魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
ノヴァリア魔導放送局「MHKビル」の会議室。
シン・ワーナベは、ヒルマ・シュグネウスとの定例企画会議に臨んでいた。
魔導王陛下のために理想郷を創る――その揺るぎない共通の意志が、二人を最高のビジネス・パートナーとして結びつけた。二人は互いに認め合い、忌憚のない意見を交わすことができた。エイト・リーブス全体統括であるヒルマの意見は、シンが新たな閃きを得るのに非常に貴重なものとなっていた。
健康を取り戻したヒルマは、往年の色香を放ち、シンは目のやり場に困ることになる。ヒルマとのミーティングは、貴重でありながらも、ある意味で苦手な時間だった。
「やはりテレビはまだ『一家に一台』と呼べるほどの普及率には至っていないのね」
「ああ。かなりいい線まで来ているんだがな。もう一押しがない」
シンは帝国産の葉巻に火を付けた。
(今さら悔やんでも仕方ないが、新都市完成内覧会の時点でテレビが発明されていれば、一気に全世帯に浸透しただろうに……)
「いくつか案はある。どれも決め手には欠けるが、な」
シンは紫煙を吐き出しながら言った。
「言ってみて」
「バハルス帝国には武装解除で役目を終えた軍馬がいる。鍛え抜かれた脚力は健在だ。その馬に騎乗し、レースを開催する。勝敗を予想して賭けさせることで、視聴者の熱狂を誘うことができるだろう。その模様をテレビで中継するんだ。様々な役割と仕事も生まれ、新たな産業の一つとなるだろう」
「面白いわね」
「もう一つは、陛下の奨励する未開の地への冒険だ。冒険者たちに同行し、未知の領域を切り拓く姿をテレビで放送する。次に何が発見されるのか、視聴者は固唾を飲んで見守るだろう。多くの目が見ているという意識は、冒険者たちの意欲を掻き立て、さらなる発見へと繋がるはずだ。陛下もきっとお喜びになる」
「それ、いいじゃない! 冒険者組合長のプルトン・アインザックに話をつけてみるわ」
「ああ、頼む」
シンは紫煙を吐き出した。
「後は、やはり……」
「野球リーグ、ね」
「ああ、そうだ」
「バハルス帝国には鍛えられた騎士たちがいる。筋力、持久力、俊敏性といった基礎的な体力をはじめから備えてる。ローブル聖王国もネイア・バラハ様の元、自らが強くなるための鍛錬をしていた……」
「その通り。バハルス帝国やローブル聖王国は、来年にもリーグを開始できるだろう。だが、魔導国は……」
「旧王国には、そもそも鍛えられた兵士がいなかった……」
「そういうことだ」
シンは再び葉巻を咥えた。ゆっくりと紫煙を吐き出す。
(……いや、待て。魔導国ならではの訓練効率アップの方法があるじゃないか)
「魔導国にも、元から体力があり、才能のある者はいるだろう」
「そうでしょうね」
「例えば、才能ある投手の投球フォームを解析し、アンデッド・マクロとして再現する。そのアンデッドをコーチとして活用し、他の選手を指導する。さらに能力を伸ばした選手が現れれば、そのフォームを解析・再現してアンデッド・マクロをアップデートする。これを繰り返せば、訓練効率は飛躍的に向上する……」
「良いアイデアだと思うわ。アンデッドを借りられるよう、アルベド様に頼んでみるわね」
「でもね……シン」
「なんだ?」
「あなたが考えた案は、どれも男性ウケはするでしょうね。でも女性にはどうかしら」
「女性ウケする番組……例えば?」
「……私が言うのもなんだけど……ドラマチックな恋愛模様を描いた物語、とか……」
「はあ?」
そのとき、部屋のドアがノックされた。
「シンさん。シクススです」
「どうぞ。お入りください」
カンデーズの三人が会議室に入ってきた。
「今日はライブはないはずですが……どうかしましたか?」
「それが、最近、ファンの人たちから『サイン』を欲しいと言われまして……」
「サイン、か。なるほど……」
「私たちが、自分で名前を書いた紙が欲しいそうなんです。どうすればいいでしょうか」
シンは内心で、その商業的価値を計算し始めた。
(これは、新たな収益源になるかもしれない……)
シンが思案する間、ヒルマは三人に視線を向けた。
「カンデーズの皆さま。お聞きしてもよろしいでしょうか」
「はい。なんでしょうか」
「皆さまには……その……ドラマチックな恋愛の経験とか、ございませんか?」
「そ、そのような経験はございません! 私どもの生きがいは、ただひたすらにアインズ様のお傍でお仕えすることで……」
「わ、わかりました。……それでは、ナザリックの他の方々はいかがでしょう?」
三人は顔を見合わせた。
「……あります」
「あるのですかっ?!」
ヒルマが素っ頓狂な声を上げた。
「ええ、あります」
「うん、あるある」
「あのお方と、彼女よね」
「そのお話、ぜひ詳しくお聞かせ願えませんでしょうか?!」
そこでヒルマは、ハッと息を呑んだ。
「まさか……アインズ様とアルベド様のお話、ではないですよね?」
三人は全力で首を横に振った。
「「「それは絶対に口外できません!」」」