魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
「魔導国がまた新しい発明をしただとっ?!」
「そうらしいです。『ケータイ』と呼ぶものだそうで、<メッセージ>のように離れた場所にいる人と話ができるそうです」
「おのれ、アインズ・ウール・ゴウン! 次から次へと!」
バハルス帝国。皇城。
バジウッドの報告を聞いたジルクニフは、わなわなと体を震わせていた。
「キーロは……、『鉄の馬』の開発状況はどうなっている?!」
「設計、試作を繰り返しているそうで、まだ時間がかかるらしいです」
「なにをしているっ! もっと急がせろっ!」
激しい焦燥感に苛まれ、ジルクニフは荒々しくポーションに手を伸ばした。
「陛下。気持ちはわかりますがね。落ち着いてくださいや」
「これが落ち着いていられるかっ! 風穴を開けようとしている相手が、こちらが準備をしている間に、さらに巨大化しているのだぞ!」
――沈黙。ジルクニフの怒声に、バジウッドは沈黙で応えた。
苛立ちに髪を掻きむしっていたジルクニフは、しばらくして、室内が静寂で満たされていることに気づいた。
「……どうした、バジウッド」
「陛下。落ち着きましたかい?」
皇帝陛下のご命令だ、鉄の馬の開発を急げ!――多くの部下であれば、それを伝えるために部屋を飛び出して行っただろう。だが、バジウッドはそんなことはしなかった。それはジルクニフへの厚い信頼であり、気心の知れた間柄だからこそできることだった。
「陛下。キーロに言った言葉を思い出してください。未来を作れ! 我が帝国の新たな武器を創り出すのだ!――陛下はそう言いました」
「……ああ」
「焦って作った未来に希望が持てますか? 今はまだ存在しない我が国の新たな武器――それは突貫工事で創りだすものなんですか? そんなもので、あの巨大な相手に風穴を開けることなんて、できやしませんぜ」
ジルクニフはバジウッドの目を見つめた。
その目には光が灯っている。静かだが、強い意志を持った目――。
帝国が置かれている今の状況で、一つ一つの情報に冷静さを欠いていたら、あの化け物に一矢報いることなどできやしない。ジルクニフは、自らの焦りから、キーロに託した「未来を創る」という大いなる使命の本質を見失っていたことに気づいた。
キーロ・タヨトは、あの燃えるような情熱を胸に、今この瞬間も、帝国の未来を切り拓くため、「鉄の馬」の開発に全身全霊を傾けているはずだ。魔導国の新たな発明が、どれほど世界を揺るがそうとも、キーロが創り出す「鉄の馬」は、必ずや魔導国に風穴を開ける。いや、開けてみせる。
バジウッドを見つめるジルクニフの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「……すまなかった、バジウッド……」
ジルクニフは、静かに、しかし確固たる決意を胸に、窓の外を見た。
その瞳には、もはや焦りの色はなく、未来を見据える鮮血帝の揺るぎない光が宿っていた。