魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase1-5 アインズの苦悩

フォアイルは直立不動のまま、緊張に耐えていた。

本来、『アインズ様当番』の役目とは静かなものだ。

アインズ様が休息される間、傍らで待機する。

呼ばれれば即座に応じる。

それだけ。

普段であれば、控えの椅子へ腰掛け、静かにその時を待つ。

だが――今夜は違った。

昨夜の担当であったシクススから話を聞いている。

アインズ様は苦悩しておられた、と。

もちろん、自分たちメイドへ不満を抱いているようには見えなかったらしい。

むしろ労いのお言葉すらくださったという。

だが――。それでも――。

アインズ様は苦悩していた。そして今夜も同じだった。

巨大なベッドの上で、何度も寝返りを打つ絶対支配者。

フォアイルは息を呑む。

(何を……そこまでお悩みになっておられるのでしょう……)

理解できるはずがない。自分たちのような存在には。

きっと……もっと巨大な……もっと遥かな……。

世界そのものを見通しているからこそ生まれる苦悩。

そんな領域なのだろう。

フォアイルは無意識に、胸元で手を握り締めていた。

その時だった。

 

――アインズの焦燥は限界に達していた。

(なんでだよ!)

内心で叫ぶ。

(俺、『液状魔力を保存できるようにしろ』って言っただけだぞ!?)

それが、気付けば、

魔導ボンベ。

魔導電池。

インフラ革命一歩手前。

(早すぎるだろ!?)

アインズは頭を抱える。

(普通こういうのって何十年もかかるんじゃないのか!?)

ンフィーレア。あいつ、才能がおかしい。

(なんなんだよあいつ……エジソンか? テスラか?)

もちろん本人は知らない。異世界で比較されていることなど。

 

ぞわり――。

本来感じるはずのない悪寒が、アインズの背骨を這った。

(……来る)

本能的に理解した。

(これは本当に来るぞ……)

エネルギー革命。

産業革命。

インフラ革命。

物流革命。

通信革命。

そして――。

(俺がまだ想像すらしてない『何か』まで……)

液状魔力が基盤技術になれば、文明そのものが加速する。

制御できるのか? 本当に?

(やばいんじゃないか……?)

 

気付けば、言葉が漏れていた。

「革命……」

――ピキリ。

空気が凍る。

フォアイルの全身に緊張が走った。

革命。今、アインズ様は確かにそう仰った。

革命。それは何を意味する言葉なのか。

国家転覆?

世界変革?

支配構造の再編?

分からない。

でも、恐ろしく重大な言葉であることだけは理解できた。

(ど、どうすれば……)

フォアイルは混乱する。

何をして差し上げればよいのか。

何を問うべきなのか。

だけど……今、目の前で苦悩されているのは絶対的支配者アインズ・ウール・ゴウン様なのだ。

逃げてはいけない。勇気を出さねば。

「……アインズ様」

「ん?」

アインズが顔を向ける。

「どうした」

「いま……『革命』と仰ったかと……」

フォアイルは震える声で続けた。

「それは……どのような……」

(えっ?)

アインズは内心で硬直した。

(俺、声に出してた!?)

「あー……いや」

誤魔化すように咳払いする。

「気にするな。独り言だ。忘れてくれ」

「は、はい……」

フォアイルは頭を下げ、内心では決意していた。

(これは……皆へ報告しなければ……!)

アインズは改めてフォアイルを見る。

(うわぁ……)

かなり汗をかいている。

(俺、そんな怖いのか……?)

よく考えれば、目の前にいるのは骸骨の魔導王。

しかも、時々意味不明な単語を呟く。

(これ、完全にブラック企業の圧迫上司じゃねぇか……)

かつての上司たちの顔が脳裏を過ぎった。

 

ふと、アルベドの表情を思い出す。

最近、妙に緊張している。

デミウルゴスを見かけたが、彼もそうだった。

(……やっぱり俺の独り言か?)

革命。

LPガス。

電気。

元の世界の単語を漏らすたび、皆が困惑している。

(まずいよなぁ……)

このままでは、ますます誤解が積み上がる。

その時、ふと、ンフィーレアの顔が脳裏に浮かんだ。

(あいつ、今日かなり顔色悪かったな)

魔導ボンベ一杯の液状魔力。

あれを作る苦労は想像もつかない。

そこでアインズはようやく気付く。

(……あ)

問題はまだ残っている。液状魔力そのものの生産性だ。

ルーン量産はできる。容器もできる。

だが――。

肝心のエネルギー生成が、ンフィーレア個人頼りになっている。

(まずはそこを何とかしてやらんと……)

アインズは深く息を吐く。

(うん。一歩ずつだ)

そう。目の前の問題を、一つずつ。順番に。

(……たぶん何とかなる)

まったく根拠はなかった。

 

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