魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
この節にはプレアデスの挿し絵を載せていますが、似せることができませんでした。特にエントマは、やればやるほど無惨な状態となってしまったため、最終的には諦めてしまいました。
決して意図して似せなかったわけではありません。
どうかご容赦くださいますよう、切にお願い申しあげます。
バハルス帝国、帝都アーウィンタール。
キーロ・タヨトは、自動車工場内の執務室で、魔導ケータイをじっと見つめていた。
この「ケータイ」と呼ばれる通信機器は、すでにバハルス帝国やローブル聖王国にも普及し、魔法<メッセージ>を誰もが手軽に使えるようにした。魔導国が世界にもたらした、まさに偉大な発明の一つだ。
しかし、キーロの心を捉えて離さないのは、その革新的な機能そのものではなかった。彼の視線は、魔導ケータイの筐体に刻まれた三つのルーン文字――DCM――に吸い寄せられていた。
(ルーン文字とは、一体何なのだろうか……)
ドワーフが刻んだと聞く。だが、このケータイそのものを発明したのは、魔導国が誇る天才発明家――千エン札の肖像にもなっている――ンフィーレア・バレアレ氏だという。
キーロは、ルーン文字の組み合わせに、無限の可能性が秘められているような、抗いがたい予感を抱いていた。
(ンフィーレア氏と、どうしても話がしたい)
その思いは日増しに強くなり、やがてキーロの胸中で抑えきれない衝動へと変わっていった。
◇ ◇ ◇
ノヴァリア王宮。アインズの執務室。
「アインズ様。ジルクニフ皇帝から、親書が届いております。この頃、陛下への敬意の表れか、魔導国の偉大なる発明である魔導紙にて、書かれてくるようになりました」
アルベドはそう言って、親書の内容を報告する。
「タヨト自動車を発明したキーロ・タヨトと、ンフィーレアとの会談を希望する、とのことです」
「キーロ・タヨト……。自動車の外面図を持って謁見に来た男か」
(キーロとンフィーレアの会談……。これは何か新しい発明が生まれそうだな……)
「ジルクニフが何か企んでいる、とも思ったのですが……」
「そうではないと?」
「はい。キーロはルーン文字の可能性について、ンフィーレアと話したいと願っているようです。これがルーン文字を広めるきっかけとなれば、我が国の利益につながるものと愚考いたします」
アインズは思考を巡らせた。
日本の高度経済成長期における三種の神器。テレビは魔導国が発明した。洗濯機はバハルス帝国が発明した。残るは、あと一つ。
(もしかして、三つ揃っちゃう?)
アインズのコレクターとしての血が騒いだ。
「ふっふっふ」
アインズの不敵な笑いに、アルベドは肌が粟立つのを感じた。
「もしや、これも、アインズ様の描くロードマップの一つ、なのでしょうか」
「うむ。実は一つ、発明してもらいたいものがあってな。頃合いだろうな」
「そ、それは、何でございましょうかっ?」
「うむ。それはだな……」
コンっコンっ。
アインズが言いかけたとき、執務室のドアを叩くノックの音が響いた。
応対したメイドが告げた。
「アインズ様。プレアデスの皆さまが、アインズ様へのお目通りを願っております」
「プレアデスたちが?」
アインズは首を傾げた。
(ここへ来るとは珍しいな。何かあったのか?)
「構わん。通してやれ」
「失礼いたします」プレアデスたちが入室してきた。
「――!」
アインズは、下顎の骨が外れ、ぱかーんと口を開けた。
プレアデスたちは、全員がブラッドのウェディングドレスを着ていた。
(な、なぜウェディングドレスをっ? まさか、シャルティアに触発されたのか? いや、それにしたって、なぜ全員で……?)
アインズの思考が混乱する間もなく、瞬時にアルベドの殺圧のオーラが全開となる。
その般若の形相は、まるで鬼神のようだった。
「あぁなた達ぃっ! 殺されに来たのかあぁっ!」
「あああアルベド様! いらっしゃったのですかっ!」
「まずいっす! 逃げるっすー!」
「わ、私は反対したのです! どうか誤解なきよう!」
「なに自分だけ助かろうとしてるのっ! あなたも乗り気だったでしょ!」
「……一番乗り気だったのはソリュシャン」
「殺されちゃうー、食べられちゃうー」
「「「「「申しわけございませんでしたぁー」」」」」
とんでもない速度で全員が一斉に逃げていった。
静寂が戻った室内に、「ぜぇっ、ぜぇっ」というアルベドの荒い息づかいだけが聞こえていた。
「あー、えー、なんだ……会談の件だったな」
アインズはアルベドを見たが、まだ顔の筋肉が引き攣ったままだ。
仕方なくアインズは、アルベドの返事を待たずに続けた。
「場を設けてやるが良い。いっそテレビ中継でもしてやれ」