魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase5-12 変動の枷

ノヴァリア・グランド・プラザ――新首都ノヴァリアの象徴の一つである最高級ホテル。その最上階にある円卓会議室において、歴史的な会談が幕を開けた。

 

出席者は魔導王アインズ・ウール・ゴウン、宰相アルベド。

対するバハルス帝国側は皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、そして筆頭秘書官ロウネ・ヴァミリネン。

 

 

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窓の外には、液状魔力によって青白く発光する完璧な石畳の街並みが広がる。そこを帝国の「タヨト自動車」が、咆哮を上げながらひっきりなしに行き交っていた。その光景は、バハルス帝国の経済的勝利を誇示するかのようにも、あるいは、魔導国が仕掛けた巨大な罠の完成を告げるかのようにも見えた。

 

「魔導王陛下。我が国の自動車、および扇風機や洗濯機といった数々の製品が、貴国の皆様にこれほど温かく迎え入れられていること、これ以上の誉れはございません」

 

ジルクニフは、完璧な「属国の王」としての微笑を浮かべながら、内面では勝利の確信に震えていた。

(見たか、アインズ・ウール・ゴウン! お前が決めた「一対百」というレートのせいで、魔導国の「エン」は今、滝のような勢いで我が帝国へと流れ込んでいるぞ!)

その隣で、ヴァミリネンもまた、密かに胸中で祝杯を上げていた。

 

「うむ。街の景色が随分と賑やかになった。ジルクニフ殿、貴国の技術力には改めて感服するぞ」

椅子に深く腰掛けたアインズ・ウール・ゴウンは、威厳に満ちた声で応じた。その眼窩の赤光は、ジルクニフの内心を見透かすかのように揺らめいている。

ヴァミリネンは、その赤光がまるで深淵の底から覗き込む瞳のように感じられ、無意識のうちに息を詰めた。

隣に控えるアルベドは、アインズの言葉の一つ一つにうっとりとした表情を浮かべ、その絶対的な支配者の姿を仰ぎ見ていた。

 

アインズは、ゆっくりと、しかし有無を言わせぬ重みをもって言葉を紡いだ。

「ジルクニフ殿。Win-Winとは、常に均衡を保つことではない。時には、その均衡を意図的に崩し、より高次の均衡へと導くことも含まれるのだ」

ジルクニフの背筋に、冷たい氷の刃が突き立てられたかのような戦慄が走った。

「……それは、いかなる意味でしょうか?」

アインズは、さも以前からこの瞬間を待っていたかのように、冷徹な宣告を下した。

「本日より、これまでの『1エン=100ダラ』という固定相場制を廃止する。そして、変動相場制へと移行する。市場の需要に応じ、ダラの価値を適切に引き上げさせてもらう」

 

アインズの言葉は、まるで氷の槌で打ち砕かれたかのように、ジルクニフの心臓を激しく跳ね上がらせた。

(変動相場……ダラ高への誘導?! まさか、この知謀の化け物は、この時を待っていた?!)

 

ヴァミリネンもまた、その言葉の意味を瞬時に理解し、血の気が引くのを感じた。変動相場制――それは、これまでの帝国の繁栄を支えてきた経済構造の根幹を揺るがす、あまりにも一方的な宣告だった。ヴァミリネンの脳裏には、ジルクニフがこれまで築き上げてきた経済戦略が、音を立てて崩れ去る光景が浮かんだ。

 

ジルクニフは悟った。魔導王は帝国に繁栄を与えたのではない。帝国を「輸出依存」という甘美な麻薬に溺れさせ、二度と自立できないほど魔導国経済に深く組み込んだ後、最も効果的なタイミングで、通貨という名の首輪を締め上げたのだと。

(帝国が確信した「勝利」は、それすらも、この骸骨の手のひらの上で、踊らされていたに過ぎなかった……)

 

「……すべては、魔導王陛下の仰せのままに」

ジルクニフは、全身の力が抜け落ちたかのように深く頭を下げた。

その拍子に、ジルクニフの黄金の髪が、目の前の円卓テーブルの冷たい表面へと、はらりと抜け落ちた。

 

「うむ。賢明な判断だ。これでこそ、真のWin-Winが成立するというものだ」

(よし、これでエンの流出が止まる。助かったぁぁぁ……)

内心で盛大なガッツポーズを決めるアインズの横で、アルベドは冷徹な支配者の意志を感じ取り、誇らしげに微笑むのであった。

 

そしてアインズは、この歴史的な会談に名を刻んだ。

「今日ここで交わした約束を、このホテルの名にちなみ、『プラザ合意』と名付けようではないか」

 

プラザ合意――この歴史的な会議によって、バハルス帝国は、経済的繁栄の絶頂で、その首根っこを完全に掴まれたのである。

 

「では、この合意を記念し、貴国に一つ贈り物をしよう」

(贈り物だと……? いったい、何を送り込むつもりだ……)

とっさにジルクニフが身構えた。

 

「今後、我が国との協議の機会は増えるだろう。そこで、貴国に『皇帝専用機』を贈呈したい」

「皇帝専用機……ですか?」

「うむ。飛行船だ。新都市完成内覧会の際、乗ったであろう」

「あ、あのようなものをっ……」

「ああ、心配する必要はない。貴国の領土内に飛行場を作ればよいのだ。私が使役するアンデッドに建設させよう」

(こっ、この骸骨はっ……この俺にっ……アンデッドの船に乗って、ここへ来いと言うのかっ?!)

それは、物理的な移動手段の提供ではなく、新たな首輪に他ならなかった。

 

「……陛下のご配慮に、深く感謝申しあげます」

ジルクニフの声は、もはや感情を失っていた。

 

ジルクニフの絶望の表情を読めなかったアインズは、内心で自分を褒めていた。

(これでジルクニフ殿も長旅の苦労から解放されるだろう。我ながら、良い気配りだな)

 

 

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