魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase5-9 ニィキュッパの宣戦布告

この頃、ノヴァリアの人口は増加し、魔導高架鉄道、アンデッドバス、アンデッドタクシーはすっかり街に溶け込み、魔導国の民たちは、便利さと豊かさを実感していた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

◇ ◇ ◇

 

バハルス帝国。帝都。皇城の奥深く、機密性の高い私設会議室。

 

皇帝ジルクニフの目の前の机には、提出されたばかりの「ノヴァリア経済調査報告書」と、タヨト自動車の量産コスト試算表が並べられている。

 

「バジウッド、ヴァミリネン。あの骸骨が提示した『一対百』という為替レートだが……」

ジルクニフの声は、低く、獲物を狙う猛禽のような鋭さを帯びていた。

「はい。一エンに対し百ダラ。魔導王陛下が定められた比率が、今、我々に最大の武器を与えてくれました」

ヴァミリネンが震える手で一枚の計算書を差し出す。そこには、帝国側で算出した自動車の適正価格が記されていた。

 

「帝国でこの自動車を売ると、一台あたり2千980万ダラになります。これでも採算はギリギリですが、貴族や大商人なら手が出る価格です」

 

バジウッドが首を傾げた。

「2千980万ですか……。一生かかっても平民にゃ手が届かねぇ大金だな。それを魔導国に売るってのかい?」

ジルクニフは薄く笑った。その瞳には、魔導王への復讐にも似た知略の光が宿っている,。

「そうだ、バジウッド。だが、これを『エン』に換算してみろ。一対百だぞ」

ヴァミリネンが、その「魔法の数字」を口にした。

「29万8千エン、になります」

 

室内に、奇妙な沈黙が流れた。

29万8千エン――。調査によれば、魔導王が推し進めた政策により、魔導国における平均月収は、およそ30万エンにまで跳ね上がっている。

 

「30万エンの月収がある魔導国民にとって、29万8千エンという価格は、何を意味すると思う?」

ジルクニフの問いに、バジウッドが息を呑んだ。

「一か月分の給料、ってことか? まさか、あの鉄の塊が、あっちじゃ一か月我慢すれば買えちまうのかよ?!」

「その通りだ。帝国では一生の宝物となるような最新技術の結晶が、あちらの『豊かな庶民』にとっては、少し奮発すれば買える娯楽品に成り下がる」

 

ジルクニフは机を叩いた。

「魔導王は言った。Win-Winだと。貿易の相手国も豊かにならねば困るとな。ならば、甘んじてその恩恵に預かろうではないか! 彼らが豊かな『エン』を抱え、暇を持て余しているというのなら、我々はそのすべてを吸い上げてやる!」

 

「29万8千……。ニィキュッパ、ですか。語呂もいいですな」

ヴァミリネンが感嘆の声を漏らす。

 

「よし、決めたぞ。魔導国での売値は、29万8千エンだ。一台売れるごとに、帝国には2千980万ダラ相当の外貨が流れ込む。そして――」

ジルクニフは窓の外、魔導国がある西の空を見据えた。

「この自動車で魔導国に風穴を開け、魔導国の市場を帝国の製品で埋め尽くす!」

 

ジルクニフの口角が吊り上がり、狂気と歓喜の混ざった笑みが漏れた。

 

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