魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase7-2 ワールドシリーズ決勝戦

「三者、三振……だと……。なんなのだ、あの聖王国の投手は……。帝国の打者たちが、バットにかすりもしないではないか……!」

(何らかの魔法や武技を使っている? いや、あのネイア・バラハ率いる聖王国が、魔導王の怒りを買うような真似をするはずがない……)

ジルクニフの呟くような声に、隣のバジウッドが低く答えた。

「陛下。あれは……ナガシーでも打てませんぜ」

ヴァミリネンも額に汗を滲ませていた。

「あの投手の速球は160キロを超えております。変化球も150キロの速度から鋭く曲がり、鋭く落ちる……。あのような投球は見たことがございません」

 

ワールドシリーズ優勝決定戦。

バハルス帝国代表 アーウィンタール・イーグルス vs. ローブル聖王国代表 ホバンス・ホーリーナイツ。

 

一回表。帝国打線は、聖王国エースの圧巻の投球の前に、三者三振という立ち上がりを迎えた。

 

◇ ◇ ◇

 

ローブル聖王国の貴賓席。

 

ネイア・バラハは静かに、しかし熱い眼差しでグラウンドを見つめていた。

隣のカスポンド聖王が興奮を隠せない様子で口を開く。

「帝国の打者が、まるで手も足も出ませんね」

ネイアは微笑んだ。膝の上で、両手がそっと組み合わされる。

「ええ。ですが、不思議ではありません」

「ほう」

「彼は、誰よりも努力を積み重ねてきた選手です。誰も見ていないところで鍛錬を続け、昨日の自分を越え続けてきました」

ネイアの瞳は、グラウンドの英雄を見つめている。

「ですから私は……驚いていません」

組んだ指先に、わずかに力がこもった。

信じている。信じているはずなのに、鼓動だけは、どうしても速くなってしまう。

 

◇ ◇ ◇

 

一回裏。ホーリーナイツの攻撃。

その聖王国の投手が、一番打者として打席に立つ。

 

「一番、DH、オタニ」

 

先発投手、オタニ・ショウ――彼は二刀流だった。

 

「ピッチャーが一番バッター……どういうことだ」

ジルクニフが呟く。

「わかりません。あれだけの投手が打席にも立つとは……。おそらく、奇をてらってい……」

ヴァミリネンがそこまで言った、その瞬間だった。

 

カキィィィーーッ!

 

乾いた、しかし重い打球音がドームに響く。

「はあっ?」

ジルクニフが呆けた声を漏らした。

 

「オタニ打ったぁー! ものすごい打球が右翼へ伸びる! ライト一歩も動かない! すごい飛距離だ、三階席へ飛び込んだぞ! オタニ、先頭打者ホームラン! ホーリーナイツ、先制です!」

アナウンサーは立ち上がって叫んでいた。

「凄まじい打球でした!」

その隣で、解説者は、何も言えなかった。

口を半開きにしたまま首を横に振り、困ったように肩をすくめる。

言葉では説明できない――そんな表情だけが、全国へ生中継されていた。

 

ジルクニフは驚愕のあまり立ち上がった。

「なんだ……なんなのだ、あのオタニという選手はっ!」

「エースでホームランバッター、ということでしょうか……」

「見ればわかる! そんなことを聞いているのではないっ!」

 

◇ ◇ ◇

 

魔導国の貴賓席。

 

アインズは小さく息を吐いた。

(これほど完成された選手が、この世界にも現れたか……)

遠い記憶が微かに揺れた。

(二刀流のメジャーリーガー……そんな選手が、21世紀にいたような気が……)

 

◇ ◇ ◇

 

聖王国の貴賓席。

 

カスポンド聖王が感嘆の息を漏らした。

「なんと……。あの投手が、打者としてもこれほどとは……」

ネイアは静かに答える。

「彼は、勝つために必要なことを、誰よりも突き詰めてきた選手です」

「まさに聖王国の宝ですね」

「ええ。そして、まだ終わりではありません」

そう言いながらも、ネイアの声は、わずかに上ずっていた。

ネイアは祈るような気持ちを抑えきれず、両手をぎゅっと握りしめた。

 

◇ ◇ ◇

 

オタニ、第二打席。

 

ジルクニフは、まだ一打席目の衝撃から立ち直れていなかった。

「まさか……また打つなどということはあるまいな……」

その言葉を嘲笑うかのように、再び快音が響く。

 

カキィィィーーッ!

 

 

【挿絵表示】

 

 

「オタニまた打ったぁー! センターへの大飛球! こ、これはっ……バッ、バックスクリーンの上を超えて……いったいどこまで飛んだんだー! とんでもない飛距離だ! 超特大のホームランです!」

実況は絶叫する。

しかし解説者は、あまりの衝撃に口をあんぐり開けて絶句していた。

ベンチ前に出てきたホーリーナイツの味方選手たちまでもが、両手を頭に乗せ、目を剥いていた。

 

「なんなんだ、なんなのだ、あいつはぁっ!」

ジルクニフが絶叫する。

「エースで、ホームランバッター、という……」

「だからそんなことは見ればわかるっ! いったいどうすればそんな選手が生まれるのだ!?」

 

◇ ◇ ◇

 

オタニ、第三打席。

 

「またオタニの打席だ。もう歩かせた方がいいんじゃないか?」

ジルクニフが半ば自棄になって言う。

「一塁が埋まってます。さすがに敬遠はしな……」

バジウッドが言いかけたその時――

 

カキィィィーーッ!

 

三度目の快音が響いた。

「また行ったぁーっ! 今度は左中間! オタニ、この日3本目のホームランです!」

実況席は絶叫した。

「信じられません! 我々はいったい何を見ているのでしょうかっ!」

その横では解説者が、また何も言えない。

こんなものを解説などできない――沈黙が、そう語っていた。

 

「あーっはっはっはっ!」

ジルクニフが腹を抱えて笑い出す。

「まーた打ちやがった! わーっはっはっはっ!」

「陛下……。お気を確かに……」

ヴァミリネンが心配そうに言った。

 

◇ ◇ ◇

 

快音が三度目に響き渡った瞬間、ネイアは思わず両手で口元を覆い、隣のカスポンドに気づかれないよう、小さく涙ぐんでいた。努めて冷静さを装ってきたが、感極まることまでは、抑えられなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

アインズは静かに打球を見送っていた。

(思い出した……。21世紀のメジャーリーグに、二刀流の伝説を作った日本人がいた……!)

もちろん細かな記録までは覚えていない。だが、その伝説だけは、100年以上の時を超えてなお、語り継がれていた。

(本物の伝説っていうのは、時代を越えるんだな……)

アインズは心の中で感心していた。

 

◇ ◇ ◇

 

結局、オタニは六回を投げ、無失点、10奪三振。

打っては三打席連続ホームラン。

七回からはリリーバーにマウンドを譲り、イーグルスは九回にナガシーのタイムリーで一点を返したものの、反撃はそこまでだった。

 

試合終了――。

5対1。ローブル聖王国代表 ホバンス・ホーリーナイツが、初代ワールドチャンピオンに輝いた。

 

ノヴァリア・ドームを埋め尽くした数万人の観客が、一斉に立ち上がる。

惜しみない拍手が、ドーム全体を包み込んだ。

勝者にも、敗者にも――その拍手は等しく送られていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

アインズは静かに球場全体を見渡した。

(……よかった……な)

戦争ではなく、歓声が世界を一つにする。

そんな未来を、この異世界に残すことができたのだから。

 

◇ ◇ ◇

 

ローブル聖王国の貴賓席。

 

「やりましたっ……やりましたよぉぉぉ……!」

ネイア・バラハは優勝の喜びに、ついに感情を抑え切れなくなり、隣に座るカスポンドスへ、抱きつかんばかりの勢いで興奮をぶつけていた。

 

そこへ――「バラハ嬢」――ネイアを呼ぶ声が聞こえた。

 

「え……?」

その声は――! ネイアが振り返る。

そこに立っていたのは――漆黒のローブを纏った魔導王アインズ・ウール・ゴウン、その人だった。

「あ……ア……」

ネイアの動きが、完全に止まった。

「アインズ、様……」

掠れた声が漏れる。

 

アインズが静かに歩み寄ってくる。

「勝手に押しかけて悪いな」

ネイアの前で足を止めたアインズは、真っ直ぐに、ネイアを見据えた。

「見せてもらったぞ」

「は、はい……!」

「正直、驚いている。帝国の選手たちは、元々厳しい鍛錬を積んだ騎士たちだ。本来であれば、力の差は歴然としていたはずだ」

ネイアは、ただ震えながら、アインズの言葉に耳を傾けている。

「それを覆したのは、間違いなく、君たちの努力だ。あの投手一人の力じゃない。選手全員が、これほどまでに己を鍛え上げるというのは、並大抵のことではない」

 

「それだけではないな。南北に分かれていた国を、よく一つにまとめ上げた。バラハ嬢、君が聖王国をここまで導いたのだ」

「あ……あ……」

ネイアの唇が震え、瞳が揺らいだ。

 

「君ならばきっと頑張れるはずだと思っていた。強くなったな、バラハ嬢。そして、聖王国も、強くなった」

その言葉が、静かに、しかし確かに、貴賓席の空気を震わせた。

「あ……あ、ああ……」

ネイアの凶眼から、堰を切ったように涙が溢れ出す。

「うわああああああああああああぁぁぁぁん……!!」

 

ネイアは感情が爆発した。その場に崩れ落ちるように両膝をつき、声を上げて泣いた。

「よかっ……よかったです……! みんな、頑張って……! 本当に、頑張って……! アインズ様に、伝わって……!」

 

言葉は、もはや意味を成さないほどに、涙で溶けていた。

手を床につき、身体を激しく上下させながら、ネイアはただ号泣した。

国が蹂躙された。親を失った。弱かった。救えなかった。

でもアインズ様に助けられた。

そこから必死に積み重ねてきた、歳月。

数十万の民が流した、涙と汗。

アインズ様に伝わった。アインズ様はわかってくれていた。

ネイアの涙で溶ける言葉には、その想いが確かに込められていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

アインズは、そんなネイアを、ただ静かに見守っていた。

(こんなに感激してくれるなら、もっと早く来ればよかったな……)

 

貴賓席に響き渡るネイアの号泣は、いつまでも、鳴り止むことはなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

記念すべき第一回ワールドシリーズは、その歴史に永遠に刻まれる伝説の大会として幕を閉じた。

誰も武器を振るわず、誰も命を落とさず――。それでも世界中の人々が熱狂し、涙を流し、歓声を上げた。スポーツという新たな文化が、確かに世界に根を下ろしたのである。

 

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