魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

66 / 66
Phase6-11 一時間の革命

伝説のドラマ『ノヴァリア・ラブストーリー ~光の騎士と救いの聖女~』

その衝撃は、バハルス帝国だけでなく、ローブル聖王国をも揺さぶった。

 

さらに、カンデーズ人気は言うに及ばず、大人から子どもまで夢中になった番組があった。

『アインザック探検隊』である。

 

番組冒頭。壮大な音楽とともにナレーションが流れる。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下の提唱により、新たな時代を迎えた冒険者たち。

彼らが求めるのは財宝ではない。戦いでもない。求めるのは未知である。

未踏の地に眠る新たな発見を求めて――アインザック探検隊は今日もゆく。

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

この番組は特に男性たちの心を掴んだ。

未知の洞窟。未踏の森。巨大な魔獣。古代遺跡。

冒険者たちの挑戦は、人々の胸を熱くした。

 

そして、ラナーの支援を得てカスポンドが仕掛けた「テレビ購入専用低金利ローン」は、聖王国全土へ静かに浸透していった。

北部の信徒たち。南部の貴族たち。農民たち。商人たち。

夕刻になれば、人々は自然とテレビの前へ集まる。

酒場にはテレビ。村の集会所にもテレビ。貴族の応接室にもテレビ。

テレビを持たない者の方が珍しくなっていた。

 

人々は知らず知らずのうちに、同じ映像を見て、同じ話題を語り、同じ感情を共有するようになっていたのだ。

 

――機は熟した。

 

◇ ◇ ◇

 

バハルス帝国。皇帝執務室。

 

「ローブル聖王国が、一度だけ放送枠を取っただと?」

ジルクニフは報告書から顔を上げた。

「はい。毎週ではなく、一時間だけ。一回限りだそうです」

ヴァミリネンが答える。

「たった一度の放送で何ができるというのだ……」

そう言った瞬間、ジルクニフは目を見開いた。

(待て……)

一度だけ。継続放送ではない。ならばそれは娯楽番組ではない。ドラマでもない。

一回で終わる。しかし全国放送。それほどの価値があるもの――。

 

(あの娘か……!)

 

新都市ノヴァリアで見た、あの殺し屋のような眼――。

魔導王を語り始めると止まらなくなる狂信者――。

 

「……まずい」

ジルクニフが立ち上がる。

「陛下?」

「ネイアだ……」

「は?」

「ネイア・バラハが演説する気だ!」

ヴァミリネンの顔色が変わった。

「あの娘が……」

「そうだ」

ジルクニフは奥歯を噛み締めた。

 

『ノヴァリア・ラブストーリー』を思い出す。

人々は理屈で感動したのではない。感情で感動した。

ネイアも同じだ。理屈ではない。理論でもない。感情だ。

 

「ヴァミリネン。その放送を止める方法はないか」

「ございません」

即答だった。

「帝国にその権限はありません」

 

ジルクニフは無言になる。

わかっていた。テレビ放送は魔導国が管理している。帝国に拒否権などない。

ネイアの演説を禁止することもできない。むしろ批判した方が逆効果だ。

人は命令では動かない。感情で動く。

 

(……ならば)

ジルクニフの眼が細くなる。

(我々も感情で戦うしかない)

 

アイドル、ドラマ、冒険――後発が先行者と同じ武器で戦っては駄目だ。

帝国にあるもの――写本文化、絵画文化、演劇文化。

魔導国から流入したもの――液状魔力、印刷技術、魔導投影技術。

 

その瞬間、ジルクニフの脳裏に閃光が走った。

 

「ヴァミリネン」

「はっ」

「新たな国家事業を始める」

 

◇ ◇ ◇

 

ローブル聖王国。

 

北部と南部の境界近くにある大草原。

あえて選ばれたその場所には、数千を超える人々が集まっていた。

壇上には拡声器が置かれ、周囲には無数の魔導テレビカメラが設置されている。

 

そして、そこには――ネイア・バラハがいた。

 

「……ネイア、顔が怖い」

「シズ先輩……」

ネイアは泣きそうだった。

テレビの向こうには数千万の人たちがいる。

北部。南部。魔導国。帝国。

自分を称賛する者もいる。自分を憎む者もいる。

失敗したらどうなる。笑われる。罵られる。石を投げられるかもしれない。

膝が震える。手が震える。呼吸が浅い。

逃げ出したかった。

 

その時、シズが肩を叩いた。

ぽんっ。

「……アインズ様は正義」

ネイアが顔を上げる。

「……ん」

額にシールが貼られた。

ネイアはそっとそれに触れる。

そうだ。これは自分のためではない。アインズ様のためだ。

命を救われた。生きる意味を与えられた。その偉大さを伝えればいい。

ネイアの震えが――止まった。

 

テレビカメラの赤いランプが灯る。――放送開始。

 

ネイアはアインズから借り受けているバイザー型ミラーシェードを装着した。

立ち上がり、壇上へ向かう。

(アインズ様。どうか見ていてください……)

 

――時は来た。

 

ネイアは壇上に立つと、集まった人々を、ゆっくりと見渡した。

そして、一呼吸の後、第一声を発した。

 

「ローブル聖王国の同胞たちよ!」

その声は夜空へ響いた。

 

「今から正義の話をしましょう!」

魔導放送塔が魔力波を解き放ち、ネイアの声が全土へ広がっていく。

 

「この国を救ったのは誰ですか!」

「魔導王陛下です!」

「この国が滅びかけた時、誰が助けてくださいましたか!」

「魔導王陛下です!」

 

ネイアの声が熱を帯びていく。

 

「我々は弱かった!」

「だから滅びかけた!」

「我々は分裂していた!」

「だから救えなかった!」

 

草原に集った人々が静まり返る。

テレビの前の人々も息を呑む。

 

ネイアの眼が、燃えていた。

 

「では今はどうですか!」

「魔導王陛下がおられる!」

 

「我々には未来がある!」

「我々には希望がある!」

「我々には正義がある!」

 

その声はもはや演説ではない。

魂の叫びだった。

 

「北部だ!」

「南部だ!」

「そんなものは関係ありません!」

「同じ聖王国の民ではありませんか!」

 

ネイアがミラーシェードを外した。燃えるような凶眼が露わになる。

その眼がテレビ画面いっぱいに映し出され、魔導波を突き進む鋭い矢となり、人々の心を射抜いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「私は願います!」

「ローブル聖王国が!」

「一つになることを!」

 

「魔導国と、共に歩むことを!」

「魔導王陛下の、御旗の下へ集うことを!」

 

そして叫んだ――極限まで引き絞った弓弦から放たれるかの如く――。

 

「ここに私は宣言します!」

「ローブル聖王国は!」

「魔導国の属国となることを!」

 

ネイアの魂を乗せて放たれた渾身の叫びが、雷鳴のように響き渡った。

次の瞬間、

ドオオオオォォーーーッ!!!

草原が揺れた。

歓声。涙。祈り。叫び。

 

その夜、魔導放送塔から放たれたネイアの声は、山を越え、川を越え、そして国境を越えた。

人々は同じ言葉を聞き、同じ理想を抱き、同じ未来を見たのだ。

 

魔法でもない。剣でもない。

たった一人の少女の声が、これまで国家を分断していた南北の「壁」を粉砕し、世界の歴史を大きく動かした瞬間だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

スズキサトルの日常(作者:ふじら)(原作:オーバーロード)

モモンガが聖王国に何故か人化した状態で単独転移?して楽しむだけの話。


総合評価:1953/評価:8.63/連載:7話/更新日時:2026年05月23日(土) 12:52 小説情報

鈴木悟の残響 - 骸の玉座に座してなおも人の夢を見る -(作者:朝型人間)(原作:オーバーロード)

もし、モモンガが最初の段階で「自分の人間性の喪失」に強い違和感を覚えていたら――。▼これは、骸の王となった彼が、なお鈴木悟の残響を抱えたまま進むifストーリーです。▼※アンチ・ヘイトは念のため


総合評価:123/評価:6.14/連載:12話/更新日時:2026年07月25日(土) 22:00 小説情報

オーバーロード 神様のいない世界(作者:Esche)(原作:オーバーロード)

▼「――お前がいなければ、王国は平和だった。誰一人として死なず、姫様が悲しむこともなく!」▼とある道化の台詞を悪趣味に解釈し、アインズ様やナザリック勢の転移がなかった世界線で、現地の人々がどのように過ごしていくのかを妄想するIFの物語です。▼※一部の登場人物には過酷な展開となります。▼『アンチ・ヘイト』タグの意味を踏まえて、苦手な方はご注意ください。▼※複数…


総合評価:701/評価:8.26/連載:21話/更新日時:2026年07月02日(木) 00:00 小説情報

ガゼフに着いていって王国に仕官した単独転移アインズ様(作者:万里支店)(原作:オーバーロード)

書きたいところだけ書いたオーバーロードの二次創作です。単独転移してカルネ村助けてガゼフに着いていって王国に仕官し、帝国との戦争に出兵したアインズ様のお話


総合評価:3805/評価:8.75/短編:12話/更新日時:2026年07月09日(木) 12:28 小説情報

えっ凡人がアインズ様に憑依?!(作者:Revak)(原作:オーバーロード)

▼とある男は目が覚めたらなんと転移直後のモモンガ様になってしまっていた?!▼中身が別人だとバレるわけにはいかないとアインズ様ロールプレイをしながら原作を進めていく!▼その過程で原作知識を使い死亡キャラを救う、かもしれない。▼アンチ・ヘイトはモモンガ様になっているので原作ぶっ壊してるのでつけてます。▼寝取りは原作モモンガさんからアルベド寝取ってるのでつけてます…


総合評価:577/評価:6.95/連載:8話/更新日時:2026年06月07日(日) 15:12 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>