魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
ごろごろごろ……。
ナザリック地下大墳墓、第九階層。アインズの私室。
巨大なベッドの上で、骸骨の魔導王が転がっていた。
この数日、同じことをぐるぐると考えている。
体はごろごろ、思考はぐるぐる。
液状魔力――。
アインズはぼんやり天井を見上げる。
(新エネルギー……機械化……やっぱりこれって、産業革命ってやつなんじゃ……)
義務教育レベルの歴史知識を必死に掘り返す。
(なんか暴動起きてたよな……えーっと……ラッダイト運動?)
そこまでは思い出せる。だが肝心の理由が曖昧だ。
(なんで暴動になったんだっけ……失業? 格差? 機械壊してたんだよな確か……)
深刻な知識不足だった。
ベッド脇では、本日のアインズ様当番であるシクススが直立不動している。
アインズ様が苦悩している。
その事実だけは理解できた。
だが――。
何を悩まれているのかが理解できない。
理解できない以上、何をすべきかも分からない。
その結果――とても座ってはいられないシクススは直立不動となり、全身からだらだらと汗を流していた。
床には既に小さな水溜まりまでできている。
(いやいや待て)
アインズは頭を抱えた。
(俺、勢いで『開発を進めよ』とか言っちゃったけど大丈夫なのか?)
液状魔力の発明。もしここに機械技術まで加われば――。
(いや、でも逆に魔導国を経済大国化するって方向もあるのか?)
ふと思う。
国家運営。経済。産業。インフラ。
(……いや無理じゃね?)
元サラリーマン鈴木悟に、国家経済戦略など分かるはずもない。
(アルベドとデミウルゴスに相談するか……)
そこまで考え、アインズは硬直した。
(あ……)
嫌なことを思い出した。
(俺、『説明はいずれ行う』とか言ったわ)
沈黙――。
(絶対待ってる……)
アルベドが。デミウルゴスが。
「アインズ様の深遠なるお考え」を理解しようとして。
ものすごく期待した目で。
(うわぁぁぁ……)
胃があれば痛くなっていた。
シクススの汗量がさらに増える。
(……まあ、そう急激には変わらんだろ)
アインズは無理やり思考を切り替える。
(まずはンフィーレアの研究進捗を聞いてから考えよう)
(うん。段階的対応。大事。)
(よし。前向きに行こう。俺ってポジティブ)
ガバッ。
アインズが突然起き上がった。
「ひぃっ!」
シクススが飛び上がる。
足元の水溜まりを蹴り、小さな水音が響いた。
「シクススよ」
アインズは重々しく口を開いた。
「は、はいっ! なんなりとご命令を!」
声が裏返っている。
「ンフィーレアに――」
そこまで言って、アインズはふと時計代わりの魔法アイテムへ視線を向けた。
(……真夜中じゃん)
思わず黙る。
(こんな時間に呼び出しとか、ブラック企業かよ……)
かつての社畜時代が脳裏を過ぎる。
深夜二時の緊急対応。休日出勤。サーバ障害。
嫌な記憶しかない。
「……いや」
アインズは咳払いした。
「夜分までご苦労だな。お前たちにはいつも感謝しているぞ」
シクススの目が見開かれる。
「そ、そのようなお言葉……!」
声が震えていた。
アインズは満足げに頷く。
(よし。上司ポイント獲得)
そして心の中で予定を書き換えた。
(朝になったら、アルベド経由でンフィーレアを呼ぼう)
それだけ決めると、アインズは再びベッドへ倒れ込む。
ごろごろごろ……。
ナザリックの支配者は、今日も眠れない。いや眠らない。