魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

69 / 95
Phase6-14 プレイボール

柔らかな陽光が大地を撫で、淡い青空がどこまでも広がっていた。

その日、新首都ノヴァリアは祝祭に包まれていた。

街には球団旗が掲げられ、子どもたちは選手の名を叫びながら走り回る。露店には応援用の旗や帽子が並び、テレビの前では世界中の人たちが、開幕を今か今かと待ちわびていた。

 

剣と魔法が支配していた世界は、武装解除という歴史的転換を経て、新たな「戦い」の時代を迎える。

――プロ野球リーグ。

その記念すべき第一歩が、今まさに刻まれようとしていた。

 

魔導国、バハルス帝国、ローブル聖王国。それぞれ4球団が設立され、各国で年間108試合のリーグ戦が開催される。各球団は54試合を戦い抜き、その頂点を目指す。

そして各国の優勝球団は、世界一を決める『ワールドシリーズ』へと進出する。

 

その歴史的開幕戦の舞台となるのが、ここ魔導国のノヴァリア・ドームだった。

 

ノヴァリア・ルミナス 対 ブルーライト・スターズ

 

真新しい天然芝の香りと、数万人の観客が放つ熱気が混ざり合い、場内は試合開始前とは思えないほどの興奮に満ちていた。

 

「試合に先立ちまして、ただいまより、始球式を行います」

ウグイス嬢の澄んだ声がドームいっぱいに響く。

 

「ピッチャーは、カルネ村の将軍閣下、エンリ・エモット様です。エンリ・エモット様は、液状魔力を発明されたンフィーレア・バレアレ様の奥様でもいらっしゃいます」

「「「おおおぉーっ」」」会場からどよめきが起こった。

 

(いま将軍閣下って言ったなぁ)

エンリのこめかみの血管がぴくりと動く。

自分はただの村娘だったのに……いつの間にか村長になり、アインズ様から授かった<ゴブリン将軍の角笛>によって、五千ものゴブリン軍団を率いる将軍閣下――などと呼ばれるようになってしまった。

 

数万人の視線を浴びながらマウンドへ向かう。

ンフィーレアからは、

「可愛く『えいっ』て投げればいいだけだからねっ」

と言われていた。

もちろん、そのつもりだった。そのつもりだったのだ。

だが、大観衆の前で「将軍閣下」と高らかに紹介された瞬間、胸の奥で何かが音を立てて弾けた。

(こうなったら、思いっきり投げてやる!)

 

エンリはマウンドへ立った。

革張りのボールを握る指は細い。しかし、その腕、身体には、村での労働と戦いを経て鍛え上げられた、しなやかな筋肉が宿っていた。

 

大きく振りかぶり、左足を高く掲げる。軸足が大地を力強く踏み締める。

全身が大きくしなり、蓄えられた力が一つの流れとなって右腕へ集約される。

そして――オーバースローから鋭く腕が振り抜かれた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

シュルルルルルーーッ!

ボールは糸を引くような直線を描き、空気を切り裂いてホームベースへ突き進む。

スパァン!

乾いた捕球音がドーム中へ響き渡った。

 

王宮執務室でテレビ観戦していたアインズは、思わず椅子から腰を浮かせた。

「えええーっ! 速っ! ……いや、これ、始球式だよ、な?」

 

驚愕したのはアインズだけではない。

始球式の恒例に従い、空振りするつもりで打席に立っていた打者は、そのあまりの球威に反応が遅れた。

「……あっ」

我に返った頃には、すでにボールは捕手のミットへ収まっていた。

慌てて「スカっ」とバットを振った。

 

一瞬の静寂。そして次の瞬間――。

 

「「「おおおおおおおぉーーっ」」」

球場全体がどよめき、コールが沸き起こった。

「「「ショーグン! ショーグン! ショーグン!」」」

 

数万人が総立ちとなり、割れんばかりの歓声がノヴァリア・ドームを揺るがす。

エンリは歓声の中心で、再びこめかみの血管をぴくぴくと震わせていた。

(まったく、もう……!)

小さくため息をつきながら、それでも少しだけ照れくさそうに笑う。

その背中へ、この日一番の拍手が降り注いだ。

新たな時代の第一球は、青空の下へ力強く投じられたのだった。

 

「プレイボール!」

そして、世界初のプロ野球リーグが幕を開けた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。