魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
ナザリック地下大墳墓。第九階層。玉座の間。
階層守護者、領域守護者、そしてプレアデスたちが一同に集められていた。
「面を上げよ」
アインズの重々しい声が響き、全員が一斉に顔を上げた。
「みな忙しい中、ご苦労。今日集まってもらったのは他でもない」
アインズは並み居る配下たちを静かに見回した。
「私は皆に、謝罪をしなくてはならない」
その場にいた全員の表情が、驚愕に凍りついた。
アインズ様が自分たちに謝罪……? 至高の御方が、配下である自分たちに?
これはいったい、どういうことなのか。
守護者たちは恐る恐る、アインズの次の言葉を待つ。
「私は、心変わりをした」
ま、まさか……っ!?
その瞬間、守護者たちの脳裏に最悪の結末がよぎった。
最後までこの地に残ってくださった尊き御方。偉大なる至高の主。
そのアインズ様までもが、かつての創造主たちのように、この地を去ってしまうというのか――?
主を失えば、自分たちは存在する意義すら失ってしまう。
「「「「「アインズ様っ!」」」」」
玉座の間が、悲痛な絶叫で震えた。
アルベドは絶望に目を見開き、その場に崩れ落ちそうになりながら叫ぶ。
「私たちをお見捨てにならないでください!」
「アインズ様、どうか、どうか……!」
「アインズ様までこの地をお去りになってしまったら、私たちはどうすればよいのですか!?」
普段は冷静沈着なデミウルゴスすらも顔を青ざめさせ、プレアデスたちは涙を流してすがりつかんばかりの勢いだ。
(え? なに言ってんだ、こいつら……。俺が、去る……?)
アインズの内心は、一瞬にして大パニックに陥った。
しかし、その激しい動揺をかき消すように、精神安定が強制発動する。
すっと頭が冷えたアインズは、玉座から立ち上がり、バサりと漆黒のローブを翻した。そして右腕を水平に広げ、威厳に満ちた声で一喝する。
「騒々しい、静かにせよ!」
一瞬にして静寂が訪れ……なかった。
守護者たちの「うっ、うっ」とむせび泣く声までは止めることはできない。
アインズは内心で冷や汗を流しながら、誤解を解くべく言葉を紡いだ。
「勘違いするな。私がこの地を去ることなど、万に一つもあり得ん」
「「「「「本当ですかっ?!」」」」」
「もちろんだ。それは我が名、アインズ・ウール・ゴウンの名において、皆に約束しよう」
その言葉に、玉座の間は一転して歓喜の渦に包まれた。
守護者たちは安堵のあまり胸を撫で下ろし、涙を拭う。
皆が落ち着いたのを見届け、アインズは本題へと入った。
「かつてのリ・エスティーゼ王国は我々が滅ぼした。いまや瓦礫の山となっている」
アルベドは、先日アインズと『デート』という名の視察で訪れた、かつての王国の惨状を思い浮かべていた。
配下たちが現在の王国領の姿を思い浮かべるための数秒を与えた後、アインズが続けた。
「我が国に敵対する愚か者がどうなるか、その末路を世界に見せつけるため、王国領はそのままにしておくつもりだった。だが、私は心変わりした――」
アインズは、玉座の前で力強く宣言した。
「旧王国領を再開発する。新天地を開拓するのだ」
その言葉が玉座の間に響き渡った瞬間、守護者たちに電流が走った。
特にデミウルゴスは、眼鏡の奥の目を怪しく輝かせ、「ほう……」と深く感嘆の息を漏らす。その表情は、すでにアインズの意図を「理解」し、脳内で恐るべき陰謀の図式を組み立て始めている者のそれだった。
(あ、やばい。デミウルゴスがまた「さすがアインズ様、そこまでお考えだったとは」みたいな顔してる! ここでこいつらに勝手な解釈をされたら、後で俺の首が絞まる)
アインズの背中に冷や汗が流れる。
アインズなりに頭を捻って考えたプランはある。デミウルゴスにハードルを限界まで上げられる前に、自分の口から、自分の言葉で説明しなければならない。
そのためには、資料の準備や、なにより心の準備が必要だった。
「具体的な計画ついては、後日改めて説明する。各自、そのつもりで予定を空けておくように。……今日のところは下がってよい」
「御意。アインズ様の深遠なる御計画、拝聴する日を心待ちにしております」
デミウルゴスを筆頭に、守護者たちが一斉に深く平伏する。
そのあまりにも期待に満ちた眼差しに、胃――ないが――の痛みを覚えながらも、アインズは威厳を保ったまま、転移魔法でその場を後にした。
――そして数日後。
再び玉座の間に集められた守護者たちの前に、アインズは「資料」を携えて現れることになる。
アインズのプレゼンテーションの幕開けであった。