魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase3-11 魔導王の慈悲

トブの大森林の奥深くに佇むログハウス〈深緑の隠れ家〉。

そこでは、連絡を受けたアインズとアルベドが、静かにその時を待っていた。

転移の直前、シャルティアが「わたくしも連れていってくんなまし!」と上機した表情で騒ぎ立てたが、「またアインズ様の『椅子』になる気ねっ!」と察知したアルベドによって、般若のような形相で却下された。

 

空間がぐにゃりと歪み、漆黒の〈ゲート〉が開く。

現れたのは、ラナー、ヒルマ、ハンゾウ、そして引きずられるようにして連行されてきたアルセン・ルパンティエであった。

 

ルパンティエが顔を上げた瞬間、その目に飛び込んできたのは――世にもおぞましい、死そのものを具現化したかのような魔導王アインズ・ウール・ゴウンの姿だった。

「う、うわあああーっ!?」

あまりの恐怖に、ルパンティエが絶叫を上げる。

 

「――うるさい」

 

氷の刃のようなアルベドの冷徹な一声。

レベル100のステータスから放たれた殺圧は、ルパンティエの精神をたやすく粉砕した。脳の処理許容量(キャパシティ)を超え、気絶(システムクラッシュ)したルパンティエは、どさりと床に倒れ伏して動かなくなった。

 

「アインズ様、アルベド様。今回の『フィッシング詐欺』の首謀者を連れてまいりました」

ラナーが優雅に跪き、恭しく一礼する。

「ご苦労だった。ラナーよ、アルベドから報告は受けている。見事な采配であったな」

「恐れ入ります。アインズ様にお褒めいただき、身に余る光栄です」

「うむ。そして――」アインズが顔をヒルマに向けた。

「シュグネウスよ」

まさか魔導王陛下から直接名前を呼ばれるとは思っていなかったヒルマは、弾かれたように顔を上げた。

「見事な作戦を立ててくれたそうだな。お前にも感謝の意を述べよう」

 

魔導王陛下にまたお会いできたこと、そして感謝の言葉を賜ったこと――。ヒルマの眼から大粒の涙が溢れた。

「ま、ま、まどーおう……」

感激のあまり、もはや声を出すこともままならない。

 

ようやく絞り出した声でお礼を述べる。

「魔導王陛下。お褒めの言葉をいただき、ありがたき幸せにございます」

「うむ。お前とは一度ナザリックで会っているな。確か、フィリップの件だったか?」

瞬間、ヒルマの表情が抜け落ちた。

「いや、勘違いするでない。蒸し返そうというのではないのだ。結果としてフィリップは暴走したが、お前は事前連絡の徹底、監視要員の配置など、管理者としてできる限りの努力をしていたな。そこまでの管理ができる者は、このナザリックを見渡しても、多いとは言えない」

凍ったような表情をしていたヒルマが、再び目をキラキラさせながらアインズを見上げている。

(相変わらずコロコロと表情が変わる女だな)

「お前は非常に高いマネジメント能力を持っているな、シュグネウス」

跪いていた姿勢から、流れるような動きでヒルマが土下座する。

「魔導王陛下のお言葉、我が人生において、これ以上の誉れはございません……!」

(やっぱりこの女の土下座は美しいなぁ)

 

「ではシュグネウスよ、お前に褒美をやろう」

「……褒美、でございますか?」

ヒルマが涙に濡れた顔を上げ、恐る恐るアインズを見上げる。

「お前たち八本指の幹部には、恐怖公の部屋での酷いトラウマがあるだろう」

「ひっ……」

その名を耳にしただけで、ヒルマの身体がガタガタと震えだした。思い出すだけで精神が崩壊しかねない、あの恐怖……。

「その記憶を消してやろう。ただし、完全に消すわけではない。恐怖を味わったという記憶は残す。しかし、具体的に何があったのか――あの部屋の光景、感触、音といった、具体的な記憶のみを消去してやる」

「あ……あの、悪夢が……消える……? 本当に、あの地獄から、救われるのですか……!?」

「うむ。今回の件で力を尽くしてくれたお前の仲間たちもだ。全員の記憶を消してやろう」

「あああ……あああああ……! ありがとうございます、魔導王陛下あぁぁーっ! このシュグネウス、一生、いえ、死してなお、陛下に魂を捧げますぅ!」

ヒルマは両腕をアインズに向けて伸ばし、床に這いつくばり、尺取り虫のような奇妙な動きで前進し、アインズのローブにすがりつかんばかりに激しく泣き崩れた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「おそれながら、アインズ様」

アルベドが静かに、しかし冷徹な声で口を挟んだ。

「なんだ、アルベド」

「八本指の幹部の中には、まだ『洗礼』を受けたばかりの者がおります。その者の記憶まで今この段階で消してしまうのは、今後の忠誠心を担保するという観点から、いかがなものかと愚考いたします」

「なるほど。一理あるな。その者の名は?」

「コッコドールと申します」

「ならばシュグネウスよ。コッコドールを除く、すでに十分に実績をあげた他の幹部たちを、こちらの部屋へ連れてくるがよい」

「は、はいぃ! ただちに連れてまいりますぅ!」

ヒルマは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔に、これ以上ないほどの歓喜の笑みを浮かべ、弾かれたように部屋を飛び出していった。

(ほんとに表情が豊かな女だな……)

 

◇ ◇ ◇

 

ヒルマが去り、静寂が戻ったログハウスの床には、気絶したままのアルセン・ルパンティエが転がっている。

 

「さて、この男の扱いだが……」

アインズがつぶやくと、アルベドが即座に笑みを浮かべて提案した。

「五大最悪のところへ順番に送り込みましょう。まずはニューロニストからでいかがでしょうか」

(うん。そう言うと思った)

 

「ラナーよ。お前はこの男の知能をどう評価する」

「はい。言うまでもなく、アルベド様やデミウルゴス様には遠く及びませんが……人間としては、これほどの頭脳を持つ者は滅多にいないかと。魔法、道具、そして人間の心理、これらまったく異なる要素を一つの『システム』として捉え、その脆弱性を突くなど、常人には不可能な発想です。非常に高度な論理的思考力と、システム構築能力を持っています」

「やはりそうか」

アインズの赤い眼光が、怪しく揺らめいた。

 

アインズの問いかけの真意を、アルベドが瞬時に察知し、感嘆の表情を浮かべる。

「アインズ様。『アンデッド・マクロ』でございますね?」

「うむ。非常に良い『素材』なのではないか、と思ってな」

「死すら生ぬるい、永久の労働……。アインズ様の慈悲深さには、いつもながら恐れ入ります」

アルベドがうっとりとした表情でアインズを見つめる。

(ブラック企業も真っ青の不眠不休の永久労働なんだけどな)

 

「これほどの頭脳だ。有効に活用してやろう」

アインズの眼窩の奥で、赤い光が冷酷に、そして愉しげに揺らめいた。

 

◇ ◇ ◇

 

そのとき、隣の部屋では――。

ハンゾウに拘束され、身動きの取れないコッコドールが、悲鳴をあげていた。

「ちょっと、ちょっと、待って! いやよ! なんで私だけ置いてかれるのっ?! 置いてかないでぇー!」

 

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