魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

28 / 28
Phase3-11 魔導王の慈悲

トブの大森林の奥深くに佇むログハウス〈深緑の隠れ家〉。

そこでは、連絡を受けたアインズとアルベドが、静かにその時を待っていた。

転移の直前、シャルティアが「わたくしも連れていってくんなまし!」と上機した表情で騒ぎ立てたが、「またアインズ様の『椅子』になる気ねっ!」と察知したアルベドによって、般若のような形相で却下された。

 

空間がぐにゃりと歪み、漆黒の〈ゲート〉が開く。

現れたのは、ラナー、ヒルマ、ハンゾウ、そして引きずられるようにして連行されてきたアルセン・ルパンティエであった。

 

ルパンティエが顔を上げた瞬間、その目に飛び込んできたのは――世にもおぞましい、死そのものを具現化したかのような魔導王アインズ・ウール・ゴウンの姿だった。

「う、うわあああーっ!?」

あまりの恐怖に、ルパンティエが絶叫を上げる。

 

「――うるさい」

 

氷の刃のようなアルベドの冷徹な一声。

レベル100のステータスから放たれた殺圧は、ルパンティエの精神をたやすく粉砕した。脳の処理許容量(キャパシティ)を超え、気絶(システムクラッシュ)したルパンティエは、どさりと床に倒れ伏して動かなくなった。

 

「アインズ様、アルベド様。今回の『フィッシング詐欺』の首謀者を連れてまいりました」

ラナーが優雅に跪き、恭しく一礼する。

「ご苦労だった。ラナーよ、アルベドから報告は受けている。見事な采配であったな」

「恐れ入ります。アインズ様にお褒めいただき、身に余る光栄です」

「うむ。そして――」アインズが顔をヒルマに向けた。

「シュグネウスよ」

まさか魔導王陛下から直接名前を呼ばれるとは思っていなかったヒルマは、弾かれたように顔を上げた。

「見事な作戦を立ててくれたそうだな。お前にも感謝の意を述べよう」

 

魔導王陛下にまたお会いできたこと、そして感謝の言葉を賜ったこと――。ヒルマの眼から大粒の涙が溢れた。

「ま、ま、まどーおう……」

感激のあまり、もはや声を出すこともままならない。

 

ようやく絞り出した声でお礼を述べる。

「魔導王陛下。お褒めの言葉をいただき、ありがたき幸せにございます」

「うむ。お前とは一度ナザリックで会っているな。確か、フィリップの件だったか?」

瞬間、ヒルマの表情が抜け落ちた。

「いや、勘違いするでない。蒸し返そうというのではないのだ。結果としてフィリップは暴走したが、お前は事前連絡の徹底、監視要員の配置など、管理者としてできる限りの努力をしていたな。そこまでの管理ができる者は、このナザリックを見渡しても、多いとは言えない」

凍ったような表情をしていたヒルマが、再び目をキラキラさせながらアインズを見上げている。

(相変わらずコロコロと表情が変わる女だな)

「お前は非常に高いマネジメント能力を持っているな、シュグネウス」

跪いていた姿勢から、流れるような動きでヒルマが土下座する。

「魔導王陛下のお言葉、我が人生において、これ以上の誉れはございません……!」

(やっぱりこの女の土下座は美しいなぁ)

 

「ではシュグネウスよ、お前に褒美をやろう」

「……褒美、でございますか?」

ヒルマが涙に濡れた顔を上げ、恐る恐るアインズを見上げる。

「お前たち八本指の幹部には、恐怖公の部屋での酷いトラウマがあるだろう」

「ひっ……」

その名を耳にしただけで、ヒルマの身体がガタガタと震えだした。思い出すだけで精神が崩壊しかねない、あの恐怖……。

「その記憶を消してやろう。ただし、完全に消すわけではない。恐怖を味わったという記憶は残す。しかし、具体的に何があったのか――あの部屋の光景、感触、音といった、具体的な記憶のみを消去してやる」

「あ……あの、悪夢が……消える……? 本当に、あの地獄から、救われるのですか……!?」

「うむ。今回の件で力を尽くしてくれたお前の仲間たちもだ。全員の記憶を消してやろう」

「あああ……あああああ……! ありがとうございます、魔導王陛下あぁぁーっ! このシュグネウス、一生、いえ、死してなお、陛下に魂を捧げますぅ!」

ヒルマは両腕をアインズに向けて伸ばし、床に這いつくばり、尺取り虫のような奇妙な動きで前進し、アインズのローブにすがりつかんばかりに激しく泣き崩れた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「おそれながら、アインズ様」

アルベドが静かに、しかし冷徹な声で口を挟んだ。

「なんだ、アルベド」

「八本指の幹部の中には、まだ『洗礼』を受けたばかりの者がおります。その者の記憶まで今この段階で消してしまうのは、今後の忠誠心を担保するという観点から、いかがなものかと愚考いたします」

「なるほど。一理あるな。その者の名は?」

「コッコドールと申します」

「ならばシュグネウスよ。コッコドールを除く、すでに十分に実績をあげた他の幹部たちを、こちらの部屋へ連れてくるがよい」

「は、はいぃ! ただちに連れてまいりますぅ!」

ヒルマは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔に、これ以上ないほどの歓喜の笑みを浮かべ、弾かれたように部屋を飛び出していった。

(ほんとに表情が豊かな女だな……)

 

◇ ◇ ◇

 

ヒルマが去り、静寂が戻ったログハウスの床には、気絶したままのアルセン・ルパンティエが転がっている。

 

「さて、この男の扱いだが……」

アインズがつぶやくと、アルベドが即座に笑みを浮かべて提案した。

「五大最悪のところへ順番に送り込みましょう。まずはニューロニストからでいかがでしょうか」

(うん。そう言うと思った)

 

「ラナーよ。お前はこの男の知能をどう評価する」

「はい。言うまでもなく、アルベド様やデミウルゴス様には遠く及びませんが……人間としては、これほどの頭脳を持つ者は滅多にいないかと。魔法、道具、そして人間の心理、これらまったく異なる要素を一つの『システム』として捉え、その脆弱性を突くなど、常人には不可能な発想です。非常に高度な論理的思考力と、システム構築能力を持っています」

「やはりそうか」

アインズの赤い眼光が、怪しく揺らめいた。

 

アインズの問いかけの真意を、アルベドが瞬時に察知し、感嘆の表情を浮かべる。

「アインズ様。『アンデッド・マクロ』でございますね?」

「うむ。非常に良い『素材』なのではないか、と思ってな」

「死すら生ぬるい、永久の労働……。アインズ様の慈悲深さには、いつもながら恐れ入ります」

アルベドがうっとりとした表情でアインズを見つめる。

(ブラック企業も真っ青の不眠不休の永久労働なんだけどな)

 

「これほどの頭脳だ。有効に活用してやろう」

アインズの眼窩の奥で、赤い光が冷酷に、そして愉しげに揺らめいた。

 

◇ ◇ ◇

 

そのとき、隣の部屋では――。

ハンゾウに拘束され、身動きの取れないコッコドールが、悲鳴をあげていた。

「ちょっと、ちょっと、待って! いやよ! なんで私だけ置いてかれるのっ?! 置いてかないでぇー!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

オーバーロード 神様のいない世界(作者:Esche)(原作:オーバーロード)

▼「――お前がいなければ、王国は平和だった。誰一人として死なず、姫様が悲しむこともなく!」▼とある道化の台詞を悪趣味に解釈し、アインズ様やナザリック勢の転移がなかった世界線で、現地の人々がどのように過ごしていくのかを妄想するIFの物語です。▼一部の登場人物には過酷な展開となります。▼『アンチ・ヘイト』タグの意味を踏まえて、苦手な方はご注意ください。▼


総合評価:637/評価:8.25/連載:20話/更新日時:2026年06月09日(火) 00:00 小説情報

スズキサトルの日常(作者:ふじら)(原作:オーバーロード)

モモンガが聖王国に何故か人化した状態で単独転移?して楽しむだけの話。


総合評価:1869/評価:8.62/連載:7話/更新日時:2026年05月23日(土) 12:52 小説情報

ガゼフに着いていって王国に仕官した単独転移アインズ様(作者:万里支店)(原作:オーバーロード)

書きたいところだけ書いたオーバーロードの二次創作です。単独転移してカルネ村助けてガゼフに着いていって王国に仕官し、帝国との戦争に出兵したアインズ様のお話


総合評価:3661/評価:8.75/短編:10話/更新日時:2026年06月13日(土) 17:33 小説情報

約束の万年蝋(作者:アイザナ大使)(原作:オーバーロード)

▼王国滅亡前、魔導王陛下との会談に向かったザナック王子。▼これは、もしその会談がもう少しだけ長く続いていたら、という友情ifの読み切りです。▼


総合評価:7/評価:-.--/短編:1話/更新日時:2026年06月09日(火) 21:31 小説情報

えっ凡人がアインズ様に憑依?!(作者:Revak)(原作:オーバーロード)

▼とある男は目が覚めたらなんと転移直後のモモンガ様になってしまっていた?!▼中身が別人だとバレるわけにはいかないとアインズ様ロールプレイをしながら原作を進めていく!▼その過程で原作知識を使い死亡キャラを救う、かもしれない。▼アンチ・ヘイトはモモンガ様になっているので原作ぶっ壊してるのでつけてます。▼寝取りは原作モモンガさんからアルベド寝取ってるのでつけてます…


総合評価:507/評価:6.84/連載:8話/更新日時:2026年06月07日(日) 15:12 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>