魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase4-9 招待状

ローブル聖王国。ネイア・バラハ率いる「教団」本部。

 

「……今日の新聞」

いつもの「お約束」の後、シズがどさっ!と新聞を置いた。

「いつもありがとうございます、シズ先輩!」

 

「……今日のトップ記事は、新都市完成内覧会、開催決定」

「新都市……完成内覧会? なんのことですか?」

「……新天地開拓プロジェクト、間もなく完了」

「はああああぁーっ! 間もなく完了って……まだ三か月? しか経ってませんよ?!」

「……アインズ様は偉大」

「もちろんそうです! しかし、いくらなんでも……!」

ネイアはあわてて新聞の一部を抜き取ると、ばさっと広げて読み始めた。

凶眼が活字を追う。

 

「……ネイアをご招待」

「……え?」

「……ローブル聖王国から、カスポンド・ベサーレス聖王とネイアを招待する。あと補佐官もおまけ」

「か、完成内覧会に、私を、招待……?」

「ん!」

シズが小さく親指を立てる。

「……これ招待状。ネイアの分」

「ああっ、あああああぁーーーっ」

ネイアは両膝をドン! と床につき、両腕を天に突き出すと、感激の涙を流した。

 

突然ぐるんっ!と頭を回転させたネイアが、涙に濡れた凶眼でシズで見る。

「アインズ様にはっ? アインズ様にはお会いできるんですかっ?!」

「……やっぱり可愛くない」

「ぐっ! 眼のことはいいですからっ! アインズ様には、お会いできるんですかっ!」

「……当日の案内は、パンドラズ・アクター」

がくっ。ネイアは首をうなだれた。

 

「……ネイアとパンドラズ・アクター。二人が揃うと、たぶんうるさい」

 

◇ ◇ ◇

 

バハルス帝国皇城。皇帝の執務室。

その空気は、重く張り詰めている。しかし、今日はまるで空気が凍りついたかのような沈黙が支配していた。

 

報告を終えたヴァミリネンが、額に脂汗を滲ませて立ち尽くしている。その報告内容があまりにも現実離れしていたからだ。

「……もう一度言え、ヴァミリネン」

「はっ……。旧王国領の再開発が間もなく完了するとの報……間違いございません。魔導国より、正式に内覧会への招待状が届きました」

 

ジルクニフの思考が、ガラガラと崩れ落ちる音がした。

隣に控えていたバジウッドが、信じられないものを見る目でヴァミリネンを凝視している。彼の顔面は、すでに青ざめることさえ通り越して土気色だ。

「馬鹿な……! まだたったの三か月だぞ?!」

バジウッドが声を荒らげた。

「あの瓦礫の山となった旧王国領だぞ! 整地だけでどれほどの時間がかかる?! そこにインフラを通し、都市を築き、防壁を巡らす。どれだけアンデッドを酷使しようが、最低でも十年……いや、二十年はかかる大事業のはずだ!」

「……それが、招待状によれば、すでに都市は居住可能な状態にあり、液状魔力供給網も完全に稼働しているとのことです」

 

ジルクニフは椅子に深く沈み込み、こめかみを右手で押さえた。

彼にはわかる。これが何を意味するのか。

単なる建設技術の誇示ではない。これは、「魔導国は人間がこれまで築き上げてきた『文明の常識』そのものを、遊び道具のように書き換えられる」という宣告だ。

(三か月……。奴らは、俺たちが数十年かけて行う苦労を、ひと夏で片付けたというのか……)

 

ジルクニフの脳裏に、アインズ・ウール・ゴウンという怪物の姿が浮かぶ。

あのおぞましい骸骨は、常に何千手も先を読み、帝国という盤面を自分の庭のように弄んでいる。その力の一部が、いま眼前に現実として突きつけられた。

 

「……内覧会、か」

ジルクニフの声は、自分でも驚くほど乾いていた。

「行くしかあるまいな、バジウッド」

「仰る通りです。ですが、陛下。完成した都市を見せつけ、帝国を嘲笑う……いや、もっと恐ろしい何かを我々に見せつける気かもしれません」

「なんであろうが、我々には拒否権がない」

ジルクニフは立ち上がった。その背中には、重圧に押しつぶされそうな支配者の孤独が滲んでいる。

「ヴァミリネン。魔導国へ返書を。帝国は喜んで内覧会へ出席すると伝えろ。笑顔で、心からの『祝福』を送るのだ」

 

去っていくヴァミリネンの足音を聞きながら、ジルクニフは窓の外へ目を向けた。

かつて最強だと信じていた帝国が、いまやちっぽけな砂の城に見える。

(くそっ! アインズ・ウール・ゴウンめ!)

 

心の中で毒づきながら、ジルクニフは静かに目を閉じた。

 

◇ ◇ ◇

 

トブの大森林。液状魔力精製工場、魔導ボンベ製造工場などが立ち並ぶ広大な敷地。

 

魔法の微かな駆動音が響く工場の一角。

ゴンド・ファイアビアドは、ふと背後の気配に顔を上げた。

そこには、一人の少女の姿があった。

アウラ・ベラ・フィオーラ。彼らが畏怖する「ナザリック」の支配者の一人。

 

「アウラ様。本日はどういったご用件で?」

ドワーフの工匠たちも、アウラの姿を見て一斉に作業の手を止めた。

アウラは無邪気な笑みを浮かべたまま、手にした羊皮紙をゴンドに向かって放り投げた。

「お疲れさん、ゴンド! 招待状だよ!」

ゴンドが慌てて羊皮紙をキャッチする。

 

――新都市ノヴァリア完成内覧会への招待状――

 

周囲のドワーフたちがざわめき始めた。

「内覧会? 旧王国領土の都市か?」

「もうできたんかい!」

「冗談じゃろっ? まだ三か月じゃぞ!」

 

ドワーフたちは、石を削り、金属を打ち、代々受け継がれてきた技術を信条とする種族だ。だからこそ、彼らは理解できてしまう。三か月という時間が、いかに狂気じみた短期間であるかということを。

 

ゴンドは手が震えるのを必死に抑えながら、招待状を強く握りしめた。

アインズが示そうとしているのは、単なる建設技術ではない。ルーン工学を組み込み、液状魔力を都市の血液のように循環させる、夢の「魔導都市」の姿だ。

 

「我々のようなルーン工匠まで、このような……」

「アインズ様が『工匠たちの目で、その完成した姿を確かめてきてほしい』って言ってたよ」

アウラの瞳が、どこか慈しむように細められた。

 

「――全工匠に告ぐ!」

ゴンドの怒鳴るような声が、工場内に響き渡る。

「内覧会への出席を許されたぞ! 至高の御方が築き上げた新都市、そこに我らのルーン技術がどう昇華されているのか! その真価を、職人の魂を懸けてその目に焼き付けに行くぞ!」

 

アウラは満足げに頷くと、踵を返して森の闇へと消えていく。

 

残されたドワーフたちは、手にした道具を握りしめ、かつてない情熱を持って再び作業台へと向かった。ここにいる者は皆、アインズ・ウール・ゴウンという巨大な渦の中に身を置く覚悟を決めた者たちだ。その背中には、職人特有の執念が燃えていた。

 

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