魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
「アルベド様。ヴァミリネン殿からの至急の言伝をお伝えにまいりました」
アルベドの執務室の扉がノックされ、外からメイドの声が聞こえた。
(ヴァミリネンが? 兌換制度のことかしら……)
ほんの一瞬逡巡したアルベドだったが、すぐに入室を許可する。
「入りなさい」
「失礼いたします」
帝国が我が国に確認したいことは山ほどあるだろう。
しかし、今日このタイミングでの「至急の言伝」に心当たりはなかった。
アルベドが無言で発言を許可したのを見て、メイドが伝える。
「ヴァミリネン殿が、アンデッドの馬車をお借りしたいとのことです」
「アンデッドの馬車を……?」
今日はヴァミリネンに何も伝えていない。なのに、疲労を知らないアンデッドの馬車を借りたいということは、大至急帝国に戻る必要が生じたということ。
(それもかなり切迫した状況にある……)
「理由は?」
「それが……お聞きしたのですが、ジルクニフ皇帝直々の帰還命令だそうで、ヴァミリネン殿も理由を聞かされていない、と……」
(バハルス帝国が何かを企んでいる、ということでしょうね)
「いいわ。許可します。用意して差し上げて」
「はい、それではヴァミリネン殿にお伝えします」
(帝国は早くも貿易戦争における自国の敗北を予期し、なりふり構わぬ防衛策へ舵を切ったというわけね。……ふふ、全てはアインズ様の神算鬼謀の通り。これはデミウルゴスとラナーの耳にも入れておいた方が良さそうね)
◇ ◇ ◇
「いいえ、アルベド様からも、他の守護者の方々からも、一切何も聞いてはおりません」
親書が届いた翌朝、アンデッド馬車で驚異的な速度で帰国したヴァミリネンが答えた。
ヴァミリネンはこの数ヶ月の間で、これが三度目の帰国となる。
これまでの二度と違い、今回は恐怖から解放されているためか、落ち着いた様子で答えた。
「そうか。ではこれを……」
ジルクニフが一枚の書類を差し出す。
「これは……?」
「親書の写しだ」
「親書……もしや、魔導国からの……?」
「そうだ。読んでみろ」
「はっ」
ヴァミリネンの表情が見る見る変わっていく。
「こっ、これはっ?!」
「ああ、感想はいい。もう一度聞く。魔導国から聞いたこと、耳にしたこと、不穏な動き、どんな些細なことでもいい。思い当たる節はないか」
「……何も、ございません」
「陛下、こいつはやっぱりニセモノですよ」
「やはりそうか……」
ジルクニフがバジウッドを見た。そして俯きながら顎に手をやった、その時――。
扉が激しくノックされた。
「陛下! 陛下!」
「ああ、魔法省が報告に来たんでしょう」
「通せ」
「失礼いたします! 陛下、これは本物です!」
鑑定を任された魔法省の鑑定人が、陛下への挨拶も失念し、親書を掲げながらまくし立てた。
「この羊皮紙には、微量ながら負のオーラが付着しています! これまでに届いた本物の親書と完全に一致する波長です! 間違いありません、魔導王自身の魔力です!」
「本物……だと……?」
「優秀な者5名で、徹夜で魔力鑑定を行いました! 一分の狂いもございません!」
その瞬間、ジルクニフの全身から、文字通り全ての力が抜けた。
辛うじて保っていた皇帝としての矜持も、思考能力も、すべてが暗黒の絶望へと叩き落とされる。
崩れ落ちるように椅子に深く体重を預けようとする。しかし、重心を大きく崩したジルクニフの身体は、豪華な肘掛け椅子を巻き添えにして、派手な音を立て、床へと転げ落ちた。