魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
Phase5-1 未来へのエンジン
バハルス帝国。帝都。
古びた工場の奥、油と鉄の匂いが染みついた作業場。
キーロ・タヨトは、机の上に置かれた小瓶をじっと見つめていた。
魔導国から輸入されてくる液状魔力。
青白く光るその液体は、ただの魔力とは違う、奇妙な「圧」を感じさせた。
(押し込めば押し込むほど、力を溜める……。まるで生き物みたいだ)
工場の奥では、古い圧搾機がガコン、ガコンと音を立てている。
キーロはその音に合わせるように、液状魔力の瓶を軽く揺らした。
(魔導国のバス、タクシー、高架鉄道……。どれもアンデッドを動力にしている。もっと小さく……もっと簡単に……。個人が使える動力は作れないのか……)
机の上には、工場で余った金属片が散らばっていた。
キーロはその中から、円筒形の金属パーツを手に取った。
(空気を押し込むと、熱が生まれる……。圧力は力に変わる……。なら、液状魔力を「閉じ込めて」みたら……?)
キーロは円筒に金属片を組み合わせ、即席の「密閉筒」を作った。
上下に動く金属片。密閉された空間。圧力を受け止める構造。
(もし、この中で液状魔力を暴れさせられたら……? この金属片は……押し上げられる……!)
胸が高鳴った。キーロは液状魔力を筒の中に垂らした。
そして、工場の床に落ちていた金属棒を拾い、点火口に差し込む。
(液状魔力は火で燃えるわけじゃない……。刺激で暴れる……。なら、火花でも……)
金属棒を叩く。
カンッ!
瞬間、筒の内部で青白い光が弾け、金属片が跳ね上がった。
「……っ!」
キーロは思わず後ずさった。
「……動いた……!」
工場の薄暗い灯りの中で、キーロの目だけが異様な輝きを放っていた。
「これを……車輪につなげれば……。馬より速く、疲れず、重い荷を運べる……!」
キーロは机に散らばる金属片をかき集め、次々と組み合わせていく。
工場の片隅で、世界初の液状魔力を使用した「エンジン」の原型が形になっていく。
キーロは息を呑んだ。
(帝国は……これで変わる……。いや、世界が変わる……!)
だが、すぐに現実が押し寄せる。
工場の天井から落ちる埃。錆びた機械。資金のない現場。帝国の衰退。
(……資金がいる。工場も、金属も、職人も……全部足りない。だが……これは帝国の未来だ……!)
キーロは試作筒を布に包み、工場の出口へ向かった。
(ジルクニフ皇帝陛下は……きっと分かってくださる!)
扉を開けると、夕陽が帝都の街を赤く染めていた。
キーロの影は、未来へ向かうように長く伸びていた。