魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

34 / 34
Phase4-4 アインズのプレゼン

「なによ、これ……」

他の守護者たちより早く玉座の間に到着したアルベドは、その光景に思わず驚きの声を漏らした。

ナザリックの権威の象徴であるはずの玉座の間が、ガラリと模様替えされていたのだ。

アインズが座るべき玉座の前には、天井から巨大な白い布が吊り下げられている。広間では、デスナイトたちがせわしなく行き来し、机と椅子を整然と並べていた。

 

これは一体何事か――と問いかけようにも、デスナイトは喋らない。

(使役しているのはアインズ様。デスナイトはただ、主の命令に従って動いているだけ……。ならば、このままやらせておくしかないわね……)

黙々と机と椅子が並べられていく異様な光景を、アルベドはただ静かに見守るしかなかった。

 

やがて、他の階層守護者やプレアデスたちが次々と入場してくる。しかし、厳かなはずの玉座の間が「講義室」のようになっているのを見て、誰もが「こ、これはっ?」と一様に驚愕の声を上げた。

 

「あ、あの、アルベド様。ボクたちはどこに跪けばいいんでしょうか……」

マーレがおどおどしながらアルベドに尋ねる。

「座る……しかないわね。用意されている椅子に」

守護者たちが戸惑いながらも着席して待つ中、空間が歪んだ。

 

◇ ◇ ◇

 

アインズが玉座の前に転移してくると、NPCたちが一斉に起立した。

「ああ、構わん。着席してくれ」

「アインズ様」アルベドが代表して発言する。

「これでは、私どもはアインズ様に跪くことができません。臣下としての礼を失することに……」

「良いのだ。今日は私の話をかしこまらずに聞いてもらいたい。ああ、堅苦しい挨拶も不要だ」

 

アインズはそう言って、事前に設置させておいた手元の魔道具を起動した。

見たこともない奇妙な魔道具に魔力の光が灯り、玉座の上方に吊るされた白い布に、鮮明な文字が映し出される。

 

「おおっ……!」

守護者たちの間から感嘆の吐息が漏れた。至高の御方がまたしても、ナザリックの未知なる秘宝を起動されたのだと彼らは確信した。

 

「この魔道具は『おぅエッチぴー』と言うものだ。<遠隔視の鏡>は指定したポイントを手元に映すが、これは指定した手元のものを大きく投影する機能を持っている」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「これより、私が旧王国領をどのような姿にしたいかを説明しよう。途中で質問を挟まずに、私の話を一通り聞いてもらいたい」

(質問されても困るからな。説明が終わったら『急用ができた』とでも言って、さっさと転移してしまおう。あとはデミウルゴスとアルベドがきっとなんとかしてくれる)

 

アインズは威厳に満ちた態度で手元のスライドを交換した。

(よし、サラリーマンだった頃を思い出して、一生懸命やるぞ!)

 

 

【挿絵表示】

 

 

「まずは『掃除』だな。デスナイトをはじめ、多くのアンデッドを使い、一気に瓦礫を片付ける。皮肉なことに、何もない大地だからこそ、これから我々の好きなように街作りをすることができる。アンデッドたちが『掃除』をしている間、皆にはこれから話す内容について、具体的な『設計』をしてもらいたい」

 

守護者たちは深く頷く。ナザリックが誇る無尽蔵のアンデッド軍団を「労働力」として一斉投入する。これほど合理的で、かつ周辺諸国に魔導国の圧倒的国力を見せつけるデモンストレーションはない。

 

「では次だ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「以前、『子どもたちを教育する機関を作ったほうが良い』という提案を出してくれた者がいる」

その言葉に、ユリ・アルファが大きく目を見開いた。それを提出したのは、他ならぬ彼女自身だったからだ。

 

「私はかつて、その提案を棄却した。知識の広がりが、民の間に不必要な不満を膨らませることもあると考えたからだ」

ユリは申し訳なさそうに俯く。しかし、アインズの声は優しかった。

「しかし、液状魔力、そしてそれに続く発明がなされ、いまや魔導国は、経済大国への道を歩み始めている。――つまり、時代の針が進んだことで、状況が変化したのだ」

 

ここでアインズは数秒の間を置き、言葉が皆に浸透するのを待った。

 

「時代が進み、状況が変化すれば、考えを変えなければならない。よって、『学校』を設立することとする。読み書きを覚えさせ、算術を教える。また、学校への入学は子どもだけに限定しない。国民が読み書きすらできないようでは、いずれ他国に追い抜かれてしまう。それに、新聞を読みたいと思う大人も多いだろうからな」

 

ユリは感動のあまり、眼鏡の奥の瞳を潤ませ、胸元で両手を握りしめた。

(アインズ様は、私の拙い提案をただ却下されたのではなかった……。この『液状魔力による経済発展』という未来を見据え、最も効果的なタイミングで実現するために、あえて温めておいてくださったのだ……)

 

一方、デミウルゴスは眼鏡の奥の目を怪しく輝かせ、驚愕に震えていた。

(なんという深謀遠慮! ンフィーレアが液状魔力を開発すること、そしてそれによって魔導国が経済大国化することすら、アインズ様はあの時点で全て予見し、この教育計画のパズルを組み立てておられたというのか……)

 

そんな守護者たちの狂信的な視線に気づかないふりをして、アインズは次のスライドに変えた。

「では次だ。交通インフラおよび公共交通機関を整備する」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「産業が発展すれば、人々の移動距離・移動回数が増えることになる。そこで、『道路』を造り、アンデッドバス、アンデッドタクシーを走らせる。アンデッドバスは多くの人が乗ることができる乗り物だ。一定の距離ごとに『バス停』を設け、人々はそこから乗り降りすることになる。牽引はソウルイーターに行わせる」

「ソウルイーターを……?!」

シャルティアが思わず小さく声を漏らした。

かつて一国を滅ぼし、数万の魂を喰らったという伝説の魔獣。それを、ただの「バスの牽引役」として日常の風景に溶け込ませるというのだ。

(アインズ様のアンデッド使役のスケールは、本当に底が知れないでありんす!)

 

「アンデッドバスは多くの人が乗ることができるメリットがあるが、『バス停』からしか乗降することができない。そこで、乗降場所を限定しないアンデッドタクシーも走らせる。こちらは4名ほどしか乗ることはできないが、指定した場所へ直接行くことができる」

 

「次は魔導高架鉄道だ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「例えば遠方にある工場などへ働きに行きたい場合、アンデッドバスでは時間がかかる。より遠方へ、より速く移動できるようにするため、魔導高架鉄道を造る。こちらはアンデッドバスよりさらに多くの人を運ぶことができ、かつ高速だ。高速で走らせるがゆえに、地上を走るバスやタクシーと同じ道路を通すのではなく、地上高く架け渡し、空中を通す構造とする」

 

空中を走る、魔導の乗り物。守護者たちは、アインズが提示したその「未来図」の美しさと壮大さに、ただただ圧倒されていた。

 

「次はライフラインだ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「これまで民たちは濁った川へ足を運び、重い水桶を担いで泥道を往復していた。だが、これからは違う。我らが造りし浄水場から、街の隅々へ、地を這う血管のように、魔法で清浄された水を運ぶ道『水道』を通す。『蛇口』と呼ぶ金属の栓をひねるだけで、水は淀みなく溢れ出る」

 

デミウルゴスがダイヤモンドの目を輝かせる。

(これは単なる水路ではない! 魔導国の統治そのものを、骨の髄まで浸透させるための、命の循環ではないですか!)

 

アインズがスライドを変える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「当然、エネルギーは液状魔力一択だ。すべての家々に魔導ボンベを設置する。あらゆる建物を、はじめから魔導ボンベを設置するに適した構造で造るのだ。街には一定間隔ごとに魔導ライトを設置し、夜でも安心して歩けるようにする。液状魔力は極めてクリーンなエネルギーだ。一気に普及を目指す」

 

「また、街にはネザー・ハウンド(冥府犬)を放つ。街を巡回させ、ゴミや害虫などを食べさせる。食べると言っても、アンデッドなので本当に食べるわけではない。ネザー・ハウンドが食べたものは冥府へ送られ、二度と戻ることはない。ネザー・ハウンドのお陰で、街は常に清潔に保たれるというわけだ」

(ナザリックが治める街が、不潔であってはならないからな。これならゴミ問題も一発解決だ。我ながら良いアイデアだな)

 

ここまでを一気に説明し、アインズは一呼吸置いた。

 

「まだ続きがあるのだが、一度にすべてを説明しても混乱するだろう。まずはここまでを第一段階とする」

(ふぅ、疲れた。本当はまだこの先は何も考えてないんだけどな。これだけ風呂敷を広げれば十分だろう)

 

アインズが手元の魔道具を切り、皆を見渡すと――。

案の定、守護者たちは口をぽかんと開けたまま、完全に固まっていた。

彼らは混乱していた。いや、混乱という生易しいものではない。

あまりにも先駆的な「新世界の設計図」を突きつけられ、魂を奪われていたのだ。

 

特に、元リ・エスティーゼ王国第三王女であったラナーの衝撃は、筆舌に尽くしがたいものだった。かつて天才(化け物)と称され、王国の内政を裏から操っていた彼女でさえ、これほど合理的で、美しい「国の未来像」を描いたことなど一度もなかった。

(何……これ……? これが、アインズ様の『知性』……。私が一生をかけても届かない、神の領域……。この感情が、「感動」というものなの……?)

ラナーは、生まれてこの方、他者に対して「感動」という感情を抱いたことなどない。己の敗北感と、至高の主への崇拝の入り混じった感情に、ラナーは全身を激しく震わせていた。

 

沈黙が玉座の間を支配する中、「ガタっ」――デミウルゴスが、まるで神の啓示を受けた預言者のように立ち上がった。その顔は、興奮と歓喜で紅潮している。

「素晴らしい! 言葉もございません、アインズ様!」

デミウルゴスは深く、深く頭を垂れた。

「ただ瓦礫を片付けるだけでなく、教育、交通、エネルギー、そして衛生管理に至るまで……。これほど緻密に計算された『新時代の都市計画』を、まさかこれほど短期間でお示しになられるとは! 特に、液状魔力をインフラの核に据え、それを前提とした都市構造をはじめから設計する手腕。我々守護者の浅知恵など、アインズ様の深遠なる御計画の前には、塵芥に等しいと痛感いたしました」

「ええ、本当に……」

アルベドもまた、うっとりとした表情で両頬を染め、玉座のアインズを見つめる。

「アインズ様が描かれる未来は、あまりにも美しく、そして慈悲に満ちています。この計画が実現した暁には、世界は魔導国の偉大さを、骨の髄まで思い知ることになるでしょう」

 

「「「「「アインズ様万歳! 至高の御方に栄光あれ!」」」」」

 

守護者たちが一斉に立ち上がり、割れんばかりの喝采と忠誠の叫びを上げる。

(えええええ……?! 戦後日本の都市計画を真似しただけなんだけど? なんでそんなにハードル上げるの?! デミウルゴス、お前本当に余計なこと言わなくていいからっ)

 

アインズは内心パニックに陥りながらも、表向きはあくまで「すべてを計算通りに進める絶対の支配者」として、深く、重々しく頷いてみせる。

「うむ。皆が私の意図を正しく理解してくれたようで、嬉しく思う。では、この第一段階の設計と準備は、アルベドとデミウルゴス、お前たちに一任する」

 

そこでアインズは、骨しかない顔で「あ、そうだ」という表情を必死に作った。

「すまないが、急ぎ処理せねばならぬ案件を思い出した。今日のところは、ここまでとさせてもらおう」

「はっ! お忙しい身でありながら、我々のために尊いお時間を割いていただき、感謝の極みにございます!」

 

「うむ。では後は頼むぞ。<グレーター・テレポー……>」

「お待ちください、アインズ様!」アルベドが鋭く声をかけた。

(ぎくぅっ!)

「な、なんだ、アルベド」

「本日アインズ様がご使用された魔道具、『おぅエッチぴー』をお貸しいただけませんか。今後我々で議論を進めるうえで、適宜参照させていただきたく」

「良いだろう。活用すると良い」

「ありがとうございます!」

 

<グレーター・テレポーテーション>

 

今度こそ転移魔法を唱えたアインズは、逃げるようにその場から消え去った。

 

残された守護者たちは、魔導国の輝かしい未来へ向けて、熱い議論を開始するのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

鈴木悟の残響 - 骸の玉座に座してなおも人の夢を見る -(作者:朝型人間)(原作:オーバーロード)

もし、モモンガが最初の段階で「自分の人間性の喪失」に強い違和感を覚えていたら――。▼これは、骸の王となった彼が、なお鈴木悟の残響を抱えたまま進むifストーリーです。▼※アンチ・ヘイトは念のため


総合評価:20/評価:-.--/連載:1話/更新日時:2026年06月17日(水) 00:00 小説情報

オーバーロード 神様のいない世界(作者:Esche)(原作:オーバーロード)

▼「――お前がいなければ、王国は平和だった。誰一人として死なず、姫様が悲しむこともなく!」▼とある道化の台詞を悪趣味に解釈し、アインズ様やナザリック勢の転移がなかった世界線で、現地の人々がどのように過ごしていくのかを妄想するIFの物語です。▼※一部の登場人物には過酷な展開となります。▼『アンチ・ヘイト』タグの意味を踏まえて、苦手な方はご注意ください。▼※複数…


総合評価:672/評価:8.23/連載:20話/更新日時:2026年06月09日(火) 00:00 小説情報

スズキサトルの日常(作者:ふじら)(原作:オーバーロード)

モモンガが聖王国に何故か人化した状態で単独転移?して楽しむだけの話。


総合評価:1880/評価:8.62/連載:7話/更新日時:2026年05月23日(土) 12:52 小説情報

ガゼフに着いていって王国に仕官した単独転移アインズ様(作者:万里支店)(原作:オーバーロード)

書きたいところだけ書いたオーバーロードの二次創作です。単独転移してカルネ村助けてガゼフに着いていって王国に仕官し、帝国との戦争に出兵したアインズ様のお話


総合評価:3687/評価:8.75/短編:10話/更新日時:2026年06月13日(土) 17:33 小説情報

えっ凡人がアインズ様に憑依?!(作者:Revak)(原作:オーバーロード)

▼とある男は目が覚めたらなんと転移直後のモモンガ様になってしまっていた?!▼中身が別人だとバレるわけにはいかないとアインズ様ロールプレイをしながら原作を進めていく!▼その過程で原作知識を使い死亡キャラを救う、かもしれない。▼アンチ・ヘイトはモモンガ様になっているので原作ぶっ壊してるのでつけてます。▼寝取りは原作モモンガさんからアルベド寝取ってるのでつけてます…


総合評価:516/評価:6.84/連載:8話/更新日時:2026年06月07日(日) 15:12 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>