魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

75 / 96
Phase8-3 世界を魅了する真紅のブラッド

新首都ノヴァリアに特設された巨大なホール。

世界初のファッションショー会場となるそのホールには、テレビ中継のカメラが数多く設置され、世界中へ映像を届ける準備が整っていた。

 

開演前からホールは熱気に包まれていた。

 

◇ ◇ ◇

 

ホールの照明が落ちた。――静寂に包まれる。

 

そして、スポットライトが中央のランウェイを照らす。

荘厳な音楽が流れ始め、観客の視線が一斉に集中した。

ゆっくりと、ランウェイの奥から一人の女性が姿を現す。

 

シャルティア・ブラッドフォールン。

 

彼女が身に纏っていたのは、真紅のウェディングドレス。

そのドレスは、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)たちが持つ独特の美意識と、シャルティア自身の高貴さを完璧に融合させていた。流れるようなシルエットは彼女の肢体を際立たせ、繊細なレースの装飾が、まるで夜空に輝く星のように散りばめられている。

 

そして何よりも、そのドレスを纏ったシャルティアの美しさ――。

白い肌は真紅のドレスによって一層際立ち、血のように赤い瞳は、見る者全てを魅了する輝きを放っていた。

 

ホールは、どよめきと感嘆の声に包まれた。

女性たちは、その鮮烈な美しさに息を呑み、憧れの眼差しでシャルティアを見つめた。

「なんて……なんて美しいの……!」

「私も、あんなドレスを着てみたい……!」

 

男性たちは、ただただ呆然とした。この世にこれほどの美が存在するのかと、誰もが現実を疑った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……おお……」

王宮の執務室に置いたテレビで中継を見守っていたアインズは、思わず感嘆の声を漏らした。

隣にいたアルベドの眉がぴくりと動く。

(シャルティアめ……。アインズ様の視線を独り占めにするとは……!)

嫉妬の炎が、アルベドの胸の奥で静かに燃え上がった。しかし、アインズの命令で始まった企画である。アルベドは完璧な笑顔を保ち続けた。

 

ファッションショーが終わるや否や、魔導国全土、そして中継を見ていた他国からも、問い合わせが殺到した。

「あの衣装がほしい!」

「私も結婚式のときに着てみたい!」

「どこで買えるの?!」

 

この強烈な印象を残した「真紅」、そして「シャルティア・ブラッドフォールン」の名前の一部を取り、新たなブランドが誕生した。

 

――その名は「ブラッド」。

 

ノヴァリアにオープンしたブラッド一号店には、連日長蛇の列ができた。

服だけではない。帽子、手袋、スカーフ、バッグなど、「ブラッド」の名を冠した商品は、どれも飛ぶように売れていった。

 

ブラッドは瞬く間に大人気となり、店舗数は増え続け、バハルス帝国、そしてローブル聖王国にも出店していくこととなった。

 

シャルティア・ブラッドフォールンは、その圧倒的な美しさをもって、「流行(ファッション)産業」という新たな巨大産業を創り出し、計り知れないほどの大きな利益をもたらすこととなったのである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

◇ ◇ ◇

 

ノヴァリア王宮。執務室。

 

アインズは、アルベドからの報告を受けていた。

そこへ、コンっコンっ――ノックの音が聞こえた。

 

「シャルティア様が、アインズ様へのお目通りを願っております」

メイドの声にアルベドが冷徹に言った。

「今は大切な報告中よ。後になさい」

「は、はぃっ。畏まりました」

シャルティアが執務室を尋ねることなど珍しい。何か急ぎの用があるのではないか――そう思ったアインズがそれを制した。

「待つのだ」

「しかし、アインズ様……」

「何か大切な用なのかもしれん。通してやれ」

(渡りに船だ。どうせアルベドの報告を聞いてても、俺には理解できないし……)

 

「失礼いたしんす……」

シャルティアが入室してきた。

 

「――!!」

その姿にアインズもアルベドも絶句した。

シャルティアは、ファッションショーで着用した真紅のウェディングドレスを着ていたのだ。

 

即座にアルベドが反応する。

「シャルティア! なんなのその格好はっ!」

「……ブラッドの、ウェディングドレスでありんす」

「そんなことは見ればわかるわっ! なぜそんな格好をしているのかと訊いてるのっ!」

「……アインズ様に、お願いがありんす」

シャルティアは、紅い瞳を潤ませていた。

「……アインズ様。一枚だけ……。一枚だけでいいのでありんす。どうか、わたくしと、写真を撮っていただけないでしょうか……」

「シャルティア!」アルベドの声が一層大きくなる。

「な・ん・で! その格好で! 写真を撮るのっ?!」

「アルベド……。わたくしは、特別な場所で撮りたいとは言ってないでありんす。この執務室でいい……。どうか……どうか、お願いしんす……」

 

いつものシャルティアなら、アルベドといがみ合っただろう。

だが、今日のシャルティアは違った。

か細い声。揺れる瞳。無理に浮かべたかのような笑みには、どこか哀しげな影が宿っている。

それはまるで、叶わぬ恋を覚悟し、それでも何か、一つでいいから思い出が欲しい――そんな想いを胸に秘めたかのような、震える乙女の姿がそこにあった。

 

アインズは、真紅のドレスに身を包んだシャルティアを見ながら思っていた。

(よく似合ってるな……。ペロロンチーノさんに見せてやりたかったな……)

 

アインズは自分が沈黙していることに気づいた。

「……シャルティア。この執務室で、一枚だけで良いのだな」

「は、はいっ。この一枚を、一生の……わたくしの一生の宝物にするでありんす……」

「ではメイドに撮らせよう」

 

アインズとシャルティアはツーショットの写真を撮った。

 

パシャっ。

ギチィリ。

 

(ん? いま何か……シャッター音とは別に、もう一つ音が聞こえたような気がするが……)

アルベドの方から聞こえた気がする――そう思ったアインズは、アルベドを見た。

「……どうかなさいましたか?」

笑顔のアルベドに問いかけられると、小さな疑問など頭から抜けていく。

「いや……なんでもない」

「すみません、アインズ様。少しだけ退室してもよろしいでしょうか?」

「どうした、アルベド。まぁ良い。行け」

「ありがとうございます」

アルベドが執務室を出ていった直後、外から「どりゃぁああ!」という女の声と、すさまじい勢いで何かが壁に激突する音が聞こえた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。