魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase3-7 完了メール

「アインズ様。バハルス帝国から親書が届いております」

「バハルス帝国から? なんだろうな」

「アインズ様にお見せする前に確認しようと思ったのですが、ジルクニフ皇帝の特別な封蝋(ふうろう)がされておりまして、私はまだ中を見ておりません」

「封蝋?」

アインズの手元に届く親書に封蝋がされていたことはなく、すべて事前にアルベドが目を通していた。

 

アルベドは恭しく頭を下げた。

「もちろん、害意ある魔法や毒物の検知は済ませております。ただ、アインズ様が帝国に対して仕掛けられた、私どもには明かされていない『深謀遠慮』の範疇かもしれないと判断し、あえて開封を控えた次第にございます」

(いや、深謀遠慮なんてないからね! 単にジルクニフが厳重に封印しただけだと思うよ?)

 

「ふむ。良い判断だ、アルベド」

「恐れ入ります」

 

アルベドが差し出した封筒には、ジルクニフがいつも指につけている豪華な指輪――その指輪の紋章が封蝋となって形作られていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「パキっ」アインズが封蝋を割って一枚の紙を取り出す。

(……なにこれ……? どゆこと?)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下殿

 

ご用命通り、金貨30万枚の搬入を完了したことを、お知らせいたします。

 

バハルス帝国皇帝 ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

アインズが下顎の骨を「ぱかーん」と開けて沈黙しているのを見て、

「アインズ様? なにが書かれていたのですか?」

アルベドが声をかけた。

アインズは下顎の骨を戻すのも忘れ、親書をアルベドに手渡した。

 

「え?」

アルベドは呆けたように口を少しだけ開けた。

しかしすぐに気を取り直し、冷徹な声で控えていたメイドに命じた。

「ラナーをこれへ。大至急よ」

 

数分後――。

「お呼びでしょうか。アルベド様」

執務室に到着し、跪いたラナーにアルベドが無造作に親書を渡す。

「ジルクニフ皇帝から届いた親書よ」

 

一枚の紙を手渡されたラナーは、その中身を読むと……

「はぇ?」

ラナーらしからぬ、間の抜けた声を上げた。

 

「魔導国中央銀行に、帝国から金貨30万枚が送られてきたのかしら」

「いいえ、アルベド様。そのような入金はございません。金貨30万枚といえば、およそ4.5トンになります。それほどのものが動き、我が国の国庫や銀行に運び込まれれば、すぐに気づきます」

「……そうよね」

 

二人の怪物の脳細胞が、常人には不可能な速度で火花を散らし、同一の結論へと収束していく。

「……ということは……」

アルベドの顔から、温度が完全に消え失せた。

「アインズ様の名を騙り、帝国から大金を毟り取った不届き者がいる……」

「はい。アインズ様の名を語った、国家規模の詐欺行為です」

(え? そゆこと?)

 

「おおお恐れ多くも、アインズ様の名を語り、詐欺を働くとはぁっ!」

アルベドの背後から、メラメラと巨大な黒い影が立ち上った――ように見えた。

いや、見えたのではない。レベル100のステータスから放たれる圧倒的な殺気が、物理的な圧力となって室内の空気を凍らせたのだ。

控えていたメイドたちは「ひっ!」と短く叫び、恐怖のあまり完全に身体を硬直させ、石像のようになった。

 

「アルベド様、ご冷静に」

ラナーの声に、アルベドが辛うじて殺気を収める。

「バハルス帝国がどこへ金貨を搬入したか――が書かれておりません」

「そうね。場所を特定する必要があるわ」

「そして、それをどうやって持ち去るか」

「ええ。4.5トンもの金貨をそう簡単には持ち出せない」

「だからこの時期を狙った……」

「そういうことでしょうね。犯人が兌換制度を知ることとなり、それを利用することを思いついた」

(あ、なるほどー。金貨のままだと重くて運べないから、紙幣に変える気かー)

 

「マネー・ロンダリング、か」

アインズにとっては、単に前世で知った言葉を呟いただけだった。

しかし、その一言に、アルベドとラナーは「ぐるんっ」とアインズに顔を向けた。

「まねー……ろんだりんぐ、ですか?」

ラナーの怪物の脳が、その未知の単語を高速で分解し、再構築する。

(マネー……資金。ロンダリング……洗浄……! なんという本質を射抜いた表現。汚れた犯罪資金を、エン紙幣という『清潔な通貨』に交換することで、出所を洗い流して綺麗に見せる。この事態を、アインズ様は一言で定義してしまわれた……!)

 

「まさかアインズ様は、この事態までをも予測しておられた……?」

目を泳がせながらラナーが尋ねる。

「ん? ま、まあ……そうだな。バハルス帝国はフィッシング詐欺にあった、ということだろう」

(フィッシング……魚釣り? 餌を撒き、獲物が自ら食いつくのを待つ……。相手の心理を釣る悪魔の技法……。まさに今回の手口そのもの!)

尊敬と畏怖の眼差しを向ける二人から目をそらしつつ、アインズは絶対支配者の威厳を持って言った。

 

「アルベド。これは非常に高度な犯罪だ。犯人の思考を読み取る必要があるだろう。デミウルゴスにも支援を仰げ」

「はっ」

「わずかであっても必ず痕跡は残っているはずだ。ドッペルゲンガー、ハンゾウなど、必要な者はすべて使え」

「御意に」

「ラナー。金貨の流れを追え。お前たちの読み通り、犯人はエンに換えることを考えるだろう」

「かしこまりました」

 

しかし、ラナーは考えていた。

(アインズ様のご指示はお見事だわ。でも……)

ドッペルゲンガーやハンゾウのような「表の探索網」だけでは、この狡猾な犯人にたどり着くことはできない。表の目が光れば光るほど、犯人はより深く、裏社会の闇へと潜り込んでいく――。ならば、こちらも「裏の網」を張る必要がある。

(アインズ様が自分にこの任務を与えた意図は、そこにあるはず。アインズ様は私に、アルベド様へ裏組織の投入を提案させ、表裏一体の包囲網を敷くこと――を期待されているのだわ)

 

「アルベド様」

ラナーは跪いたまま、隣に立つ純白の悪魔を見上げた。

「表の探索と並行して、アルベド様が管理されている『裏のネットワーク』の活用をご提案したく存じます。よろしければ、その具体的なプランを、今すぐここでご説明いたしますが……」

アルベドは一瞬、意外そうに目を細めたが、すぐに艶然とした笑みを浮かべた。

「……ええ、聞かせてもらいましょう。アインズ様のご期待に応えるためにもね」

 

(おお! なんか俺の知らないところで、二人がめちゃくちゃ高度な連携を始めようとしてるぞ)

アインズは内心で冷や汗を流しながらも、絶対支配者としての威厳に満ちた笑みを、その骸骨の顔に張り付かせるのだった。

 

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