魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
「魔導ボンベを作っただと!?」
エ・ランテル、執務室。
ンフィーレアの報告を聞いた瞬間、アインズは思わず大声を上げていた。
「も、申し訳ございません!」
ンフィーレアが慌てて頭を下げる。
「勝手に名前をつけてしまい……!」
(いや、そこじゃねぇよ!)
アインズの内心は大混乱だった。
(ボンベってことは運搬可能ってことじゃん! もうLPガスじゃん!)
液状魔力。それを圧縮保存。さらに持ち運び。
そこへ配給システムまで組み合わされば――。
(デスナイトに配達させれば、各家庭に設置できる……)
ふと想像してしまう。
黒い鎧のアンデッドたちが、無言で各家庭へボンベを交換して回る光景を。
(運搬費、ほぼゼロじゃねぇか……)
そこへさらに――。
照明。加熱。魔導具。
もし液状魔力が一般利用され始めれば――。
(これ、もう半分インフラ革命だろ……)
アインズは思わず黙り込んだ。
執務室へ重い沈黙が落ちる。
ンフィーレア。
アルベド。
アウラ。
メイドたち。
全員が緊張した面持ちでアインズを見つめていた。
「……ん?」
アインズはようやく視線に気付く。
「あ、いや」
咳払い。
「怒ったわけではない」
その言葉だけで、室内の空気が一気に緩む。
「まさか、もうそこまで開発が進んでいるとは思わず……驚いただけだ」
「はっ……!」
ンフィーレアが安堵したように胸を撫で下ろす。
アルベドも僅かに表情を和らげた。
「ところで」
アルベドが口を開く。
「アインズ様は、ルーン刻印の量産をご命令なさいました。それはどうなったのかしら」
「ああ、それならもう目処立ってるよ」
アウラが気軽に答えた。
「ドワーフたち、めちゃくちゃ張り切ってたし」
(早っ!)
アインズは内心で叫ぶ。
(ルーン量産化して、さらにボンベ試作まで終わってるとか、仕事早すぎだろ!)
「ボンベも、『アインズ様のためなら』って皆すごかったよ」
「……そうか」
アインズは厳かに頷く。
「ドワーフたちの協力に感謝せねばならんな」
「アインズ様」
ンフィーレアが口を開く。
「もしよろしければ、ゴンドが実物を持参しております。ご覧になりますか?」
「ほう、ゴンドが来ているのか。通すがよい」
メイドが扉を開く。
「お、おもっ……!」
巨大な金属容器を抱えたゴンドが、ふらつきながら入ってきた。
自分の身長ほどもある円筒形の金属容器。
側面にはルーン文字が刻まれている。
「アインズ様! ご無沙汰しております!」
「うむ。よく来たな、ゴンド」
「これが『魔導ボンベ』ですじゃ!」
ゴン、と床へ置かれる。
重い金属音が響いた。
(……完全にLPガスだこれ)
アインズは頭を抱えたくなった。
ンフィーレアがおずおずと尋ねる。
「アインズ様。名称ですが……もしお気に召さなければ、別の名前へ変更いたします」
「ん?」
アインズは首を振る。
「いや。魔導ボンベ――実に良い名ではないか」
「ありがとうございます!」
ンフィーレアの顔が輝く。
(いやでもこれ、本当に文明進むぞ……)
アインズの危機感はむしろ増していた。
「あれはもう見せたんか?」
ゴンドが口を挟む。
「あっ、そうでした!」
ンフィーレアが慌てて頷く。
「アインズ様、もう一つお見せしたいものがあります!」
「……まだあるのか」
アインズが僅かに身構える。
「見せてみよ」
アインズがメイドへ視線を送る。
だが。
「あ、いえ。ここにあります」
ンフィーレアは自分のポケットへ手を入れた。
取り出したのは、小さな金属板。
名刺ほどのサイズ。厚みも薄い。
「これは?」
「こちらも液状魔力を保存したものです」
ンフィーレアは興奮を抑えきれない様子で説明する。
「魔導ボンベのように大容量ではありませんが、小型化によって携帯可能になりました」
アインズの思考が止まる。
携帯。
小型化。
その単語が脳内で繋がった。
「電池ではないか!」
思わず叫んでいた。
「でんち……?」
全員の顔が揃って困惑する。
「あ、いや」
アインズは咳払いした。
「気にするな。それで、液状魔力が切れた場合は?」
「再充填できます!」
ンフィーレアが即答する。
「繰り返し利用可能です!」
(いやちょっと待て……バッテリーを創った……ってこと?)
沈黙。
アインズの脳裏へ、一気に未来像が流れ込んだ。
携帯型魔導具。照明。通信。移動装置。配線不要。エネルギー携帯化。
(……やばい)
本能的に理解した。
これは――本当に――文明が変わる。
「素晴らしい……」
アインズは低く呟いた。
「実に素晴らしいぞ、ンフィーレア」
「はっ!」
ンフィーレアの顔が歓喜に染まる。
「お喜びいただけて幸せです!」
アインズはゆっくり頷いた。
「魔導ボンベ」
そして、小さな金属板へ視線を向ける。
「そして、こちらは『魔導電池』と呼ぶとしよう」
アルベドの胸中へ、再び焦燥が広がった。
まただ。また知らない言葉。また理解できない知識。
だが――アインズ様は迷いなく名付けた。
つまり――アインズ様の中では、既に完成された概念なのだ。
(やはり私たちは……)
アルベドは静かに唇を噛み締めた。
(アインズ様の御知識へ、まるで届いていない……)