魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase3-3 ラナーの具申書

「アインズ様。ラナーより、このような具申書が来ております」

アルベドが静かな笑みをたたえながら、一枚の書類をアインズに差し出した。

「ほう。ラナーが……」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

[情報種別: 厳秘]

【閲覧権限】 魔導王陛下 アインズ様、魔導国宰相 アルベド様

【提出者】 魔導国中央銀行総裁 ラナー

 

新通貨「エン」の国外流通、および兌換制度導入に関する具申

 

畏れ多くも、アインズ様が仰せになられた新通貨「エン」について、これを我が魔導国の中だけに留めず、周辺諸国(特にバハルス帝国)へ急速かつ強制的に浸透させ、軍事力を用いることなく経済の鎖で縛り付けるための具体的な策を具申いたします。

 

【1】 諸国が抱くであろう「新通貨」への警戒

 

アインズ様が「エン」を創設されたという情報は、すでに帝国をはじめとする諸国の知るところとなっています。しかし、現時点において彼らは以下のような疑念を抱き、導入を拒もうとするでしょう。

 

「ただの紙切れに、金貨と同等の価値があるはずがない」

「魔導国が自国に有利な経済圏を作り、他国から富を吸い上げるための罠だ」

 

特に、猜疑心の強いバハルス帝国皇帝ジルクニフは、この「エン」を魔導国の新たな侵略兵器と捉え、帝国内での流通を法的に禁止するなどの防衛策を講じてくる可能性が極めて高いと推測されます。

 

【2】 解決策 ― 兌換(だかん)制度という甘い罠

 

そこで、アインズ様、アルベド様におかれましては、新通貨普及のため、以下の「宣言」を世界へ向けて発信していただきたく存じます。

 

「我が魔導国の『エン』は、魔導国中央銀行へ持ち込めば、いつでも記載された額面通りの『純金貨』と引き換える(兌換する)ことを、魔導王の名において永久に保証する」

 

この宣言により、ジルクニフと帝国の官僚たちは以下のように思考を誘導され、自ら罠に飛び込むことになります。

 

【ジルクニフ皇帝の思考予測と誘導プロセス】

 

(1) 警戒から安心への変貌

ジルクニフは「いつでも金貨に替えられるなら、エンは紙切れではなく『金貨の預り証』と同じだ」と判断します。

これにより、彼らが抱いていた「価値への疑念」は消滅します。

 

(2) 利便性の誘惑

実際に貿易が始まれば、重く、輸送に護衛を要する大量の金貨よりも、軽量で保管が容易な「エン紙幣」の方が、商取引において圧倒的に有利であることを帝国の商人たちが理解します。

ジルクニフもまた、国家間の取引にかかるコスト削減のために、エンでの決済を容認せざるを得なくなります。

 

(3) 逃れられぬ依存

ひとたび帝国市場にエンが流通すれば、彼らは「紙幣の便利さ」から二度と抜け出せなくなります。その段階で、我が国が誇る「液状魔力」や各種魔導製品の輸出を開始すれば、彼らはそれらを購入するために、自国の金貨をこぞって我が中央銀行に捧げ、エンを買い求めるようになるでしょう。

 

【3】 結論 ― 軍事なき支配の完成

 

この「兌換制度」は、他国に対しては「誠実で安心な制度」という仮面を被りながら、その実、他国の国庫にある金貨(現物資産)を我が魔導国へと無血で遷すための集金システムです。

 

いずれ帝国は、自国の通貨ではなく「魔導国のエン」がなければ経済が回らない状態、すなわち、首根っこをアインズ様に握られた状態へと陥るでしょう。

 

アインズ様が遥か先を見据えて「エン」という概念をお示しになられた御心、このラナー、微力ながら形にさせていただきました。

御高覧の上、御下命のほどよろしくお願い申しあげます。

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

アインズは、すっと静かに目を閉じた。そして、心の中で静かに魔法を詠唱した。

 

<ツイン・マキシマイズマジック・現実逃避>

 

(ああ、気持ちの良い朝だな……。窓から差し込む柔らかな光が、まぶた――ないが――を優しく撫でていく。空気はほんのりと冷たく、清々しいミントのように胸の奥を満たす。小鳥のさえずりが耳に心地いい。今日も素敵な一日になるといいな……)

 

「……ンズ様? ……アインズ様?」

(ち。現実に引き戻されたか。次はツインではなく、トリプルでかけるべきだな)

「ああ、すまん。少々、思考の海に沈んでいた」

「お疲れのところ、思考のお邪魔をしてしまい、申しわけありません!」

「いや、気にするな、アルベド」

 

アインズは内心で冷や汗を流しながら、手元の具申書に視線を落とした。

(うん。途中からまったく頭に入ってこなかった。そもそも兌換制度ってなに? だかん……羊羹(ようかん)の親戚か? いや、世界史の授業か何かで聞いた気がするが……。だめだ、完全に忘れた)

 

焦燥感が強制的に沈静化され、アインズは再び「冷徹なる絶対支配者」の表情――表情筋はないが――を取り戻した。

 

「ふむ。アルベドよ。お前はこの具申をどう思うのだ」

いつもの「部下に話を振って時間を稼ぐ」というアインズ必殺の防衛魔法である。

 

「はい。特に修正すべき点はないかと存じます。ジルクニフの思考予測も、私の予測と完全に一致しております。ラナーは実に見事に、アインズ様の御深慮を形にしてみせました」

「そうか。ラナーもアルベドも流石だな。実は私もまったく同じ考えだったのだ」

「ありがとうございます! アインズ様のお墨付きをいただけて、ラナーもさぞ喜びましょう。それでは、アインズ様の名において、この兌換制度の宣言を周辺諸国へ発信させていただきます」

「うむ。すべてお前に任せる。頼んだぞ」

「御意に!」

(よーし、乗り切ったー。お疲れ、俺!)

 

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