魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase4-8 遷都

アインズが新天地の未来図をプレゼンしてから、三か月後――。

 

ある日の夕刻、山積みの書類(その大半はアインズには理解不能な高度な経済・金融政策)と格闘し、精神的な胃痛に耐えていたアインズのもとに、アルベドが訪れた。

 

「失礼いたします、アインズ様。いま少々お時間をよろしいでしょうか」

「アルベド。この時間に来るとは珍しいな。何か緊急の報告でもあったか?」

 

内心で「また何か想定外のトラブルか」とビビりながらも、アインズは至高の支配者にふさわしい、重厚で落ち着いた声音を響かせる。

幸いにも、アルベドの表情に焦りの色はなかった。むしろ、誇らしげな、陶酔すら含んだ笑みを浮かべている。

 

「アインズ様より仰せつかっておりました、新天地開拓の件ですが……間もなく、すべての工程が完了いたします」

「……なにっ?」

アインズの思考が、一瞬完全に停止した。

 

(はああああああっ?! 早すぎだろっ! どれだけの突貫工事でも十年、いや二十年はかかるぞ?! いくらアンデッドが不眠不休で働いて、魔法を酷使したからって、三か月ってどういうことだよ!)

 

だが、アインズの身体(オーバーロード)は、そんな激しい動揺を瞬時に強制鎮定する。緑色の光が全身を包み、アインズは平然とした態度で深く頷いた。

 

「ふむ……。流石だな、アルベド。私の期待通りの働きだ」

「恐悦至極にございます。アインズ様が示してくださった完璧なグランドデザインがあればこそ、我々も迷いなく作業を進めることができました」

(いや、俺はただのポンチ絵と、うろ覚えの知識を並べただけなんだけど……)

 

「もしお時間がよろしければ、完成した新都市を上空からご覧になりませんか。ぜひ、アインズ様に最初にお見せしたく」

「よかろう。案内せよ」

 

<グレーター・テレポーテーション>

<フライ>

 

飛行魔法<フライ>を展開し、夕闇に染まり始めた空へと舞い上がる。

眼下に広がったのは、アインズの想像を遥かに絶する、美しくも機能的な大都市の姿だった。

 

かつて瓦礫の山と化していた王国の面影は、もはやどこにもない。

白い石材で統一された街並みが、まるで設計図をそのまま大地へ描き写したかのように整然と広がっている。

 

都市を貫く大通りが伸び、その地下に埋設されたパイプラインから供給される液状魔力が、淡く青白い光となって街全体を脈動するように巡っていた。それらはまるで大地を流れる光の河のように、夜の訪れを拒むかのように都市を照らしている。

 

さらにその上空。

石造りの壮麗な高架橋が何本も都市を横断していた。

魔導高架鉄道。駅を中心として、人と物の流れを生み出すための巨大な動脈である。

学校。工場。住宅街。市場。行政区画。

あらゆる施設が秩序だった配置で並び立ち、それぞれが独立しながらも、一つの巨大な生命体の器官のように機能するよう設計されていた。

 

そして何より異様だったのは――誰もいないことだった。

都市は完成している。今すぐ数万の民を受け入れられる。

にもかかわらず、街路にも広場にも人影はない。

ただ無数の魔導ライトと、脈動する魔力の光だけが輝き続けている。

それはまるで、まだ生まれていない未来そのものだった。

 

アインズはしばらく言葉を失った。

(なんだよ……これ……。本当に……造っちまったよ……)

 

 

【挿絵表示】

 

 

アインズは元サラリーマンだ。都市計画の専門家でもなければ政治家でもない。

ほんの思いつきで語った理想論。プレゼン資料に描いた夢物語。

それがいま、圧倒的な現実となって眼下に存在していた。

 

アルベドは、沈黙するアインズをしばらく見つめていた。

 

「……アインズ様」

ようやくアルベドが声をかけ、ゆっくりと手を上げた。

アルベドの手の方向へ顔を向けると、そびえ立つ建築物が目に入る。

「どうぞこちらへ。ご案内いたします」

アルベドは純白のオペラグローブの手で、アインズの手をそっと包み、そびえ立つ建築物の方向へ、アインズを引くようにして飛びはじめた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

近づくにつれてその姿が明らかになっていく。

そこには、周囲のデザインとは一線を画した、重厚かつ繊細な石造りの巨大な宮殿が鎮座していた。

(これは……素晴らしい……)

 

圧倒されるアインズを尻目に、アルベドが誇らしげに語る。

「こちらが新都市の心臓部、王宮でございます」

「王宮だと?」

「はい。もはやエ・ランテルの領主館は、アインズ様にふさわしい場所ではありません。そう思い、新都市に王宮を造りました」

「アルベドよ。私の本拠地はあくまでもナザリック地下大墳墓だ。王宮など不要ではないか」

「もちろんでございます。ですが、エ・ランテルでの政務は、もはや弊害でしかございません」

(自分がエ・ランテルの狭い領主館に飽き飽きしてるだけなんじゃないか? だが……)

「ふむ。一理あるな」

「では、政務を行う場所を、この王宮に移しましょう! アインズ様の執務室もご用意してあります」

そこでアルベドは言葉を区切り、

「くふふ」

怪しげな声を漏らした。アルベドの金色の瞳が怪しく濡れている。

「王宮内に、特別なお部屋もご用意してあります」

ぞくぅっ! アインズがあわててアルベドの手を離すと、

「あ……」アルベドが小さな声を漏らした。

 

あらためて王宮を見下ろすと……白と黒の石材による壮麗なゴシック建築。豪華絢爛というよりも、国家の統治中枢としての威厳を備えていた。それは決して王の威厳を示すものではなく、理想国家を運営するための実務空間だ。

 

アインズはその機能美に圧倒された。

「……ふむ。アルベド。美しいな」

バサリ! アルベドの腰の翼が大きく開く。

「そ、それは、わたくしが、でございますか? それとも、この王宮が、でございますか?」

アルベドが胸の前で手を組み、期待する眼でアインズを見つめた。

(ぬ、しまった! ……これ、どっちが正解? 王宮と答えるのは……地雷?)

「んっんん!」

咳払いを一つしたアインズは、

「よろしい。今後は外での政務はこの王宮で行うこととしよう」

と、なんとか乗り切った。

 

「それではアインズ様。ご提案がございます」

アルベドが控えめながらも、艶のある声で言った。

「遷都されては、いかがでしょうか?」

「ふむ。遷都か」

「はい。この新都市に王宮を設けた今こそ、遷都を断行すべきです。それには四つほどの利点がございます」

「ほう。三つだと思っていたが……四つだったか」

「アインズ様もお考えだったのですね?! ではアインズ様のお考えをお聞かせください!」

「いや……んん! アルベドの四つについて聞かせてもらおう」

「一つ目は、都市全土に供給される液状魔力の循環と、アインズ様の存在を完全にシンクロさせる中央集権化。二つ目は、交通網の要所に王宮を置くことにより、都市全体への統治効率の飛躍的な向上。三つ目は、この機能美を極めた王宮によるアインズ様の思考循環の最適化。そして四つ目……それは、民が常に仰ぎ見る場所にアインズ様を座すことで、この国に『不動の神』としての秩序を定着させることです」

(む、難しい……ほとんど頭に入らなかった)

「良いだろう。この地へ遷都する」

「ああ、アインズ様。この上ないご決断です!」

 

「だが、まだこの素晴らしい新都市には名前がないな」

「『アインズブルグ』というのはいかがでしょう」

「私の名前を付けるのはどうかと思うぞ」

「パンドラズ・アクターは、『アインズ・シュタット』が良いと申しておりましたが……」

(出たよ、ドイツ語。アインズの都市……って意味か? どんだけ自己主張が強い王かと思われるだろ。あいつ、後で絶対に説教してやる)

「却下だ」

「では、どのような名前がよろしいと?」

 

アインズは再び眼下を見下ろした。

青白い光が大地を流れている。

誰もいない街。

だが、やがてここに人々が集う。

学び、働き、暮らし、笑う。

新しい時代が始まる――そんな予感がした。

 

「ノヴァリア……。新しい時代の都市――そのような意味だ」

「素晴らしい名前です! アインズ様が望まれるのは、過去という概念そのものの終焉。この都市は、滅びた文明の上に築かれる新たな理(ことわり)なのですね?」

「ま、まあ、そんな感じ……だ」

 

アインズは否定しなかった。

眼下に広がる広大な都市。

その光景は、ナザリックという閉ざされた箱庭から、外の世界へ「文明」という名の支配を広げるための布石として、あまりにも完璧すぎた。

 

「アルベド」

「はい」

アインズは静かに、しかし力強く告げた。

「この街は、私が見たいと願った夢だ。そして、これからは私の民たちが見るべき未来となる。準備を進めよ。この『ノヴァリア』が、真に魔導国の心臓となるその瞬間まで、淀みなく動くのだ」

「はっ。御心のままに」

 

空を見上げれば、そこにはナザリックの支配者たるアインズを祝福するかのように、夜空が静まり返っていた。三か月前のあの日、ただの思いつきで口にした理想論は、いまや異世界を揺るがす巨大な潮流となろうとしている。

(たっち・みーさん、ウルベルトさん、ペロロンチーノさん、ぶくぶく茶釜さん、ヘロヘロさん……みなさん。新しい都市ができましたよ……)

 

もはや迷いはない。偉大なる魔導王の支配は、この新しい都市から、次なるステージへと歩みを進めるのだ。

 

「……ところで、アルベドよ」

「はい、なんでしょう、アインズ様」

「先ほどから……その、ずっと気になっていたんだが……。あの塔は……」

地平線の向こうに、青白く光る超高層塔が立っていた。

「はい! アインズ様が私との『デート』の際に造られた塔にございます」

アルベドが腰の翼をパタパタさせた。

「毎日、磨かせております」

(えええ~? おもちゃを造ってみただけなのにぃー? なんか「ダイヤブロック」みたいになってんじゃん)

 

そこには、アインズが遊びで造った「東京タワー」が、無数の魔導ライトの電球が装飾され、青白く光り輝き、そびえ立っていた。

(邪魔……だな。あれ)

 

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