村の暮らしにおいて、金貨など一生に一度見るか見ないかの大金だ。ンフィーレアはそれだけで目眩を覚えた。

「ねえねえ! もしその『ぼーなす』をもらったらさ、みんなで美味しいものを食べにエ・ランテルへ行こうよ!」

「あ、ネムの意見に賛成!」

妹のネムがはしゃぎ、エンリも嬉しそうに頷く。

そんな平和なカルネ村の朝は、翌朝、文字通り「絶叫」によって破られることとなった。

 

◇ ◇ ◇

 

――翌朝。

 

「お待ちどうさまっす! アインズ様からの『ぼーなす』、お届けに参上したっすよー!」

ルプスレギナがテーブルの上にドサリと置いた「それ」を見た瞬間、カルネ村の家屋が震えるほどの絶叫が響き渡った。

「な、ななな、なんですかぁぁぁ、これわぁぁぁーーーっ!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

ンフィーレアとエンリの叫び声は、広場を通り越して村の防壁まで届かんばかりだった。

リィジーは衝撃のあまり白目をむいて固まり、ネムは口をぽかんと開けたまま、石像のように動かなくなっている。

 

テーブルの上に積まれていたのは、見たこともない「紙の束」だった。

しかも、その紙の一枚一枚には、魔導王アインズ・ウール・ゴウンの、恐ろしく精緻な肖像画が印刷されている。

それが、数千枚……?!

「魔導王陛下の顔が描かれた紙」が、山のように積み上がっているのだ。もし一枚でも破いたり汚したりすれば、一族郎党デス・ナイトの餌にされるのではないか――そんな本能的な恐怖が、彼らの背筋を凍らせる。

 

「アインズ様からの伝言っす! 『カルネ村の維持はさぞ大変だろう。役立てて欲しい』とのことっすよー!」

「は、ひ、ふぅ、へ、ほぉ……」

過呼吸で酸欠に陥りかけているンフィーレアに対し、ルプスレギナはサディスティックな愉悦を瞳に宿しながら、さらに追い打ちをかけた。

 

「ンフィーレアちゃん、驚くのはまだ早いっすよ? 他の紙幣も見せるっす。はい、これが五千エン札! 肖像はアルベド様になってるっす!」

「……アルベド様、綺麗……」

「で、こっちの二千エン札は、英雄モモン様!」

「うわあ! モモン様だ! かっこいい! 触ってもいい?!」

ネムが恐る恐るルプスレギナから二千エン札を受け取る。

「あ……お姉ちゃん、この紙、平らじゃないよ? なんだか、ざらざらしてる」

「え? 平らじゃない?」

エンリがネムから紙幣を受け取り、指先でなぞる。

「……本当だ。手触りが場所によって微妙に違う。これ、どうやって作ってるの?」

「ふふん、魔導国の超・国家機密印刷技術っす! ドワーフの職人が作った超極細の金型を、デス・ナイトの怪力でプレスして……あ、これ以上は言えないっす! 国家反逆罪で首が飛ぶっす!」

「デス・ナイトが印刷を……?!」

エンリは、あの巨大な盾を持った死の騎士が、真剣な顔で印刷機をプレスしている光景を想像し、引き攣った笑いを浮かべるしかなかった。

 

「さてさて! 本日のクライマックスっす! 千エン札は誰でしょう?!」

 

アインズ様、アルベド様、モモン様。

魔導国の頂点に立つ存在ばかりだ。となれば、千エン札に描かれているのは誰なのか。

「も、もしかして……元リ・エスティーゼ王国の、ランポッサ三世陛下……?」

「ぶーっ! 大ハズレっす!」

「じゃあ……エ・ランテルの元都市長、パナソレイさん……?」

「全然違うっす! あんなおっさん、紙幣にするわけないっす!」

「わかりません! 教えてください、ルプスレギナさん!」

 

降参したエンリが尋ねると、

「よーく見るっすよ! これっすー!」

ルプスレギナは満面の笑みで、最後の一枚をテーブルに叩きつけた。

 

そこに描かれていたのは――。

「「「…………え?」」」

 

 

【挿絵表示】

 

 

三人の時間が、完全に停止した。

描かれていたのは……どこからどう見ても、今まさに目の前で酸欠になりかけている、若き薬師の姿だった。

 

「ン、ンフィー……?」

「ンフィーレア……!?」

「きゃあああああーーーっ! ンフィーがお札になってるぅぅぅ!」

 

女性陣の絶叫が響き渡る中、ンフィーレア自身は、ただその紙幣を凝視したまま、指一本動かせなくなっていた。

 

その時、ルプスレギナの表情から、いつもの陽気な少女の面影が完全に消失した。

冷酷、残忍で、人間を虫ケラとしか思っていない、ナザリックのプレアデスとしての「本性」が、その美貌に張り付く。

「ンフィーレア。これはアインズ様からあなたへの、最大の『恩賞』であり、同時に『警告』よ」

低く、冷たい声が、ンフィーレアの鼓膜を直接震わせる。

 

「あなたは魔導国にとって、決して失ってはならない『至宝』となった。この紙幣が流通する限り、世界中の人間があなたの顔を知ることになる」

妖艶な唇をンフィーレアの耳元へ寄せる。

「つまり、あなたにはもう、魔導国から逃げる場所なんてどこにもないの。分かったかしら?」

「あ、あ、あ……」

 

それは、名誉という名の「終身刑」の宣告だった。

自分の顔が印刷された紙が、世界中を回り、人々の手から手へと渡っていく。魔導国の支配から逃れることなど、死ぬまで不可能なのだと、アインズは優しく、しかし絶対的な力で告げているのだ。

 

「あ、ありが……とう……ござい……」

そこまで掠れた声で絞り出したンフィーレアは、白目をむいたまま、ぐしゃりと床に崩れ落ちた。

「ふふ。やっぱり気絶しちゃったわね。予想通りの展開っす!」

一瞬にしていつもの「駄犬」のような笑顔に戻ったルプスレギナが、ケラケラと楽しそうに笑い声をあげた。

 

 

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