魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase4-12 エイト・リーブス

新都市完成内覧会の翌日。

ノヴァリア王宮の一室に、ヒルマ・シュグネウスをはじめとする八本指の幹部たちが集められていた。彼らはまだ、自分たちがなぜここに呼び出されたのか、理解できていなかった。

 

部屋の奥側では、純白のドレスをまとったアルベドが、冷徹な美しさを湛えて佇んでいた。その支配的な気配を前に、室内の大気は凍りついたかのように硬直する。

 

跪く八本指の幹部たちは、冷たい大理石の感触も忘れ、ただ首を垂れて沈黙していた。眼前の女王が言葉を落とすのを待つその数秒が、彼らにとっては、いつ断頭台の刃が落ちるか分からぬ永遠にも等しい時間だった。

 

「あなたたちを呼び出したのは、至高の御方、アインズ様の御慈悲に他なりません」

アルベドの言葉に、ヒルマたちは一斉に居住まいを正した。アインズの名前が出ただけで、彼らの心臓は高鳴る。

 

「かつてあなたたち八本指は、愚かなるリ・エスティーゼ王国の闇を象徴する『毒』として機能していましたね」

ヒルマは思わず息を呑んだ。過去の罪を糾弾されるのかと、身体が強張る。

 

「しかし、アインズ様はその『毒』を、我が魔導国の有益な『薬』へと昇華させるという、深遠なる叡智をお示しになられたのです」

ヒルマは顔を上げた。アルベドの表情は変わらないが、その言葉には、何か重大な意味が込められているように感じられた。

 

「この新都市ノヴァリアは、アインズ様の御英知と御慈悲の結晶です。そして、この完璧な都市を管理し、運営する実行部隊が必要となります」

アルベドはゆっくりと、しかし確固たる口調で告げた。

「その任を、あなたたちに与えます」

 

ヒルマたちは、一瞬、脳内が白く染まるのを感じた。自分たちが、この想像を絶する未来都市の管理を? 裏社会の人間だった自分たちが?

 

「……わ、私たちが、でございますか?」

ヒルマが震える声で尋ねた。

「その通りです。あなたたちはかつて、王国の『毒』として、その裏側や死角、脆弱性を隅々まで知り尽くしていた。そのおぞましいまでの知見と経験こそが、ノヴァリアを、至高の御方が望まれる真の理想郷として機能させるための、唯一無二の『薬』となるのです」

 

アルベドの視線が、ヒルマを見透かすように向けられた。

「ヒルマ・シュグネウス。あなたには八本指のリーダーとして、その統率力とマネジメント能力を発揮し、ノヴァリアの都市管理の全体統括を任せます」

ヒルマの脳裏に、アインズから「お前は非常に高いマネジメント能力を持っている」と褒められた言葉が蘇った。あの時の感激が、再び胸に込み上げてくる。

「は、はいぃ! アインズ様の御期待に沿えるよう、全身全霊を捧げますぅ!」

ヒルマは感極まり、涙を流しながら土下座した。

 

「コッコドール。あなたには、ノヴァリア全域の監視と、ほころびの排除を任せます。かつて裏社会の暗部を熟知していたその眼識で、この都市の新たな死角を暴き出しなさい」

「承知いたしましたぁ!」

 

アルベドは、他の幹部たちにも視線を向けた。

「そして……かつて金融部門を統括していたあなたに、ノヴァリアの経済、および金融システムの管理を命じます」

アルベドの眼差しは、冷たく相手の足元を這うように注がれた。

「裏社会の淀んだ金の流れを掌握していたその汚れた手腕を、今度はこの都市の健全なる経済基盤へと転用しなさい。一エンの狂いも許されぬと心得なさい」

「は、はい! 必ずやアインズ様の御期待に応えてみせます!」

 

「情報部門を統括していたあなたには、ノヴァリアにおける市民の情報管理と宣撫(せんぶ)工作を命じます。かつて裏社会で真実を歪め、情報を操り、民を思うままに動かしていたその悪辣なる手腕を活かしなさい」

「ははぁっ!」

 

アルベドは静かに、しかし冷徹なまでの厳粛さを持って告げた。

「そして――あなたたちに、新たな名を授けましょう」

(新たな……名前……?)

 

「これよりあなたたちは、『エイト・リーブス』と称しなさい。至高の御方、アインズ様の御慈悲の下、ノヴァリアという大樹を支える八枚の葉として……その歪な生を、我らが覇業のために捧げるのです」

 

「エイト・リーブス……」

ヒルマは、その響きを噛み締めた。かつての忌まわしい「八本指」とは異なる、清らかな、そして誇り高い響き。

 

ヒルマは、涙で濡れた顔を上げ、窓の外に広がる、青白い光に包まれた都市を見つめた。

かつて、自分たちが支配していたリ・エスティーゼ王国の裏社会は、泥と血に塗れた世界だった。しかし、いま目の前にあるのは、魔導王が創造した光り輝く理想郷。

その理想郷を、自分たちが管理する。

戸惑いはあった。しかし、それ以上に、魔導王への絶対的な忠誠と、この新たな使命への燃えるような情熱が、ヒルマの心を支配していた。

 

(アインズ様……。このヒルマ、必ずや、このノヴァリアを、陛下が望む最高の都市にしてみせます……)

 

かつての「毒」は、ノヴァリアという大樹を育む「薬」へと変貌を遂げた。

エイト・リーブスとしての、彼らの新たな物語が、今、始まった。

 

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