魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
デミウルゴスは、ゆっくりとナザリックの回廊を歩いていた。
その歩みはいつもと変わらず静かでありながら、思索を巡らせている。
ラナーの提示した五つの柱。デミウルゴスはそこに一つだけ足りないものを感じていた。
では、何が足りないのか――。
「継続性、ですか……」
誰に聞かせるでもなく呟く。
アインズマスが今年だけ盛大に終われば、それは祭りに過ぎない。祭りは終わる。
アインズ様が築こうとしているものは、そのような一過性の繁栄ではない。
世界の常識そのものを書き換え、未来永劫続く秩序を創造すること。
ならば、アインズマスもまた、一年限りの祝祭であってはならない。
(人々が来年を待ち望み、その翌年を待ち望み……千年後ですら当然のように受け継がれる仕組みが必要ですね)
デミウルゴスは立ち止まり、ノヴァリアに思いを馳せる。
人々は液状魔力をはじめとする様々な技術の恩恵を、当然のものとして受け入れている。
どの技術も、発明された瞬間に世界を変えた。しかし、それ以上に重要だったのは、その技術が世界へ広まり、人々の日常へ溶け込んだことだった。
「……そういうことでしたか」
デミウルゴスは静かに微笑んだ。
アインズ様が求めているのは、新しい技術そのものではない。
技術によって未来を更新し続ける世界である。
一つの構想が脳裏で完成する。
毎年、一度だけ。その一年でもっとも優れた発明を、世界へ向けて発表する日を設ける。
その日は世界中の商人が集まり、職人が集まり、学者が集まり、新聞社が記事を書き、テレビが生中継を行う。
今年は何が発表されるのか。来年はどのような未来が待っているのか。その期待が、人々を一年間引きつけ続ける。
(流石でございます、アインズ様)
アインズマスとは、誕生日を祝うだけの行事ではない。
世界中が未来へ期待を寄せる日。文明が一年ごとに新たな一歩を踏み出す節目。
アインズ様は、そのような祝祭を構想されていたのだ。
(ならば、今年は第一回です)
最初が肝心だ。第二回も第三回も成功させるためには、第一回が世界へ強烈な印象を残さなければならない。
では、何を発表すべきか。
答えはすでに存在していた。
ボーン・アルバトロス――これまでは貨物輸送を担う物流網として運用されてきた飛行船。
だが、その役割はまだ半分しか使われていない。
旅客を乗せ、人々を各国へ運ぶ。さらに、冷蔵庫によって保存された食品を大量輸送する。
輸送とは、単に物を運ぶ技術ではない。文化を運び、人を運び、経済を運ぶ技術である。
ノヴァリアを中心としてバハルス帝国、ローブル聖王国、ドワーフ国を結ぶ定期航路。
その瞬間、世界は初めて「空路」という概念を手にする。
「ボーン・アルバトロス・エアライン」
デミウルゴスは、その名を静かに口にした。
それは飛行船ではない。新しい産業である。
人々は移動し、交易し、観光し、文化を交換する。
そのすべてがノヴァリアを中心に回り始める。
そして――。デミウルゴスはもう一つの歯車を思い浮かべた。
ハッピーファームから転換した無限チキン工場。
毎日、安定して生産され続ける鶏肉。工場の数を増やすことは容易い。
ならば、ボーン・アルバトロス・エアラインの第一便を飾るべき荷は決まっている。
(シホウツ・トキツに、アインズマスに向けた新たな鶏肉料理を研究させましょう)
さらに、クラヴゥにはアインズマスにふさわしい酒を。泡立つ葡萄酒(スパークリングワイン)であれば、祝祭を彩るにふさわしい酒となることは疑いようがない。
デミウルゴスは静かに笑みを浮かべた。
世界中の人々へ、来年の未来を見せる。その未来を毎年更新し続ける限り、人々は永遠にアインズマスを待ち望む。百年後も、千年後も、その先も――。
デミウルゴスは満足そうに頷くと、その構想を書き留めるため、自室へと静かに歩みを進めた。