魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase3-2 アンデッド・マクロ

トブの大森林。ドワーフの工場の外。

木々の葉がざわめく静寂の中、先に現地へ転移していたアインズは、迎えに出てくれたアウラに今回の実験の意図を説明していた。

 

「アインズ様。つまり、こういうことですか? 通常のアンデッドは『近づく者を殺せ』とか『荷物を運べ』といった単純な命令しか実行できない。だから、より複雑な手順を正確に実行させるために、高い知能を持った素材(人間)からアンデッドを創り出す。そしてそのアンデッドに、ドワーフたちの高度な作業を学習させる……」

「その通りだ、アウラ。素晴らしいぞ、実によく理解してくれたな」

アインズが骸骨の指先でアウラの頭を優しく撫でると、彼女は嬉しそうに目を輝かせた。

「えっへっへー、これくらい当然です!」

アウラが鼻の下を指先でこすって照れているところへ、空間が歪み、アルベドが姿を現した。

 

「アインズ様、お待たせいたしました。実験体となる知能犯たちを連れてまいりました」

アルベドの後ろから、デス・ナイトたちに引きずられるようにして、手枷足枷を嵌められた人間たちがぞろぞろと連行されてくる。彼らは恐怖にガタガタと震え、悲痛なうめき声を漏らしていた。

(生きてるのかよ!)

てっきり「死体」が運ばれてくるものとばかり思っていたアインズは、内心で顎の骨が外れそうになるほど驚愕した。

 

「アインズ様? どうかされましたか?」

アルベドが不思議そうに首を傾げる。

「い、いや、なんでもない。アルベド、連行ご苦労だったな」

アインズは威厳に満ちた声で応えつつ、必死に思考を巡らせた。

(あ、焦るな俺。よく考えたら、死んでから時間が経った死体よりも、今ここで「新鮮」な状態でアンデッド化した方が、脳のスペックが劣化しなくて済むかもしれない。うん、「クリーンな環境でのビルド」だ。よし、前向きに考えよう!)

 

アインズは、恐怖に歪む知能犯たちを見下ろし、静かに右手を掲げた。

 

<グラスプ・ハート>

 

アインズが魔法を放つたび、知能犯たちは悲鳴をあげる間もなく、糸の切れた人形のように次々と地面へ崩れ落ちていった。即死。至高の死の支配者による、慈悲深き一瞬の処刑であった。

続けて、アインズは淀みない動作で次の魔法を詠唱する。

 

<中位アンデッド創造>『エルダー・リッチ』

 

転がった死体から、どろりとした黒い粘着性の液体が噴き出し、肉体を侵食していく。やがて、おぞましい魔力を放つ、ローブを纏った骸骨の魔術師――エルダー・リッチたちが、その場に這い上がってきた。

 

「アインズ様、いつ見ても、惚れ惚れするほどお見事な御業にございます」

アルベドが胸の前で手を組み、うっとりとした表情で腰の黒い翼をバサバサと揺らす。

「うむ。まずは最も構造が単純な『魔導ボンベ』の生産から試すとしよう」

「ご案内します、アインズ様!」

アウラが元気よく応え、ドワーフの工場へと先導した。

 

◇ ◇ ◇

 

「ぎょえええええーっ!?」

「な、なな、なんじゃこの化物はぁーっ!?」

「逃げるんじゃ! みんな逃げるんじゃーっ!」

 

エルダー・リッチたちが工場に足を踏み入れた瞬間、作業をしていたドワーフたちが工具を放り出し、蜘蛛の子を散らすように大騒ぎを始めた。

 

「騒々しい、静かにせよ!」

 

漆黒のローブをはためかせ、右腕で空間を水平に切り裂きつつ放ったアインズの一声。

覇王の威圧を孕んだその声に、工場内は一瞬にして水を打ったような静寂に包まれた。

(やった! かつてドワーフの国で言えなかったこのセリフ、やっと完璧なタイミングで言えたぞ! よし、今日の俺は冴えてる! この調子ならPoCも絶対にうまくいくぞ!)

アインズは内心でガッツポーズを決めつつ、冷静さを取り戻したドワーフたちに、今回の実験の趣旨を説明した。

 

しかし、説明を聞いたドワーフたちは、一様に腕を組み、首を傾げている。

 

「そんなにうまくいくかのう?」

「無理じゃないか? ドワーフの繊細な技術を、こんな不気味なアンデッドが真似できるとは思えんぞ」

「そうじゃ、魔法をぶっ放すしか能がない連中じゃろ?」

 

懐疑的な空気が流れる中、ゴンド・ファイアビアドが、一歩前に出て声を張り上げた。

「なあ、お前たち。まずはやってみんか?! やってみないことには、できるかどうかも分からんじゃろ!」

「ゴンドの言う通りだ」

アインズは我が意を得たりと、力強く頷いた。

「そうだ、まずはやってみるのだ! 失敗したならば、どこが悪かったのかを分析し、修正し、また試せばよい。挑戦なきところに、技術の進歩などありはしないのだ!」

アインズの口から飛び出した、前世のビジネス研修で叩き込まれた「PDCAサイクル」の精神。それが、職人気質のドワーフたちの魂に火をつけた。

 

「よっしゃ、そこまで魔導王陛下が仰るなら、やってみるか!」

「できるできる! ドワーフ舐めんなよ!」

「おい、アンデッド! よく見ておれよ!」

 

最初は後ろ向きであっても、一度納得すれば柔軟に考えを変え、前向きに取り組んでくれる。ドワーフたちは、魔導国にとって本当に得難い、優秀なパートナーであった。

 

アインズは、整列したエルダー・リッチたちに向かって、精神支配の術式を組み込んだ命令を下す。

 

「エルダー・リッチよ。今からこのドワーフがやる作業手順を、寸分の狂いもなく正確に記憶し、同じ動作を繰り返せ」

 

――しかし、最初からうまくはいかなかった。

 

エルダー・リッチは手順を飛ばしたり、力加減を誤ってパーツを破壊したりした。

だが、アインズとドワーフたちは諦めなかった。失敗するたびに命令の記述(マクロ)を修正し、動作のタイミングを微調整し、トライ&エラーを繰り返した。

そしてついに――。

 

「やったぞい! 完成じゃ!」

「だからできるって言ったじゃろ!」

「言ったか? お前、さっき無理だって言っとったぞ?」

 

ドワーフたちが歓声を上げる中、エルダー・リッチの前には、完璧に組み上がった魔導ボンベが置かれていた。

 

しかし、本格的なテストとして、魔導ボンベを10本作らせてみたところで、新たな問題が発生した。

「10本中、1本が不良品になるな。エラー率10%か」

 

アインズが呟くと、アルベドが鋭い指摘を口にした。

「アインズ様。他のエルダー・リッチたちにも試させましたが、個体によってエラー率にバラつきがございます。これは、元の素材(人間)の『知能の差』が影響しているのではないでしょうか?」

「そのようだな。元が優秀な詐欺師や錬金術の密造犯だった個体はエラー率が低く、ただのこそ泥や粗暴犯だった個体はエラー率が高い。……なるほど」

(これはつまり、知能犯の死体は高スペックな貴重素材ということか。今後、帝国から引き渡される犯罪者のリストは、知能指数順にソートして管理せねばな……)

 

次に、より複雑な構造を持つ「魔導カメラ」の生産を試したところ、エラー率はさらに跳ね上がった。やはり、処理の複雑度(ステップ数)が増えるほど、バグが発生しやすくなる傾向があるようだ。

 

「アインズ様。もしよろしければ、このエルダー・リッチたちを数体、ワシらに貸してはくれんじゃろか? もっと精度が上がるよう、命令の出し方や作業手順をいろいろと試してみたいんじゃ」

ゴンドが目を輝かせて申し出てきた。

「ゴンドよ、よく言ってくれた! ぜひ頼む。彼らを自由に使い、最適な『マクロ』を構築してくれ」

アインズは快諾した。現場の技術者が自発的に「カイゼン」に取り組んでくれることほど、元サラリーマンとして嬉しいことはない。

 

しかし、翌日――。

 

今回のプロジェクトの「本丸」とも言うべき、ンフィーレアの『液状魔力の精製』をエルダー・リッチに試させたところ、結果は惨憺たるものだった。

エラー率は優に50%を超え、精製された液体はただの濁った魔力水にしかならなかったのだ。

 

「アインズ様、お気になさらないでください! エラー率が高くても、不眠不休で作り続けてくれれば、これまでよりは多くの液状魔力を確保できそうです!」

ンフィーレアは気を遣ってそう言ってくれたが、この問題の根本的な解決――「属人化の排除」には、まだ程遠い状況であった。

 

だが、この時はまだ、誰も知らなかった。

後に起こる「ある事件」によって、この液状魔力の精製自動化が一気に加速することになる、ということを――。

 

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