魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase6-11 一時間の革命

伝説のドラマ『ノヴァリア・ラブストーリー ~光の騎士と救いの聖女~』

その衝撃は、バハルス帝国だけでなく、ローブル聖王国をも揺さぶった。

 

さらに、カンデーズ人気は言うに及ばず、大人から子どもまで夢中になった番組があった。

『アインザック探検隊』である。

 

番組冒頭。壮大な音楽とともにナレーションが流れる。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下の提唱により、新たな時代を迎えた冒険者たち。

彼らが求めるのは財宝ではない。戦いでもない。求めるのは未知である。

未踏の地に眠る新たな発見を求めて――アインザック探検隊は今日もゆく。

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

この番組は特に男性たちの心を掴んだ。

未知の洞窟。未踏の森。巨大な魔獣。古代遺跡。

冒険者たちの挑戦は、人々の胸を熱くした。

 

そして、ラナーの支援を得てカスポンドが仕掛けた「テレビ購入専用低金利ローン」は、聖王国全土へ静かに浸透していった。

北部の信徒たち。南部の貴族たち。農民たち。商人たち。

夕刻になれば、人々は自然とテレビの前へ集まる。

酒場にはテレビ。村の集会所にもテレビ。貴族の応接室にもテレビ。

テレビを持たない者の方が珍しくなっていた。

 

人々は知らず知らずのうちに、同じ映像を見て、同じ話題を語り、同じ感情を共有するようになっていたのだ。

 

――機は熟した。

 

◇ ◇ ◇

 

バハルス帝国。皇帝執務室。

 

「ローブル聖王国が、一度だけ放送枠を取っただと?」

ジルクニフは報告書から顔を上げた。

「はい。毎週ではなく、一時間だけ。一回限りだそうです」

ヴァミリネンが答える。

「たった一度の放送で何ができるというのだ……」

そう言った瞬間、ジルクニフは目を見開いた。

(待て……)

一度だけ。継続放送ではない。ならばそれは娯楽番組ではない。ドラマでもない。

一回で終わる。しかし全国放送。それほどの価値があるもの――。

 

(あの娘か……!)

 

新都市ノヴァリアで見た、あの殺し屋のような眼――。

魔導王を語り始めると止まらなくなる狂信者――。

 

「……まずい」

ジルクニフが立ち上がる。

「陛下?」

「ネイアだ……」

「は?」

「ネイア・バラハが演説する気だ!」

ヴァミリネンの顔色が変わった。

「あの娘が……」

「そうだ」

ジルクニフは奥歯を噛み締めた。

 

『ノヴァリア・ラブストーリー』を思い出す。

人々は理屈で感動したのではない。感情で感動した。

ネイアも同じだ。理屈ではない。理論でもない。感情だ。

 

「ヴァミリネン。その放送を止める方法はないか」

「ございません」

即答だった。

「帝国にその権限はありません」

 

ジルクニフは無言になる。

わかっていた。テレビ放送は魔導国が管理している。帝国に拒否権などない。

ネイアの演説を禁止することもできない。むしろ批判した方が逆効果だ。

人は命令では動かない。感情で動く。

 

(……ならば)

ジルクニフの眼が細くなる。

(我々も感情で戦うしかない)

 

アイドル、ドラマ、冒険――後発が先行者と同じ武器で戦っては駄目だ。

帝国にあるもの――写本文化、絵画文化、演劇文化。

魔導国から流入したもの――液状魔力、印刷技術、魔導投影技術。

 

その瞬間、ジルクニフの脳裏に閃光が走った。

 

「ヴァミリネン」

「はっ」

「新たな国家事業を始める」

 

◇ ◇ ◇

 

ローブル聖王国。

 

北部と南部の境界近くにある大草原。

あえて選ばれたその場所には、数千を超える人々が集まっていた。

壇上には拡声器が置かれ、周囲には無数の魔導テレビカメラが設置されている。

 

そして、そこには――ネイア・バラハがいた。

 

「……ネイア、顔が怖い」

「シズ先輩……」

ネイアは泣きそうだった。

テレビの向こうには数千万の人たちがいる。

北部。南部。魔導国。帝国。

自分を称賛する者もいる。自分を憎む者もいる。

失敗したらどうなる。笑われる。罵られる。石を投げられるかもしれない。

膝が震える。手が震える。呼吸が浅い。

逃げ出したかった。

 

その時、シズが肩を叩いた。

ぽんっ。

「……アインズ様は正義」

ネイアが顔を上げる。

「……ん」

額にシールが貼られた。

ネイアはそっとそれに触れる。

そうだ。これは自分のためではない。アインズ様のためだ。

命を救われた。生きる意味を与えられた。その偉大さを伝えればいい。

ネイアの震えが――止まった。

 

テレビカメラの赤いランプが灯る。――放送開始。

 

ネイアはアインズから借り受けているバイザー型ミラーシェードを装着した。

立ち上がり、壇上へ向かう。

(アインズ様。どうか見ていてください……)

 

――時は来た。

 

ネイアは壇上に立つと、集まった人々を、ゆっくりと見渡した。

そして、一呼吸の後、第一声を発した。

 

「ローブル聖王国の同胞たちよ!」

その声は夜空へ響いた。

 

「今から正義の話をしましょう!」

魔導放送塔が魔力波を解き放ち、ネイアの声が全土へ広がっていく。

 

「この国を救ったのは誰ですか!」

「魔導王陛下です!」

「この国が滅びかけた時、誰が助けてくださいましたか!」

「魔導王陛下です!」

 

ネイアの声が熱を帯びていく。

 

「我々は弱かった!」

「だから滅びかけた!」

「我々は分裂していた!」

「だから救えなかった!」

 

草原に集った人々が静まり返る。

テレビの前の人々も息を呑む。

 

ネイアの眼が、燃えていた。

 

「では今はどうですか!」

「魔導王陛下がおられる!」

 

「我々には未来がある!」

「我々には希望がある!」

「我々には正義がある!」

 

その声はもはや演説ではない。

魂の叫びだった。

 

「北部だ!」

「南部だ!」

「そんなものは関係ありません!」

「同じ聖王国の民ではありませんか!」

 

ネイアがミラーシェードを外した。燃えるような凶眼が露わになる。

その眼がテレビ画面いっぱいに映し出され、魔導波を突き進む鋭い矢となり、人々の心を射抜いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「私は願います!」

「ローブル聖王国が!」

「一つになることを!」

 

「魔導国と、共に歩むことを!」

「魔導王陛下の、御旗の下へ集うことを!」

 

そして叫んだ――極限まで引き絞った弓弦から放たれるかの如く――。

 

「ここに私は宣言します!」

「ローブル聖王国は!」

「魔導国の属国となることを!」

 

ネイアの魂を乗せて放たれた渾身の叫びが、雷鳴のように響き渡った。

次の瞬間、

ドオオオオォォーーーッ!!!

草原が揺れた。

歓声。涙。祈り。叫び。

 

その夜、魔導放送塔から放たれたネイアの声は、山を越え、川を越え、そして国境を越えた。

人々は同じ言葉を聞き、同じ理想を抱き、同じ未来を見たのだ。

 

魔法でもない。剣でもない。

たった一人の少女の声が、これまで国家を分断していた南北の「壁」を粉砕し、世界の歴史を大きく動かした瞬間だった。

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