魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase4 新天地開拓プロジェクト
Phase4-1 瓦礫の大地


「――以上の通り、液状魔力の輸出と新紙幣『エン』の流通により、我が国の経済は急速に発展し、非常に活気づいております」

 

(確か歴史の授業で習ったよなぁ。神武景気、岩戸景気、いざなぎ景気……。でもその後のバブル景気では、日本は世界一位の経済大国にまで発展して……崩壊したはず。……なんで崩壊したんだっけ? 今にして思えば、もっとちゃんと勉強しておけばよかったな……)

 

アインズはいつものように、アルベドの流暢な報告を上の空で聞いていた。

骸骨の顔面は表情をピクリとも動かさないが、その奥にある魂(鈴木悟)は、好景気に沸く魔導国の行く末に、冷や汗を流さんばかりの不安を抱いていた。

 

しかし、その沈黙はアルベドの目には全く異なる意味に映っていた。

アインズ様が、何か深い憂慮のなかで感傷にひたっておられる――と。

 

「アインズ様。……たまには、気晴らしをなさいませんか?」

「気晴らし、かね?」

「そうです。私と……その、デートをするとか?」

「デートだと?! いや、しかし、私とアルベドが街を歩けば、民たちが驚いてしまうだろう」

「それでしたら、いっそ人目につかない場所へ行くとか……」

アルベドが腰に生えた黒い翼をパタパタと小刻みに羽ばたかせる。その瞳は怪しく潤み、呼吸が荒くなっている。

(いや怖い! ものすごい怖い!)

 

「メイドたち。今日の業務はここまでよ。全員、下がりなさい」

「は、はいっ」

一瞬にして凍りつく室内。

ざわっ――。天井の闇が揺れ、潜伏していたエイトエッジ・アサシンたちが、主人の貞操の危機を察知して臨戦態勢に入る。

 

「さあ、行きましょう! さあ、アインズ様!」

アルベドがアインズの骨の手を両手でがっしりと掴み、椅子から立たせる。

(うわ、力強っ! さすが戦士職! てか、アルベドお前、本気で引っ張ってないか?!)

 

ざしゅっ、ざしゅっ! ついに天井からエイトエッジ・アサシンたちが降下してきた。

 

「待てい!」

アインズは精神安定の強制発動に助けられながら、威厳に満ちた声で一喝した。

「アルベド。お前が私を気遣ってくれる気持ちは嬉しく思う」

「おわかりいただけたのですね? それでは……!」

アルベドはまだアインズの手を離そうとしない。

「だが、まずは落ち着け。……確かに、液状魔力の発明以来、時代の流れが急激になりすぎていると感じるのだ」

 

アインズは手をそっと引き抜き、自らの思考を整理するように言葉を紡いだ。

「国の基盤が脆弱なまま、経済という名の熱量だけが過熱し続ければ、いずれ足元から崩れ、やがては瓦礫の山となってしまうかもしれない」

 

瓦礫の山――その言葉を口にした瞬間、アインズの脳裏に、自らの命令によって滅ぼした、リ・エスティーゼ王国の風景がよぎった。

元王国は、いまも瓦礫の山のはずだ。

(あれから一度も見てなかったな。見たところで何もないが……。いや、待てよ。あそこなら誰もいないし、アルベドの『デート』という名の猛アタックを煙に巻くにはちょうどいい避難先か?)

 

「アルベド。よかろう。人目のない所へ行ってみようか。かつて王国と呼ばれた、あの地へ」

 

◇ ◇ ◇

 

元王国、王都上空。

眼下には、王宮だけがぽつんと残り、それ以外はすべて、魔導国の圧倒的な軍事力によって完膚なきまでに破壊し尽くされていた。

 

「何もない……ですね」アルベドが不満そうに眉を寄せる。

「アインズ様、確かに人目はありませんが、このような荒涼とした場所がデートの目的地なのですか?」

「ふっ。そうだ。誰もおらんだろう? 地上へ降りて、少し歩いてみよう」

 

二人は瓦礫の広がる大地へと降り立ち、ゆっくりと歩き出した。

一面の瓦礫――。かつて人々が暮らし、経済を営んでいた場所は、今や灰と石ころの荒野だ。

(日本はかつて世界大戦で一面の焼け野原になった。東京は大空襲にあい、広島と長崎には原爆が落とされ……。こんな風景だったのだろうか……。俺が生きていた2138年の汚染された都市からは、想像もつかない歴史の1ページだけど……)

 

ふと脳裏に、教科書に載っていた一枚の白黒写真が浮かんだ。

戦後日本の東京に、力強く立ち上がる、巨大な鉄の塔。

(確か……戦後の日本で、復興のシンボルとして巨大な塔が造られたな。ああ、そうだ。東京タワーだ)

 

アインズは、なんとなく、その「復興のシンボル」をこの荒野に再現してみたくなった。

もちろん、鉄骨を組み上げる技術はない。だが、アインズには魔法がある。

 

「アルベド、少し下がっていろ。……余興だ」

アインズが両手をかざし、第十位階魔法を唱える。

 

〈クリエイト・フォートレス〉

 

本来であれば、この魔法は三十メートルほどの堅牢な石造りの砦を出現させる。しかし、アインズの脳裏に強く描かれていたのは東京タワー。魔法は術者のイメージに引きずられる。

大地が激しく揺れ、隆起した。現れたのは、通常の〈クリエイト・フォートレス〉とは明らかに異なる、四本の脚で立ち、天に向かって細く尖っていく、網目状の隙間を持った美しい巨大塔だった。

 

「ほう……」

アインズ自身、予想外の再現度に少し興奮した。

前世では、休日にシムシティのような都市開発ゲームや、ジオラマ作りに没頭した時期もあった。荒野にポツンとそびえ立つ「テレビ塔」を見ていると、アインズの中の「男のロマン」が刺激されていく。

(めちゃくちゃ格好いいじゃないか! よし、テレビ塔を建てたなら、やっぱりあれも必要だよな。携帯電話の基地局!)

 

アインズはすっかり童心に帰っていた。この世界には電波も、携帯電話も、テレビすら存在しないというのに。

 

「アルベド、少し移動するぞ」

アインズは西へ向かって転移した。中央の主塔から十分に離れた、見晴らしの良い場所。アインズは再び魔法を唱えた。

 

〈クリエイト・フォートレス〉

 

今度は、先ほどの優美なテレビ塔とは異なる形状をイメージした。前世のビルや山間部によく立っていた、あの無機質な「携帯電話の基地局(電波鉄塔)」だ。

(よしよし、いいぞ! これは反対側にも建てないと落ち着かないな!)

 

完全に「ジオラマの配置を整える」ノリで、アインズは今度は東の地へ飛び、三度目の魔法を唱えた。

 

〈クリエイト・フォートレス〉

 

東にも、西と同じ「基地局型の塔」がそびえ立った。

こうして、中央に巨大な「テレビ塔」、その東西を挟むように「基地局」が2つ、完璧なバランスで配置された。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「アインズ様……。これは、一体……?」

アルベドが、驚愕と、そして深い畏敬の念を瞳に宿して訊いた。

「なに、ほんの気まぐれだ。何もない瓦礫の山は殺風景だからな」

アインズは、前世のうろ覚えな知識で、おもちゃを並べるように楽しんだだけだった。

 

(気まぐれ……? 本当にアインズ様は、気まぐれでこのようなことをしたのだろうか……)

アルベドは静かに塔を見上げた。

 

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