魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase2 覇権通貨「エン」の誕生
Phase2-1 アインズの閃き


「――というわけなの」

第九階層、アルベドの執務室。

長い説明を終えたアルベドは、静かにデミウルゴスを見つめた。

沈黙。

やがてデミウルゴスが口を開く。

「……由々しき事態です」

低い声だった。奥歯を噛み締めている。

 

「我々には、理解できないことが多すぎる。もちろん、アインズ様のお考えを完全に理解できるなどとは思っていない。ですが――」

デミウルゴスの瞳が揺れる。

「これほど理解できないとなると、我々はどうお支えすれば良いのかすら、わからない」

アルベドも苦しげに目を伏せた。

「そうよ……。深遠なるアインズ様のお考えを、完全に理解できないのは当然。でも。何も理解できないのでは、お役に立つことすらできないわ」

沈黙。重い沈黙。

デミウルゴスは考える。

なぜだ。

王都侵攻。

聖王国作戦。

いずれもアインズ様は、自分へ役目を与えてくださった。

だが今回は違う。何も任せてくださらない。

つまり――。

(私は、まだ足りていないのか……?)

冷たい汗が流れる。

やがて、デミウルゴスが勢いよく顔を上げた。

「お願いするしかありません!」

「っ!」

アルベドが目を見開く。

「恥を忍んで、アインズ様へ直接お伺いするのです! お考えをお聞かせ願えないか、と!」

「デミウルゴス……」

アルベドが不安げに呟く。

「それでいいの? 失望なさるのではなくて?」

「ええ」

デミウルゴスは即答した。

「失望はされるでしょう。ですが!」

珍しく感情を露わにする。

「このままでは、我々は何もできないではありませんか!」

アルベドも唇を噛む。

「……そうね。アインズ様のお役に立てないのなら……私たちに存在価値などないわ」

 

◇ ◇ ◇

 

エ・ランテル。執務室。

「デミウルゴス、珍しいな」

アインズが視線を向けた。

「ここへ来るとは。忙しいのではなかったか?」

恭しく跪いたデミウルゴスが頭を垂れる。

「恥ずかしながら、お目通り願いたく参上いたしました」

(なんか義務教育の歴史で習ったな……『恥ずかしながら、帰ってまいりました』だったか?)

アインズはそんなことを思い出していた。

すると――デミウルゴスの隣へアルベドが進み出る。

同じく跪いた。

「アインズ様。本日は、お願いがございます」

(うわ)

アインズの内心に嫌な予感が走る。

(これ絶対『深遠なるお考え』聞きたいやつじゃん)

 

「どうしたのだ、二人とも」

二人の視線は真剣そのものだった。

「メイドたちよ、下がれ」

「はっ」

メイドたちが退出する。

 

「アインズ様」

最初に口を開いたのはデミウルゴスだった。

「液状魔力の発明以降、我々には、アインズ様のお考えが以前にも増して理解できなくなっております。もちろん、これまでも完全に理解していたなどとは申しません。ですが……」

デミウルゴスが俯く。

「今回は、あまりにも見えない」

アルベドも続ける。

「アインズ様。どうかお教えください。いま、何を見据えておられるのかを」

(やっぱり来たぁぁぁ!)

アインズは内心で叫んだ。

「アインズ様は千年、いえ万年先すら見据えておられるのでしょう」

(見据えてねぇよ!)

「その十分の一でも構いません」

(百年でも無理だって!)

「どうか我々へお示しください」

(何をだよ!)

 

沈黙。

部屋に重い空気が流れる。

アルベドとデミウルゴスの額には汗。

期待。

不安。

恐怖。

その全てが混じっていた。

 

一方アインズは――。

(どうする!? 『ボクにもよくわかりません』って言う!? いや絶対信じない!)

 

「デミウルゴス、アルベドよ」

「はっ」

「私は、様々なことを考えている。それは理解しているのだな?」

「もちろんでございます!」

二人の声が揃う。

「うむ」

アインズは頷いた。

「だが話は多岐に渡る。そして長くなるだろう」

「構いません!」

また揃う。

(圧が強い!)

「……お前たちの忠誠には感謝する。いや、礼はよい」

「はっ」

「だが、ここでは話しづらい」

アインズは勿体ぶるように続ける。

「近いうちに、玉座の間へ皆を集めよう。そこで話す」

「……っ!」

デミウルゴスの瞳が震える。

「本当に……お話しいただけるのですか!?」

「うむ」

「ありがとうございます!」

アルベドも深く頭を下げた。

「このアルベド、そのお言葉を信じ、お待ちいたします」

(終わった)

アインズは内心で死んでいた。

(もう逃げられない……)

 

その時――ふと別のことが気になった。

「ところで、アルベドよ」

「はっ」

アインズの声色が変わる。

アルベドが緊張した。

「ンフィーレア、リィジー……そしてドワーフたち。今回、少々働かせすぎではないか?」

「……働かせすぎ?」

アルベドが首を傾げる。

「ですが、一日8時間ですが……」

「あ、いや」

アインズは慌てた。

「聞き方が悪かった。そうではなく――」

少し考える。

そして。

「ああ、そうだ。対価についてだ」

「対価……?」

アルベドはさらに困惑する。

「カルネ村は自給自足が進んでおります。ゴブリンもアインズ様がお与えになったもの。ルプスレギナによる安全保障もございます。それ以上、何を与える必要が……?」

(うーん)

アインズは悩む。

(完全にブラック国家運営なんだよなぁ……)

「ドワーフたちも、ルーン研究継続という恩恵を得ています。これ以上必要でしょうか?」

(お金……だよな普通は)

だが――魔導国はまだ経済基盤が弱い。

そこまで考えた時――ふと――アインズの中で何かが繋がった。

(……待て。これ、逆に利用できるんじゃ?)

 

「ふっ」

アインズが笑う。

「……!」

アルベドとデミウルゴスが緊張した。

「ふっふっふ……」

(これなら元サラリーマンの俺でもできる!)

「わーっはっはっは!」

突然の高笑い。

「ア、アインズ様?」

アルベドが恐る恐る尋ねる。

「いや、すまぬ」

デミウルゴスが慎重に口を開く。

「……何か、お考えが?」

「うむ」

アインズの赤い光が妖しく揺れた。

「先ほど、玉座の間で説明すると言ったな」

二人の表情が引き締まる。

「順番を変えよう」

「……順番?」

「まずは『貨幣』の話からだ」

二人の背筋が震えた。

貨幣。その言葉に、得体の知れない重みを感じる。

「アルベド」

「はっ」

「保管してある死体は、どれほどある?」

「……ざっと数百ほどです」

「十分だ」

答えに満足したアインズが続ける。

「この国で最高の絵師を呼べ」

「絵師……ですか?」

「うむ。それと、アウラ、マーレ、ドワーフたちを――」

「お、お待ちください、アインズ様!」

アルベドが悲鳴のような声を上げた。

「何をなさるおつもりなのですか!? どうか、我らにもお教えください!」

デミウルゴスも頭を下げる。

「ああ、すまぬ」

アインズは咳払いした。

「つい楽しくなってしまった」

「……!」

二人の表情が緩む。

アインズ様が……楽しそうに。それだけで嬉しかった。

「では玉座の間へ集まれ。まずは『貨幣』について話そう」

「一時間後でよろしいでしょうか。階層守護者を全員集めます」

「時刻はそれで良い。メンバーは、そうだな、階層守護者だけでなく、プレアデスと」

(プレアデスまで?)

「ラナーにも聞いてもらおうか」

「なんですって!? ……し、失礼いたしました! 御心のままに……」

俯き驚愕するアルベドの隣で、デミウルゴスもまた驚きの表情を隠せなかった。

 

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