魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase5-4 逆襲の設計図

バハルス帝国。帝都アーウィンタール郊外。

皇帝ジルクニフの勅命により新設された『鉄の馬』開発専用工場は、夜になっても熱気を帯びていた。

最新鋭の製図台が並ぶ設計室には、油の匂いと、熱い議論の声が満ちている。

 

ジルクニフ皇帝からの言葉が、この場の全ての者の心に響いていた。

──未来を作れ──

 

キーロ・タヨトは、中央の大型製図台に広げられた巨大な設計図を前に、腕を組み、その全体像を睨んでいた。

彼の周囲では、数名の熟練技師や若き製図士たちが、それぞれの担当箇所で鉛筆を走らせ、計算尺を操っている。

 

「車輪の素材は、やはり金属でいく。魔導国の石畳を高速で走破するには、馬車の木製では強度も耐久性も不足する」

キーロの指示に、一人の技師が頷き、手元の設計図に修正を加える。

「軸受けには、回転摩擦を極限まで減らす機構が必要だ。ベアリングの構造を再検討しろ。速度と安定性を両立させる」

別の技師が、すでに描かれた車輪の設計図を指差し、議論を始める。

「キーロ様、この形状では、高速域での振動が懸念されます。もう少しリムの強度を上げるべきかと」

「うむ。だが重量が増えすぎても問題だ。素材の配合と構造で最適解を探る。試作段階で徹底的に検証するぞ」

 

設計室の中央には、あの「試作エンジンの筒」が厳重に保管され、その周囲には詳細な分析データが貼り出されていた。

青白い光を放つ液状魔力の残滓が、未だ内部に宿っている。

 

「エンジンの配置だが……駆動方式と合わせて再考が必要だ」

キーロは、全体図に描かれたエンジンの位置を指し示す。

「魔導国の道路は基本的に平坦だが、一部には勾配もある。後輪駆動で十分か、それとも四輪駆動も視野に入れるべきか?」

「キーロ様、初期段階では後輪駆動でシンプルにまとめるべきかと。複雑化はコストと開発期間に影響します」主任技師が意見を述べる。

「しかし、将来的な拡張性も考慮すれば……」別の技師が反論する。

キーロは彼らの意見を聞きながら、自身の思考を整理する。

「まずは後輪駆動で進める。ただし、将来的な四輪駆動への改修を容易にする設計を盛り込め。魔導国の道路状況は、我々が想像する以上に整備されているはずだ」

 

議論は燃料供給システムへと移る。

「液状魔力の燃料タンクは、重心を考慮し、この位置に。供給管は太く、短く、安定した流量を確保する」

キーロの指示で、製図士が素早く図面に加筆していく。

「問題は点火装置だ。以前の試作では、単発の衝撃でしか魔力を解放できなかった。これでは『連続した力』にはならない」

キーロは眉間に皺を寄せ、壁に貼られた魔力解放の原理図を睨む。

「連続的に刺激を与える仕組み……。どうすれば、あの爆発的な力を制御し、持続的な動力へと変換できるのか……」

 

その時、キーロの脳裏に閃光が走った。

「そうだ……クランクだ!」

彼は製図台に駆け寄り、空いているスペースに、勢いよく円と棒を描き始めた。

「ピストンの往復運動を、回転運動に変換する機構……! これがあれば、エンジンは連続して動く!」

周囲の技師たちが、キーロの描く図に注目する。

「キーロ様、これは……!」

「この回転軸に、車輪を繋げば……! 連続的な動力が得られる!」

キーロの興奮が、設計室全体に伝播する。

「これだ……これが、我々の『鉄の馬』の心臓となる『エンジン』の基本構造だ!」

 

設計室の明かりの下、キーロと技師たちが描き上げた設計図は、まだ多くの課題を抱える粗削りなものだった。

しかし、そこには確かに、帝国の未来を切り開く「鉄の馬」の姿が明確に描かれていた。

 

キーロは、その設計図を広げたまま、熱い眼差しで呟いた。

「これが走れば……帝国は魔導国に飲まれるどころか、奴らの道路を走り、奴らの市場を奪うことができる!」

キーロの言葉に、周囲の技師たちも静かに頷く。彼らの胸にも、同じ熱い決意が宿っていた。

(陛下……必ずや、ご期待に応えてみせます)

 

キーロは、設計図を丁寧にまとめると、立ち上がった。

「よし、次は試作だ。各部署、連携を密にして、この設計を形にするぞ!」

「「「はいっ!」」」

設計室に、力強い返事が響き渡る。

 

その場にいる全員の背中には、帝国の未来を背負う者たちの覚悟が宿っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

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