魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
Phase9-1 聖誕祭の産声
時は10月――。
ナザリック地下大墳墓、第九階層。
荘厳な玉座の間には、重厚な静寂が満ちていた。
玉座に深く身を沈めるは、魔導王アインズ・ウール・ゴウン。
その傍らには、宰相アルベドが完璧な姿勢で控えている。
眼前には、各階層守護者、領域守護者たるラナー、そしてセバスとプレアデスたちが、深く跪いていた。彼らの視線は、ただひたすらに玉座の主へと向けられている。
「アインズ様」
静寂を破ったのは、アルベドの熱を帯びた声だった。
「世界中に放送されたテレビ番組にて、アインズ様のお誕生日が12月25日であると公表されました。これは、我らナザリックの者たちにとって、神がこの世に降臨した日に他なりません。私供は、一年で最も尊く、最も大切なこの日に、しかるべき名前をつけることを望んでおります」
アルベドの言葉に、跪く者たちの間から、微かな、しかし確かな興奮の気配が伝わってくる。
彼らの瞳は、期待と崇敬の光で輝いていた。
アインズは内心で深くため息をついた。
先日のテレビ出演での失言が、まさかここまで大事になるとは。
(名前をつけろと言われても、そもそも12月25日は俺の誕生日じゃないんだけど……。ユグドラシルのクリスマスイベントを思い出して、つい口走ってしまっただけで……)
アインズは、この嘘が雪だるま式に膨れ上がっていく現状に、ありもしない胃がキリキリと痛むのを感じていた。
しかし、この場で「いや、あれは間違いだ」などと言えるはずもない。守護者たちの、純粋なまでの忠誠と期待に満ちた眼差しが、アインズの口を重く閉ざさせる。
アインズが沈黙するのを、守護者たちは微動だにせず、ただじっと待っていた。
彼らにとって、アインズの沈黙は、深遠なる思考の証である。
(どうする、俺……。何か、それっぽい名前を言わないと……。でも、どんな名前がいいんだ?)
思考の海を彷徨うアインズの脳裏に、転生前の記憶が蘇る。
(確かクリスマスは、キリストとミサを足してクリスマスと言うんだったよな。キリストの降誕を祝うミサ……。となると、俺の降誕を祝うミサ、みたいな意味合いで……)
アインズは、あくまで思考の整理として、無意識のうちに口に出していた。
「アインズマス」(ってことになるのか?)
その瞬間、玉座の間に張り詰めていた静寂が、一瞬にして弾け飛んだ。
「「「「「アインズマス!」」」」」
守護者たちが一斉に、そして歓喜に満ちた声で、その名を復唱した。彼らの顔には、この上ない喜びと感動が浮かび上がっている。
(え……。うわ、しまった……また声に出しちゃってたぞ……)
アインズは、自分の失態に後悔した。しかし、時すでに遅し。守護者たちの熱狂は、もはや誰にも止められない。
アルベドは、声高に、しかし厳かに宣言した。
「アインズ様が自らお示しくださった、この聖なる日『アインズマス』に向けて、緊急会議を行います! 第九階層、中央会議室に集まりなさい!」
「「「「「はっ!」」」」」
守護者たちの力強い返事が、玉座の間に響き渡った。彼らの瞳は、新たな祝祭の準備に燃える、揺るぎない忠誠と情熱を宿していた。
アインズは厳かに頷いた。それ以外に、アインズにできることなど、何も無かった。