魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
「アインズ様、このエルダー・リッチさん、すごいです!」
トブの大森林に新設された液状魔力精製工場。
ンフィーレアが、興奮を隠しきれない様子でアインズに駆け寄ってきた。
工場の中心では、ルパンティエを素材としたエルダー・リッチが、恐ろしいほどの速度と正確さで液状魔力の精製プロセスを実行していた。
その背後には、数体の別のエルダー・リッチが整然と並んでいる。
精製役のエルダー・リッチの魔力が切れかけると、後ろに控えていた「バッテリー役」が、即座に魔力供給を実行する。
魔力を供給し終えたバッテリー役は、流れるような動作で最後列に下がり、魔力の自然回復を待つ。
そして、次のバッテリー役が前に出る――。
この一連のプロセスが、寸分の狂いもなく、多段式で自動制御(マクロ実行)されていた。
(これ、歴史の教科書で習ったな。織田信長の『鉄砲の三段撃ち』だ。装填時間というボトルネックを、人員のローテーションで完全にゼロにするシステム……。まさか異世界で、アンデッドを使ってこれを再現することになるとはな)
アインズは内心で深く感心しながら、ンフィーレアに尋ねた。
「ンフィーレア、エラー率はどれくらいだ?」
「それが、稼働を始めてから一度も失敗してないんです。エラー率は、驚異のゼロパーセントです!」
「素晴らしい!」
アインズは惜しみない賛辞を送りつつも、その視線はすでに「次」の段階を見据えていた。
(ルパンティエを素材にしたこの個体は、確かに完璧だ。だが……国全体のエネルギーインフラを支えるとなれば、この一ラインだけではスループット(処理量)が足りなすぎる)
アインズはンフィーレアに向き直り、厳かな声で告げた。
「ンフィーレアよ。このエルダー・リッチによる精製プロセスは完璧だ。しかし、これだけでは国全体の液状魔力を賄うには到底足りん」
「えっ……? これほど完璧なシステムでも、ですか?」
ンフィーレアが目を丸くする。アインズは頷き、前世の知識――「職人芸から工場制機械工業への移行」の概念を思い浮かべながら言葉を続けた。
「そうだ。我々が必要としているのは、一振りの至高の名剣ではなく、戦場を埋め尽くす万の鉄槍なのだ。このルパンティエ製個体を『マスター(雛形)』とし、その精製マクロを他のエルダー・リッチたちに学習・模倣させる」
「他のエルダー・リッチに……。ですがアインズ様、ルパンティエさんほどの頭脳を持たない通常のエルダー・リッチでは、どうしても数パーセントのエラーが発生すると思います」
ンフィーレアの懸念はもっともだった。液状魔力の精製は極めて精密な制御を要する。わずかなエラーでも、魔力の霧散や品質低下を招くのだ。
しかし、アインズはフッと不敵に笑った。
「構わん。数パーセントのロスなど、圧倒的な『物量』で圧殺すればいいだけの話だ」
「物量、ですか?」
「そうだ。エラー率がゼロでなくとも、知能の高いエルダー・リッチを大量に動員した『液状魔力精製工場』を、このトブの大森林だけでなく、国内の複数箇所に建設する。ラインを数十、数百と並列稼働させれば、多少のロスを補って余りあるほどの液状魔力が、文字通り『有り余る』ほど精製されることになる」
アインズの言葉に、ンフィーレアは息を呑んだ。
「さすがアインズ様です! すぐに、他のエルダー・リッチたちへのプロセス伝達を計画します!」
「うむ。期待しているぞ、ンフィーレア。第二、第三工場の建設プランはアウラとマーレに立てさせるとしよう」
かくして、液状魔力精製における最大のボトルネックであった「ンフィーレアの属人化」は解消され、事態は「量産化と水平展開」という次なるフェーズへと移行した。一人の愚かな詐欺師の命が、ナザリックの暴力的リソースと結びつき、安価でクリーンなエネルギー『液状魔力』が世界を席巻していくこととなった。
◇ ◇ ◇
「アインズ様、これは一体……」
トブの大森林に新設された液状魔力精製工場。その広大な敷地に、アインズが召喚したアンデッドが降り立った。その巨大な姿を前に、アウラとマーレは目を丸くして言葉を失った。
「ボーン・アルバトロス(骨のアオウドリ)だ。これは飛ぶことしかできん。しかし、逆に言えば、飛行と、重たい物を運ぶことに特化したアンデッドだ」
ボーン・アルバトロスは、アインズの言葉を肯定するように、巨大な翼を広げた。その翼は、精製工場を覆い尽くすほどの大きさで、不気味な骨の輝きを放っている。
「アインズ様……。もしかして、これを……? 液状魔力を……空から?」
アウラは、ボーン・アルバトロスの巨大な翼を見上げながら尋ねた。
「アウラ、よく気づいたな。精製された液状魔力を、このボーン・アルバトロスを使って、魔導国全土……いや、世界中に空輸する。それが、我が魔導国の、新たな物流の始まりだ」
アインズは、力強く宣言した。その言葉は、アウラとマーレの心を、期待と興奮で満たした。
「あ、あの……。大勢の人を運ぶことも、できると思います」
「その通りだ、マーレ。これを使えば、他国へ簡単に旅行することができるぞ。そして、我が魔導国の……新たな可能性が広がる」
アインズは、マーレの言葉に、優しく微笑んだ。そして、その視線は、遠く離れた大地へと向けられた。
ボーン・アルバトロスは、巨大な翼を広げ、力強く羽ばたいた。その姿は空へと舞い上がる。巨大な影がトブの大森林を覆い、世界中に……新たな物流の始まりを告げた。
本格的な液状魔力の空輸が、いよいよ開始されることとなった。その巨大な影は、世界中に新たな物語を運んでいく。