魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase4-11 新都市完成内覧会 <敗北の夜>

「さあ、皆様。アンデッドバスにご乗車ください。ノヴァリア王宮へご案内いたします」

ユリ・アルファの冷静な声が響く中、要人たちは、まだ熱を帯びた興奮と、拭いきれない畏怖の念を抱えながら、アンデッドバスに乗り込んだ。

 

アンデッドバスが静かに動き出す。

中央駅前広場を離れても、誰一人として会話を始めなかった。

窓の外を流れていくノヴァリアの街並みが、あまりにも現実離れしていたからだ。

 

整然と区画整理された街路。

青白い液状魔力の光に照らされた大通り。

規則正しく並ぶ魔導ライト。

広場、公園、水路、住宅地。

 

そのすべてが、最初から一つの意志によって設計されたかのように調和している。

 

ジルクニフは窓の外を見つめながら、無意識に奥歯を噛み締めた。

帝都もまた、美しい都市だった。いや、美しいと信じていた。

歴代皇帝が築き上げた宮殿。貴族たちが誇った街区。職人たちが磨き上げた石畳。

だが今、その記憶は音を立てて崩れていた。

帝都は積み重ねの結果だ。

歴代皇帝の政策。貴族の利権。政治的妥協。偶然。混乱。

それらが何百年も積み重なって生まれた都市だった。

 

だがノヴァリアは違う。まるで神が最初から完成図を描いて造った都市だった。

(勝てるわけがない……)

ジルクニフは胸の奥に広がる敗北感から目を逸らすことができなかった。

 

アンデッドバスが中央大通りに入ると、正面に王宮の姿が見えてきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

やがてアンデッドバスは、王宮前広場で停止した。

その瞬間、誰もが息を呑んだ。

白と黒の石材が織りなす巨大な王宮。

夜空を切り裂くような主塔。翼を広げるかのように左右にそびえる副塔。

青白く輝く巨大なステンドグラス。

それは豪奢な宮殿ではなかった。

国家そのものを具現化したかのような建築だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……なんという……」

誰かが呟いた。だが、その先が続かない。言葉が存在しないのだ。

ジルクニフも同じだった。

彼の脳裏に浮かぶのは帝都の皇城。

かつて誇りだったその宮殿が、今は幼児の玩具のように見えた。

 

◇ ◇ ◇

 

王宮内部へ足を踏み入れる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

広大な中央ホール。

青白く輝く巨大な魔導シャンデリア。左右へ広がる大階段。高く伸びる天井。

 

誰も声を発しなかった。

まるで神殿だ。だが神を祀る場所ではない。国家を運営するための建物である。

その事実が、より一層彼らを戦慄させた。魔導国にとって、この規模ですら日常なのだ。

 

魔導国の記者たちは、震える手で魔導カメラのシャッターを切り続けた。

この光景を国民に伝えるという使命感だけが、彼らを動かし続けていた。

 

◇ ◇ ◇

 

「本日は特別に、執務室を見学していただけます。どうぞこちらへ」

案内役のユリに促され、上階へと上がると、アインズの執務室の扉が開かれた。

そこでジルクニフは決定的な一撃を受けた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

巨大な窓――そこから見下ろせるノヴァリア全景。

中央通り。中央駅。魔導高架鉄道。

行政区画。住宅区画。物流区画。公園。

――すべてが見える。

 

そしてジルクニフは気付いた。

これは都市ではない。国家そのものだ。国家全体が一つの設計図によって作られている。

帝都は違う。歴史の積み重ねだ。だがノヴァリアは、最初から完成している。

(これは……都市ではない。理想国家そのものだ……)

その瞬間、ジルクニフの胸に、剣で斬られるよりも深い敗北感が突き刺さった。

 

「……完璧じゃ」

ゴンドが震える声で呟く。ドワーフたちも言葉を失っていた。

彼らは技術者だ。だからこそ理解できる。

これは偶然などではなく、圧倒的な知性によって生み出された結果だと。

 

◇ ◇ ◇

 

見学を終えた一行は、本日の宿泊先である『ノヴァリア・グランド・プラザ』へ案内された。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ホテルへ入った瞬間、再び驚愕が訪れる。

豪華さではない。快適さだった。

部屋に案内されたジルクニフは、何気なく洗面台の蛇口を捻った。

水が出た。止める。止まる。もう一度捻る。また出る。

ジルクニフは数秒固まった。

「……なんだ、これは」

当たり前のように水が出る。

魔法ではない。召喚されたものでもない。誰かが運んできたわけでもない。

ただ蛇口を捻れば出る。その事実に戦慄した。

 

◇ ◇ ◇

 

夕食会が始まった。

ナザリックから派遣された料理人たちが腕を振るう。

シホウツ・トキツ。クラヴゥ。魔導国最高峰の料理人たちである。

 

料理が運ばれた。

誰も喋らなかった。

一口食べる。また食べる。さらに食べる。酒を飲む。また食べる。

会話がない。外交もない。駆け引きもない。

ただ全員が料理に敗北していた。

 

ドワーフの一人がぽつりと漏らした。

「……誰も政治の話をしておらん」

その言葉に、一同はようやく我に返った。

 

しかし次の料理が運ばれてくると、再び沈黙が支配した。

 

◇ ◇ ◇

 

翌朝。

 

ジルクニフは窓辺に立っていた。

眼下にはノヴァリアの街並み。朝日に照らされた白い街路。

整然と並ぶ建物。静かな噴水。遠くを走る魔導高架鉄道。

その景色を見ていた時だった。

ふと、心の奥から声が聞こえた。

 

(ここに住みたい)

 

ジルクニフは凍り付いた。

次の瞬間、自分自身に戦慄した。

(何を考えている。私はバハルス帝国皇帝だ)

だが、それでも……この街で暮らしたいと思ってしまった。

 

その事実こそが、最も恐ろしかった。

 

◇ ◇ ◇

 

<ゲート>を抜けて帝都へ戻った瞬間、ジルクニフは立ち止まった。

豪華絢爛だった帝都。かつて誇りだった帝都。

だが今は違う。街が古びて見える。暗く見える。狭く見える。

ノヴァリアを見た後では、すべてが色褪せて見えた。

 

皇城へ戻ったジルクニフは深く椅子へ腰を沈めた。

「……完敗だ」

軍事力では勝てない。技術力でも勝てない。

都市計画でも勝てない。生活水準ですら勝てない。

 

だが――。

ジルクニフはゆっくりと顔を上げた。

その瞳には、まだ消えない光が残っていた。

「力では勝てぬ。ならば別の武器を探すしかあるまい」

 

机の上に広げられた地図を見下ろす。

アインズ・ウール・ゴウン魔導国。バハルス帝国。ローブル聖王国。ドワーフ国。

スレイン法国。竜王国。アーグランド評議国。

――世界は広い。

 

そして政治も経済も、人の心も、剣だけで動くものではない。

ジルクニフは静かに拳を握った。

絶望は終わった。ここからが始まりだ。アインズ・ウール・ゴウン魔導国――その理想国家に対抗するための、バハルス帝国の新たな戦いが。

 

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