魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
書籍第11巻『山小人の工匠』で登場するドワーフ国の総司令官には、名前が明記されていなかったと記憶してます。そのため、この二次創作小説では、勝手に名前を付けさせていただきました。
どうかご了承ください。
帝国アニメの大ヒット――それはテレビ放送を預かるシン・ワーナベにとって、非常に喜ばしいことだった。
帝国にはアニメがある。魔導国には歌番組、ドラマ、冒険がある。
ただ一方で、もっと魔導国らしい、魔導国だからこそできる番組を作りたい――その思いがシンの胸に渦巻いていた。
「シンさん。また考えごとですか? 今度はどうしたんです?」
「クルトか。……何か魔導国らしい、新しい番組を作りたいと思ってな」
「魔導国らしさ、ですか……。やっぱアンデッドじゃないですかね」
魔導国において、アンデッドは日常に溶け込んでいる。もはや国民に忌避感はない。しかし、アンデッドを用いて、どんな番組を作れば良いのか。
「気分転換に、一局どうです?」
クルトがチェス盤を持ち出した。
「今のところ、僕の方が2つ勝ち越してますよ」
「ああ……そうだったな」
そう言いながら、チェス盤の上に駒を配置していく。
ビショップを置き、ナイトをつまみ上げる。そのとき、シンの脳裏に閃きが走った。
「……これだ」
「え、何がです?」
「これなら……頭脳戦でありながら、迫力ある戦闘シーンを観せることもできる……」
「だから何がです?」
「どうせ消えてしまうアンデッドを利用すれば、コストもかからない」
「……チェス、やるんですか、やらないんですか」
「やらん」
「えええー」
シンはアンデッドを使ったチェス――スケルトン・チェス――を考案した。
そのルールはこうだ。
1. 駒には実体を持ったスケルトンを使う。そのため、盤上ではなく、闘技場を使用する。
2. 通常のチェスは一手一手交互に指し進めるが、スケルトン・チェスでは一度にどれだけの駒(スケルトン)に指令を出しても良い。
3. チェスではどうなれば駒を取られるかは、駒の動きによって決まる。しかし、スケルトン・チェスでは、駒(スケルトン)それぞれの特性による強さはあるが、盤面(闘技場)全体が戦場となり、敵一体に、三体で同時に攻撃を仕掛けることもできる。そのため、対局者(スケルトンへ指令を出す者)の一瞬の判断、迅速な指令によって勝敗が決まる。
スピード感と、アンデッド同士がぶつかり合う迫力が、このゲームの真髄だ。対局者は、常に戦況を見定め、瞬時に判断し、指令を出し続けなければならない。
――そう、本物の戦争、真の戦場における指揮官のように。
「これを世界大会のトーナメント戦にする」
「面白そうですね!」
クルトが賛同してくれた。
「よし。じゃあさっそく企画に入ろう。ヒルマを通して、陛下にアンデッド創造をお願いすることになるが……またヒルマに言われるだろうな……」
――男性ウケはするでしょうね。でも女性にはどうかしら。
◇ ◇ ◇
「――というのが、シン・ワーナベからの提案になります」
アインズは王宮執務室で、アルベドからの報告を受けていた。
(戦場におけるスケルトンの指揮か……。シンのやつ、また面白そうなことを考えたな)
「ふむ。良いだろう。その『スケルトン・チェス』のために、アンデッドを創造してやろうではないか」
「よろしいのですか。ただでさえお忙しいアインズ様に、このようなお願いなど……」
「いや、構わん。面白そうだ。それに……」
アインズは口元をわずかに歪めた。
「そのゲーム、私も少々自信があるぞ」
アルベドが目を丸くする。
「まさか……ご参戦なさるおつもりですか?」
「ふっふっふ。私の戦術家としての才を……」
(……いや、ちょっと待て)
アインズの思考が急停止した。
(万が一、負けたらどうなるっ。指揮能力で平民に負けるところを世界中に生中継され……しかも、初戦で敗退なんかしたら……)
『魔導王、一回戦敗退!』『陛下の指揮能力に難あり』『国の統治にも影響か』などという新聞の見出しが、次々と脳裏に浮かぶ。
アインズは軽く咳払いをした。
「……いや」
一瞬だけ間を置き、いかにも当然という口調で続ける。
「私が参戦してしまえば、誰も勝てる者などおらず、せっかくの大会がつまらなくなってしまうだろう。私は観客として、その戦いを楽しませてもらうとしよう」
「はい。アインズ様の御心のままに」
◇ ◇ ◇
シンの狙いは当たり、『スケルトン・チェス』の世界トーナメントは非常な盛り上がりを見せた。
予選から熱戦が繰り広げられ、テレビ中継は連日高視聴を記録。
金色と銀色に輝くスケルトンたちが激突する様は、民衆に新たな興奮をもたらした。
◇ ◇ ◇
その日――数か月に及ぶトーナメントも、いよいよ決勝戦を迎えた。
決勝に勝ち進んだのは、
ドワーフ国 総司令官 ハルガ・ロックブレイカー。そして、
バハルス帝国 主席宮廷魔術師 フールーダ・パラダインだった。
ハルガは、総司令官であるとともに、クアゴアとの戦いでの実戦経験が豊富だ。戦況を見る目は確かであり、判断が早く、指令も正確だ。前線を破られようとも、決してキングの元へはたどり着かせない堅牢な戦術に定評があった。
一方のフールーダは、多数のアンデッドを思い通りに動かせる喜びに震え、これぞ正に神が与えしゲームと、異常なまでにのめり込んでいた。
「試合開始!」――審判の宣言とともに、いよいよ決勝戦が始まった。
「全軍、前進じゃー! ポーン2はナイト1の道を開けよー! ナイト1よ、駆け抜けるのじゃあ!」
フールーダが口角泡を飛ばして指令を出し、金色のスケルトン軍団が一斉に動き出す。
小柄なポーンのスケルトン兵たちが剣を構え、銀色の敵陣へと突進する。
槍を携え、アンデッドの馬に跨った金色のナイトが、ポーンの開けた道を縫うように駆け抜け、宙を舞うかのように敵陣深くに飛び込んだ。
「ポーンは前進せよ! ルーク1はキングの守備につけ!」
一方のハルガは冷静に指令を出していく。銀色のポーンたちが剣を盾のように構えて前進し、ポーンより1.5倍の大きさのルークが長い槍を携え、キングの周囲に堅固な守備陣を築く。
「行け、クイーン! 敵のポーンを蹴散らすのじゃー!」
フールーダの叫びに、金色のクイーンが応える。頭のティアラを煌めかせ、大ぶりのソードを軽々と振り回し、目の前の銀色のポーンをまとめて薙ぎ払う。その一撃は、まるで嵐のようだった。倒されたポーンは、ガシャンと音を立てて崩れ、淡い霧となって消えていく。
「ナイト2、敵のクイーンを迎え撃て! ビショップ1も参戦せよ! クイーンはビショップの背後から敵クイーンを迎撃せよ!」
ハルガの指令は淀みない。銀色のナイトが槍を構え、馬を走らせ金色のクイーンへと突撃する。両手に剣を携えたビショップも素早く側面から回り込み、連携して金色のクイーンを包囲する。そして、銀色のクイーンがビショップの背後から飛びかかり、敵クイーンへと大ぶりのソードを振り下ろした。
闘技場(盤面)全体で激しい戦闘が繰り広げられていく。
金と銀のスケルトンが入り乱れ、剣と槍がぶつかり合う甲高い音が響き渡る。
一般の民たちが戦場を見る機会などない。
その迫力を目の当たりにして、観客も熱狂する。
テレビ観戦をしている人々も、テレビ画面に向かって大声を出す。
「そこだ、行けー!」
「あ! 金軍の右辺が食い破られるんじゃないか?!」
観客席から悲鳴のような声が上がる。その言葉通り、右辺へ回り込んだ銀色のルークが長槍を振り回し、金色のポーンの防衛線を次々と突破していく。
「何やってんだ、フールーダ!」
「右辺に兵力を回せー!」
均衡が保たれていた戦況――しかしフールーダ軍が前へ突っ込み過ぎたせいで、隙が生じた。
訪れた一瞬のチャンス。それをハルガは見逃さなかった。
「今だ!」
ハルガの冷静だが鋭い声が響く。
「クイーンを先頭に、ビショップ2、ナイト1、ルーク2で敵のキングを討ち取れ!」
銀色のクイーンが、大ぶりのソードを構え、電光石火の速さで敵キングへと迫る。両手に剣を携えたビショップがその脇へ回り込み、槍を構えたナイトとルークが援護へと走る。
「ぬ! 右辺からキングを狙ってきおったか。であるならばぁああ!! 全軍、下がれ! キングを守るのじゃー!」
フールーダの焦りの声が響く――が、時すでに遅し。
ハルガが次々と的確な指令を出していく。
「残ってるポーン全員で下がる敵を足止めしろ! 右辺へ行かせるな!」
銀色のポーンたちが、自らの命を顧みず、右辺へ向かおうとする金色のスケルトンたちに喰らいつく。
「ルーク1、敵のクイーンを食い止めろ!」
それまで守備についていた銀色のルークが突進し、救援に向かおうとする金色のクイーンに捨て身の攻撃を仕掛ける。
金色のキングが孤立状態となった。
「もらったぁ!」
ハルガが叫ぶ。
「ナイトから順に連続攻撃を仕掛けろ! クイーンへ繋げ!」
後方から迫った銀色のナイトが、馬上から金色のキングへ槍を突き立てる。続けざまにビショップが側面から剣を振るう。ルークの槍が正面から胸を突く。
連続攻撃を受けた金色のキングが、ダメージを受けながらじりじりと後退していく。
そこへ突進した銀色のクイーンが斬りかかった。
ガキンッ! 金色のキングは体勢を崩しながらも、とっさに杖でクイーンの攻撃をブロックした。
「今だ! 跳べ、ナイト!」
ハルガの指令に、馬上から跳躍したナイトが、上段から槍を打ち下ろした。
ガゴッ! 頭上から槍を叩きつけられた金色のキングが、ガクッと体制を崩す。
「クイーン、そこだぁ! フィニッシュブローを叩き込めー!」
ハルガが絶叫するや、銀色のクイーンが鋭く体を回転させ、遠心力を乗せたソードを叩き込んだ。
ドガッ! 銀色のクイーン渾身の一撃が、金色のキングを直撃した。
「オオオオオオォーー」
おぞましい声を上げた金色のキングは、バラバラっと弾け、霧散し……消えた。
「チェックメイト」――ハルガが静かに告げた。
「「「わあああああーーーっ!!」」」
大歓声が闘技場を包む。
「凄い! 大迫力!」
「ルークを最後まで温存したのは、そういうことだったの?!」
「ナイトが馬上から跳ぶなんて見たことないよ!」
「なにあのクイーンの回転斬り!」
観客たちは言うに及ばず、テレビの前で観戦していた人々も、いつまでも興奮が覚めやらなかった。
ハルガが優勝杯を受け取り、インタビューを終える頃には、すでに世界中でその戦いぶりが語られていた。
◇ ◇ ◇
アインズはこの決勝戦を、ノヴァリア王宮の私室でテレビ観戦していた。
(流石は総司令官、といったところか。フールーダでは相手にならなかったな……)
その時、ふと、アインズの脳裏に一人の男の姿が浮かんだ。
戦場で出会い、話をしたあの男。金色の髪。青い瞳。
その瞳は、すべてを達観したかのように、静かに、そして鋭く、アインズを見据えていた。
元リ・エスティーゼ王国の第二王子、ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。
(あの男であれば、ハルガと良い勝負をしたかもしれん。……惜しいな)
魔導国がもたらした新しい時代。
世界最強を決める舞台は、もはや戦場ではない。
その事実を、一台のテレビが、静かに物語っていた。