魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

69 / 69
Phase6-14 プレイボール

柔らかな陽光が大地を撫で、淡い青空がどこまでも広がっていた。

その日、新首都ノヴァリアは祝祭に包まれていた。

街には球団旗が掲げられ、子どもたちは選手の名を叫びながら走り回る。露店には応援用の旗や帽子が並び、テレビの前では世界中の人たちが、開幕を今か今かと待ちわびていた。

 

剣と魔法が支配していた世界は、武装解除という歴史的転換を経て、新たな「戦い」の時代を迎える。

――プロ野球リーグ。

その記念すべき第一歩が、今まさに刻まれようとしていた。

 

魔導国、バハルス帝国、ローブル聖王国。それぞれ4球団が設立され、各国で年間108試合のリーグ戦が開催される。各球団は54試合を戦い抜き、その頂点を目指す。

そして各国の優勝球団は、世界一を決める『ワールドシリーズ』へと進出する。

 

その歴史的開幕戦の舞台となるのが、ここ魔導国のノヴァリア・ドームだった。

 

ノヴァリア・ルミナス 対 ブルーライト・スターズ

 

真新しい天然芝の香りと、数万人の観客が放つ熱気が混ざり合い、場内は試合開始前とは思えないほどの興奮に満ちていた。

 

「試合に先立ちまして、ただいまより、始球式を行います」

ウグイス嬢の澄んだ声がドームいっぱいに響く。

 

「ピッチャーは、カルネ村の将軍閣下、エンリ・エモット様です。エンリ・エモット様は、液状魔力を発明されたンフィーレア・バレアレ様の奥様でもいらっしゃいます」

「「「おおおぉーっ」」」会場からどよめきが起こった。

 

(いま将軍閣下って言ったなぁ)

エンリのこめかみの血管がぴくりと動く。

自分はただの村娘だったのに……いつの間にか村長になり、アインズ様から授かった<ゴブリン将軍の角笛>によって、五千ものゴブリン軍団を率いる将軍閣下――などと呼ばれるようになってしまった。

 

数万人の視線を浴びながらマウンドへ向かう。

ンフィーレアからは、

「可愛く『えいっ』て投げればいいだけだからねっ」

と言われていた。

もちろん、そのつもりだった。そのつもりだったのだ。

だが、大観衆の前で「将軍閣下」と高らかに紹介された瞬間、胸の奥で何かが音を立てて弾けた。

(こうなったら、思いっきり投げてやる!)

 

エンリはマウンドへ立った。

革張りのボールを握る指は細い。しかし、その腕、身体には、村での労働と戦いを経て鍛え上げられた、しなやかな筋肉が宿っていた。

 

大きく振りかぶり、左足を高く掲げる。軸足が大地を力強く踏み締める。

全身が大きくしなり、蓄えられた力が一つの流れとなって右腕へ集約される。

そして――オーバースローから鋭く腕が振り抜かれた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

シュルルルルルーーッ!

ボールは糸を引くような直線を描き、空気を切り裂いてホームベースへ突き進む。

スパァン!

乾いた捕球音がドーム中へ響き渡った。

 

王宮執務室でテレビ観戦していたアインズは、思わず椅子から腰を浮かせた。

「えええーっ! 速っ! ……いや、これ、始球式だよ、な?」

 

驚愕したのはアインズだけではない。

始球式の恒例に従い、空振りするつもりで打席に立っていた打者は、そのあまりの球威に反応が遅れた。

「……あっ」

我に返った頃には、すでにボールは捕手のミットへ収まっていた。

慌てて「スカっ」とバットを振った。

 

一瞬の静寂。そして次の瞬間――。

 

「「「おおおおおおおぉーーっ」」」

球場全体がどよめき、コールが沸き起こった。

「「「ショーグン! ショーグン! ショーグン!」」」

 

数万人が総立ちとなり、割れんばかりの歓声がノヴァリア・ドームを揺るがす。

エンリは歓声の中心で、再びこめかみの血管をぴくぴくと震わせていた。

(まったく、もう……!)

小さくため息をつきながら、それでも少しだけ照れくさそうに笑う。

その背中へ、この日一番の拍手が降り注いだ。

新たな時代の第一球は、青空の下へ力強く投じられたのだった。

 

「プレイボール!」

そして、世界初のプロ野球リーグが幕を開けた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

鈴木悟の残響 - 骸の玉座に座してなおも人の夢を見る -(作者:朝型人間)(原作:オーバーロード)

もし、モモンガが最初の段階で「自分の人間性の喪失」に強い違和感を覚えていたら――。▼これは、骸の王となった彼が、なお鈴木悟の残響を抱えたまま進むifストーリーです。▼※アンチ・ヘイトは念のため


総合評価:134/評価:6.5/連載:12話/更新日時:2026年07月25日(土) 22:00 小説情報

オーバーロード 神様のいない世界(作者:Esche)(原作:オーバーロード)

▼「――お前がいなければ、王国は平和だった。誰一人として死なず、姫様が悲しむこともなく!」▼とある道化の台詞を悪趣味に解釈し、アインズ様やナザリック勢の転移がなかった世界線で、現地の人々がどのように過ごしていくのかを妄想するIFの物語です。▼※一部の登場人物には過酷な展開となります。▼『アンチ・ヘイト』タグの意味を踏まえて、苦手な方はご注意ください。▼※複数…


総合評価:702/評価:8.26/連載:21話/更新日時:2026年07月02日(木) 00:00 小説情報

スズキサトルの日常(作者:ふじら)(原作:オーバーロード)

モモンガが聖王国に何故か人化した状態で単独転移?して楽しむだけの話。


総合評価:1954/評価:8.63/連載:7話/更新日時:2026年05月23日(土) 12:52 小説情報

モモンガの惑星(作者:シャンティ・ナガル)(原作:オーバーロード)

▼DMMORPG『ユグドラシル』──▼2126年、世界を熱狂させたその舞台で伝説を刻んだギルドがあった。▼ギルドランク第1位《アインズ・ウール・ゴウン》。▼189個のワールドアイテムを独占し、不落の拠点を構える無敵の軍団。▼その頂点に君臨するのは、一人の男。▼ラグナロクを制覇し、ゲーム内唯一のLv200に到達した超越者・モモンガ。▼富、名声、そして神にも等し…


総合評価:240/評価:7.7/連載:5話/更新日時:2026年05月05日(火) 19:15 小説情報

えっ凡人がアインズ様に憑依?!(作者:Revak)(原作:オーバーロード)

▼とある男は目が覚めたらなんと転移直後のモモンガ様になってしまっていた?!▼中身が別人だとバレるわけにはいかないとアインズ様ロールプレイをしながら原作を進めていく!▼その過程で原作知識を使い死亡キャラを救う、かもしれない。▼アンチ・ヘイトはモモンガ様になっているので原作ぶっ壊してるのでつけてます。▼寝取りは原作モモンガさんからアルベド寝取ってるのでつけてます…


総合評価:577/評価:6.95/連載:8話/更新日時:2026年06月07日(日) 15:12 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>