魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase6-6 世界を塗り替える偶像の産声

ノヴァリア王宮。アインズの執務室。

 

「アインズ様」

アルベドが執務室に入り、恭しく頭を下げた。

「アルベド。何かあったか」

「シン・ワーナベが面会を求めております。お通ししてもよろしいでしょうか」

アインズは骨の指で顎を撫でた。

「ふむ。良かろう。通せ」

 

シンが入室し、アインズの前に跪く。

「お目通りを賜り、恐悦至極に存じます」

その視界の端には、あの日と同じ3人のメイドが静かに控えているのが見えた。

シクスス、フォアイル、リュミエール。

(やはりおられた……!)

シンは高鳴る鼓動を押さえ込んだ。

 

「楽にせよ」

アインズの言葉にシンは立ち上がった。

「今日は何用かな、シン・ワーナベ」

「はい。陛下にぜひお聞きいただきたい、魔導国の未来を拓くための企画書を持ってまいりました」

 

シンは両手で抱えていた分厚い書類を差し出した。

アインズはそれを受け取り、目を通し始める。

 

シンは、興奮と緊張で震える声で、徹夜で書き上げた企画書の内容を説明した。

 

魔導放送局設立構想――。

番組を制作し、テレビ放送を行い、受信料を徴収するビジネスモデル。

ニュース、料理番組、子供向け番組、野球中継といった具体的な番組案。

そして、タレント契約、新人育成といった制度。

 

(おいおいおい……)

アインズは内心で驚愕していた。

(テレビ局だけじゃなく、芸能界まで作る気か? ナベプロかよっ!)

 

一時間近い説明が終わった。

執務室に静寂が訪れる。

「以上です」

シンが深く頭を下げた。

 

アインズはゆっくりと企画書を閉じ、アルベドに視線を向けた。

「アルベド。どう思う?」

「流石はアインズ様です」

(え、なにが?)

アインズは内心で困惑する。

「なぜあの時、この者を呼び、懐中時計までお渡しになったのか。その深遠なるお考えに感服いたしました」

(だからなにが?)

アインズの精神安定が発動しそうになる。

「アインズ様はテレビという文明を予見しておられた。魔導放送塔を事前に建設され、ンフィーレアがテレビを発明するのを待たれた。そして、この者にはテレビの使い方を発明させた。全てはアインズ様の御計画通り」

アルベドは狂信的な眼差しでアインズを見つめていた。

(いや、違う、全然違う。……でも「賛成」ってことでいいんだよな?)

アインズは、内心の動揺を悟られぬよう、威厳を保ったまま頷いた。

 

「シンよ」

「はっ」

シンは、アインズの言葉を固唾を飲んで待っていた。

「見事な企画だ。お前の熱意と先見の明には感服した」

「あ、ありがとうございます!」

シンの目から、熱いものが込み上げてくる。徹夜の疲労も、これまでの苦悩も、全てが報われた気がした。

「エイト・リーブスとも協力して、魔導放送局を立ち上げよ。お前は、この新たなメディアの『プロデューサー』として、テレビの普及に努めるのだ」

「……恐れながら、プロデューサー……とは、なんでしょうか」

「簡単に言えば、現場のトップだ。番組の企画から制作、運営まで、全てを統括する責任者、それがプロデューサーだ」

 

シンは、アインズの言葉を胸に刻んだ。プロデューサーとして、最高の番組を作り、魔導放送局を成功に導く。その大役を任された今だからこそ、どうしても伝えたい、もう一つの熱い思いがシンの胸にはあった。

 

「魔導王陛下。恐れながら、もう一つ、厚かましいお願いがございます」

「なんだ。申してみよ」

「この放送局を成功させるためには、象徴となる存在が必要です」

「象徴だと」

「はい」

シンは振り返った。その先には三人のメイド。

「私は、その候補をすでに見つけております」

アインズの眼窩の赤い光が揺れる。

「ほう」

「そこにおられる陛下の3人のメイド様を、お貸しいただけないでしょうか。『アイドル』としてデビューさせていただきたく!」

(なにっ?!)

 

執務室の空気が凍りついた。

三人のメイドは目を丸くする。

アインズも思わず固まった。

(まさか、このメイドたちに目を付けるとは……。確かに、彼女たちの美貌と親しみやすさは、アイドルとして申し分ない。だが……)

 

アインズが沈黙したのを見たシンは、ここで引き下がるわけにはいかないと覚悟を決めた。シンの目に宿るのは、この新たなメディアへの揺るぎない確信、そして使命感だった。

 

「陛下! どうか、ご検討ください! 彼女たちこそ、この魔導国が世界に示すべき『希望』の象徴です! 完璧な美貌、しかし決して近寄りがたいものではなく、清潔で健康的な明るさに満ちたそのお姿は、民衆の心を瞬く間に捉えるでしょう! 彼女たちが歌い、舞い、笑顔を見せることで、人々は日々の労働の疲れを忘れ、明日への活力を得るに違いありません!」

 

シンの言葉は、熱を帯び、執務室の空気を震わせる。

「この魔導放送局は、単なる情報伝達の手段に留まりません! 民衆の心を豊かにし、この国の文化を創造する、新たな『魂の揺りかご』となるのです!」

 

シンの声は、確信に満ちた叫びとなり、彼の全身からほとばしる情熱が、アインズの骨の髄まで響き渡るかのようだった。

シンの目は、もはや新聞記者のそれではない。新しい時代を創ろうとする男の目だった。

 

(こいつ……。本気でテレビ業界を作るつもりだ……)

 

「シン・ワーナベよ。お前の熱意は理解した。そして、そのアイデアが魔導国にとって有益であることもな」

アインズは、骨の指で顎を撫でる仕草をした。

「しかし、彼女たちは私の配下のメイドだ。その処遇については、彼女たち自身の意思も尊重せねばなるまい」

 

アインズは、控えているメイドたちに視線を向けた。

「シクスス、フォアイル、リュミエール。お前たちは、シンの言う『アイドル』として、人々の前に立ち、歌い、舞うことを望むか」

 

三人のメイドは、一斉にアインズの前に進み出て、深々と頭を下げた。

しかし、その顔は蒼白で、震える唇からは、絞り出すような声が漏れた。

「アインズ様……恐れながら……」

シクススが、苦痛に歪んだ表情で口を開いた。

「私どもの生きがいは、ただひたすらに、アインズ様のお傍でお仕えすることにございます。日々の身の回りのお世話、執務室の清掃、お着替えの準備……それら全てが、私どもの存在意義であり、至上の喜びでございます」

フォアイルが、涙を浮かべながら言葉を継いだ。

「もし、アインズ様のお傍を離れ、アインズ様への奉仕を全うできないくらいなら、いっそこの場で死を賜りたいと存じます……!」

リュミエールもまた、震える声で訴えた。

「どうか、どうか、この愚かな私どもに、これまで通りアインズ様のお世話をさせてくださいませ……!」

 

彼女たちの言葉には、アインズへの絶対的な忠誠と、その奉仕を奪われることへの絶望が滲み出ていた。アルベドもまた、メイドたちの心情を理解し、複雑な表情でアインズを見つめている。

 

アインズは、メイドたちの切実な嘆願に、内心で深く息を吐いた。

(やはり、そうなるか……)

 

アインズは、ゆっくりと骨の指を組み直し、威厳に満ちた声で語りかけた。

「お前たちの私への忠誠心、そして奉仕への熱意は、この私が最も高く評価している。だからこそ、お前たちにこの新たな任務を託したいのだ」

アインズの言葉に、メイドたちは顔を上げた。その眼窩の赤い光が、彼女たちの瞳を射抜く。

「お前たちの言う通り、私に直接仕えることは、確かに重要な任務だ。しかし、私の目的は、この魔導国を世界に知らしめ、その偉大さを永遠に刻むことにある」

アインズは、シン・ワーナベの企画書を指し示した。

「シンの言う『アイドル』という役割は、まさにそのための、極めて重要な任務となる。お前たちが人々の前に立ち、歌い、舞うことで、魔導国の文化は豊かになり、民衆は希望を見出すだろう。それは、間接的ではあるが、この私に、ナザリックに、魔導国に、最大の栄光をもたらすことに繋がるのだ」

 

アインズは、メイドたちの目を見据えた。

アインズの言葉は、彼女たちの忠誠心の根幹に訴えかけるものだった。

 

メイドたちは、互いに顔を見合わせた。アインズ様のため、ナザリックのため、魔導国の栄光のため――その言葉が、彼女たちの心に深く響いた。アインズの揺るぎない信頼の言葉に、メイドたちの表情が、徐々に変化していく。

 

フォアイルが懇願する眼でアインズを見た。

「アインズ様当番も……なくなってしまうのでしょうか……?」

(ああ……当番か……)

「シンよ」

「はっ」

「彼女たちにとって、大切な日がある。その日と、その前日は、アイドルの仕事をさせない、それを条件にするのはどうだ」

シンが歓喜して即答した。

「はい! もちろん構いません!」

「シクスス、フォアイル、リュミエール。それでどうだろう」

「はい! ありがとうございます! 必ずやその大役を全うし、アインズ様とナザリックに栄光をもたらすことを誓います!」

三人のメイドは、再び深々と頭を下げた。その声には、先ほどの絶望ではなく、新たな使命への決意と、アインズへの絶対的な忠誠が込められていた。

 

(これでメイドたちの意思は確認できた。あとは守護者たちをどう納得させるかだが……)

 

アインズは、再びアルベドに視線を向けた。

「アルベド」

アインズに声をかけられたアルベドは、すぐに頭を下げた。

「この者が創ろうとしているものは、テレビ番組そのものではない――この者はアインズ様のために、この世界を変えようとしている――そう理解いたしました。メイドたちのアイドルデビューもその手段の一つ。異論はございません」

アインズは頷き、シンに向き直った。

「シン・ワーナベ。メイドたちのアイドルデビューを承認しよう。お前はプロデューサーとして、最高の番組を作り、魔導放送局を成功に導くのだ」

「はっ! ありがとうございます! 陛下!」

 

シンは、感極まって涙を流しながら、再び深々と頭を下げた。彼の心には、アインズへの畏敬の念と、新たな使命への燃えるような情熱が満ち溢れていた。

 

この瞬間、魔導国の歴史に、新たな娯楽の時代が幕を開けたのである。

 

◇ ◇ ◇

 

「ところで、シンよ」

「はい、陛下」

「3人のグループ名なんだが……」

「なにか良い名前がございますか。ぜひ陛下に命名いただきたく存じます」

 

(昭和の時代……ピンク・レディーは2人組だったか? 3人組のアイドルと言えば……)

「カンデーズ、なんてどうだろう」

 

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